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焼却炉
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これ、俺がまだ神戸の小学校に通ってた頃の話なんだけど。
今でも、たまに思い出して、ぞっとすることがあるんだ。
俺たちの通ってた小学校の敷地の、一番奥。
体育倉庫の裏手、鬱蒼とした木々に半分隠れるようにして、古いレンガ造りの焼却炉があったんだ。
もう、何年も使われてないって話だったけど、その佇まいが、なんか子供心に不気味でさ。
「あの焼却炉には、夜になると火の玉が出る」とか、
「昔、悪いことをした生徒が、先生に閉じ込められたまま…」とか。
まあ、よくある学校の怪談の、一つだったんだけどね。
ある日の放課後。
俺と、友達のタカシとマナブの三人で、その焼却炉を「探検」しに行こうってことになったんだ。
もちろん、先生には内緒で。
その日は、初夏にしては、妙に空気が生ぬるくて、どんより曇ってたのを覚えてる。
焼却炉の周りは、雑草が伸び放題で、なんだかジメジメしてた。
近づくと、鉄製の、分厚い投入口の扉が、ほんの少しだけ、数センチくらい、開いてるのに気づいたんだ。
いつもは、南京錠がかかってて、絶対に開かないはずなのに。
「おい、開いてるぞ…」
タカシが、声を潜めて言った。
三人で顔を見合わせて、ゴクリと唾を飲む。
中からは、なんとも言えない、鉄錆びと、古い灰と、それから…何か、甘ったるいような、焦げ付いたような、変な匂いが、微かに漂ってくる。
そして、音がしたんだ。
——— カサ…コソ…
って、中で、何か軽いものが、灰の上を擦るような音。
ネズミか何かかな? と思ったけど、それにしては、動きがゆっくりで、妙に規則的な気がした。
一番度胸のあったマナブが、「俺が見てくる」って言って、その重そうな鉄の扉に手をかけた。
ギィィ…と、錆び付いた蝶番が、嫌な音を立てる。
マナブが、ゆっくりと、扉を、もう少しだけ開いて、中を覗き込もうとした、その時。
——— ブワッ!
開いた隙間から、熱風と一緒に、強烈な、あの甘ったるい焦げ臭い匂いが、俺たちの顔に吹き付けてきた!
「うわっ!」
思わず、三人とも後ずさる。
そして、マナブが、息を呑む音が聞こえた。
「…おい……あれ……」
震える指で、マナブが、焼却炉の内部を指差す。
俺とタカシも、恐る恐る、開いた扉の隙間から、薄暗い焼却炉の奥を覗き込んだ。
そこには、まだ燻っているのか、白い灰が、うず高く積もっていた。
そして、その灰の、一番高いところに。
まるで、人間が、体育座りをして、うずくまっているかのような、黒い塊があったんだ。
最初は、燃え残った大きなゴミか何かだと思った。
でも、違う。
それは、明らかに、人の形をしていた。
そして、その「頭」にあたる部分が、ゆっくりと、こちらを向いた気がした。
いや、気がしたんじゃない。
確かに、向いたんだ。
そこには、目はなかった。ただ、ぽっかりと、二つの黒い穴が開いているだけ。
口も、歪に裂けて、笑っているようにも、苦しんでいるようにも見えた。
全体が、炭のように真っ黒で、所々、灰が白くこびりついている。
それが、無言で、俺たちを、じっと———。
「うわあああああああああっ!!」
誰が叫んだのか、もう覚えてない。
俺たちは、もう、わけもわからず、その場から、校舎に向かって、全力で逃げ出した。
後ろは、一度も振り返らなかった。
次の日、先生に、それとなく焼却炉のことを聞いてみたけど、
「ああ、あれはもう何年も使ってないから、危ないから近づいちゃだめだよ」
としか言われなかった。
俺たちが見たもののことは、怖くて、誰にも言えなかった。
あれから、何年も経って、小学校も建て替えられた。
もちろん、あの古い焼却炉も、もうない。
でも、今でも、何か物を燃やす匂いを嗅ぐと、ふと、あの日のことを思い出すんだ。
焼却炉の奥で、灰にまみれて、こちらを見ていた、あの「何か」。
あれは、本当に、何だったんだろうな…。
ただの、燃えカスが、偶然、そう見えただけ…?
