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「ううっ……気持ち悪い……もう帰りたい……」
ベルンシュタイン領から王都へ向かう馬車の荷台で、ミューア男爵令嬢がゾンビのような声を上げていました。
彼女は高級なドレスを着ていますが、肥料用の麻袋と野菜の入った木箱に挟まれ、すっかり憔悴しきっています。
「あら、ミューア様。まだ生きてらっしゃいましたの? 生命力だけはゴキ……いえ、野生動物並みですわね」
私は客車の窓を開け、後方を確認しました。
「ひどいぃ……なんで私がこんな目に……」
「予算削減ですわ。それに、貴女の好きな『自然との共生』ができる特等席ですもの。感謝していただきたいくらいです」
私はピシャリと窓を閉めました。
振り返ると、向かいの席ではギルバート様が眉を下げて座っています。
「……さすがに可哀想ではないか?」
「甘いですわ、ギルバート様。彼女が私にしてきたことは、こんなものではありません。私の紅茶に塩を入れたり、ダンスシューズに画鋲を仕込んだり……陰湿な嫌がらせの数々、忘れてはいませんわ」
「画鋲……? それは犯罪レベルではないか?」
「ええ。ですから、これは正当な教育的指導です」
私はバスケットからサンドイッチを取り出しました。
「それより、お腹が空きましたわ。はい、あーん」
「っ!?」
ギルバート様が赤面して固まりました。
「な、何を……」
「手が塞がっているでしょう? 地図を見ていらしたじゃないですか」
「いや、置けばいいだけの話で……」
「あら、私の手作りはお嫌いですの?」
「……食べる」
彼は観念したように口を開けました。
パクり。
「……美味い」
「でしょう? 特製マスタードが効いていますの」
私たちはそんなバカップルじみたやり取りを繰り返しながら、王都への旅路を進みました。
◇
数日後。
私たちは王都の城壁の前に到着しました。
久しぶりに見る王都の景色ですが……何かがおかしいのです。
「……暗いですわね」
街全体が、どことなくどんよりとしています。
以前は活気に満ちていた大通りも、人通りが少なく、歩いている人々の顔も死んだ魚のように生気がありません。
道の端にはゴミが溜まり、野良犬が徘徊しています。
「清掃局が機能していないのか?」
ギルバート様が険しい顔で窓の外を見ました。
「おそらく、予算が下りていないのでしょうね。清掃局への配分を決めていたのは私でしたから」
「……貴殿がいなくなって数週間で、これか」
「行政というのは、歯車が一つ狂えば連鎖的に崩壊するものですわ。ましてや、その歯車を回していたのが私一人だったとなれば、当然の結果です」
馬車が王宮の門に近づくと、衛兵たちが気だるそうに槍を持って立っていました。
しかし、私たちの馬車の紋章を見た瞬間、彼らの目の色が変わりました。
「ベ、ベルンシュタイン家の紋章!? まさか、ニナリー様がお戻りになられたのか!?」
「おい、急いで門を開けろ! 救世主のお帰りだ!」
ギギーッ!
