推しの王子に捨てられたい!〜婚約破棄を狙うが、今日も失敗〜

パリパリかぷちーの

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「……ああ、ついに。ついにこの時が来てしまいましたわ。サラ、遺言の準備はよろしいかしら?」


純白のウェディングドレスに身を包んだ私は、教会の控え室で、鏡に向かって震える声で尋ねました。


「お嬢様、遺言ではなく誓いの言葉を準備してください。……というか、そのドレス。アリステア殿下の趣味が全開すぎて、もはや直視できないほどの輝きを放っていますよ」


サラが、眩しそうに目を細めながら言いました。


私が着ているのは、アリステア様が夜な夜なデザインを練り直し、国中の針子を総動員して作らせたという、伝説の『月光と真珠のドレス』。
何万粒もの真珠が縫い付けられ、歩くたびに波のような音を立てるそのお姿は、もはや人間が着るものではなく、神殿に飾る御神体のようです。


「……尊い。尊すぎて、このまま天に召されそうですわ。……でも、ダメ! 私はまだ、最後の任務を終えていないのよ!」


私はドレスの重みに耐えながら、ガバッと立ち上がりました。
そうです。今日は私の結婚式。……と同時に、私の「婚約破棄(キャンセル)計画」の、正真正銘の最終決戦の日なのです!


「いい、サラ。私は誓いの儀式の最中、神父様が『健やかなる時も……』と仰った瞬間に、大声で『異議あり!』と叫ぶの。そして、私が今まで隠してきた『最大の不祥事』をぶちまけて、その場で式をぶち壊して差し上げますわ!」


「……不祥事? またアリステア様の抜け毛をコレクションしているとか、そういう話ですか? もう殿下はそれ、公認していますよ」


「甘いわね! 今度はもっと社会的に抹殺されるレベルよ! ……私、実は……『王家の隠し財産を全て、アリステア様の公式ファンクラブの運営資金に回していた』と白状しますの!」


「……それ、ただの熱狂的な支持層の拡大ですよね。殿下、喜ぶだけじゃないですか?」


「ええい、黙らっしゃい! とにかく、私は『殿下の隣にふさわしくない狂信者』であることを、国中に知らしめるのです! そうすれば、流石の殿下も……殿下も……っ(想像して泣く)」


私は自分の勇姿に涙を流しながら、控え室を飛び出しました。


大聖堂の扉が開かれた瞬間、光の奔流が私を包み込みました。
ステンドグラスから差し込む七色の光。
そして、その光の道の一番奥。
祭壇の前で私を待っていたのは、この世の全ての美を凝縮したような、アリステア様のお姿でした。


今日の彼は、純白の軍服に金糸の刺繍、そして王太子の証である青いマントを。
その圧倒的な神々しさに、参列者たちは皆、息を呑んで平伏しています。


(……っ! あ、あ、あああああ……尊い! 尊すぎて、一歩進むごとに心臓の毛が一本ずつ抜けていくようですわ……!)


私はあまりの尊さに卒倒しそうになりながらも、一歩、また一歩と彼に近付きました。
隣には、祝辞を述べる役目を仰せつかったクララ様が、手に持った大きなクロワッサンを隠そうともせずに突っ立っています。


「……綺麗だよ、メティ。君をこうして私の『妻』として迎えるこの日を、私は生まれる前から夢見ていた気がする」


アリステア様が私の手を取り、跪いてその甲に深い口づけを落としました。
そのサファイアの瞳には、かつてないほど濃密な、そして逃げ場を一切許さないほどの狂おしい愛が宿っています。


「……さあ、神父。始めておくれ。私たちの『永遠の契約』を」


アリステア様の促しを受け、老神父が震える声で聖典を読み上げ始めました。


「……汝、メティ・オーブライト。健やかなる時も、病める時も……この男を愛し、敬い……」


(きたわ! ここよ、ここが私の断罪のターン!)


私は大きく息を吸い込み、扇子をバッと広げて叫びました。


「異議あり! 私は……私は、あなたを愛する資格などありませんわ! 私はあなたの公式ファンクラブの会員番号一番として、裏で不当な権力を行使し、あなたの寝顔写真を闇取引していた女なんですのよ!」


私の絶叫が、静かな大聖堂に響き渡りました。
参列者たちの間に、戦慄……ではなく、なぜか温かい笑みと拍手が広がりました。


「……え?」


「……素晴らしい、メティ。君は、私への愛をそこまでオープンにしてくれるのか。……会員番号一番が君だということは、実は私が裏で操作しておいたんだよ。君以外の誰かが一番になるなんて、許せるはずがないからね」


アリステア様は、事もなげに恐ろしいことを仰いました。


「な、何を……」


「それに、私の寝顔写真の闇取引だって? ……それも私が許可を出したものだ。君が私の美しさを世界に知らしめたいという情熱を、私が無下にできるわけがないだろう?」


「……(この王子、救いようがありませんわぁぁぁ!)」


私は膝から崩れ落ちそうになりました。
私が悪事だと思っていたことの全てが、彼の「公認」と「サポート」の下で行われていたなんて!


「……メティ。もう、諦めて誓いの言葉を言ってくれないか。……それとも、私の口から無理やり言わせてほしいのかな?」


アリステア様は私を力強く引き寄せ、耳元で捕食者のような低音で囁きました。
その瞬間、私の背筋に、これまでにないほど激しいときめきの稲妻が走りました。


「あ、アリステア様……。……私、私は……」


「……おめでとうございまーす! メティ様、これからも末長く、美味しいお菓子と殿下を可愛がってくださいねぇ!」


絶妙なタイミングで、クララ様が巨大なクラッカーを放ちました。
それを合図に、教会の鐘が乱打され、会場は祝福の渦に包まれました。


「……あ、ああ……尊い。……殿下の執着が、ついに法的な拘束力を得てしまいましたわ……」


私はアリステア様の腕の中で、真っ赤な顔をして震えることしかできませんでした。
婚約破棄を狙った私の計画は、この日、世界で一番甘く、そして一番重い「誓い」によって、完膚なきまでに敗北したのです。


「……メティ。愛しているよ。君を、一生、私の愛という名の牢獄に閉じ込めてあげるからね」


王子の囁きに、私は「はい、喜んで!」という本音を必死に抑えながら、恍惚とした敗北感に酔いしれるのでした。


「……お嬢様。……最終話まで、お疲れ様でした。……もう、諦めて幸せになってください」


サラが、教会の隅でいつの間にかシャンパンを開け、参列者たちと乾杯していました。


私の物語は、一人の「悪役令嬢」が、あまりにも尊すぎる「推し」の愛に完敗し、世界一幸せな王妃になるという、前代未聞の結末を迎えたのでした。
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