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パリパリかぷちーの

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 ジェラルド殿下がドナドナされるように連行された後、会場には奇妙な安堵感が漂っていた。
 嵐が去った後の静けさだ。

 国王陛下は、遠ざかる息子の背中を見送り、深々とため息をついた。

「……ふぅ。まったく、とんだ建国記念日になったものだ」

 陛下が疲れたように肩を落とす。
 その姿は、一国の王というより、不肖の息子を持つ一人の父親の哀愁が漂っていた。

「陛下。感傷に浸っておられるところ恐縮ですが」

 アレクセイ様が、冷たい声で割って入った。
 彼は懐から、また別の手帳を取り出している。
 どれだけ書類を隠し持っているのだろうか。

「ん? なんだ、宰相」

「今後の対応について、いくつか確認させていただきたい事項がございます」

 アレクセイ様は眼鏡を光らせ、事務的な口調で切り出した。

「まず、ジェラルド殿下の処分について。先ほど『頭を冷やさせる』と仰いましたが、単なる謹慎では不十分かと存じます。彼がシャロ嬢、およびミナ嬢に与えた精神的苦痛、並びに王家の品位を失墜させた責任は重大です」

「うむ……分かっておる。廃嫡も含めて検討するつもりだ」

「検討ではなく、決定でお願いします。これ以上、彼に税金を使わせるわけにはいきません」

 アレクセイ様の言葉には、有無を言わせない圧力があった。
 陛下がたじろぐ。

「し、しかしなぁ。廃嫡となると手続きが……」

「手続きなら私がやります。書類はすでに作成済みです。陛下の署名一つで完了します」

「仕事が早すぎるぞ、そなた……」

 アレクセイ様はさらにページをめくった。

「次に、損害賠償についてです。今回の茶番劇により、シャロ嬢の名誉は一時的にせよ傷つけられました。また、ミナ嬢も『天使』という過酷な労働を強いられかけました。これに対する慰謝料は、王家のポケットマネーから捻出していただきます」

「む……まあ、それは仕方あるまい」

「そして、ここからが本題です」

 アレクセイ様は手帳を閉じ、一歩前に進み出た。
 その背中から、どす黒いオーラ(覇気)が立ち上っているように見える。

「陛下。先ほど、シャロ嬢との婚約破棄を認められましたね?」

「うむ。あれはジェラルドの有責じゃ。認めざるを得ん」

「ということは、彼女は現在、フリーの身ということでよろしいですね?」

「左様だが……それがどうかしたか?」

 アレクセイ様は、ニヤリと笑った。
 それは、獲物を完全に追い詰めた肉食獣の笑みだった。

「では、宣言させていただきます。――シャロ・フォン・ベルグ伯爵令嬢を、私、アレクセイ・フォン・クロイツの『正式な婚約者』として迎え入れたいと思います」

 会場が、ざわっ……とどよめいた。

「こ、婚約者だと!?」

 陛下も目を丸くした。

「待て待て、宰相。話が急すぎるぞ。シャロ嬢は今、自由になったばかりだ。もう少し冷却期間というか、心の傷を癒す時間が必要なのでは……」

「必要ありません。彼女の心の傷は、私が最高級の紅茶と安眠枕で癒します」

「いや、そういう問題ではなく! それに、ベルグ家は由緒ある家柄だ。王家としても、次の縁談は慎重に……」

 陛下が言い淀む。
 どうやら、私の優秀な血統(と実家の財力)を、まだ王家の影響下に置いておきたいという下心があるらしい。

 アレクセイ様は、スッと目を細めた。

「……陛下。まさかとは思いますが、彼女を再び、王家の都合のいい駒として利用しようなどとお考えではありませんよね?」

「い、いや! そんなことはないが!」

「もし、私の婚約に異議を唱えるというのであれば……」

 アレクセイ様は、わざとらしく天井を見上げた。

「来年度の王室費の予算案、大幅な見直しが必要になりますねぇ」

「なっ!?」

「特に、陛下の趣味である『古城巡り』の視察費用や、王妃様の『宝石コレクション』の維持費……このあたりは、財政難を理由に全額カットせざるを得ません」

「ま、待て! それは困る! あれは余の生き甲斐なのだ!」

「さらに、王城の改修工事も延期ですね。雨漏りがしても、バケツで凌いでいただきましょう」

 脅迫だ。
 これは、国家の中枢を握る宰相による、あからさまな予算を人質にした脅迫である。

「くっ……! そなた、自分の私利私欲のために国家権力を乱用する気か!」

「人聞きが悪い。私はただ、『適正な予算配分』を行うだけですよ。……優秀な補佐官(シャロ)がいなくなれば、私の業務効率が下がり、精査の時間もなくなりますからね」

 アレクセイ様は涼しい顔で言い放った。

「さあ、どうされますか陛下? 私の婚約を認め、平和で豊かな王室ライフを送るか。それとも、私を敵に回して、極貧の王室生活を送るか」

 究極の二択を迫られた陛下は、脂汗をかきながら私を見た。

「シャロ嬢……そなた、あんな男でいいのか? 性格に難ありだぞ?」

 私は苦笑しながら、一歩前に出た。

「陛下。性格に難があるのはお互い様です。それに……」

 私はアレクセイ様を見上げた。
 彼は自信満々の顔で、私を見返している。

「彼の下で働くのは、意外と快適なのです。福利厚生もしっかりしていますし」

「……そうか」

 陛下はガックリと肩を落とした。

「分かった。認めよう。クロイツ公爵とベルグ伯爵令嬢の婚約を、国王の名において許可する!」

 高らかな宣言。

 その瞬間、アレクセイ様は私の腰を引き寄せ、抱きすくめた。

「聞いたか、シャロ。これで君は、公的にも私的にも、私のものだ」

「……外堀どころか、城ごと埋められましたね」

「逃がさないと言っただろう?」

 アレクセイ様は、大勢の貴族たちが見守る中で、私の額に口づけを落とした。

 キャーーッ!
 会場から黄色い歓声が上がる。
 先ほどの殿下の茶番劇とは打って変わって、こちらは「氷の宰相の溺愛」という、極上のロマンスとして受け入れられたようだ。

「おめでとうございます、シャロ師匠ぉぉぉ!」

 ミナ様がハンカチを振り回して祝福してくれる。

「くっ……末長く爆発しろ!」

 誰かが捨て台詞のように叫んだが、それは嫉妬の声だった。

 アレクセイ様は満足げに会場を見渡した。

「諸君、見た通りだ。彼女は私の婚約者となった。今後、彼女に無礼を働く者がいれば……」

 彼はニコリと笑った。
 背筋が凍るような、美しい笑顔で。

「その者の家は、翌日から税率が十倍になると思ってくれたまえ」

 ヒィッ。
 貴族たちが震え上がる。

 こうして、私は「悪役令嬢」の汚名を返上するどころか、「この国で一番敵に回してはいけない女(宰相閣下の最愛の人)」という、最強の称号を手に入れてしまったのだった。

「……閣下。やりすぎです。私の平穏な生活が遠のいていきます」

「何を言う。これこそが最強の防壁だ。もう誰も、君に面倒な頼み事などできまい」

「貴方以外は、ですよね?」

「当然だ。さあ、祝杯をあげよう。今日は朝まで帰さないからな」

 アレクセイ様は私を抱き寄せたまま、会場の中央でグラスを掲げた。

 私の「スローライフ計画」は、形を変えてしまったけれど。
 この温かくて、少し強引な腕の中なら、それも悪くないかもしれない。

 私は諦めの混じった、でも幸せなため息をついて、彼と共にグラスを傾けた。
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