重厚な門が、かつてない速さで開かれました。
衛兵たちが整列し、敬礼をして迎えてくれます。
「ニナリー様! お待ちしておりました!」
「ゴミの収集が来なくて困っていたのです!」
「給料の未払いをなんとかしてください!」
馬車の窓越しに、悲痛な叫びが次々と投げかけられます。
私は優雅に手を振りました。
「皆様、ごきげんよう。……苦労されているようですわね」
「へ、へい! もう限界でさぁ!」
「アレン殿下じゃ話にならなくて……」
「でしょうね。まあ、とりあえず通してくださる?」
馬車は歓声に包まれながら王宮の敷地内へと入っていきました。
その後ろで、荷台のミューア様が「私よぉ! 次期王妃のミューアよぉ! 誰か降ろしてぇ!」と叫んでいましたが、誰も彼女には見向きもしませんでした。
◇
王宮に到着するなり、私たちは休む間もなく国王陛下の執務室へと案内されました。
「陛下がお待ちです。至急、お入りください」
侍従長の顔色も悪く、目の下には濃いクマができています。
重い扉が開かれ、私たちは中へと入りました。
そこにいたのは、この国の最高権力者、ヴァロワ国王陛下……のはずでした。
「……陛下?」
執務机に突っ伏している、白髪の老人が一人。
私が声をかけると、彼はゆっくりと顔を上げました。
その顔は、数週間前に見た時よりも十年は老け込んだように見えます。
「……おお、ニナリーか。待っていたぞ……」
声も枯れ果てています。
「お久しぶりでございます、陛下。……随分とお疲れのようですが」
「誰のせいだと思っている」
国王陛下は恨めしそうに私を見ました。
「そちがいなくなってから、この国はめちゃくちゃだ。アレンの馬鹿息子が、あそこまで無能だとは知らなかった」
彼は深い溜息をつき、机の上の書類の山を指差しました。
「見てみろ、この未決裁の書類を。外交、財務、内政……全てが滞っておる。余が代わりにやろうとしたが、老体にはキツすぎてな。三日前から腰が痛くて動けん」
「それはお気の毒に」
私は淡々と返しました。
「ですが、それは王家内部の問題ですわ。婚約破棄された部外者の私には関係のないこと」
「そう冷たいことを言うな。……なあ、ニナリーよ」
陛下は縋るような目で私を見ました。
「戻ってきてはくれんか?」
「……はい?」
「婚約破棄は取り消す。アレンには厳しく言い聞かせるし、あのミューアとかいう小娘も追放しよう。だから、もう一度アレンの婚約者として、この国を支えてくれんか?」
あまりにも虫のいい提案に、私は呆れて笑ってしまいました。
「お断りします」
「即答か! 頼む、給料も弾むぞ! 特別手当もつけよう!」
「お金の問題ではありません。生理的な問題です」
私はキッパリと言い放ちました。
「アレン様の顔を見ると蕁麻疹が出るのです。それに、私にはもう心に決めた方がおりますので」
「な、なに!? 新しい男か!?」
陛下がガタッと立ち上がりました。
「どこのどいつだ! アレンより良い男など、そうそういるわけが……」
「ご紹介しますわ」
私は一歩横にずれ、背後に控えていたギルバート様を示しました。
「私の新しい婚約者、ギルバート・ヴォルファート辺境伯令息です」
「……は?」
陛下の口がポカンと開きました。
ギルバート様は一歩前に出ると、騎士の礼をとりました。
「お初にお目にかかります、陛下。……いや、騎士団長としては毎日会っておりますが」
「ギ、ギルバート!? 『氷の騎士』か!?」
陛下は目をこすり、二人を交互に見比べました。
「ま、まさか……最強の悪役令嬢と、最強の騎士がくっついたのか?」
「はい。最強の布陣でしょう?」
私はギルバート様の腕に手を絡ませ、左手の薬指をこれ見よがしに見せつけました。
大粒のサファイアが、執務室の照明を受けてギラリと輝きます。
「こ、これは……」
陛下は絶句しました。
ヴォルファート辺境伯家は、国境を守る武門の名家であり、その武力は王軍に匹敵すると言われています。
その嫡男と、筆頭公爵家の令嬢が手を組んだのです。
下手に敵に回せば、王家そのものが危ういレベルの権力集中です。
「……してやられたわ」
陛下は椅子にドサリと座り込みました。
「これでは、無理に引き剥がすこともできん。ギルバート相手に強権を発動すれば、騎士団が一斉蜂起しかねんからな」
「ご理解が早くて助かりますわ」
私はニッコリと微笑みました。
「というわけで、アレン様との復縁は不可能です。諦めてください」
「……わかった。認めよう」
陛下はガックリと項垂れました。
「だが、ニナリーよ。このままでは国が滅びる。アレンとの結婚は無しでいい。だが、仕事だけは手伝ってくれんか? 『特別顧問』として」
「顧問、ですか?」
「ああ。王宮に出入りして、アレンの尻拭い……いや、指導をしてやってほしい。もちろん、報酬は言い値で払う」
私は少し考えました。
正直、王宮の仕事に戻る気はありませんでしたが、このまま国が傾いて私の実家の商売に影響が出るのも困ります。
