竜攘虎搏 Side Dragon

怜悧(サトシ)

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番外編:予備校にいこう

3(司サイド)

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「司、よくびびんなかったな。司も親切なのもいいけど、もし変な誤解とかされて殴られたらどうすんだよ。相手は東高の奴なんだし」
幼なじみの新庄敦也こと、あっちゃんはクラスが違うのに心配になったのか、友達を引き連れて様子を見に来てくれたみたいだ。
そりゃ、僕も普段なら東高の制服で背が高くてがっちりしてて、鼻ピアスなんかした派手な金髪の目立つやつに、声はかけたりしないのだけど。
真面目に勉強しようとしていて、新しいノートを出したり楽しそうに筆箱を眺めたりしている様子を見て、もし違うクラスなら時間を無駄にしてしまうかもと思って声をかけたのだ。
それに、声をかけた時の人懐こそうな笑顔は、僕の知っているような、ヤンキーと言われる悪いやつには見えなかったし。

「眞壁君は、乱暴な人じゃないと思うよ。しゃべり方もすごく丁寧だし」
「まあな、Aクラスに入るくらいなんだし、入校試験かなりの点数出してんじゃないかと思うけどさ。ただ、東高で3年までやめないで過ごしてることを考えると、全く平和主義ってわけじゃないだろうな」
あっちゃんは帰るぞとばかりに、僕の机をとんとんと叩く。
「でもさ、まるで外国の王子様みたいに、彫りが深くてイケメンだったよね」 
「まあ、俺らみたいな、非リア充じゃねーことは確かじゃないの」
定理とか知らないと言ってたし、すべてを定式で解いてるとしたら、かなりの頭のキレがあるヤツだなとは思う。
だけど、なんだか、どっかが抜けているような気がする。

僕らが抱いている東高のイメージは、ヤクザとかチンピラの予備軍みたいなもので、制服を見たら逃げろと言われている。
学校自体が悪の巣窟で、毎日暴力沙汰らしい。
実際、中学の時の不良グループが大体そこに通っている。
行ったら死ぬと思って、力の弱い底辺の奴らは必死に勉強をするのが筋だ。

真壁君はそのどこにも属していないようで、わけがわからない、の一言に尽きた。



「司ぁ、昨日ぶり!!ちわー!」
次の日予備校のクラスルームに入ると両手を振って、金髪のイケメンは僕の方ににこやかに寄ってくる。
それだけで注目を浴びちゃうんだけど、このイケメンはそんなことを気にした様子もない。
「真壁君、こんにちは」
「おーい、司は恥ずかしがりだから、そこまでにしてやってあげて」
背後から来たあっちゃんは助け船を出してくれる。
「挨拶しただけだぞー?グーテンターク。グーテンアーベント、ヤー、イッヒ、ズィ」
両手を上げて肩を聳やかして、ニヤッと笑う。
ドイツ語でちょっとふざけた調子で、わかったわかったと言っているのだ。
流石にネイティブ。
自分がどんだけこの教室で目立つか分かってないんだろうな。
周りの人たちの視線が痛いが、僕は大丈夫だと呟いて、
「大丈夫だよ。僕やあっちゃんには学校の友達もいるけど、眞壁くんにはいないし、心細いと思うから」
誰かに話しかけたくても、きっおうまくできないのかもしれない。
きっとみんな怖がって近くにはこないだろうし。
「司、優しいね。へへ、感動しちゃった、俺」
「シローちゃん、見た目からして、近づき難いからね」
「でしょ。地毛なのに。校則の染髪禁止を律儀に守ってるだけだよ。うん、俺は」
「他のは破ってそうだけど。鼻とかピアスしてる」
あっちゃんのツッコミに、ニヤッと眞壁君はそうだねと笑ってみせる。

なんやかや授業の内容とかいままでの公式や定理の中身を話して、僕達は何故か土曜日の休講の日に、少し遅れている真壁君のために勉強会をすることになったのだった。
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