【完結】ホラー短編集「隣の怪異」

シマセイ

文字の大きさ
87 / 106

留守番電話

しおりを挟む
なあ、俺、今、自分の部屋で、マジで動けないくらい、固まってる。

さっき、ほんの数分前の出来事なんだ。

月曜の昼過ぎでさ、俺、家でリモートワークしてたんだ。

仕事も一段落して、コーヒーでも淹れようかなって思った、その時。

部屋の固定電話が、鳴ったんだ。

今時、固定電話なんて、ほとんど使わないだろ?

セールスか、間違い電話くらいのもんだ。

だから、無視しようかと思ったんだけど、なぜか、その時の呼び出し音が、いつもと違う気がして。

なんていうか、音が、妙に、くぐもってるっていうか、遠くで鳴ってるみたいな…。

気味が悪いな、と思いつつも、一応、出てみたんだ。

「…もしもし?」

シーン……。

向こうは、何も言わない。

ただ、ザーッていう、微かなノイズ音が聞こえるだけ。

「もしもしー? どちら様ですかー?」

もう一度、少し大きめの声で言ってみた。

やっぱり、返事はない。

イタズラか。

そう思って、電話を切ろうとした、その瞬間。

『………やっと、繋がった………』

って、電話の奥から、ものすごく、か細い、女の人の声が聞こえたんだ。

息みたいな、掠れた声。

でも、その声、どこかで聞いたことがあるような…。

いや、気のせいか。

「あの、どちら様ですか?」

俺が聞くと、女の人は、それに答えず、

『………ずっと、呼んでたのに………なんで、出てくれなかったの……?』

って、恨みがましい声で言うんだ。

もう、完全に、おかしい。

これ、ヤバいやつだ。

俺、すぐに電話を切ろうとした。

でも、なぜか、指が、受話器を置くボタンを押せない。

金縛りにあったみたいに、体が動かないんだ。

『………寂しかったよ………ずっと、一人で………暗くて、寒くて………』

女の声は、だんだん、はっきりとしてくる。

そして、その声と一緒に、電話の向こうから、

——— ヒタ…ヒタ……ヒタ…。

って、何か、水滴が滴るような、湿った足音みたいなものが、近づいてくるのが聞こえる。

ヤバい、ヤバい、ヤバい!

心の中で叫んでも、体は動かない。

女の声と、足音が、どんどん、近づいてくる。

『………でも、もう大丈夫………もうすぐ、そっちへ行けるから………』

『………ずっと、一緒だよ………』

その言葉と同時に、受話器から、

——— ゴボゴボゴボッ!!

って、水の中で溺れてるみたいな、気味の悪い音が、激しく聞こえてきた!

そして、あの、女の声が、今度は、すぐ耳元で、

「うわあああああっ!」

俺は、ようやく、体が動いて、受話器を叩きつけるように置いた!

肩で息をしながら、部屋の中を見回す。

もちろん、誰もいない。

でも、部屋の空気が、さっきよりも、明らかに、重くて、冷たい。

そして、どこからか、ツンとする、カビ臭いような、水の腐ったような匂いがする。

あれは、夢じゃなかった。

間違いなく、電話の向こうに、「何か」がいた。

そして、そいつは、こっちへ来ようとしてる…。

いや、もう、来てるのかも…。

恐怖で、しばらくその場から動けなかった。

ようやく、少し落ち着いて、でも、心臓はまだバクバクいってる。

留守番電話のランプが、点滅してるのに気づいた。

え? さっきの電話、留守電に切り替わってたのか?

いつの間に?

俺、震える手で、留守番電話の再生ボタンを押した。

ザーッというノイズ。

そして、あの、か細い女の声。

『………もしもし…? あ、繋がった…?』

『………あのね、今、あなたの部屋の、クローゼットの前にいるの………』

『………もう少しだから………待っててね………』

俺は、もう、言葉も出なかった。

ゆっくりと、本当にゆっくりと、クローゼットの方へ、顔を向けた。

ギィィ………

クローゼットの扉が、音を立てて、ほんの僅かに、開いた。

隙間から、真っ暗な闇が見える。

そして、その闇の中から、

——— ボソッ。

『……………みぃつけた……………』
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

(ほぼ)1分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話! 【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】 1分で読めないのもあるけどね 主人公はそれぞれ別という設定です フィクションの話やノンフィクションの話も…。 サクサク読めて楽しい!(矛盾してる) ⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません ⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください

本当にあった不思議なストーリー

AA.A
ホラー
筆者の実体験をまとめた、本当にあった不思議な話しです。筆者は幼い頃から様々な科学では説明のつかない経験をしてきました。当時はこのような事をお話ししても気持ちが悪い、変な子、と信じてもらえなかった事が多かったので、全て自分の中に封印してきた事柄です。この場をおかりして皆様にシェア出来る事を嬉しく思います。

父の周りの人々が怪異に遭い過ぎてる件

帆足 じれ
ホラー
私に霊感はない。父にもない(と言いつつ、不思議な体験がないわけではない)。 だが、父の周りには怪異に遭遇した人々がそこそこいる。 父や当人、関係者達から聞いた、怪談・奇談を集めてみた。 父本人や作者の体験談もあり! ※思い出した順にゆっくり書いていきます。 ※場所や個人が特定されないよう、名前はすべてアルファベット表記にし、事実から逸脱しない程度に登場人物の言動を一部再構成しております。 ※小説家になろう様、Nolaノベル様にも同じものを投稿しています。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

百の話を語り終えたなら

コテット
ホラー
「百の怪談を語り終えると、なにが起こるか——ご存じですか?」 これは、ある町に住む“記録係”が集め続けた百の怪談をめぐる物語。 誰もが語りたがらない話。語った者が姿を消した話。語られていないはずの話。 日常の隙間に、確かに存在した恐怖が静かに記録されていく。 そして百話目の夜、最後の“語り手”の正体が暴かれるとき—— あなたは、もう後戻りできない。 ■1話完結の百物語形式 ■じわじわ滲む怪異と、ラストで背筋が凍るオチ ■後半から“語られていない怪談”が増えはじめる違和感 最後の一話を読んだとき、

百物語 厄災

嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。 小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

静かに壊れていく日常

井浦
ホラー
──違和感から始まる十二の恐怖── いつも通りの朝。 いつも通りの夜。 けれど、ほんの少しだけ、何かがおかしい。 鳴るはずのないインターホン。 いつもと違う帰り道。 知らない誰かの声。 そんな「違和感」に気づいたとき、もう“元の日常”には戻れない。 現実と幻想の境界が曖昧になる、全十二話の短編集。 一話完結で読める、静かな恐怖をあなたへ。 ※表紙は生成AIで作成しております。

処理中です...