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手渡された大剣を眺めて、纏わされたフードつきのコートで呼吸を軽く何度か繰り替えした後で、恨みがましい表情を浮かべてガイサックはルイツを見上げる。
「ちょっとは、心配とかしてくれないかなァ」
「アンタ不死身だし、心配するだけ無駄じゃない」
切られた蔦を剥がして台から降りると、ふらつく身体を大剣を杖に立ち上がる。
「つか、不死身でも体力は、無尽蔵じゃねえんだ、よ」
ぐいっと力を両腕に込めて、大きく深呼吸をすると大剣を振り上げ、クリスタルの聖母像に向けて一閃振り下ろす。
メキメキッとひび割れるような破壊音が響き、一瞬でガシャッと激しい音をたてて飛び散る。
乱交を繰り返していた村人たちも、我に返り弾け飛ぶ像の残骸が台座の上に降り注ぐ様子を仰ぎ見上げる。
「!!!!ああああああああ、神よ!!!」
悲鳴のような声が響き渡り、地を這いずっていた蔦は一気に生気を失い、茶色に干からびていく。
「うわああああああああああああ、なんて、ことを!!」
村人たちは、教会の床にくずおれて何度も神の名を呼んだ。
頭を打って気を失っていた神父も村人の悲鳴に目を覚まして、粉砕された聖母像を見上げて絶句した。
「罰当たりな、何て罰当たりな」
「餌にされそうになってたのに、罰もなんもねえだろ、が」
ふらつく身体を再度大剣で支えながら、ガイサックは神父を睨み返した。
神父は首を何度も振って、神に祈る仕草を繰り返した。
「なんてことをしてくれたんだ。この小さな村を、聖なる母とその蔦の精霊が守ってきたというのに。もう、この霧が晴れてしまったら、私達には自分たちを守る術がない」
この小さな村は肥沃な沼地に位置していて、山賊や盗賊たちに狙われ続けていた。国へそれを上告しても、警備を増やすなどの対処はなく、蹂躙されるだけだった。
50年前のある夜に逃げ込んで来た盗賊たちが、運び込んできたのが、件の女神像だった。
盗賊たちに脅されて教会を貸したところ、翌朝盗賊たちは、蔦に絡まった状態ですべて息絶えていたのである。
その蔦からは精霊が現れ、生贄を差し出せばこの村を霧に包み賊から守ると村人たちと契約を結んだのだと神父は語った。
「私たちは、弱く力ももたない。自分たちを守る精霊と聖母に頼るしかなかった」
項垂れた様子の神父に、ガイサックは眉を寄せて話を聞くと、自分の下腹部を眺める。
「精霊は生贄は求めねえよ。こいつは魔物の眷族だな。オレの腹の中にも既に育っちまってるんだけど、そんなに魔物と契約してえなら産んでやってもいい」
ガイサックは潰してしまうつもりだったんだけどと付け加えて、天井を見上げる。
神を信じる者が、救われなさに悪魔に与してしまうのは、よくある話だ。
何が悪いとかはない。
救えないのは、己の力の無さだけだ。
「つか、腹に卵産み付けられたのかよ」
ルイツは驚いた表情を浮かべて、平然としているガイサックを信じられないように見返した。
「ま、魔物!我らは、魔物と50年も契約していたというのか!」
神父は取り乱して、首を横に振ると声をあげる。
あの儀式も、神のみこころと信じればこそできた乱交なのであろう。
「じゃあ、消滅させるよ」
ガイサックは指先で古い文字を描くと光をためて自らの腹部へとそれを放った。
「アンタ、魔術使えたのかよ」
ふわりと空気に光の粒が消えていき、その様子に目を見開いてルイツは声をあげた。
「一応、大魔術師の孫だし。素養くらいはあるけどさ、元々は聖騎士団目指してて、教会で修行してたんだよなあ。まあ、王様が無理矢理オレを近衛騎士にしたんで、聖騎士にはらなれなかったんだけどな」
