落ちこぼれギフト【ダメージ反射】は諦めない ~1割返しから始まる異世界冒険譚~

シマセイ

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第7話 フォレストウルフとの再戦

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フォレストウルフ。
あの鋭い牙と爪、俊敏な動き、そして何より、アルトが初めて生命の危機を感じた相手。
あれから数日、アルトはその狼型の魔物との再戦に向けて、黙々と準備を進めていた。

ただ闇雲に挑むのではない。
勝算があるわけではないが、今の自分がどこまで通用するのか、そして「質の高い経験」を得るためには、避けては通れない戦いだと覚悟を決めていた。

アルトはまず、腕に巻く革をさらに補強した。
村の革細工師に頼み込み、硬くて丈夫な革の端切れをいくつか手に入れ、それを重ねて縫い合わせ、以前よりも分厚く、広範囲を覆えるようにした。
見た目はさらに不格好になったが、防御力は確実に上がっているはずだ。

次に、体調管理。
毎日の畑仕事で基礎体力はついてきたが、万全の状態で臨めるよう、十分な睡眠と栄養を心がけた。
そして、精神集中。
リナの言葉をヒントに、毎晩寝る前に、短い時間ではあるが、心を無にして精神を研ぎ澄ませる訓練、瞑想のようなものを試してみた。
効果があるかは分からなかったが、やらないよりはましだと思った。

「怖い…正直、すごく怖い」

出発の日の朝、アルトは自室で拳を握りしめた。

「でも、これを乗り越えなきゃ、僕は先に進めないんだ」

自分に言い聞かせ、アルトは覚悟を固め、家を出た。
家族には、「少し森の奥まで薬草を探しに」とだけ告げた。
嘘をつくのは気が引けたが、本当のことを言えば、絶対に止められるだろう。

森の奥深くへと進むにつれて、空気は密度を増し、木々の種類も変わってくる。
鳥の声は少なくなり、代わりに不気味な静寂と、時折響く獣の遠吠えが耳につく。

アルトは五感を研ぎ澄ませ、周囲の気配を探りながら慎重に進んだ。
以前よりも、森の些細な変化に気づけるようになっている自分を感じる。

やがて、開けた岩場に出た。
ここは、以前フォレストウルフに襲われた場所に少し似ている。
おそらく、この辺りが奴らの縄張りなのだろう。
アルトは立ち止まり、息を潜めて待った。

どれくらいの時間が経っただろうか。
風が木々を揺らす音に混じって、低い唸り声が聞こえてきた。
茂みの影から、ゆっくりと姿を現したのは、やはりフォレストウルフだった。
前回遭遇した個体よりも、一回り大きいかもしれない。
筋肉質な体に、鋭い眼光がアルトを捉えている。
侵入者に対する明確な敵意が、ひしひしと伝わってきた。

グルルル…

ウルフは威嚇の声を上げ、地面を前足で掻く。
アルトは逃げなかった。
恐怖で足がすくみそうになるのを必死にこらえ、まっすぐにウルフを見据える。

「僕は、もう逃げない…!」

そのアルトの態度が、ウルフの闘争本能を刺激したのだろう。
次の瞬間、ウルフは地を蹴り、弾丸のような速さでアルトに襲いかかってきた!

「来る!」

アルトは叫び、冷静に相手の動きを見極める。
真正面からの突進。
速いが、軌道は直線的だ。
アルトは最小限の動きで半身になり、突進をかわす。
しかし、ウルフはすぐに体勢を立て直し、今度は鋭い爪を振りかぶってきた。

ザシュッ!
避けきれない!
アルトは咄嗟に、革で補強した左腕を盾にする。
ガキンッ!という硬い音と共に、爪が革に食い込む。
衝撃は強いが、傷は防いだ。
そして、受け止めた瞬間、意識を集中させる。

「――ッ!」

ギフト発動。
硬くなる感覚。
そして、反射。

「キャンッ!!」

ウルフが短い悲鳴を上げた。
反射ダメージが、爪を振るった前足に効いたようだ。
ウルフは素早く距離を取り、痛む前足を気にしながら、驚いたようにアルトを見ている。
明らかに、ダメージが通っている。

