UNLEASH

いらはらい

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片思い

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「で、自分がどうなったか、理解はしてるのか?」
『…はぃ』
内容が内容なだけに、できるだけ人が来ない場所へと、先ほどよりも静かな場所に二人は移動していた。
 アキに憑いた少女と思わしき霊は、泣き止んだものの霊になってから間もない雰囲気だった。どう対応し、注意すれば良いのかを呪を受けてから色々と叔父から聞いていたマコトは、自分の顔が不機嫌で仏頂面にならないように、マコトなりに笑顔でアキに取り憑いてる者に話しかけた。かなりひきつった笑顔ではあるが。
 この顔をアキが見たら、きっと茶化すだろうと思いながらも、何とかその顔で語りかけていく。男が苦手ということを考慮し、ベンチの端に座り距離を取っていたが、思った以上に相手は声が小さくおまけに俯いているために、何を言ってるか聞き取れないでいた。
 話が進まない状況に困り果て、次第にイライラしだすが、万が一、それで変な方向に行きアキの命がどうにかなってしまってはいけないと、沸き上がる怒りを何度も飲み込んでいた。
 が、それがあとどのくらい保つのか、進まない状況に頭を抱えた。おまけに休み時間も限られている。仕方ないと呟き、わざとらしく咳払いをして立ち上がり、相手の視線を自分に向かせた。少女は不思議な表情でマコトを見ていた。
「あー、あのさ。とりあえず、男が嫌なんだよな?見た目が女なら、大丈夫ってことだよな?」
 少女は何を言っているのか理解出来ず、見た目…?どういう事なの?と首をかしげ、マコトの動作を見ていた。マコトは、キョロキョロと辺りに誰も居ないことを確認し、束ねていた髪をほどいた。
「コレならどうだ?普通に喋る事出来るだろ?」
『え…?』
相手は、しばらくマコトを見つめていたが、一度目を閉じ、もう一度開けてマコトを見つめ直した。そして、立ち上がり目をこすりながらマコトへと近づき、何が目の前で起こっているのか確認した。
 ただ、髪をほどいただけだと思っていたが、夏服の上から身体のラインが男から女の身体つきに変わったのが分かった。
「どうした?」
『え…何で?』
 驚き過ぎて聞き逃していたが、よく聞くと声も変わっているのにも気づいた。
『何で…女…なの?さっきは確かに男だったのに』
「まー、コレにはいろいろ訳があって…うおぉぉぉぉ?!」
 と、説明をしてる途中にいきなりマコトは叫んだ。アキの身体に乗り移った相手は、何故か無造作にマコトの胸を鷲掴んでいたのだ。
『やだ…柔らかい…本物だ…』
 それに思ったよりも大きい、と感動するようにつぶやき、マコトの胸を掴んだまま、マジマジと顔と胸を交互にみつめていた。
 マコトは、いつまでも胸を掴んでいる相手の腕を振りほどくように体勢を変え、掴まれた胸を押さえながら話を進めていく事にした。
 