低級魔くらいなら簡単に消せると肩を聳やかせて、流石に疲れたなと呟いて、神父を見返す。
「旅人を生贄にしてたのだろうけど、もし生贄にできない時期とかはどうしてたんだ」
静かな口調でガイサックは、項垂れたままの神父に問いかけた。
「…………だから、村人が多く必要で、生贄を捧げる度に生殖の儀式をおこなってきました」
言い難そうに答えて、拳を握りしめる神父にガイサックはため息を吐き出す。
「なるほどね……人の命を奪うという点では、あんたたちも盗賊も変わらねえけど、みんな、生きていかなきゃなんねえよ。守ってもらうだけじゃなく、強くならないとな」
弱いものばかりが奪われる世の中は、それでも正すべきだとは思うと付け足して、ガイサックは女神像の残骸を再度見返した。
「それでもアンタらのお守り壊しちまったのはオレだから、代わりのお守りをやるよ」
額に指先を当てて、唇に文言を刻むと雷のような音が鳴り響いて地割れが起こったように激しく地面が揺れだした。
「なんて魔法使ってんだよ」
「流石に呪術者たちも気づいちまったかなァ」
馬を走らせながらガイサックはすっかり霧が晴れた空を見上げる。
村を地面ごと持ち上げ、盗賊たちが簡単には登れない崖を作ってしまったのである。
地形を変える様な魔法の大きさは、追っ手の呪術者が見逃すわけがない。
「アンタのこと剣だけがすげえのかと思ってたんだけど、何でもできるんだな」
「っても、体力ないと出来ねえからなあ。こないだオマエとしたのが効果あったからかもな」
パカパカと馬を走らせながら、大声でガイサックに言われてルイツは目を見開く。
「さてと、近くの川かなんかで身体洗いたいから、先にいくぞ」
颯爽と馬の腹を蹴り飛ばして駆けていくガイサックの背中を見つめてルイツは軽く息を吐くと、自分の馬の横腹を蹴ってその背中を追いかけた。
「ちょっとは、心配とかしてくれないかなァ」
「アンタ不死身だし、心配するだけ無駄じゃない」
切られた蔦を剥がして台から降りると、ふらつく身体を大剣を杖に立ち上がる。
「つか、不死身でも体力は、無尽蔵じゃねえんだ、よ」
ぐいっと力を両腕に込めて、大きく深呼吸をすると大剣を振り上げ、クリスタルの聖母像に向けて一閃振り下ろす。
メキメキッとひび割れるような破壊音が響き、一瞬でガシャッと激しい音をたてて飛び散る。
乱交を繰り返していた村人たちも、我に返り弾け飛ぶ像の残骸が台座の上に降り注ぐ様子を仰ぎ見上げる。
「!!!!ああああああああ、神よ!!!」
悲鳴のような声が響き渡り、地を這いずっていた蔦は一気に生気を失い、茶色に干からびていく。
「うわああああああああああああ、なんて、ことを!!」
村人たちは、教会の床にくずおれて何度も神の名を呼んだ。
頭を打って気を失っていた神父も村人の悲鳴に目を覚まして、粉砕された聖母像を見上げて絶句した。
「罰当たりな、何て罰当たりな」
「餌にされそうになってたのに、罰もなんもねえだろ、が」
ふらつく身体を再度大剣で支えながら、ガイサックは神父を睨み返した。
神父は首を何度も振って、神に祈る仕草を繰り返した。
「なんてことをしてくれたんだ。この小さな村を、聖なる母とその蔦の精霊が守ってきたというのに。もう、この霧が晴れてしまったら、私達には自分たちを守る術がない」
この小さな村は肥沃な沼地に位置していて、山賊や盗賊たちに狙われ続けていた。国へそれを上告しても、警備を増やすなどの対処はなく、蹂躙されるだけだった。
50年前のある夜に逃げ込んで来た盗賊たちが、運び込んできたのが、件の女神像だった。