「よし…!」

アルトは手応えを感じた。
だが、油断はできない。
怒りに燃えるウルフは、再び低い姿勢を取り、今度は連続攻撃を仕掛けてきた。

左右からの爪撃、飛びかかっての噛みつき。
アルトは必死に応戦する。
かわし、受け止め、反射する。

以前のような一方的な防戦ではない。
相手の攻撃を見極め、受け止めると決めた一撃には全神経を集中させる。
反射ダメージが、確実にウルフの体力を削っていく。

しかし、アルト自身も無傷ではいられない。
ウルフの動きは速く、攻撃は鋭い。
革で防ぎきれない牙が、肩や太ももを掠め、服が破れ、生々しい傷が増えていく。
息も上がり、体力の消耗も激しい。

「くそ…やっぱり、連続で使うとキツいな…」

ギフトを連続で発動させると、体力だけでなく、精神的な疲労も大きいことを実感する。
特に、牙による一点集中の攻撃は、革による防御だけでは限界がある。
もっと、根本的な防御力が必要だ。
新たな課題が見えてきた。

それでも、アルトは集中力を切らさなかった。
ここで諦めたら、また元通りだ。
痛みと疲労に耐え、ウルフの動きに食らいついていく。
戦いは消耗戦の様相を呈してきた。
アルトもウルフも、互いに傷つき、息を切らしている。

どちらが先に倒れるか。
そんな状況の中、ウルフが勝負を決めるかのように、大きく飛びかかってきた。
鋭い牙が、アルトの喉元を狙っている!

「――させるか!」

アルトは最後の力を振り絞り、両腕を交差させてその攻撃を受け止めた。
革を突き破り、牙が腕に食い込む激痛が走る。
だが、アルトは怯まなかった。
痛みも、恐怖も、すべてを力に変えるように、意識を極限まで集中させる。

「うおおおおっ!!」

今までで最も強い光が、アルトの腕から放たれたような気がした。
硬くなる感覚が、全身に広がる。
そして、渾身の反射!

「ギャウウウンッ!!」

ウルフは、まるで巨大なハンマーで殴られたかのように、後方の岩壁まで吹き飛ばされ、ぐったりと地面に倒れた。
しばらくピクピクと痙攣していたが、やがて力なく立ち上がると、アルトを恐れるように睨みつけ、足を引きずりながら森の奥へと逃げていった。

「はぁ…はぁ…はぁ……勝った…のか…?」

アルトは、その場に膝から崩れ落ちた。
全身が鉛のように重く、傷口からは血が流れ続けている。
激しい疲労と痛み。
しかし、それ以上に、胸を満たすのは、熱い達成感だった。
あのフォレストウルフに、勝ったのだ。

ゆっくりと、自分のギフトの感覚を確かめる。
レベルが上がった、というような明確な告知や変化はない。
しかし、明らかに、ギフトの感覚は以前よりも鋭敏になっていた。

攻撃を受けた瞬間の「硬くなる感覚」は、より強く、より長く持続する気がする。
反射ダメージの威力も、ほんのわずかだが、増しているように感じられた。

「これが…質の高い経験…」

アルトは、痛む体で、それでも笑みを浮かべた。
道は、間違っていなかった。

フラフラの足取りで、アルトは村への帰路についた。
体はボロボロだ。
すぐにでも倒れてしまいそうなくらい疲れている。
だが、心は不思議と軽かった。
フォレストウルフと渡り合えた自信。
そして、ギフトの確かな成長の実感。
もちろん、課題も見えた。
連続使用による消耗、防御面の不安。
まだまだ、強くならなければならない。

「でも、一歩、進めたはずだ…」

アルトは、遠くに見える村の明かりを目指して、一歩、また一歩と足を進める。
家に帰り着いたら、きっと深い眠りに落ちるだろう。
そして、明日からは、また新たな訓練が始まる。
いつか、本当に誰かを守れる強さを手に入れるために。
アルトの瞳には、揺るぎない決意の光が宿っていた。
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