*** 
 
 アキの身体に憑いているのは、先日の酷い夕立に階段から滑り落ちた女子高校生だった。その件は歳が近いのもあり、珍しくマコトも覚えていた。
『…あの時、なんで休まないで走り続けたのかなぁって…どこかで雨宿りしとけば良かったのにって、自分を見下ろしながら思ってました。あぁ…私、どうしてこうもバカなんだろう…』
 マコトの隣に座って彼女は悔しそうに拳を握りしめ俯むいた。その俯いた顔から、一滴、また一滴と涙が落ち、アキのズボンを濡らしていく。
「あまり、自分を責めんなよ。責めたとこで、どうにかなる訳じゃない。だから、こういう言い方もあれだけど、とりあえずお前がしたい事ってなんだ?」
『やりたい事…?』
 少女は、流していた涙を拭き取り、アゴに手を当て考えていたが、少し顔を赤らめ照れながら話し始めた。
『両親とも話ししたいけど、できたらある先輩にお会いして、お話ししたいんです』
「先輩って…女の?」
『いえ、男性です』
「はぁ?お前、男が苦手ってさっき言ったよな?どういうことだよ」
 先ほど、前触れもなく平手打ちされたマコトにとって、理解しづらい話しである。少女は申し訳無さそうな顔をしながらも話し始めた。
『苦手は苦手なんですけど、その先輩は次元が違うんです』
「なんだそりゃ…」
 今まで泣いていたのが嘘のように、彼女の目はキラキラと輝き鼻息を荒くし語りだし、マコトは呆れた顔で彼女の話を聞き始めた。
『その先輩って優しくて背が高くて…日本人離れした、すごく綺麗な顔立ちなんです。白馬の王子様って言うのが絶対にあう人なんです!高校が違うので、あまり見れなくなってしまいましたが、この前偶然街で見たときがあって!中学卒業して以来だったけど相変わらず素敵で~』
「…ふーん」
 語りだした少女の話をつまんなそうに聴いてるマコトをよそに、彼女は胸の前で手を合わせ、うっとりとした表情で語り続けた。
『おまけにね、綺麗な顔立ちなんですけど、垂れ目がすっごいキュートでぇ』
 ・・・・垂れ目?
 マコトは上がってくる容姿の特長を頭にイメージしていくが、先ほどからある人物がちらついて仕方がない。そんなマコトにお構いなく、彼女は表情をキラキラさせながら話しを続けていく。
『その垂れ目でもヤバイのに、泣きぼくろまであってぇ、もうヤバイっていうか』
「ちょっと待ってくれ…」
『どうかしましたか?』
 泣きぼくろでハッキリとその人物像が、身近な人物と重なり、思わず彼女の話しをとめた。マコトは深呼吸を一回し、気難しい顔で彼女に質問をした。
「その相手って、まさかここの高校だったりしないよな?」
『あ、そう言えば観た事ある制服だ!もしかして中央高校ですか?ここ?だとしたら、その先輩がいます!きゃー!どうしよう!どうしよう!!!会ったらどうやって声掛けようかな?』
 頬に手を当てそわそわと落ち着きがなくなる彼女だが、それとは反対にマコトは頭を押さえていた。自分が思っている人物とは、もしかしたら違うかもしれない、となぜか自分に言い訳をしてその先輩の名前を聞いてみる事にした。
『アキオ先輩です!!秋に桜って書いて、秋桜っていう素敵な名前の先輩なんです!』
 予想していた答えだっただけに、マコトはまた頭を抱えた。
「マジかよ…」
『どうしました?どこか具合わるいんですか?
「いや、なんともねぇ…あのさ、その先輩なんだけどさ」
『もしかして、知り合いですか!!!』
 女の姿になってから、マコトが男というのを忘れているのか、彼女はグイっとマコトに近づいた。
「近い、近いって」
マコトはこれ以上近づくなと、手を前に出す。つい、興奮してしまった彼女は謝り、ほどよく距離を空けた。改めてマコトを見るとあることに気づいた。
(そういえば、この人を見てるとなんだろう…ドキドキに似た感情が…もしかして先輩の事を語っていたからかな?)
 憧れの先輩と早くも会えるかもしれない。そんな期待が膨らみからくる高揚だと思い、いつ希望が叶うのかと、期待を含んだ眼差しでマコトを見つめた。
『知り合いでしたら、いつお話し出来ますか?!』
 期待を込めた彼女の表情とは違い、複雑な顔をしたマコトはこのあとの彼女の行動が心配だった。もし、感情が暴走したら止められるだろうか、と。
だが時間が限られているために、その時はその時だと軽く息を吐き、隣で期待を含めた表情で自分の言葉を待つ彼女
「知り合いも何も…今、お前が憑依してる身体…それがその憧れのアキオ先輩だよ」
 何も言わず自分を指差す彼女に、マコトは無言で頷いた。
『えぇぇぇぇっ? !』
 いきなり驚きの声を上げたかとおもえば、叫んだまま空を見上げ固まってしまった。
「あ、抜けた…?」
 そう言い、アキが倒れないように身体に手を添え、アキの顔を見上げた。しばらくして眠そうな顔をしたアキが首を下ろし、支えているマコトと視線をあわせた。
「おぉ…お帰り、アキ。」
「…もしかして、憑かれてた?」
「あぁ…今回も女性の霊だ」
「そう、おめでとう」
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