手の跡

奇奇

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手の跡

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「んもー!何なのよ、この手の跡は!?」

今年から、女子大生になった北畑奈緒は床についた両手の跡を必死に雑巾で擦っていた。一人暮らしのため、東京のアパートに引っ越してきたばかりの奈緒は、まだ片付けてないダンボールの箱をほったらかしにして、手の跡に釘付けになっていた。

前に、住んでた人が付けた手の跡?

気づけば、時間が夜の十時を過ぎていた。奈緒は、思えば一日中手の跡を消すのに夢中になっていた。

「馬鹿馬鹿しい」

奈緒は、諦めてその場から立ち上がりソファに座った。テレビをつけると、ニュース番組が流れていた。奈緒はチャンネルを変える。今度はお笑い番組だ。するとソファの後ろの通路からペタ ペタと音が聞こえた。振り向くとその音が下の方から聞こえてくることに気が付いた。

まさか、虫か何か?

奈緒は、虫が苦手だ。恐る恐るソファから下を覗く。その正体は虫ではなかったが、奈緒は鳥肌が立つのを感じた。手の跡がこちらに迫ってきていた。右手と左手の両手の跡が、床を這うようにして向かってきている。奈緒は、小さな悲鳴をあげて顔を上げた。奈緒は信じられない状況に恐怖して、ソファから動くことが出来なかった。すると、ソファからペタ ペタと音が聞こえてきた。

まさか!

手の跡がソファに登ってきた。奈緒は咄嗟にソファの後ろから転げ落ちた。そのまま、寝室に転がり込みベッドの毛布に潜り込んだ。さっきのソファから落ちた時に痛めた右腕がズキズキ痛むのを感じながら、恐怖を感じていた。奈緒は今さらながら後悔していた。あまりの速さでベッドまで来たため、寝室のドアは乱暴に閉めて、部屋の照明をつけなかったので、中は真っ暗だ。部屋の照明をつけに行く勇気はなく、このまま毛布に潜り込んでいたい気持ちでいっぱいだった。そんな時、ペタ ペタと嫌な音が聞こえてきた。

やばい・・・・。

奈緒は声には出さないように気を付けた。ここで息を殺していれば大丈夫!
そう自分に言い聞かせた。しかし、その嫌な音は消えることはなく、ペタ ペタと奈緒の毛布のそばまで近いてきた。奈緒は身体が震えるのを感じながら、ただじっとすることしか出来なかった。ただ、じっと。次第に音は消えていった。音が消えた後も、奈緒はしばらく緊張で固まったままだった。そして、ようやく落ち着いたと思い、奈緒はそっと毛布から顔を出した。暗闇に目が慣れて、部屋の中を見ることが出来た。奈緒はベッドからそっと降りて、部屋の照明をつけに歩こうとした瞬間、とてつもない寒気を感じた。急に不安と恐怖が奈緒を襲った。部屋の隅に目を向けると、長い髪の女性がうずくまっていた。床につけていた両手の片手がすっと前に出てきた。長い髪の女性が顔をゆっくりと上げた。奈緒に恐怖が走る。次の瞬間、その女性がとてつもない速さで、こちらに向かって床を這ってきた。奈緒は、恐怖で腰を抜かして床に尻餅をついた。奈緒の目の前に女性の顔が近づく。奈緒ははっきりと女性の顔を見た。両目は真っ黒な穴があいていて、口は苦しそうに歪んでいる。奈緒は、声を出すことも出来ずその顔を見つめ続けるしかなかった。恐怖で顔を動かすことも出来なかった。徐々に奈緒は気を失っていった。


奈緒が目を覚ましたのは、日が昇った頃だった。日の光で奈緒は目を覚ました。奈緒はベッドから少し離れた床の上に倒れていた。部屋を見渡したが、長い髪の女性はいなかった。奈緒はほっとした。

さっきまでのは、夢だったのだろうか?

髪の長い女性は、一体?

奈緒は、次の瞬間自分の目を疑った。床一面に、手の跡が無数に自分を囲うようにして向けられていた。奈緒はさっきまでの出来事が夢ではなく、現実であることを確信した。

その後、奈緒はそのアパートを出ていった。他の東京のアパートに引っ越した。それからは、大学生活も充実している。あのアパートにあった手の跡は一体何だったのか?あの髪の長い女性は誰だったのかは、未だに正体が分からないままだ。

皆さんも、これから大学生で一人暮らしをする時は、選ぶアパートに気を付けてください。                          

                 終
         


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