【完結】魔法使いリリアは諦めない! ~どん底で再会した幼馴染は、どうやら最強の勇者の素質があるらしい~

シマセイ

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第十三話:残党の影、仮面の囁き

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王都に訪れた束の間の平和は、長くは続かなかった。

アレスの脅威が去り、復興の槌音が響き始めた矢先、王都の各地で不穏な事件が散発し始めたのだ。

商店が襲われ品物が強奪される、市民が理由もなく暴行を受ける、そして夜陰に乗じて小規模な放火騒ぎが起こる……。

手口は稚拙ながらも悪質で、その背後には、アレスを信奉し、彼の復活、あるいはその遺志を継ごうとする残党たちの影がちらついていた。

騎士団とギルドは連携して事態の鎮圧にあたっていたが、残党たちは狡猾に姿をくらまし、決定的な手がかりを掴めずにいた。

王都の民衆の間には、再び不安の色が広がり始めていた。

「アレスの亡霊は、まだこの王都に彷徨っているというのか……」

ギルドマスターは、苦々しい表情で私たちに告げた。

「カイ君、リリア君。君たちに、この残党たちの拠点を突き止め、彼らを制圧する任務を依頼したい。今の王都で、最も信頼でき、かつこの難事を成し遂げられるのは、君たちしかいない」

その言葉は、私たちへの絶対的な信頼の証であり、同時に重い責任を伴うものだった。

私たちは、迷うことなくその依頼を引き受けた。

「リリア、例の仮面……使ってみるべきだろうか」

作戦会議を終え、二人きりになった部屋で、カイが懐からベルフェの仮面を取り出し、私に問いかけた。

あの仮面が、彼の感知能力や未来予知のような力を僅かに引き出すことは、以前の経験で分かっていた。

「そうね……。残党たちの動きは掴みどころがない。あなたのその力が、何か手がかりを見つける助けになるかもしれないわ。でも、カイ、決して無理はしないで。あの仮面は、まだ私たちにとって未知数が多すぎるから」

私は、カイの身を案じながらも、彼の決断を尊重した。

カイは頷くと、意を決したように仮面を装着した。

仮面が彼の顔に馴染むと、彼の瞳が微かに細められ、集中力を高めているのが分かった。

「……感じる……。邪悪な気配が、複数……。王都の地下……古い下水道の方角だ。そして、何か……大きなエネルギーが集まろうとしている……?」

カイの額には汗が滲み、呼吸も少し荒くなっている。

仮面の力は、彼の精神に少なからぬ負荷をかけているようだった。

「カイ、大丈夫?」

「ああ……なんとか。だが、奴ら、何か良からぬことを企んでいるのは間違いない。急いだ方がいい」

私たちは、カイの感知した情報を元に、ギルドマスターに報告し、騎士団の一部隊と共に王都の地下下水道へと向かった。

古く、入り組んだ地下道は、悪臭と湿気に満ちていた。

「この先に、奴らのアジトがあるはずだ」

カイは、時折立ち止まり、仮面に意識を集中させながら、私たちを導いていく。

その姿は、以前よりも格段に力の制御に慣れてきているように見えたが、やはりその表情には隠せない疲労の色が浮かんでいた。

しばらく進むと、開けた空間に出た。

そこには、十数人の武装した男女が集まり、何やら不気味な儀式のようなものを行っている最中だった。

彼らがアレスの残党であることは、その禍々しいオーラと、狂信的な瞳から明らかだった。

「来たか、裏切り者どもめ!」

私たちの姿を認めた残党の一人が、憎悪に満ちた声で叫び、仲間たちに合図を送る。

彼らは、アレスから与えられたのであろう、歪んだ魔力を帯びた武器や、禁断の知識の一端を利用した魔道具を手に、一斉に襲いかかってきた。

「リリア、下がって!」

カイは私を庇い、騎士団の兵士たちと共に前線に立つ。 

私も、後方から援護魔法を放ち、敵の攻撃を防ぎ、味方の傷を癒す。

残党たちは、個々の力ではカイや騎士団の兵士たちに劣るものの、その狂信的なまでの執念と、予測不能な魔道具の攻撃に、私たちは苦戦を強いられた。

その時、カイの脳裏に、直接語りかけるような声が響いた。

『ククク……そこのお兄さん、なかなか面白い力じゃないか。だが、その仮面、もっとうまく使えるはずだぜ? もっと力を欲すれば、もっと鮮明な未来が、敵の弱点が、手に取るように分かるようになる。もっとも、その先に待っているのが、お前さんの望む『人間』としての未来かどうかは、保証しないがね』

ベルフェの声だ。

その声は、甘く、誘うように、カイの心の隙間に入り込もうとする。

カイは一瞬、その囁きに意識を奪われそうになり、動きが鈍った。

「カイ! しっかりして!」

私の叫び声で、カイはハッと我に返る。
彼の瞳に、一瞬迷いの色が浮かんだが、すぐにそれは強い決意の光へと変わった。

「うるさい……! 俺は、お前のような奴の力を借りなくても、自分の意志で、リリアを、みんなを守る!」

カイは、ベルフェの誘惑を振り払うように叫ぶと、仮面の力に頼るのではなく、自らの意志で金色のオーラを制御し、その輝きを増幅させた。

仮面は、彼のその決意に呼応するかのように、未来の断片ではなく、今この瞬間の敵の動きや、魔道具のエネルギーの流れを、より鮮明に彼に伝えているようだった。

「見える……! あいつらの連携の隙が! リリア、右翼の魔道具使いを頼む!」

「ええ!」

カイの的確な指示と、私の魔法、そして騎士団の連携によって、戦況は徐々に私たちに有利に傾いていった。

私たちは、ついに残党たちのリーダー格である、アレスの側近だった男を追い詰めた。

「なぜだ……なぜ、アレス様の偉大な計画が……!」

リーダーは、捕縛されながらも、狂ったように叫び続けた。

「アレス様は、この腐った世界を浄化し、新たな秩序を築こうとされていたのだ! その思想は、決して消えはしない! 我々のような同志は、この王都だけでなく、大陸中に潜んでいるのだぞ!」

その言葉に、私は戦慄を覚えた。

アレスの狂気は、彼一人のものではなく、その歪んだ思想に共鳴する者たちが、まだ数多く存在するのかもしれない。

そして、彼が手を出した禁断の魔導書の知識もまた、どこかで新たな災厄の種を蒔いている可能性があった。

アレス残党のアジトは制圧され、王都に再び平穏が戻った。

しかし、私たちの心には、新たな不安と、より大きな戦いへの予感が刻まれた。

ベルフェの目的、仮面の真の力、そしてアレスの思想の広がり……。

解決すべき謎は、まだ山積している。

宿屋に戻ったカイは、仮面を外し、静かにそれを見つめていた。

「あいつの囁きは、確かに魅力的だった。もっと楽に、もっと強大な力が手に入るんじゃないかって……一瞬、心が揺らいだのは確かだ」

「カイ……」

「でも、リリアの声が聞こえた。それに、俺はやっぱり、誰かに与えられた力じゃなく、自分で掴み取った力で、お前を守りたいんだって、そう思ったんだ」

カイは、少し照れくさそうに、しかし真っ直ぐな目で私に言った。

その言葉が、何よりも嬉しかった。

仮面の力は未知数だが、カイならきっと、それに飲み込まれることなく、正しく使うことができるだろう。

私は、そう信じていた。

「ありがとう、カイ。私も、あなたを信じているわ」

私たちは、互いに微笑み合った。

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