【完結】ホラー短編集「隣の怪異」

シマセイ

文字の大きさ
74 / 106

感染

しおりを挟む
今日、新宿で、本当に信じられないくらい、気味が悪いものを見てしまったんです。

土曜日の、昼過ぎでした。

私は、友達との約束があって、新宿駅の東口から、アルタの方へ向かって歩いていました。

ゴールデンウィークが終わったとはいえ、やっぱり週末の新宿はすごい人で、まっすぐ歩くのも大変なくらい。

その、人の波にもまれながら歩いている時、ふと、向かいから歩いてくる、若い女の人が目に入ったんです。

ごく普通のお洒落な感じの人。

でも、すれ違う瞬間、その女の人が、

——— カクンッ。

って、首を、ありえないくらい素早く、ほんの一瞬だけ、真横に、人形みたいに傾けたんです。

本当に、一瞬。

そして、その時の目が、完全に焦点が合ってなくて、白目を剥いてるみたいに見えました。

え? と思って振り返ったけど、女の人はもう人混みに消えてて。

まあ、癖なのかな、とか、ちょっと体調悪いのかな、くらいにしか、その時は思いませんでした。

でも、それから数分後。

今度は、デパートの入り口あたりで、杖をついたおじいさんが、全く同じ動きをしたんです。

カクンッ!

って、首を真横に。一瞬だけ、目が虚ろになるのも同じ。

まさか…?

さすがに、偶然じゃない気がしてきました。

それから、私は、もう、周りの人の動きばっかり気にするようになっちゃって。

そしたら、いるわいるわ。

若い男の子も、おばさんも、サラリーマンも、小さな子供でさえも。

年齢も性別もバラバラなのに、数分おきくらいに、誰かが、あの、

カクンッ!

っていう、首の動きをしてるんです。

みんな、決まって一瞬だけ。

そして、その時の目は、やっぱり虚ろ。

周りの人は、誰もその異常に気づいてないみたい。

スマホ見てたり、友達と笑ってたり。

私だけが、その、静かで、不気味な「伝染」に気づいてる。

まるで、何かの合図みたいに、あるいは、何かの「病気」みたいに、

あの、カクンッていう動きが、人から人へ、静かに、広がってる。

私は、もう、怖くてたまらなくなって、約束もキャンセルして、すぐにでも家に帰りたかった。

でも、その「動き」が、だんだん、私に近づいてきてる気がするんです。

最初は、遠くの人だけだったのに。

だんだん、すれ違う人、すぐ近くを歩いてる人が、カクンッ、カクンッ、て。

そして、その虚ろな目が、一瞬だけ、私を捉えるような…。

もう、パニック寸前で、早足で駅に向かいました。

人混みをかき分けて、なんとか地下鉄の改札を通って、ホームで電車を待つ間も、

あの「動き」をする人が、視界の端に、何度も入ってくる。

電車が来て、飛び乗って、ドアが閉まって、ホッとしたのも束の間。

向かいの席に座ってた、おばあさんが、

カクンッ!

ああ、まただ…!

そう思った瞬間、そのおばあさんの、虚ろになった目が、まっすぐに、私を見たんです。

そして、その口元が、ほんの僅かに、にやり、と歪んだように見えました。

私は、もう、声も出せずに、次の駅で、転がるように降りました。

家まで、走って帰って、鍵をかけて、部屋の隅で、ずっと震えてました。

あれは、一体、何だったんでしょうか…?

集団ヒステリー? 何かの、新しい、ヤバいドラッグとか…?

でも、あの、人から人へ「伝染」していく感じ。

あの、一瞬だけ私を見る、虚ろな目。

そして、最後のおばあさんの、あの笑み…。

今、これを書いてる間も、なんだか、首のあたりが、ムズムズするんです。

肩が、凝ってるだけだって、思いたい。

でも、さっき、ふと、洗面所の鏡を見たら、

一瞬だけ、本当に、ほんの一瞬だけ。

鏡の中の私が、

——— カクンッ。

って、首を、真横に傾けたように見えて…。

まさか、ね…?

気のせいだよね…?

なあ、これ、気のせいだよな…?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

1分で読める怖い話短編集

しょくぱん
ホラー
一分で読める怖い話を定期的に投稿しています。 感想などをいただけると嬉しいです。 応援よろしくお願いします。

残酷喜劇 短編集

ドルドレオン
ホラー
残酷喜劇、開幕。 短編集。人間の闇。 おぞましさ。 笑いが見えるか、悲惨さが見えるか。

きさらぎ駅

水野華奈
ホラー
親友から電話があった。 きさらぎ駅という場所にいるらしい… 日常の中の小さな恐怖が今始まる。 触れてしまったが最後。 二度と戻れない。

怪異の忘れ物

木全伸治
ホラー
千近くあったショートショートを下記の理由により、ツギクル、ノベルアップ+、カクヨムなどに分散させました。 さて、Webコンテンツより出版申請いただいた 「怪異の忘れ物」につきまして、 審議にお時間をいただいてしまい、申し訳ありませんでした。 ご返信が遅くなりましたことをお詫びいたします。 さて、御著につきまして編集部にて出版化を検討してまいりましたが、 出版化は難しいという結論に至りました。 私どもはこのような結論となりましたが、 当然、出版社により見解は異なります。 是非、他の出版社などに挑戦され、 「怪異の忘れ物」の出版化を 実現されることをお祈りしております。 以上ご連絡申し上げます。 アルファポリス編集部 というお返事をいただいたので、本作品は、一気に全削除はしませんが、ある程度別の投稿サイトに移行しました。 www.youtube.com/@sinzikimata 私、俺、どこかの誰かが体験する怪奇なお話。バットエンド多め。少し不思議な物語もあり。ショートショート集。 いつか、茶風林さんが、主催されていた「大人が楽しむ朗読会」の怪し会みたいに、自分の作品を声優さんに朗読してもらうのが夢。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2026/1/17:『えれべーたー』の章を追加。2026/1/24の朝8時頃より公開開始予定。 2026/1/16:『せきゆすとーぶ』の章を追加。2026/1/23の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/15:『しばふ』の章を追加。2026/1/22の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/14:『でんしれんじ』の章を追加。2026/1/21の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/13:『こえ』の章を追加。2026/1/20の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/12:『あけてはいけない』の章を追加。2026/1/19の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/11:『みきさー』の章を追加。2026/1/18の朝4時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

百物語 厄災

嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。 小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

最終死発電車

真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。 直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。 外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。 生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。 「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!

奇談

hyui
ホラー
真相はわからないけれど、よく考えると怖い話…。 そんな話を、体験談も含めて気ままに投稿するホラー短編集。

処理中です...