盗賊たちに脅されて教会を貸したところ、翌朝盗賊たちは、蔦に絡まった状態ですべて息絶えていたのである。
その蔦からは精霊が現れ、生贄を差し出せばこの村を霧に包み賊から守ると村人たちと契約を結んだのだと神父は語った。
「私たちは、弱く力ももたない。自分たちを守る精霊と聖母に頼るしかなかった」
項垂れた様子の神父に、ガイサックは眉を寄せて話を聞くと、自分の下腹部を眺める。
「精霊は生贄は求めねえよ。こいつは魔物の眷族だな。オレの腹の中にも既に育っちまってるんだけど、そんなに魔物と契約してえなら産んでやってもいい」
ガイサックは潰してしまうつもりだったんだけどと付け加えて、天井を見上げる。
神を信じる者が、救われなさに悪魔に与してしまうのは、よくある話だ。
何が悪いとかはない。
救えないのは、己の力の無さだけだ。
「つか、腹に卵産み付けられたのかよ」
ルイツは驚いた表情を浮かべて、平然としているガイサックを信じられないように見返した。
「ま、魔物!我らは、魔物と50年も契約していたというのか!」
神父は取り乱して、首を横に振ると声をあげる。
あの儀式も、神のみこころと信じればこそできた乱交なのであろう。
「じゃあ、消滅させるよ」
ガイサックは指先で古い文字を描くと光をためて自らの腹部へとそれを放った。
「アンタ、魔術使えたのかよ」
ふわりと空気に光の粒が消えていき、その様子に目を見開いてルイツは声をあげた。
「一応、大魔術師の孫だし。素養くらいはあるけどさ、元々は聖騎士団目指してて、教会で修行してたんだよなあ。まあ、王様が無理矢理オレを近衛騎士にしたんで、聖騎士にはらなれなかったんだけどな」
低級魔くらいなら簡単に消せると肩を聳やかせて、流石に疲れたなと呟いて、神父を見返す。
「旅人を生贄にしてたのだろうけど、もし生贄にできない時期とかはどうしてたんだ」
静かな口調でガイサックは、項垂れたままの神父に問いかけた。
「…………だから、村人が多く必要で、生贄を捧げる度に生殖の儀式をおこなってきました」
言い難そうに答えて、拳を握りしめる神父にガイサックはため息を吐き出す。
「なるほどね……人の命を奪うという点では、あんたたちも盗賊も変わらねえけど、みんな、生きていかなきゃなんねえよ。守ってもらうだけじゃなく、強くならないとな」
弱いものばかりが奪われる世の中は、それでも正すべきだとは思うと付け足して、ガイサックは女神像の残骸を再度見返した。
「それでもアンタらのお守り壊しちまったのはオレだから、代わりのお守りをやるよ」
額に指先を当てて、唇に文言を刻むと雷のような音が鳴り響いて地割れが起こったように激しく地面が揺れだした。
「なんて魔法使ってんだよ」
「流石に呪術者たちも気づいちまったかなァ」
馬を走らせながらガイサックはすっかり霧が晴れた空を見上げる。
村を地面ごと持ち上げ、盗賊たちが簡単には登れない崖を作ってしまったのである。
地形を変える様な魔法の大きさは、追っ手の呪術者が見逃すわけがない。
「アンタのこと剣だけがすげえのかと思ってたんだけど、何でもできるんだな」
「っても、体力ないと出来ねえからなあ。こないだオマエとしたのが効果あったからかもな」
パカパカと馬を走らせながら、大声でガイサックに言われてルイツは目を見開く。
「さてと、近くの川かなんかで身体洗いたいから、先にいくぞ」
颯爽と馬の腹を蹴り飛ばして駆けていくガイサックの背中を見つめてルイツは軽く息を吐くと、自分の馬の横腹を蹴ってその背中を追いかけた。
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