【完結】魔法使いリリアは諦めない! ~どん底で再会した幼馴染は、どうやら最強の勇者の素質があるらしい~

シマセイ

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第十九話:癒える傷跡、新たなる旅路の予感

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ミストラル領主ロード・ヴァルモンとの死闘から数週間が過ぎた。

魂の祭壇が破壊され、ヴァルモンの圧政から解放された領地は、まるで長い冬から目覚めたかのように、ゆっくりと、しかし確実に活気を取り戻しつつあった。

領民たちの顔には笑顔が戻り、畑には再び作物が植えられ、街には人々の賑やかな声が響き始めた。

私とカイは、戦いで負った傷を癒すため、そして領地の復興を少しでも手伝うため、しばらくミストラル領に滞在していた。

領主の館は、新たな領主が決まるまで、一時的に騎士団とギルドによって管理され、私たちはその一室を借り受けていた。

領民たちは、私たちを「ミストラル領を救った英雄」「真の勇者様」と呼び、心からの感謝と尊敬の念を向けてくれた。

その温かい眼差しは、私たちの心を癒し、これまでの戦いの疲れを忘れさせてくれるようだった。

「カイ、あなたのその力……以前よりもずっと安定してきたみたいね」

ある晴れた日の午後、私たちは館の庭で、カイの力の制御訓練をしていた。

ヴァルモンとの戦いで真の覚醒を遂げたカイの力は、もはや暴走の危険を感じさせない、穏やかで力強い輝きを放っていた。

金色のオーラは白銀の光彩を帯び、それは彼の意志に応じて、守護の盾となり、あるいは邪を払う聖なる剣となった。

「ああ。リリアがそばにいてくれるおかげだよ。それに、あの戦いで……何か、掴めたような気がするんだ。この力は、誰かを傷つけるためじゃなく、守るためにあるんだって、はっきりと」

カイは、自分の掌を見つめながら、静かに言った。

その横顔は、以前の彼よりもずっと大人びて、頼もしく見える。

ベルフェの仮面は、今は彼の腰のポーチに大切にしまわれていた。

あれがなくても、カイは自分の力をある程度引き出せるようになっていたが、仮面が彼の感知能力や集中力を高める効果があることは、依然として変わりなかった。

「リリアも、新しい魔法のヒントを掴んだんじゃないか?」

「ええ。ヴァルモンやアレスのような、禁断の力に手を染める者をこれ以上出したくない……。そのためには、もっと強力な浄化の魔法や、魔導書の知識の危険性を人々に伝える方法が必要だと思うの」

私たちは、互いの成長を喜び合い、そして、これから進むべき道について静かに語り合った。

夜、部屋で二人きりになると、私たちは自然とベルフェの言葉や、仮面の謎について話し合うことが多くなった。

「カイの力の秘密……ベルフェは、『もっと古い、もっと根源的な何かの欠片だ』と言っていたわね。それが何を意味するのか……」

「さっぱり見当もつかねえな。ただ、あの仮面をつけていると、時々、本当に奇妙なものが見えるんだ。遠くの出来事だったり、人の心の奥底にある感情だったり……」

カイはポーチから仮面を取り出し、月明かりにかざした。

仮面の表面には、以前は見えなかったはずの、極めて微細な古代文字のようなものが、淡く浮かび上がっているように見えた。

「この紋様……何か意味があるのかしら」

私が指でそっと触れると、仮面が微かに温かくなったような気がした。

しかし、それ以上の変化はなく、その謎は深まるばかりだった。

そんな穏やかな日々が続いていたある日、王都のギルドマスターから緊急の連絡が届いた。

それは、私たちの予感が的中したことを告げる、不吉な報せだった。

「アレスの魔導書の知識は、我々の想像以上に広範囲に流出しているらしい。近隣諸国はおろか、大陸の辺境の地でも、その知識を悪用し、ヴァルモンのような新たな『王』を名乗る者が現れ始めているというのだ……」

ギルドマスターからの通信魔道具越しの声は、いつになく深刻だった。

世界は、再び大きな混乱の渦に巻き込まれようとしている。

「ギルド本部は、この事態を重く見て、アレスの魔導書の知識の根源を断ち切り、その拡散を阻止するための、大規模な調査団を結成することを決定した。カイ君、リリア君。君たちには、その調査団の中心メンバーとして、この困難な任務に参加してもらいたい。君たちの力と経験、そしてその清廉な魂こそが、この世界を覆う闇を払う鍵となると信じている」

それは、もはや一つの領地を救うという規模ではない。

世界全体の平和を左右する、あまりにも大きな使命だった。

しかし、私たちは迷わなかった。

「お受けします、ギルドマスター。私たちにできることがあるのなら」

「アレスの残した負の遺産は、俺たちが必ず断ち切ってみせます」

私たちの返答に、ギルドマスターは安堵の息を漏らした。

ミストラル領での滞在も、もう終わりが近い。
この地で得た経験と、人々の温かい想いを胸に、私たちは新たな旅立ちを決意した。

出発の日、ミストラル領の民衆は、王都の時と同じように、私たちの旅立ちを涙ながらに見送ってくれた。

新たな領主として選ばれた、誠実な老騎士は、私たちの手を固く握り、深々と頭を下げた。

「勇者カイ殿、聖女リリア殿。あなた方の御恩は、ミストラル領の民一同、決して忘れません。どうか、ご武運を。そして、いつか必ず、この地に再びお戻りください」

「はい、必ず」

私たちは、人々の温かい声援に送られ、ミストラル領を後にした。

目の前には、広大な世界と、未知なる脅威が待ち受けている。

アレスの魔導書の知識は、どこまで広がり、どれほどの闇を生み出しているのか。

そして、ベルフェの真の目的と、カイの力の秘密、仮面の謎は、この旅の果てに明らかになるのだろうか。

不安がないと言えば嘘になる。
しかし、私たちの心には、それ以上の希望と、揺るぎない決意があった
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