それに、ギルバート様を王都に留めるためには、私もここにいる理由が必要です。
「……条件があります」
「何でも言え」
「一つ。私の地位は『王太子妃』ではなく『特別行政顧問』とし、アレン様とは対等の立場とすること」
「うむ、認めよう」
「二つ。報酬はアレン様の私財から天引きすること」
「おお、名案だ。あやつの小遣いをゼロにしよう」
「三つ。……ギルバート様を昇進させてください」
「昇進?」
私はギルバート様を見上げました。
彼は驚いた顔をしています。
「彼は騎士団長として十分な働きをしていますが、その地位に見合う待遇を受けていません。彼を『近衛騎士団総長』兼『辺境伯』として、王都での発言力を高めていただきたいのです」
「……なるほど。お主を守るための盾を強化したいわけか」
陛下はニヤリと笑いました。
「いいだろう。ギルバート、今日からお主は総長だ。ニナリーの護衛任務を最優先事項として命じる」
「はっ! ありがたき幸せ!」
ギルバート様が力強く応えました。
「交渉成立ですわね」
私は満足げに頷きました。
これで、アレン様に怯えることなく、堂々と王都で生活できます。
しかも、高額な報酬付きで。
「では陛下、早速ですが溜まっている書類を持ってこさせてください。……あと、アレン様をこの部屋に呼んでいただけますか?」
「アレンを? 何をする気だ?」
「ご挨拶ですわ。……感動の再会を、させて差し上げませんとね」
私の目が冷たく光ったのを、陛下は見逃しませんでした。
「……手加減してやってくれよ。あやつも、バカだが私の息子だからな」
「善処しますわ」
こうして、私は『特別顧問』という新たな肩書きを手に入れ、正式に王宮へ帰還することになりました。
扉の向こうから、慌ただしい足音が近づいてきます。
「父上! ニナリーが戻ったというのは本当ですか!?」
聞き覚えのある、能天気な声。
アレン王子が、何も知らずに飛び込んでこようとしています。
私は扇を開き、口元を隠して準備を整えました。
さあ、第二ラウンドの開始ですわ。
アレン様、覚悟はよろしくて?
ベルンシュタイン領から王都へ向かう馬車の荷台で、ミューア男爵令嬢がゾンビのような声を上げていました。
彼女は高級なドレスを着ていますが、肥料用の麻袋と野菜の入った木箱に挟まれ、すっかり憔悴しきっています。
「あら、ミューア様。まだ生きてらっしゃいましたの? 生命力だけはゴキ……いえ、野生動物並みですわね」
私は客車の窓を開け、後方を確認しました。
「ひどいぃ……なんで私がこんな目に……」
「予算削減ですわ。それに、貴女の好きな『自然との共生』ができる特等席ですもの。感謝していただきたいくらいです」
私はピシャリと窓を閉めました。
振り返ると、向かいの席ではギルバート様が眉を下げて座っています。
「……さすがに可哀想ではないか?」
「甘いですわ、ギルバート様。彼女が私にしてきたことは、こんなものではありません。私の紅茶に塩を入れたり、ダンスシューズに画鋲を仕込んだり……陰湿な嫌がらせの数々、忘れてはいませんわ」
「画鋲……? それは犯罪レベルではないか?」
「ええ。ですから、これは正当な教育的指導です」
私はバスケットからサンドイッチを取り出しました。
「それより、お腹が空きましたわ。はい、あーん」
「っ!?」
ギルバート様が赤面して固まりました。
「な、何を……」
「手が塞がっているでしょう? 地図を見ていらしたじゃないですか」
「いや、置けばいいだけの話で……」
「あら、私の手作りはお嫌いですの?」
「……食べる」
彼は観念したように口を開けました。
パクり。
「……美味い」
「でしょう? 特製マスタードが効いていますの」
私たちはそんなバカップルじみたやり取りを繰り返しながら、王都への旅路を進みました。
◇
数日後。
私たちは王都の城壁の前に到着しました。
久しぶりに見る王都の景色ですが……何かがおかしいのです。
「……暗いですわね」
街全体が、どことなくどんよりとしています。
以前は活気に満ちていた大通りも、人通りが少なく、歩いている人々の顔も死んだ魚のように生気がありません。
道の端にはゴミが溜まり、野良犬が徘徊しています。
「清掃局が機能していないのか?」
ギルバート様が険しい顔で窓の外を見ました。
「おそらく、予算が下りていないのでしょうね。清掃局への配分を決めていたのは私でしたから」
「……貴殿がいなくなって数週間で、これか」
「行政というのは、歯車が一つ狂えば連鎖的に崩壊するものですわ。ましてや、その歯車を回していたのが私一人だったとなれば、当然の結果です」
馬車が王宮の門に近づくと、衛兵たちが気だるそうに槍を持って立っていました。
しかし、私たちの馬車の紋章を見た瞬間、彼らの目の色が変わりました。
「ベ、ベルンシュタイン家の紋章!? まさか、ニナリー様がお戻りになられたのか!?」
「おい、急いで門を開けろ! 救世主のお帰りだ!」
ギギーッ!
