【完結】腹ペコ貴族のスキルは「種」でした

シマセイ

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第88話(最終話) 『世界一のご馳走』

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次にアレンが目を覚ました時、彼の鼻をくすぐったのは、消毒液の匂いではなく、懐かしい、アストライアの太陽と、土の匂いだった。
そこは、学院の医務室にある、日当たりの良い、一番良いベッドの上だった。

「……アレン!
気がついたのね!」

隣で、うたた寝から、はっと顔を上げたリナリアが、その大きな瞳に、みるみるうちに、大粒の涙を浮かべた。
聞けば、アレンは、あの魔大陸での最後の戦いの後、丸々、一週間も、眠り続けていたのだという。

リナリアから、その後の話を聞いた。
アレンが再生させた魔大陸は、今、『新緑の大陸』と呼ばれ、魔王ゾルディアスが、残った魔族たちと共に、その地を、一から、やり直すことを、大陸同盟に、固く誓ったこと。
ゾルディアスは、去り際に、「いつか、君の焼いた、あの麦のパンを、食べさせてほしい」という、不思議な伝言を、アレンに残していったこと。
そして、グレイとルミナは、大陸同盟の、戦後処理の特使として、各国の間を、忙しく飛び回っていること。

全てが、本当に、終わったのだ。
アレンは、心の底から、ほっと、安堵の息をもらした。
そして、彼は、目覚めて、第一声、こう言った。

「……お腹、すいた」



その、数週間後。
アレンの、完全回復と、そして、大陸に訪れた、真の平和を祝して。
アレンが、最後に願った、「みんなでお腹いっぱいのパーティー」が、彼の『王立特別農園』で、大陸史上、最も、盛大に、そして、温かく、開催された。

そのパーティーには、たくさんの人々が集まった。
アストライア王国の国王陛下と、学院長。
その隣には、アレンの最初の弟子であるレオと、農園の仲間たち。
そして、この日のために、国中から駆けつけてくれた、ゴードンさんの、古い庭師仲間たち。

英雄グレイと、エルフのルミナも、忙しい任務の合間を縫って、その顔を見せてくれた。
遥か、倭の国からは、すっかり、健康を取り戻し、その美しさに、さらに磨きのかかった、サクヤ姫も、お祝いに、駆けつけている。
そして、アレンに救われた、カラン村や、ロハン村の村長たちが、自分たちの手で、見事に育て上げた、最高の野菜を、誇らしげに、山のように、持ってきてくれていた。

リナリアとサクヤ姫が、アレンの隣の席を、どちらが取るかで、可愛らしい火花を散らしているのも、もはや、見慣れた、微笑ましい光景だった。



パーティーのメインディッシュは、もちろん、アレンと、仲間たちが作る、最高の料理。
彼は、王城から、特別に来てくれた、最高の料理人たちと一緒に、これまでの、感謝の気持ち、その全てを込めて、腕を振るった。

テーブルの上には、夢のような、ご馳走の数々が、並べられていく。
アレンの畑の、奇跡の野菜たちが、ごろごろと入った、巨大な鍋のポトフ。
倭の国の、新鮮な魚介類を使った、色とりどりの、お寿司と、お刺身。
ドワーフの国から、特別に贈られた、巨大な猪の、豪快な丸焼き。
エルフの国の、森の恵みを、ふんだんに使った、宝石のように美しい、フルーツのタルト。

そして、その、テーブルの、ど真ん中。
一番、名誉ある場所に、置かれていたのは。
アレンが、あの魔大陸で、魔王ゾルディアスから、受け取らなかった、しかし、彼の心を変えた、あの一粒の『麦の種』から、大切に、大切に、育て上げた、小麦で焼いた、ほかほかの、大きな、大きな、パンだった。

全ての料理が、テーブルに並んだ。
国王陛下が、グラスを、高々と、掲げた。

「この、我々が、一度は失いかけた、平和と、そして、この、あまりにも豊かなる、豊穣を、もたらしてくれた、我らが、小さき、しかし、あまりにも、偉大なる英雄に!」

「そして、その食卓に集う、種族も、国も、身分も越えた、全ての、愛すべき、仲間たちに!」

「「「乾杯ッッッ!!!」」」

その日、一番の、幸せな声が、青空の下に、響き渡った。
身分も、種族も、過去も、関係ない。
全ての人が、同じテーブルで、同じ、温かい料理を食べ、心の底からの笑顔で、ただ、ひたすらに、笑い合っている。

それは、アレンが、ずっと、ずっと、夢見ていた光景。
彼が、その不思議なスキルで、本当に、本当に、作りたかった、世界の姿、そのものだった。

アレンは、そんな、幸せすぎる光景を、満足そうに、見つめていた。
彼の隣に座るリナリアが、「アレン、どうしたの?
涙ぐんで」と、優しく、尋ねる。

アレンは、口いっぱいに、焼きたての、温かいパンを頬張りながら、もぐもぐと、それを、ゆっくりと、味わった。
そして、これまでで、一番、最高に、幸せそうな笑顔で、言った。

「ううん」

「やっぱり、みんなで、一緒に食べるご飯は、世界一、美味しいなあ!」

腹ペコ貴族の少年の、不思議な物語は、こうして、最高のフルコースと共に、その、温かい、幕を、閉じた。
彼が、これから先、どんな、美味しくて、ワクワクするような作物を育て、そして、どんな、笑顔の花を、世界中に、咲かせていくのか。

それは、また、別のお話。

――腹ペコ貴族のスキルは「種」でした【完】――
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