「おめでとうございます、婚約破棄ですね!」

パリパリかぷちーの

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「流速、秒速一・五メートル。管内温度、摂氏七十五度を維持。これで全百テーブルへの同時配膳が可能ですわ」

私は厨房に設置された、複雑に絡み合う銀色のパイプラインを前に、満足げに算盤を弾きました。

これは私が考案した「全自動重力式スープ供給システム」のプロトタイプです。

厨房から各テーブルの給仕用ステーションまで、魔法と科学を融合させたパイプでスープを直接送り込むことで、配膳スタッフの移動距離を実質ゼロに短縮しました。

「ラジーナ。これはもはや厨房ではなく、精錬所か何かのプラントに見えるのだが。……。本当に、ここからあの繊細なコンソメスープが出てくるのか?」

アルリック閣下が、パイプの接合部から漏れ出す蒸気を避けながら、不安そうに尋ねました。

「もちろんですわ。液体は管内を移動する際、壁面摩擦により熱エネルギーを失います。その損失分を逆算し、出発時の温度を最適化した結果がこれですわ! 流体力学の基礎式を用いれば、以下のようになります」

私は近くの黒板に、猛然と数式を書き殴りました。

$$Q = A \cdot v = \frac{\pi \cdot d^2}{4} \cdot \sqrt{\frac{2gh}{1 + \lambda \frac{L}{d} + \Sigma \zeta}}$$

「……。ラジーナ、頼むからそれを言葉で説明してくれ」

「要するに、最短時間で、最も美味しい温度のまま、ゲストの皿に着弾させるという執念の結晶ですわ! さあ、ハンス! 試験用の模擬スープを投入しなさい!」

料理長のハンスが、今や私の忠実な技術者(エンジニア)のような顔でバルブを回しました。

シュゴォォ、という重厚な駆動音とともに、パイプの中を熱い液体が駆け抜けていきます。

「各ステーション、着液までカウント開始。五、四、三、二、一……着弾!」

パシュッ、という小気味よい音とともに、会場の各所に配置された蛇口から、一滴の無駄もなくスープが注がれました。

その精度、まさに寸分の狂いもありません。

「……。確かに、温度も風味も完璧だ。給仕が走り回る騒がしさもなく、静寂の中で料理が提供される。……。効率化が、これほどまでにエレガントな光景を生むとはな」

閣下は注がれたスープを一口啜り、感嘆の吐息をつきました。

「効率化こそが、最大のホスピタリティですわ。余った給仕のリソースは、すべてゲストとの会話や細やかな気配りに転換させます。……。さあ閣下、次は引出物のパッキング自動化ラインの視察へ向かいますわよ!」

「ラジーナ、少しは私のために、非効率な立ち話の時間を割いてはくれないか?」

「立ち話は歩きながらでも可能ですわ! さあ、次のタスクが私たちを待っています!」

私は閣下の手を力強く引き、蒸気の立ち込める厨房を爆走しました。

結婚式という名の「巨大プロジェクト」の完遂まで、残りわずか。

私の合理主義が、この地の歴史を塗り替えようとしていました。
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