堕女神と異世界ゆるり旅

雨模 様

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そろそろ食べごろかしら

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 グォー!
 ゴブー!
 バキッ!
 バラバラバラ……。
 戦闘は一方的だった。
 ゴブスケと名付けたゴブリンスケルトンはクマに突進していった。
 それに対しクマが剛腕を振るうと、ゴブスケは簡単にバラバラにされた……。
 一瞬で勝負はついた……様に見えた。
 しかしゴブスケは負けていなかった。
 バラバラになった骨はすぐに一か所に集まり元の骨の体に戻る。
 スケルトンの強さは生者だったころの強さを引き継いでいる。
 なのでゴブリンだったゴブスケの強さは魔物としては最低の部類らしい。
 普通のけものであるクマにも劣る。
 さらに物理防御が低下しクマの一撃でバラバラにされる。
 だがゴブスケは強い不死性を得ていた。
 なのでバラバラにされてもすぐに元に戻る。
 だから突進する。
 そしてふたたびバラバラに。
 それの繰り返しである。
 そんなことを数十回と繰り返しただろうか。
 クマは疲れたのか飽きたのか、森の中に帰っていった。
 ゴブスケは少し誇らしげにその場で立っていた。

めてあげれば? 護衛として見事に主人あるじであるあんたを守ったのよ」
「え……あぁ、えっと、ごくろうさま?」

 僕はそんな言葉をゴブスケに向かって呟いた。
 ゴブスケは「ゴブ」っと得意げに頷いていた――気がする。
 なんかすごい微妙ーな気分だった。
 だけどとりあえずクマは去った。
 危険が去って安心するとお腹がきゅるる~と鳴った。
 空は完全に明るくなっている。

「マリスさま、朝ご飯にしない?」
「そうね、わたしもお腹が空いたわね」

 お互いに食べたいものを考える。
 するとマリスさまが異世界こっちの食材も食べてみたいと言い出した。
 それはつまりこっちの獣の肉や魚、野菜を食べたいということだろう。
 なるほどそれなら魔法は使わなくて済みそうだ。
 つまりマナの節約であり、僕もマナを吸われなくて済む。
 それは嬉しいけど異世界の食材は……どんなものがあるのか不安だ。

「とりあえず川があるんだし魚料理にしましょうか」

 異世界の魚……ちょっと怖いけど食べてみたい気もする。

「それで、どうやって捕まえるの?」
「もちろんわたしは魔法で捕まえるわ」

 言うなりマリスさまはトコトコと川岸を歩いていった。
 川縁に立ったかと思うと右腕を川面に向けて真っ直ぐ伸ばしている。
 そんな姿勢で二十秒ほど経っただろうか、

「それッ!」

 小さな掛け声とともに伸ばした腕を素早く振り上げた。
 バシャッ!
 その瞬間、川面を割って一匹の魚が大きく飛び跳ねた。
 魚は空中に弧を描いてマリスさまの目の前に落ちてくる。
 マリスさまその魚を難なくキャッチした。
 それは三十㌢近いマスの様な魚だった。

「何をしたの?」

 僕の疑問にマリスさまはこっちを振り返った。

「だから魔法よ。細い魔法の糸を伸ばして魚を捕まえたの」
「糸なんて見えなかったけど」
「すごく細い糸だし、ごく弱いマナだから見えないわ」
「えっと、僕の分は?」

 マリスさまはニターと口端を持ち上げた。

「自分で獲れば?」
「そんなぁー」
「って冗談よ、これくらいの魔法なら一回や二回でマナが枯れることもないし、特別に獲ってあげるわ。感謝しなさいよね」

 うぅーなんか貸しを作ったみたいで怖いんだけど……。
 でも釣り竿も網もないから自分で捕まえるとか無理だし、ここは頼るしかないよね。
 なによりマナを吸われないで済むのはすごい助かる。
 決してイヤとかじゃないけど、恥ずかしすぎて心臓に悪すぎる。
 そうこう言っているうちにマリスさまは二匹目の魚を捕まえていた。

