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王都
しおりを挟む仲間たちと別れたわたしには行く当てがなかった。
だからと言ってここでじっとしている訳にもいかない。
宣言した通り北に向かおうとして……その絶望を見て思い至る。
北って前人未到の白竜山脈じゃん!
一年中雪と氷に覆われて、山頂には白竜が棲んでると言われている。
魔界と同じくらい危ない場所だよ……。
これは誰の陰謀? わたしは完全に嵌められた?
いや……そういう事か。
わたしに選択権をくれたんだ。
みんな、優しいな。
だけどそんな優しさに気が付かないわたしってどこまで鈍感なんだろう。
あーもう、わたしが鈍いって事まで理解して欲しかった……。
結局、悩んだ末にわたしは王都に戻ろうと考えた。
幸か不幸かわたしは勇者一行の中でも影が薄かった。
それに、どこかの国のことわざで『木の葉を隠すなら森の中』というのがある。
だったら王都の中に身を潜めるのが一番だ。
そして今後の成り行きも、見ておきたいと思った。
だってまだ国王の決断を聴いていない。
まだ魔王軍と戦争を続けるのか、それとも魔王の条件を聞き入れるのか。
もし魔王側の条件を聞き入れるなら残りの財宝を貰いに行かないといけない。
だから今後の成り行きを見る必要があった。
やはり王都に残るべきだ。
だけど今すぐは不味いと思い、今日は近くで野宿をすることにした。
一人の野宿なんて何年振りだろう……、寂しいな。
とりあえず焚き火の材料を集め、魔法で火をつけた。
スキレットに水を入れて干し肉と干し野菜を入れて塩コショウを振る。
コショウは希少品だからほんの少し。
火にかけたスキレットがグツグツと煮え始めてスープは完成だ。
塩味とスパイスの効いたスープはパンを浸して食べると旨味しい。
だけどその美味しさも一人だと半減だった。
やっぱり一人だと味も格段に落ちる。
だめだ、つい楽しかった日々を思い出してしまう。
わたしはさっさと夕食を食べて寝る事にした。
翌朝、キャンプの後片付けをした。
とくに火の後片づけは大事だ。
ちやんと消火しないと山火事になるからだ。
念入りに火の始末をチェックしてわたしは王都に戻ってきた。
門番が厳しく検問をおこなっている。
だけど、それは王都から出て行く者に対してだけっぽい。
まだわたしたち――勇者一行が王都の中に隠れていると思っているのかもしれない。
わたしは何食わぬ顔で街門を通り抜けようとした。
誰もわたしの顔なんて知るはずがないのだから。
そう信じて門番の前に進む。
門番の一人が麻袋の中身を見せろと言った。
わたしは素直に麻袋を降ろし口を開けて中身を見せた。
門番が麻袋の中に腕を突っ込み中身をかき回している。そして金貨を一枚摘まみ上げた。
「こんなものどうする気だ?」
「煎って食べるんだよ」
「美味いのか?」
「あんまり美味しくないけど、お腹は膨れるよ」
「まぁ、これだけの量があればたしかに腹は膨れるだろうな。……よし通っていいぞ」
わたしは無事に検問を終えて街の中に入ることが出来た。
麻袋の中身は前もって【幻影魔法】でどんぐりに見せかけていたのだ。
王都に入ると、昨日と雰囲気がガラッと変わっていた。
人通りが少ないというか、大通りは閑散としている。
立ち並ぶ商店もほとんどが入り口を閉じていて、まるで閉店休業状態の様だ。
「ねぇ、何かあったの?」
わたしは急ぎ足のおじさんを見つけ声を掛けた。
その人は迷惑そうにこっちに目を向け、逆に質問してきた。
「あんた何も知らんのか?」
「なにもって?」
「勇者が逃げ帰ったんだよ。魔王に挑んで逃げ帰ったんじゃ。今にも魔人が大挙して押し寄せるって噂でもちきりだ」
「そ、そうなんだ……?」
わたしはしらじらしく言葉を濁した。
それにしても、もうこんな噂が流れているなんて、ちょっと驚いた。
「あんたも早く家に帰った方がいい。魔人に喰われちまうぞ」
「うん、ありがとう。あの、もう一つだけ良いかな?」
おじさんはまだ何かあるのかと、すこし迷惑そうだ。
「えっと、この近くに宿屋はないかな?」
おじさんはわたしと馬と大きな麻袋に目を走らせ「あんたこの街の者じゃないのか」と呟いて、近くの宿屋を教えてくれた。
その宿は通りから外れた裏通りにあった。
レンガ造りの三階建ての建物で、看板に大きく『宿・食事・酒・賭』と書いてある。
そしてちょうど店を閉じようとしているおばさんがいた。
「あの、おばさんこの店の人?」
「ん? あたしかい、ここの女将だよ」
「よかった、今日泊まりたいんだけど、あと食事も」
「……こんな時にかい? あんた何考えてんだい」
こんな時――おそらく、いや間違いなく魔人の事を言ってるんだと思う。
そりゃそうだ、魔人がやってくる街に滞在したいなんて、普通に考えれば馬鹿だ。
「えへへ、そこでおじさんに聴くまで何も知らなかったから」
「そうなのかい、呑気なもんだねぇ。まぁいいよ。ここはもう閉めるから、さっさとお入り」
