竜攘虎搏 Side Dragon

怜悧(サトシ)

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番外編:Ich gebe Ihnen alles für Ihren Geburtstag

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入学式で新入生代表などで文を読まされたこともあり、周りに人が寄ってこない。
そういうのは敬遠されやすいと誰かが言っていた気もする。
まあ、留年してるので現役のヤツらとは1つ上になっちまうのもあるかも。
誕生日になんとなく孤独な感じになるのは、いつものことだ。四月生まれはそういうところが損だよなあ。
などと考えながら、大学の門から出るとタチの悪そうなヤン車が門の前につけてある。
こういうのともう関わることもないんだろうなとすり抜けようとすると、バッパーと派手なクラクションを背後から鳴らされ振り返る。

「士龍、ムシしねえでよー!みんなでお誕生日お祝いにきたんだぜ」
ニョキッと窓から頭を出したのは、鳶の作業服を着た将兵である。似合い過ぎているが、後部座席にわらわらと人が乗っている。
「ショーちゃん。すげえクルマ、買ったのか」
見た目も派手な真っ赤なヤン車は、将兵にはよく似合っているが、同級のヤツらが背後でヒソヒソと俺とショーちゃんたちを見ている。
まあ、医学部だしヤンキーが珍しいのかもしれない。
「ああ、峰が安く手に入るって売り込んできやがってな。まあ、破格だったし買ってやった」
乗れとばかりに開かれた助手席に、俺はどかんと乗り込むと、後ろに不機嫌そうな顔をした虎王が座っている。この表情は無理矢理拉致られたのだろう。
顔に面倒くさいとデカデカと書いてある。
「とりあえず、恒例のバースデーパーティをうちのガレージでやるからな」
「富田もそんなに不満顔しねえでな。いつもシローを独り占めしてるんだし、たまにはオレらにお祝いさせて。ウチのボスなんだからさ」
道郎が後部座席で虎王を諌めているが、そんなことじゃ不機嫌は治らないよなあ。
「ボスって、もう高校は卒業したし、そういうのは終わりだろ」
「そういうのひっくるめてお祝いだからさ」
「あー、そうか、分かった。でも、20時には帰るね。たけおが、きっと俺にサプライズ用意してるはずだから」
虎王の表情には、今日は予定を入れているのだとわかりやすく書いてある。
それが何時かは分からないが、そんなに早い時間じゃないだろう。
「な、なんで知ってるんだ」
驚いた顔をして慌てる様子に図星だと分かり、顔を真っ赤にする様子が可愛らしいなと自然に顔が緩む。
「知ってないけど、分かるんだよ」
ついゆるゆるになってしまう顔に、将兵が呆れかえってご馳走様と言うのが聞こえた。

将兵の家のガレージには、卒業式から1ヶ月くらい会っていなかった面々も顔を揃えていた。
「まだ、大学でダチとかできてねえですよね」
〇タッキーで鶏肉を買ってきたのだと美味そうな匂いと一緒に、直哉がやってきた。
確かどこかの警備会社に勤めると言ってたが、夜の仕事なのに大丈夫なのだろうかと首を傾げると、
「今日は非番なんですよ。それにしても士龍さんは、カッコイイッすね。どっかのモデルかと思いました」
俺の服装を見て言うが、服装はファッション誌を立ち読みして真似てるだけである。
「まあ、大学生だし普段着だから、毎朝なににしようか悩んで着てるけど」
「士龍さん、プレゼントです」
俺の前にどんどんとプレゼントが山積みになっていく。高校二年で派閥を任されてから派手に祝われるようにはなったが、さすがに社会人になったヤツらからお祝いされるとは思ってなかった。
「あまり気を使わないでいいぞ」
先に卒業した将兵と道郎たちはともかく、一緒に卒業したヤツらはまだ初任給も貰ってないはずだ。
「俺らは春休みにインターンでバイトしてたんで、センスねえから喜んでもらえるかわかんねえんすけど」
中をあけると、髑髏とか龍とかイカついデザインの品々が出てくる。
確かに俺の趣味からは遠く外れているのだが、それでも贈られる品々は嬉しくて感動する。
「すげえ嬉しいけどな。ケーキまで用意してくれるなんて、最高の二十歳の誕生日だ」
「士龍が一番に酒飲める歳になりやがった」
「ってか、今までだって飲んでただろ」
白々しくオレンジジュースを手にする将兵に、渡された缶ビールで乾杯する。
今日は合法的にと笑って、帰りは送るしと言った将兵に、俺はよろしくと言って合法的にビールを飲み干した。
「で、どうなの同棲生活」
将兵は俺の肩をぽんぽんと叩く。
大学には虎王のマンションからの方が近いのでお邪魔している。
母さんには、父のマンションを使わせてもらうって話にしているが、嘘はついていない。
「まだ入学して1週間だし、大学に慣れてないからなあ。ペースわからなくて、なかなか.........」
「え、なかなか?」
「ああ、ご無沙汰なの。だからさー」
「それで富田が不機嫌なのな」
虎王も専門学校で、慣れない勉強に必死だし、帰ってくるとぐったりしている。
俺は、料理したり新婚気分でいっぱいなのだが、虎王が何を考えているのかよくわからない。
「まあ、イベント邪魔したのは悪かったけど、久々に会いたくてさ」
肩を竦ませて元気そうなら良かったという将兵に、親友っていいなあと考えながら、凄く嬉しいから気にするなと伝えて、フライドチキンにかぶりついた。
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