星間のハンディマン

空戸乃間

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第一話 Killer Likes Candy

BAD BOYS 1

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 瞬く星々は近くて遠い。いつ何時も其処にあるが、決して触れる事叶わず。

 漆黒の大海に鋼鉄の翼を翻して、白銀の燕が征く。
 多環境対応型汎用戦闘機MGF―29 機体愛称〈ラスタチカ〉
 機首から双発のエンジン部にまで繋がる見事なまでの流麗な曲線美。機体から生えた燕尾型のエンジンノズルが特徴的なこの戦闘機は、便利屋アルバトロス商会が有する、切り札であり、ヴィンセントが信頼を寄せる愛機である。

 こいつを操っている限り負ける気がしない。どんなデカ物が相手だろうと。
「ラスタチカよりアルバトロス号へ、応答を」
『こちらアルバトロス号、感度良好だ、ヴィンセント』

 アルバトロス号に残り、情報支援に当たっているダンからの応答が入る。戦闘機と元輸送艦では速度の差は比べくも無く、船はすでに遙か後方だ。
 金星出発までに可能な限り情報を集め、ゼロドームではルイーズによる情報収集が今も続いており、逐一ダンに伝えられている。

 この獲物を追う事にどれ程の意義があるのかは分からない。だが、仕事として命を奪う事態が起こる以上、銃爪と感情は引き離してしかるべきだ。さもなければ、永遠に喰い合う死の舞踏を踊り続ける事になる。

 そんなことは、百も承知だが……。

 しかし、である。幼い少女を薬物で調教し、殺し屋に仕立て上げた男を見逃せるほど、冷めた心は持っていなかった。

 ヴィンセントも、ダンも、ルイーズも、そしてレオナも。

 頭では理解していても、許してしまえば心が死ぬ。逃亡を知って逃がすのはつまり、奴と同類に堕ちることに他ならないのだ。

 それを由とするならば、人でなくなる。
 これから行うことを、『正義』と語るつもりはない。その言葉を用いるには選ぶ手段は暴力的で、求める裁きには薄皮ほどの慈悲もないからだ。だからこそ、敢えて明確な理由を付けるとすれば、幼稚な言葉で表わす事になる。

 ――気に入らねえ。
 行動原理は、実に単純だった。
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