重厚な門が、かつてない速さで開かれました。
衛兵たちが整列し、敬礼をして迎えてくれます。
「ニナリー様! お待ちしておりました!」
「ゴミの収集が来なくて困っていたのです!」
「給料の未払いをなんとかしてください!」
馬車の窓越しに、悲痛な叫びが次々と投げかけられます。
私は優雅に手を振りました。
「皆様、ごきげんよう。……苦労されているようですわね」
「へ、へい! もう限界でさぁ!」
「アレン殿下じゃ話にならなくて……」
「でしょうね。まあ、とりあえず通してくださる?」
馬車は歓声に包まれながら王宮の敷地内へと入っていきました。
その後ろで、荷台のミューア様が「私よぉ! 次期王妃のミューアよぉ! 誰か降ろしてぇ!」と叫んでいましたが、誰も彼女には見向きもしませんでした。
◇
王宮に到着するなり、私たちは休む間もなく国王陛下の執務室へと案内されました。
「陛下がお待ちです。至急、お入りください」
侍従長の顔色も悪く、目の下には濃いクマができています。
重い扉が開かれ、私たちは中へと入りました。
そこにいたのは、この国の最高権力者、ヴァロワ国王陛下……のはずでした。
「……陛下?」
執務机に突っ伏している、白髪の老人が一人。
私が声をかけると、彼はゆっくりと顔を上げました。
その顔は、数週間前に見た時よりも十年は老け込んだように見えます。
「……おお、ニナリーか。待っていたぞ……」
声も枯れ果てています。
「お久しぶりでございます、陛下。……随分とお疲れのようですが」
「誰のせいだと思っている」
国王陛下は恨めしそうに私を見ました。
「そちがいなくなってから、この国はめちゃくちゃだ。アレンの馬鹿息子が、あそこまで無能だとは知らなかった」
彼は深い溜息をつき、机の上の書類の山を指差しました。
「見てみろ、この未決裁の書類を。外交、財務、内政……全てが滞っておる。余が代わりにやろうとしたが、老体にはキツすぎてな。三日前から腰が痛くて動けん」
「それはお気の毒に」
私は淡々と返しました。
「ですが、それは王家内部の問題ですわ。婚約破棄された部外者の私には関係のないこと」
「そう冷たいことを言うな。……なあ、ニナリーよ」
陛下は縋るような目で私を見ました。
「戻ってきてはくれんか?」
「……はい?」
「婚約破棄は取り消す。アレンには厳しく言い聞かせるし、あのミューアとかいう小娘も追放しよう。だから、もう一度アレンの婚約者として、この国を支えてくれんか?」
あまりにも虫のいい提案に、私は呆れて笑ってしまいました。
「お断りします」
「即答か! 頼む、給料も弾むぞ! 特別手当もつけよう!」
「お金の問題ではありません。生理的な問題です」
私はキッパリと言い放ちました。
「アレン様の顔を見ると蕁麻疹が出るのです。それに、私にはもう心に決めた方がおりますので」
「な、なに!? 新しい男か!?」
陛下がガタッと立ち上がりました。
「どこのどいつだ! アレンより良い男など、そうそういるわけが……」
「ご紹介しますわ」
私は一歩横にずれ、背後に控えていたギルバート様を示しました。
「私の新しい婚約者、ギルバート・ヴォルファート辺境伯令息です」
「……は?」
陛下の口がポカンと開きました。
ギルバート様は一歩前に出ると、騎士の礼をとりました。
「お初にお目にかかります、陛下。……いや、騎士団長としては毎日会っておりますが」
「ギ、ギルバート!? 『氷の騎士』か!?」
陛下は目をこすり、二人を交互に見比べました。