わたしは軽く頭を下げて宿屋の扉をくぐった。
しばらく世話になりたいからと、金貨一枚――十万グォルドを渡す。
もちろんその一枚だけは魔法を解除した。
女将さんは「なんだいこの大金は!」と眼を剥いたが、そんな顔をされても細かいお金は持っていない。
なので、それで泊まれるだけお願いしたいと頭を下げると、女将さんは長期滞在は大歓迎だと喜んでくれた。
ちなみに宿泊代は朝夕のご飯付きで一泊二千グォルド。
十万グォルドだと五十泊出来ることになる。
宿は三階建てで一階が酒場と食堂と賭場、二階三階が宿になっているらしい。
今一階に客はいないようだが、コインもやってるから暇なら遊びにおいでと言われた。
お金持ちの道楽娘だと誤解してカモにしようと思ったのかもしれない。
もちろん行く気はない。
宿に泊まれたのはいいけれど、することが無かった。
外に出ようかと思ったけど、万が一わたしの顔を知っている人がいるかも知れないと思うとちょっと怖くなった。
暇なので麻袋の中身をぶちまけて、金貨を数えてみた。
金貨は常時【幻影魔法】が掛ったままなので万が一人に見られても、わざわざ奪おうとは思わないだろう。
わたしは金貨を一〇〇枚づつ重ねていった。見た目が完全にどんぐりなので、それが一〇〇個も重なる光景はちょっと摩訶不思議だ……。
金貨の枚数は全部で一八二八枚だった。
何度も数えたから間違いない。
一八二八枚という事は、一億八二八〇万グォルドだ。
一〇〇万グォルドあれば土地付きの小さな中古物件が買える。
一億グォルドあればお城が建つかもしれない。それくらいの大金だった。
これは一生遊んで暮らせる金額だよ。
これだけのお金があったら小さな店舗を買っても全然余裕がある。
内装を好きなように飾って、家具や調度品も買って、魔導具作りの設備も揃えて、夢はどんどん膨れていく。
そんな妄想の日々も長くは続かなかった。
そういえばメルキールから貰った古書――魔導書があったことを思い出す。
わたしはそれを読んでみることにした。
表紙を捲ると、見開きいっぱいに魔法陣が描かれている。その魔法陣にどんな意味があるのか分からないが、この魔導書自体にも魔法が込められているのかもしれない。
わたしは次のページを捲った。
見開きの左面には魔導具名とその図柄のような構造が描かれ、右面にはルーン文字やシジル、それらの説明や使い方が事細かに記述されているようだ。
最初の見開きに描かれていたのは『魔導開口器』
図柄は五センチくらいの円環にベルトが付いている。使い方は円環を対象者の口に入れてベルトで頭に固定する。対象者は口を閉じることが出来なくなり、その口内にナニを突っ込む用途等に使うとある。
「ナニって何? ナニじゃ分からないよ!」
ちなみにルーン文字は快楽上昇。やっぱり意味が分からない。
頭を捻りながら次のページを捲った。
次に描かれていたのは『魔導毒硝盃』
図柄は歪な形の取っ手の付いたコップ。とりあえず説明を読んでみると、毒の混じった水が常に満たされ続けるらしい。清水が常に満たされるなら便利だと思うが、毒入りの水なんて使い道が分からない。
さらに次のページを捲った。
次は『魔導淫視鏡』
図柄は趣味の悪い眼鏡。その名前から説明を読む気が失せたけど、だいたいの想像はつく。だけどもう少しオブラートに包むというか気の利いた名前に出来なかったのか……わたしはそのネーミングセンスを疑った。
溜息とともに次のページを捲る。
そこに描かれているのは『死の指輪』
それは名前の頭に魔導を冠していない。だけどその名前からして最悪の結末しか予感できない。確認のためにと説明を読んでみると、指輪を嵌めた者は呪われて七日の内に死ぬらしい……。
そろそろ読むのが嫌になって来たけれど、とりあえずパラパラとページを捲っていく。
『腐食の足枷』『呪いの蟇蛙』『水虫の下足』『魔導狂花瓶』……。
あの変態ジジィは何を思ってこれをわたしに譲ったのだろう。
ふつふつと怒りが込み上げながらも次のページを捲ってその理由が分かった。
そこに描かれていたのは『隷属の首輪』
見た瞬間その低俗な響きに顔を歪めてしまう。
説明は読まなくても一目瞭然。わたしは思わず魔導書を投げ捨てた。
壁に当たったそれはバサリと床に広がり落ちた。
「ふぅ……」
大きく溜息を吐いて気を落ち着かせる。
物に当たっても仕方がないなぁと少し反省した。
その魔導書を拾おうと立ち上がり、開かれているページに目が留まった。
そこに描かれているのは『遠話の角錐』という魔導具。
ちょっとまともっぽい、けれど意味不明な響きに興味が沸いた。
説明を読めば、遠く離れた者同士で会話が出来る魔導具らしい。
なるほどこれは便利な魔導具だと思った。
なんだ便利な魔導具も載ってるじゃんと、わたしは再び本を開いて…………、やっぱり気分が悪くなりその稀覯本をカバンの奥底に封印した。
そんなある日、なんの前触れも無く十数人の魔人が王都にやって来た。
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