そう思いたいけど、あの、目が合った瞬間の、全身が凍りつくような感覚は、今でも、忘れられない。
思い出すだけで、本当に、ぞっとするんだよ。
今でも、たまに思い出して、ぞっとすることがあるんだ。
俺たちの通ってた小学校の敷地の、一番奥。
体育倉庫の裏手、鬱蒼とした木々に半分隠れるようにして、古いレンガ造りの焼却炉があったんだ。
もう、何年も使われてないって話だったけど、その佇まいが、なんか子供心に不気味でさ。
「あの焼却炉には、夜になると火の玉が出る」とか、
「昔、悪いことをした生徒が、先生に閉じ込められたまま…」とか。
まあ、よくある学校の怪談の、一つだったんだけどね。
ある日の放課後。
俺と、友達のタカシとマナブの三人で、その焼却炉を「探検」しに行こうってことになったんだ。
もちろん、先生には内緒で。
その日は、初夏にしては、妙に空気が生ぬるくて、どんより曇ってたのを覚えてる。
焼却炉の周りは、雑草が伸び放題で、なんだかジメジメしてた。
近づくと、鉄製の、分厚い投入口の扉が、ほんの少しだけ、数センチくらい、開いてるのに気づいたんだ。
いつもは、南京錠がかかってて、絶対に開かないはずなのに。
「おい、開いてるぞ…」
タカシが、声を潜めて言った。
三人で顔を見合わせて、ゴクリと唾を飲む。
中からは、なんとも言えない、鉄錆びと、古い灰と、それから…何か、甘ったるいような、焦げ付いたような、変な匂いが、微かに漂ってくる。
そして、音がしたんだ。
——— カサ…コソ…
って、中で、何か軽いものが、灰の上を擦るような音。
ネズミか何かかな? と思ったけど、それにしては、動きがゆっくりで、妙に規則的な気がした。
一番度胸のあったマナブが、「俺が見てくる」って言って、その重そうな鉄の扉に手をかけた。
ギィィ…と、錆び付いた蝶番が、嫌な音を立てる。
マナブが、ゆっくりと、扉を、もう少しだけ開いて、中を覗き込もうとした、その時。
——— ブワッ!
開いた隙間から、熱風と一緒に、強烈な、あの甘ったるい焦げ臭い匂いが、俺たちの顔に吹き付けてきた!
「うわっ!」
思わず、三人とも後ずさる。
そして、マナブが、息を呑む音が聞こえた。
「…おい……あれ……」
震える指で、マナブが、焼却炉の内部を指差す。
俺とタカシも、恐る恐る、開いた扉の隙間から、薄暗い焼却炉の奥を覗き込んだ。
そこには、まだ燻っているのか、白い灰が、うず高く積もっていた。
そして、その灰の、一番高いところに。
まるで、人間が、体育座りをして、うずくまっているかのような、黒い塊があったんだ。
最初は、燃え残った大きなゴミか何かだと思った。
でも、違う。
それは、明らかに、人の形をしていた。
そして、その「頭」にあたる部分が、ゆっくりと、こちらを向いた気がした。
いや、気がしたんじゃない。
確かに、向いたんだ。
そこには、目はなかった。ただ、ぽっかりと、二つの黒い穴が開いているだけ。
口も、歪に裂けて、笑っているようにも、苦しんでいるようにも見えた。
全体が、炭のように真っ黒で、所々、灰が白くこびりついている。
それが、無言で、俺たちを、じっと———。
「うわあああああああああっ!!」
誰が叫んだのか、もう覚えてない。
俺たちは、もう、わけもわからず、その場から、校舎に向かって、全力で逃げ出した。
後ろは、一度も振り返らなかった。
次の日、先生に、それとなく焼却炉のことを聞いてみたけど、
「ああ、あれはもう何年も使ってないから、危ないから近づいちゃだめだよ」
としか言われなかった。
俺たちが見たもののことは、怖くて、誰にも言えなかった。
あれから、何年も経って、小学校も建て替えられた。
もちろん、あの古い焼却炉も、もうない。
でも、今でも、何か物を燃やす匂いを嗅ぐと、ふと、あの日のことを思い出すんだ。
焼却炉の奥で、灰にまみれて、こちらを見ていた、あの「何か」。
あれは、本当に、何だったんだろうな…。
ただの、燃えカスが、偶然、そう見えただけ…?
そう思いたいけど、あの、目が合った瞬間の、全身が凍りつくような感覚は、今でも、忘れられない。
思い出すだけで、本当に、ぞっとするんだよ。
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