炎上ラプソディ 

怜悧(サトシ)

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『丁度近くでテロが起こったから、便乗して地域の奴らを集めて一網打尽にしてみた。お前の名前を名乗っておいたから、あそこらへんでは有名人だぞ』

コテージに向かう道すがら、シェンが運送機で迎えにいくと乗り込んですぐに通信機を通して統久に告げられる。
また余計なお世話といいたいが、盗聴されていそうで聞くだけだ。
「旅行に誘ってくれてありがとう」
チャイナ服に身を包み柔らかい笑顔を浮かべる統久は、普段とは別人である。
通信機の内容と表情が合ってないなと思いながら、恋人に見せるような甘い表情を作る。
「素敵なコテージでな、会社が仕事のできるオレにご褒美を出してくれたんだ」
「俺を連れてきてくれて嬉しいです」
「あと、君を身請けする金が用意できたよ」
頑張ったからねと告げると、統久はわざとらしく眉をキュッと寄せて俯く。
手が軽く震えているが、盗撮されててもそこまでの仕草は拾わないだろう。
演技がまるで映画の主演男優賞俳優並に素晴らしい。
「.....ご、ごめんなさい。この間お金、値上がりしちゃったんです」
「え.........」
シェンは暫く黙り込むと、グッと唇を噛み締める。
『さっきポケットに突っ込んだ指輪に、粒子爆弾をしこんだ。それを俺につけてくれないか。あと、お前の指輪が起爆スイッチになってる。意識があるうちに、なんとか施設にばら撒く』
思わず目を剥いてシェンが統久を見返すと、顔を軽く手のひらで覆って、
「ごめんなさい。頑張ってるシェルに言えなくて」
健気な装いで震えてみせる姿には、わざとらしさは見えない。
「いいよ.....、もう少し頑張るから。早くハイルと一緒に暮らしたい」

美しい森が見えて着陸すると、鳥がばさばさと激しく飛び立つ。
機体から降りて木々の隙間から刺す柔らかな陽光に包まれた白いコテージの前に2人は立つと、シェンは誘うように統久の腕を引いた。

「自由になったら、こういうところに住みたいと思って、用意したんだよ」
「う、嬉しいです。ホントに素敵だ」
心底喜びに溢れた笑みを浮かべて抱きつく統久に、演技とは言え思わず胸をつかまれそうな気持ちに陥り、シェンは軽く首を振って抱き寄せた。

何でも出来るやつは本当に厄介だ。



コテージは簡素ではあるが、綺麗な材質で出来ていて中の調度も凝ったつくりである。
牢獄ね。
周りを見回しながら中に入ると、シェンは荷物を置いて丸太を半分に切って出来た椅子に腰を下ろす。
「こんな自然に溢れたところ、初めてきました」
感動したような声をあげて、シェンの隣に座って腰に抱きつく仕草に思わずどきりとしながら、ぎこちなく笑ってみせる。
人を騙す時の普通の人間の心理なんてなかなかないからなあ。
潜入専門でやってきたので、演技はお手の物だが、演技の中の演技となるとかなり内容が難儀だ。
演技がうまくできるかどうか。
シェンはそのまま統久の手をとり、指先に唇を押し当てるとズボンのポケットの膨らみを取り出して、ケースをとりだす。
『起爆スイッチの方は石がついている』
ケースの中身を確認して石のついてない金属の指輪を引き抜くと、ゆっくりと統久の指へと嵌めて、石のついている指輪を自らも嵌める。
「まだ、早いかもしれないけど.....約束のあかしだ」
「ああ、シェル、夢のようだよ。ありがとう。嬉しいです」
するっと腕を伸ばして、シェンの首筋に腕を巻き付けると、統久は唇を軽く押し当てる。
『通信に気づかれると厄介だ。ここで、この端末はオフにしておく。指輪の爆弾を撒き終わったら、起爆スイッチの方が光るから.....それが合図だ』
「.....ハイル、そんなに抱きついたら苦しいよ。.....そんなに、早急にしたら:間に合わない!」
「オメガってね、発情したら色々わからなくなっちゃうんだ。だから、その前に.....話をたくさんしたいのだけど.....シェルが嬉しいことばかり言うから」
耳元で囁かれる睦言はそのままの意味ではないだろう。
「だから忘れないように.....強く抱いて」
誘うように指先がつっと脇腹から下腹部へと降りていき、強い眼差しがシェンを捉える。
記憶をなくす前に会いにこい、か。
シェンは誘われるがままに、丸太のイスの上に上体をあげて彼にのしかかる。
「何もわからなくなるくらいにいやらしいアナタも見てみたいけど」
チャイナ服に腕を伸ばして、視線をとらえながら衣服を剥いで、首に巻かれた防護帯に唇を押し当てる。
「全部オレのものにしたいけど.....オレはベータだからな。それはできない」
以前聞いた遠野の言葉を思い出す。

アルファに庇護されれば、苦しまずに済むのにそれができないくらいに優秀で可哀想なひと。
だけど庇護することすら、できない。 

「いいよ、離れないでいて.....シェル」
甘い匂いを発する身体に鼻先を寄せて、シェンは頷いた。
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