竜攘虎搏 Side Dragon

怜悧(サトシ)

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番外編:予備校にいこう

6(司サイド)

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端正だけど少し強面の顔を思わずガン見してしまい、焦って慌てて逸らす。
富田くんは同じ中学だったが、同級生のみんながサン付けで呼んでいて、素行の悪い不良集団を束ねていたボスである。
眞壁くんは弟とは言ったが、同じ歳だし弟じゃないよね。全然苗字違うし。
思わず恐ろしさに身を竦めて、意外に丁寧な手つきで差し出されるグラスをじいっと見てしまう。
ちらと視線を向けた眞壁くんは、僕が怯えているのに気づいて唇を尖らせて、富田くんの脇腹をこんこんと小突く。
「をい。たけおー。もー、ほら、てめーの顔がこわいからー。司がすっげえ顔して、びびっちゃったろー。もっともーっと優しくわらえよー。ほら、にこにこする」
眞壁君がなにやらむちゃブリをして、富田くんの眉間の皺を指で伸ばしているが、正直頭に入ってこない。
富田くんは何人も病院送りにしたとか、すごい恐ろしい噂があるひとだ。

「ばっか、そんな怖い顔してねーよ。優しい顔だよな?なあ、ジュース、りんごで良かったか?」
首を傾げながら、隣にいるアツヤに聞くがアツヤもビビッて必死こくこくと頷いている。
富田くんは、少し僕とアツヤの顔を眺めて首を傾げる。
「あ、シロウ。確かさあ、こいつら同中だよな。えっとガリ勉カトーと、副会長のシンジョーだよな?」
目立つ存在ではなかったから覚えられてるとは思わなかったが、どうやら覚えられていたようだ。
「そーなんだ。えっと、じゃあたけおと知り合いだな。んと、たけおは俺の異母きょーだい。ちょっと顔はこわいけど、ホントは優しいし可愛いんだ」
ああ、やっぱり兄弟なのか。
ちょっと目が緑がかっているのは似ているかもしれない。
つか、この顔をして富田君が可愛いって、眞壁はとんでもなく兄バカなのか。
「シロウ、バカ。何、恥ずかしーこと言ってんだよ」
しかし怒るでもなく照れたように顔を真っ赤にしながら、お菓子をテーブルに置く富田君の姿はかなりギャップがある。
「今日もさ、家で勉強会するっつたら、心配で見にきてくれたみたい。過保護なんだよね」
ねっと、富田くんを覗きこむ眞壁くんに邪気はないので、かなりたちが悪い。
「ホントはよびこーまで送り迎えしたいんだけど、オレの顔がこえーからダメって言われてよ」
拗ねた様子の口調に、なんだか微笑ましくなる。
やっぱり同い年だけあって、色々噂は尾ひれはひれなんだなとか思う。
「年齢が一緒で兄弟って、双子みたいだね」
アツヤはホッとしたのか、リンゴジュースを飲みながら尋ねる。
「年齢は、シロウのが上だよ。東高の停学記録塗り替えまくって、1年留年してるからな」
「ちょ、バラすなって、恥ずかしーだろ!?秘密にしてたのに!」
バンバンと眞壁くんは富田くんの胸板を叩いて唇を突き出す様子が内容と伴わず可愛らしくも見えて、どこからツッコミ入れたらいいのかわからなくなる。

とにかく、眞壁くんは1つ上で、東高の停学記録保持者ってことなんだろう。
でも、理由を聞づらい。
「へえ、停学理由って?」
アツヤは眞壁くんには、物怖じしないようだ。
富田君にはビビっているが。
「えっと、正義の人助け(?)的な。なんかさ、頼まれると断れなくて」
誤魔化す様子に明らかに嘘だとは思うが、それ以上聞く勇気はあっちゃんにはなかったらしい。
「じゃ、オレは邪魔だろうからリビングで寝てるな」
「たけおも、看護学校の勉強しとけよ」
「わかった、わかった」
肩を聳やかして、手を振ってお盆片手に出ていく富田くんを見送る。

「なあ、大丈夫?うーん、やっぱりアイツ顔がこわいよね?」
弟だけあって、富田くんもイケメンなんだけど、確かに眞壁くんみたいな物腰の柔らかさはない。
「中学の時は、彼は不良集団のトップだったから。あまり話とかしたことなかったし…………。近寄りがたいっていうか」
「あ、そーか。んー、まあ、たけおも弱くはないからな。びびっちゃうよね。さてと、次は微分積分片付けちまおう」

にっと笑って話を終わらせる眞壁くんは、僕の頭をワシャワシャと撫でる。
教本を開いて、またさっきのように定理の使い方とかをレクチャーしながら、僕はすっかりさっきの話を忘れたように、勉強に打ち込んだ。

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