【完結】ホラー短編集「隣の怪異」

シマセイ

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留守番電話

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なあ、俺、今、自分の部屋で、マジで動けないくらい、固まってる。

さっき、ほんの数分前の出来事なんだ。

月曜の昼過ぎでさ、俺、家でリモートワークしてたんだ。

仕事も一段落して、コーヒーでも淹れようかなって思った、その時。

部屋の固定電話が、鳴ったんだ。

今時、固定電話なんて、ほとんど使わないだろ?

セールスか、間違い電話くらいのもんだ。

だから、無視しようかと思ったんだけど、なぜか、その時の呼び出し音が、いつもと違う気がして。

なんていうか、音が、妙に、くぐもってるっていうか、遠くで鳴ってるみたいな…。

気味が悪いな、と思いつつも、一応、出てみたんだ。

「…もしもし?」

シーン……。

向こうは、何も言わない。

ただ、ザーッていう、微かなノイズ音が聞こえるだけ。

「もしもしー? どちら様ですかー?」

もう一度、少し大きめの声で言ってみた。

やっぱり、返事はない。

イタズラか。

そう思って、電話を切ろうとした、その瞬間。

『………やっと、繋がった………』

って、電話の奥から、ものすごく、か細い、女の人の声が聞こえたんだ。

息みたいな、掠れた声。

でも、その声、どこかで聞いたことがあるような…。

いや、気のせいか。

「あの、どちら様ですか?」

俺が聞くと、女の人は、それに答えず、

『………ずっと、呼んでたのに………なんで、出てくれなかったの……?』

って、恨みがましい声で言うんだ。

もう、完全に、おかしい。

これ、ヤバいやつだ。

俺、すぐに電話を切ろうとした。

でも、なぜか、指が、受話器を置くボタンを押せない。

金縛りにあったみたいに、体が動かないんだ。

『………寂しかったよ………ずっと、一人で………暗くて、寒くて………』

女の声は、だんだん、はっきりとしてくる。

そして、その声と一緒に、電話の向こうから、

——— ヒタ…ヒタ……ヒタ…。

って、何か、水滴が滴るような、湿った足音みたいなものが、近づいてくるのが聞こえる。

ヤバい、ヤバい、ヤバい!

心の中で叫んでも、体は動かない。

女の声と、足音が、どんどん、近づいてくる。

『………でも、もう大丈夫………もうすぐ、そっちへ行けるから………』

『………ずっと、一緒だよ………』

その言葉と同時に、受話器から、

——— ゴボゴボゴボッ!!

って、水の中で溺れてるみたいな、気味の悪い音が、激しく聞こえてきた!

そして、あの、女の声が、今度は、すぐ耳元で、

「うわあああああっ!」

俺は、ようやく、体が動いて、受話器を叩きつけるように置いた!

肩で息をしながら、部屋の中を見回す。

もちろん、誰もいない。

でも、部屋の空気が、さっきよりも、明らかに、重くて、冷たい。

そして、どこからか、ツンとする、カビ臭いような、水の腐ったような匂いがする。

あれは、夢じゃなかった。

間違いなく、電話の向こうに、「何か」がいた。

そして、そいつは、こっちへ来ようとしてる…。

いや、もう、来てるのかも…。

恐怖で、しばらくその場から動けなかった。

ようやく、少し落ち着いて、でも、心臓はまだバクバクいってる。

留守番電話のランプが、点滅してるのに気づいた。

え? さっきの電話、留守電に切り替わってたのか?

いつの間に?

俺、震える手で、留守番電話の再生ボタンを押した。

ザーッというノイズ。

そして、あの、か細い女の声。

『………もしもし…? あ、繋がった…?』

『………あのね、今、あなたの部屋の、クローゼットの前にいるの………』

『………もう少しだから………待っててね………』

俺は、もう、言葉も出なかった。

ゆっくりと、本当にゆっくりと、クローゼットの方へ、顔を向けた。

ギィィ………

クローゼットの扉が、音を立てて、ほんの僅かに、開いた。

隙間から、真っ暗な闇が見える。

そして、その闇の中から、

——— ボソッ。

『……………みぃつけた……………』
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