「ま、まさか……最強の悪役令嬢と、最強の騎士がくっついたのか?」
「はい。最強の布陣でしょう?」
私はギルバート様の腕に手を絡ませ、左手の薬指をこれ見よがしに見せつけました。
大粒のサファイアが、執務室の照明を受けてギラリと輝きます。
「こ、これは……」
陛下は絶句しました。
ヴォルファート辺境伯家は、国境を守る武門の名家であり、その武力は王軍に匹敵すると言われています。
その嫡男と、筆頭公爵家の令嬢が手を組んだのです。
下手に敵に回せば、王家そのものが危ういレベルの権力集中です。
「……してやられたわ」
陛下は椅子にドサリと座り込みました。
「これでは、無理に引き剥がすこともできん。ギルバート相手に強権を発動すれば、騎士団が一斉蜂起しかねんからな」
「ご理解が早くて助かりますわ」
私はニッコリと微笑みました。
「というわけで、アレン様との復縁は不可能です。諦めてください」
「……わかった。認めよう」
陛下はガックリと項垂れました。
「だが、ニナリーよ。このままでは国が滅びる。アレンとの結婚は無しでいい。だが、仕事だけは手伝ってくれんか? 『特別顧問』として」
「顧問、ですか?」
「ああ。王宮に出入りして、アレンの尻拭い……いや、指導をしてやってほしい。もちろん、報酬は言い値で払う」
私は少し考えました。
正直、王宮の仕事に戻る気はありませんでしたが、このまま国が傾いて私の実家の商売に影響が出るのも困ります。
それに、ギルバート様を王都に留めるためには、私もここにいる理由が必要です。
「……条件があります」
「何でも言え」
「一つ。私の地位は『王太子妃』ではなく『特別行政顧問』とし、アレン様とは対等の立場とすること」
「うむ、認めよう」
「二つ。報酬はアレン様の私財から天引きすること」
「おお、名案だ。あやつの小遣いをゼロにしよう」
「三つ。……ギルバート様を昇進させてください」
「昇進?」
私はギルバート様を見上げました。
彼は驚いた顔をしています。
「彼は騎士団長として十分な働きをしていますが、その地位に見合う待遇を受けていません。彼を『近衛騎士団総長』兼『辺境伯』として、王都での発言力を高めていただきたいのです」
「……なるほど。お主を守るための盾を強化したいわけか」
陛下はニヤリと笑いました。
「いいだろう。ギルバート、今日からお主は総長だ。ニナリーの護衛任務を最優先事項として命じる」
「はっ! ありがたき幸せ!」
ギルバート様が力強く応えました。
「交渉成立ですわね」
私は満足げに頷きました。
これで、アレン様に怯えることなく、堂々と王都で生活できます。
しかも、高額な報酬付きで。
「では陛下、早速ですが溜まっている書類を持ってこさせてください。……あと、アレン様をこの部屋に呼んでいただけますか?」
「アレンを? 何をする気だ?」
「ご挨拶ですわ。……感動の再会を、させて差し上げませんとね」
私の目が冷たく光ったのを、陛下は見逃しませんでした。
「……手加減してやってくれよ。あやつも、バカだが私の息子だからな」
「善処しますわ」
こうして、私は『特別顧問』という新たな肩書きを手に入れ、正式に王宮へ帰還することになりました。
扉の向こうから、慌ただしい足音が近づいてきます。
「父上! ニナリーが戻ったというのは本当ですか!?」
聞き覚えのある、能天気な声。
アレン王子が、何も知らずに飛び込んでこようとしています。
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