「さすが異世界。魚がれてないわ」

 すこしはしゃぐマリスさまは可愛いかった。

「ところで、それはなんて魚?」

 僕の質問にマリスさまはきょとんとした。

「視てみる?」

 マリスさまも知らないようで、そんな質問を返された。
 僕は恐る恐る聴いた。

「視るって?」
「魔法で品種とか特徴とか色々わかるわよ」

 マリスさまがニヤリと笑う。

「だけどさっき二回魚を捕まえたから、マナが少し足りないのよね」
「えっと……、見た感じマスっぽいし別にいいかな……アハハ」

 僕は頬を引きらせて言った。

「いいの? 毒があるかもしれないわよ? わたしは毒に耐性があるから平気だけど、キルナは死んじゃうかもね」

 恐ろしいことを平気で言わないでほしい……。
 僕は仕方なく吸われることにした。
 ちゅる~~~~。

「あぁーやっぱりキルナの血は美味しいわ」
「今血って言ったよね」
「言ってない!」
「言った!」
「うぅー、じゃいい、もう視ない。今後魔法も一切使ってあげないから」
「ご、ごめんなさい。すみません。もう言いません……」
「よろしい」

 マリスさまは機嫌を直してくれたようだ。

「むぅ~~【天眼】!」

 マリスさまが魚に手をかざし力強く言った。
 魚がほのかな薄光に包まれる。

「ふむふむ、なるほど……うむ」

 一人で納得しているマリスさまに僕は尋ねる。

「わかったの?」
「ええ、わかったわよ。視せてあげる」

 とマリスさまは僕の頭に手の平を乗せた。
 そこから僕の頭に映像というか文字というか、そんなものが流れ込んできた。

 【品 種】 オレンジトラウト
 【体 長】 26cm
 【重 さ】 850g
 【食 性】 肉食
 【毒 性】 無し  
 【食べ方】 塩焼き ホイル焼き フライ ムニエル 燻製 刺し身  

 以上が頭に流れ込んできた内容。 

「何これ……」
「口で説明するのが面倒だったからそのまま結果を視せただけ。あんたたちの言葉で言うなら念視とかテレパシーとか言うやつね」

 とマリスさまが教えてくれる。
 魔法はなんでもありなようだ。

「じゃわたしは塩焼きで食べようかな。キルナは?」
「ん~僕も塩焼きがいいけど、さばけないよ」

 マリスさまがニッと笑う。
 ……怖いよ。

「それもわたしがやってあげるわよ」

 川辺の大きめの岩の上に二匹のオレンジトラウト――マスが並べられている。
 マリスさまはそのマスを指さし「えいッ」と指先を走らせた。
 すると、マスはお腹がスパッと開かれ内臓がぽろりと外に零れ落ちた。
 さらに指を動かすと、水が溢れ魚の腹を洗い流した。
 そして木の枝が口から尾に向けて突き刺さる。

「すごい、今のも魔法?」
「そうよ。魔法で焼き上げまで終わらせてもよかったんだけど、それじゃ味気ないでしょ。だからハイこれ」

 小瓶に入った塩を渡された。

「お好みで適当に振りなさい」

 そして再びマリスさまが魔法で焚き火に火を点けた。

「ちょっと火が弱いわね」

 マリスさまが焚き火に手をかざし「それッ」と小さく呟く。
 するとパチパチと火が燃え上がった。

「ちょっと火が大きいわね……」

 火に向けた指先を上下に少しずつ動かして「ん~~~」と言っている。
 指が上に向くほど火が大きく、逆に下げれば火が小さくなっていく。
 まるでガスコンロの火力調節つまみを動かしているようだ。
 …………。
「あれ、そんな器用なことが出来るなら、昨日の火熾しはなんだったの?」

 僕は昨晩の火熾しを思い出した。
 マリスさまに言われるまま、火を消さないように枯葉をくべたり薪を追加し風を吹き込んだり、必死で火を大きくしていった。
 あの苦労はなんだったのだろう。

「うっかりしていたのよ。でも考えたら魔法で出来ることだったわ」

 あはははと笑っている。
 返す言葉もみつからなかった。
 火が安定したので、その周りに魚が刺さった木の枝を立てた。
 じゅわーと皮の表面から水泡が浮かんで蒸発していく。
 しばらくするとパチパチと皮が焼けるいい匂いが漂ってきた。
 地面に刺さった枝を回し、背腹裏面と綺麗に焼き色を付けて行く。
 こんがりと焼けたマスはとても美味しそうだ。

「そろそろ食べごろかしら」

 僕は枝の両端を持ち背側にガブリとかぶり付いた。
 塩味とともにオレンジのような酸味が口の中に広がった。
 なるほどだからオレンジトラウトか。
 ってことはこの世界にもオレンジがあるのかな。
 色々と食べるのが楽しみになって来た。
 もちろんゴブスケはただの骨なので何も食べない。

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