【完結】ホラー短編集「隣の怪異」

シマセイ

文字の大きさ
59 / 106

焼却炉

しおりを挟む
これ、俺がまだ神戸の小学校に通ってた頃の話なんだけど。
今でも、たまに思い出して、ぞっとすることがあるんだ。

俺たちの通ってた小学校の敷地の、一番奥。
体育倉庫の裏手、鬱蒼とした木々に半分隠れるようにして、古いレンガ造りの焼却炉があったんだ。
もう、何年も使われてないって話だったけど、その佇まいが、なんか子供心に不気味でさ。

「あの焼却炉には、夜になると火の玉が出る」とか、
「昔、悪いことをした生徒が、先生に閉じ込められたまま…」とか。
まあ、よくある学校の怪談の、一つだったんだけどね。

ある日の放課後。
俺と、友達のタカシとマナブの三人で、その焼却炉を「探検」しに行こうってことになったんだ。
もちろん、先生には内緒で。
その日は、初夏にしては、妙に空気が生ぬるくて、どんより曇ってたのを覚えてる。

焼却炉の周りは、雑草が伸び放題で、なんだかジメジメしてた。
近づくと、鉄製の、分厚い投入口の扉が、ほんの少しだけ、数センチくらい、開いてるのに気づいたんだ。
いつもは、南京錠がかかってて、絶対に開かないはずなのに。

「おい、開いてるぞ…」
タカシが、声を潜めて言った。

三人で顔を見合わせて、ゴクリと唾を飲む。
中からは、なんとも言えない、鉄錆びと、古い灰と、それから…何か、甘ったるいような、焦げ付いたような、変な匂いが、微かに漂ってくる。

そして、音がしたんだ。
——— カサ…コソ…
って、中で、何か軽いものが、灰の上を擦るような音。
ネズミか何かかな? と思ったけど、それにしては、動きがゆっくりで、妙に規則的な気がした。

一番度胸のあったマナブが、「俺が見てくる」って言って、その重そうな鉄の扉に手をかけた。
ギィィ…と、錆び付いた蝶番が、嫌な音を立てる。
マナブが、ゆっくりと、扉を、もう少しだけ開いて、中を覗き込もうとした、その時。

——— ブワッ!

開いた隙間から、熱風と一緒に、強烈な、あの甘ったるい焦げ臭い匂いが、俺たちの顔に吹き付けてきた!
「うわっ!」
思わず、三人とも後ずさる。

そして、マナブが、息を呑む音が聞こえた。
「…おい……あれ……」
震える指で、マナブが、焼却炉の内部を指差す。

俺とタカシも、恐る恐る、開いた扉の隙間から、薄暗い焼却炉の奥を覗き込んだ。
そこには、まだ燻っているのか、白い灰が、うず高く積もっていた。
そして、その灰の、一番高いところに。

 まるで、人間が、体育座りをして、うずくまっているかのような、黒い塊があったんだ。

最初は、燃え残った大きなゴミか何かだと思った。
でも、違う。
それは、明らかに、人の形をしていた。
そして、その「頭」にあたる部分が、ゆっくりと、こちらを向いた気がした。

いや、気がしたんじゃない。
確かに、向いたんだ。

そこには、目はなかった。ただ、ぽっかりと、二つの黒い穴が開いているだけ。
口も、歪に裂けて、笑っているようにも、苦しんでいるようにも見えた。
全体が、炭のように真っ黒で、所々、灰が白くこびりついている。
それが、無言で、俺たちを、じっと———。

「うわあああああああああっ!!」

誰が叫んだのか、もう覚えてない。
俺たちは、もう、わけもわからず、その場から、校舎に向かって、全力で逃げ出した。
後ろは、一度も振り返らなかった。

次の日、先生に、それとなく焼却炉のことを聞いてみたけど、
「ああ、あれはもう何年も使ってないから、危ないから近づいちゃだめだよ」
としか言われなかった。
俺たちが見たもののことは、怖くて、誰にも言えなかった。

あれから、何年も経って、小学校も建て替えられた。
もちろん、あの古い焼却炉も、もうない。

でも、今でも、何か物を燃やす匂いを嗅ぐと、ふと、あの日のことを思い出すんだ。
焼却炉の奥で、灰にまみれて、こちらを見ていた、あの「何か」。
あれは、本当に、何だったんだろうな…。
ただの、燃えカスが、偶然、そう見えただけ…?
そう思いたいけど、あの、目が合った瞬間の、全身が凍りつくような感覚は、今でも、忘れられない。

思い出すだけで、本当に、ぞっとするんだよ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo
ホラー
この世には、知ってはいけない話がある。  怪談、都市伝説、語り継がれる呪い——  どれもがただの作り話かもしれない。  だが、それでも時々、**「本物」**が紛れ込むことがある。  本書は、そんな“見つけてしまった”怪異を集めた一冊である。  最後のページを閉じるとき、あなたは“何か”に気づくことになるだろう——。

1分で読める怖い話短編集

しょくぱん
ホラー
一分で読める怖い話を定期的に投稿しています。 感想などをいただけると嬉しいです。 応援よろしくお願いします。

残酷喜劇 短編集

ドルドレオン
ホラー
残酷喜劇、開幕。 短編集。人間の闇。 おぞましさ。 笑いが見えるか、悲惨さが見えるか。

百物語 厄災

嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。 小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2026/1/17:『えれべーたー』の章を追加。2026/1/24の朝8時頃より公開開始予定。 2026/1/16:『せきゆすとーぶ』の章を追加。2026/1/23の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/15:『しばふ』の章を追加。2026/1/22の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/14:『でんしれんじ』の章を追加。2026/1/21の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/13:『こえ』の章を追加。2026/1/20の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/12:『あけてはいけない』の章を追加。2026/1/19の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/11:『みきさー』の章を追加。2026/1/18の朝4時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

【1分読書】意味が分かると怖いおとぎばなし

響ぴあの
ホラー
【1分読書】 意味が分かるとこわいおとぎ話。 意外な事実や知らなかった裏話。 浦島太郎は神になった。桃太郎の闇。本当に怖いかちかち山。かぐや姫は宇宙人。白雪姫の王子の誤算。舌切りすずめは三角関係の話。早く人間になりたい人魚姫。本当は怖い眠り姫、シンデレラ、さるかに合戦、はなさかじいさん、犬の呪いなどなど面白い雑学と創作短編をお楽しみください。 どこから読んでも大丈夫です。1話完結ショートショート。

処理中です...