UNLEASH

いらはらい

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呪縛

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 あの時、なぜマコトを待っていなかったのだろうか?そうすればあの男と出逢うことなど無かったのに……

「あの時」、それは半日ほど前に遡る。
 アキは学校帰りにマコトの家、寺へと向かっていた。いつもならマコトと一緒に帰るのだが、この日のマコトは居残りをさせられおり、マコトから、
『そう簡単に終わる学科ではないし、先に寺へ行って御守りを交換しろ』
 と、不機嫌な顔で言われたのだ。不機嫌な顔のマコトをみて、アキは待っていても良いかと思ったのだが、明日は休みだし交換したらそのまま泊まるからいいか、と先に帰ったのだった。
 月に一度、御守りを交換する事で憑依されにくくなったのだが、そもそもアキは生まれた時から憑依されやすい訳ではなかった。
 憑依されやすい体質のせいで死にかけたことがあったアキは、たまたまそこに居合わせたマサキに助けられた。その偶然により命を助けられた上に、少しでも憑依されないようにと御守りをもらうようになったのだ。
 マサキに、憑依されやすいのは思春期のデリケートな時期や、過度のストレスから精神的に弱っている時に憑依体質になる子がいると言われた。ちょうどその頃のアキは、表沙汰には言えない事情を抱えており、マサキもその事をアキ本人、そして母親からも聞いていた。
 しばらくして、その原因を排除することはできたが、その体質はあまり改善されなかった。だが御守りで、ある程度を阻止する事ができたのはアキ親子にとって、嬉しい事に代わりはなかった。
 ひと月単位での御守り交換ではあったが、憑依される事を考えれば気にもならなかったし、マコトを見かけるようになってからは、アキとしては密かに楽しみにしていたのだ。
 そのマコトとも、ある少女の霊のおかげと言うべきなのか、マコトに恋心を起こし、お互いに、より必要な人物へとなっていったのであった。素直に気持ちを言わないマコトだが、それでも変わりなく傍に居れるのが、何よりも幸せだった。
 そんな事を思い出しながら歩いていると、いつも通る公園から話し声が聞こえてきた。
「お前の方が間違えているって……公園だろ?」
 携帯電話で喋りながら、公園から一人の男が出てきた。待ち合わせを間違えたのか、公園の名称が書いてる塀の前に立ち、公園の名を携帯電話の相手に伝えていた。
 アキはその男の横顔を見た瞬間、体が凍りついたように動かなくなってしまった。
 夕陽に照らされたその顔立ちは日本人とは異なり彫りが深く、チェーンに通した指輪だけのシンプルな装飾だったが、中年らしき年齢にしては程よい体躯であった。夕陽のせいか髪はオレンジ色に見え、側頭部からは刈り上げていたが、長く伸びた髪を後ろに束ねていた。
 男は携帯電話で喋りながら、ふと、そこに立ち止まっているアキに気付き、不機嫌な表情をアキに見せた。だが、アキの顔を確認した瞬間、男もアキを凝視していた。
『ちょっと!セイちゃん?!聞いてるの?』
 携帯電話からは、若い女性のようだろうか、高い声が漏れていた。男は携帯電話の呼び掛けに答える事もなく、驚いた顔でずっとアキを見ていた。
 アキも、視線をそらすことなく男を見ていた……、と言うよりは、視線を外そうにも外せずその場に立っているのが精一杯で息をするのも辛い……そんな青ざめた顔に見えた。
「悪いが、今日は無しだ」
 先に口を開いたのは男だった。
『え?!ちょっと?なー』
 相手が喋り終わるのを待たずに、男は通話を切りそのまま電源を落とした。電源が切れたのを確認しそのままポケットへと入れ、そこからタバコを取り出すと、その1本に火を着けた。
 ヂヂっとタバコが燃え、男はその煙を深く吸いゆっくりと紫煙をくゆらせ、男はフっと自嘲するかのよう表情で、アキに視線を移した。
「まさかこんな所でお前に逢えるなんて……人生何が起こるか解らないな」
「………」
「もう何年経つ?大きくなったな」
「……どうして……なんでこんな所に居るんだよ?!ボクたちに逢ってはいけないって決まってるんじゃなかったのか!?」
 やっとの思いでアキの口が開いた。本当は今すぐこの場から逃げ出したいのに、身体がそれを拒否しているかのように動こうとしてくれない。まるで憑依されたように、身体も重い。
 そんなアキへと、男はゆっくりと歩み寄って来る。
「どうしてここに……か。それは偶然さ。お前たちがどこら辺に住んでるかは、まったく知らないし、知らされてない。ただ、待ち合わせをしていたんだが……オレの方が間違っていたらしくてな」
 男はタバコを持つ手で、頭をポリポリと掻きながらも、静かにゆっくりとアキとの距離を縮めていく。タバコの臭いが徐々にキツくなり、アキは縮まる距離にどうする事も出来ず、ただ青ざめた顔で男を見ていることしができなかった。
「だから、ここでお前と逢ったのは『不可抗力』ってヤツだ。どうした?何を怯えてる?実の父親と数年振りに再会したんだ。怯えるよりは感動するのが筋ってもんだろ?それとも震えるくらい嬉しいか?」
「な、なにが感動だ!子供のボクにあんな事をしたくせに!よくもヘラヘラと父親って言えるよな!詫びた表情もせず……!」
 拳を握りしめたアキは、男に叫ぶように言葉を吐き出した。
「……あんな事……?あぁ、そうだったな……」
 残りのタバコを吸い、記憶を思い出すかのようにゆっくり煙を吐き出した。近づいてくる父親とは呼べない男。アキは少ししか動かない足で男から離れようと後退りしていく。だが、背後はブロック塀が立ち塞がっており、それ以上男から離れることができなかった。
 男はタバコを足でもみ消し、ブロック塀に追い込まれた形になったアキを、逃がさないかのように両腕を伸ばし、壁に手をつけた。男の両腕に阻まれ、アキは視線を地面に反らした。タバコの臭いが、より気分を悪くする。そして、思い出したくもない記憶が、臭いによって掘り起こされていく。
 男は悲しそうな顔で見つめ、アキの近くまで顔を近づけた。
「そんなに『アレ』が嫌だったか?」
 耳元でささやかれ、身体中に電気が走るような痺れが起こり身体がびくつく。
「イヤに決まってるんじゃないか!」
 相変わらず身体は言うことを聞いてくれなかった。顔を動かすことしか出来ず、アキは青ざめたまま男を睨んだ。
「……ふむ……。そうか……そんなにイヤだったか。オレには喜んでるように見えたんだけどな……」
「誰が!それはあんたの思い違いだろ!」
 そう叫ぶアキを、男は静かに見つめていた。その視線は息子に向ける愛情とは違う、別なものを含んでいた。アキはその視線から背けたかったが、できずにいた。なぜ、自分の身体は動かないのだろうか?と。
「オレは……お前と離れて寂しかったんだぞ……?」
 悲しい表情をした男は、ポツリと呟くとアキを抱きしめた。
「や……!やめろ……!ボクに……ボクに触るな……!放せ!」
 今すぐにその腕を振り払い、突き飛ばしたいのに身体は鉛のように重く、喋るのもやっとというくらい息ができないでいた。
「イヤなら、今すぐ突き放せばいいだろう?じゃないと……」
 言い終わらないうちに男はアキに顔を寄せ、その唇に己の唇を重ねた。
 アキは抵抗する事なく、そのまま受け止め瞼を閉じた。その閉じた瞼から一筋、光るものが落ちていった…
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