サイコパス聖女 〜裁きの鉄槌〜

シマセイ

文字の大きさ
4 / 74

第4話 聖女様、冒険者ギルドへ行く

しおりを挟む
国王陛下からいただいた、貴重な自由時間!
これを満喫しないでどうするの!

というわけで、私は早速、お気に入りの動きやすい平民服に着替え、フードを目深にかぶり、王宮を抜け出した。
行き先は……もちろん、前々から気になっていたあの場所よ!

「ついに来たわね……冒険者ギルド!」

城下町の一角、ひときわ騒がしく、そして何やらむさ苦しい雰囲気を醸し出している建物。
それが、私の今回の目的地、冒険者ギルドよ。

聖女教育では決して教えてくれない、スリルとロマン(あと、多分お酒と暴力)に満ち溢れた世界!
想像しただけでワクワクするじゃない!

ギルドの扉を押し開けると、むわっとした熱気と、汗と酒の匂い、そして男たちの野太い声が私を包み込んだ。
うーん、カオス!最高ね!

酒場と受付が併設されたような広い空間には、いかにも「冒険者です」って感じの、屈強な男女がたくさんいた。

剣や斧を腰に下げていたり、ローブをまとって杖を持っていたり。
みんな、目がギラギラしていて、一筋縄ではいかなそうな雰囲気。
でも、それがいいんじゃない!

私はキョロキョロと辺りを見回しながら、受付カウンターへと向かった。
カウンターの中には、恰幅のいい、姉御肌っぽい女性が一人。
腕にはタトゥー、口には葉巻(もちろん火はついてないけど)。
うん、ギルドの受付嬢って感じ!

「あら、おチビちゃん。こんなところへ何の用だい?迷子かい?」

受付の女性、ギルドマスターのミネルバさん、(と名札に書いてあるわね)が、私を見てニヤリと笑った。
失礼ね、これでも15歳よ。
まあ、フードを深くかぶってるから、顔は見えないでしょうけど。

「ちょっと、見学に来ただけよ。ギルドって、どんなところなのかなーって。」

私がそう言うと、ミネルバさんは面白そうに眉を上げた。

「見学ねぇ。まあ、好きに見ていきな。ただし、変なヤツに絡まれても、アタシは知らないよ?」

「大丈夫、自分の身くらい自分で守れるわ。」

私が自信満々に言うと、ミネルバさんは「へぇ」と感心したような、試すような視線を向けてきた。
その時だった。

「おいおい、嬢ちゃん、一人か?俺たちと一杯どうだ?」

背後から、下卑た笑い声とともに、酒臭い息がかかった。
振り返ると、そこには見るからにたちの悪そうな男たちが三人。
定番の絡まれイベント発生ね!
待ってました!

「あら、ごめんなさい。私、お酒はまだ飲めないの。それに、あなたたちみたいなタイプはちょっと……ね?」

私が挑発的に微笑むと、男たちの顔色が変わった。

「なんだと、コラ!生意気なガキだな!」

一人が手を伸ばして、私の肩を掴もうとしてきた。
でも、その手が私に触れることはなかった。

パシッ!

乾いた音が響き、男の手首はあらぬ方向に曲がっていた。
もちろん、私がやったのよ。
聖女の力(物理)ってやつ?

「いぎゃあああああっ!」

男が悲鳴を上げる。
残りの二人も、一瞬何が起こったのか分からず、呆然としていた。

「あら、ごめんなさい。ちょっと力が入りすぎちゃったみたい。」

私は悪びれもせず、ニッコリと笑った。
そして、残りの二人に向かって、ゆっくりと歩み寄る。

「あなたたちも、私と遊んでくれるのかしら?」

私の瞳が、フードの奥で妖しく光ったのを感じたのか、男たちは顔面蒼白になって後ずさった。

「ひ、ひぃぃ!ば、化け物だ!」
「お、覚えてろよ!」

捨て台詞を残して、男たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
うん、今日も通常運転ね。

周囲の冒険者たちは、あっけにとられた顔で私と逃げていく男たちを交互に見ていた。
ミネルバさんも、葉巻をポロリと落としそうになっている。

「……あんた、何者だい?」

ミネルバさんが、ようやく口を開いた。
その声には、警戒と興味が入り混じっている。

「さあ?ただの通りすがりの聖……じゃなくて、ただの通りすがりの一般市民よ。」

私は肩をすくめて答えた。
正体を明かすのは、まだ面白くないもの。

「ふん、面白い冗談だね。まあいい、何か依頼でも受けていくかい?あんたなら、そこらのチンピラよりは役に立ちそうだ。」

ミネルバさんの言葉に、私はニヤリと笑った。
そうそう、それも目的の一つだったのよ。

「いいわね、それ。何か面白そうな依頼はあるかしら?」

私は受付カウンターに置かれた依頼書の一覧(掲示板みたいなものね)に目をやった。
ゴブリン討伐、薬草採取、護衛任務……いろいろあるわね。
その中で、一つだけ妙に報酬の高い依頼が目に留まった。

『緊急依頼:黒百合の森での幻の薬草「月光花」の採取。報酬:金貨50枚。危険度:高。最近、森の奥で不審な失踪事件多発。腕に自信のある者求む。』

「これ、面白そうじゃない?」

私がその依頼書を指さすと、ミネルバさんは少し顔をしかめた。

「……月光花ねぇ。確かに希少な薬草だが、あの森は最近物騒でね。腕利きの冒険者でも何人か戻ってきてない。あんたみたいな子供には……」

「子供じゃないって言ってるでしょ。それに、危険な方が燃えるじゃない?」

私はミネルバさんの言葉を遮り、依頼書をひったくるように取った。

「よし、これにするわ!月光花、必ず採ってきてあげる!」

「……やれやれ、命知らずな嬢ちゃんだね。まあ、死んでもアタシは知らないよ。依頼を受けるなら、ここにサインしな。」

ミネルバさんは呆れたようにため息をつきながら、契約書を差し出してきた。
私はサラサラと偽名を書き込み、契約完了!

「じゃあ、行ってくるわね!」

私は意気揚々とギルドを後にした。
黒百合の森……どんな面白いことが待っているのかしら?
不審な失踪事件ねぇ。
もしかしたら、ただの薬草採取じゃ終わらないかもしれないわね!
それこそ、私の望むところよ!

森の入り口に着くと、そこには「これより先、危険区域。立ち入りを禁ず」という古びた看板が立っていた。
ふーん、ますますそそられるじゃない。

私は何のためらいもなく、森の中へと足を踏み入れた。
鬱蒼とした木々が太陽の光を遮り、昼間だというのに薄暗い。
不気味な鳥の鳴き声や、獣の遠吠えが時折聞こえてくる。
うん、雰囲気はバッチリね!

しばらく進むと、何者かの視線を感じた。
それも、一つや二つじゃない。
複数……それも、あまり友好的じゃない気配。

(あらあら、早速お出ましかきしら?)

私はニヤリと笑みを浮かべ、わざと隙だらけの動きで歩き続けた。
すると、案の定。

「ヒャッハー!カモが来たぜぇ!」

茂みから、汚らしい格好の男たちが数人、飛び出してきた。
手には錆びた剣や棍棒。
どうやら、追い剥ぎか何かみたいね。

「お嬢ちゃん、金目のものを全部置いていってもらおうか。もちろん、命もね!」

リーダー格らしき男が、下卑た笑みを浮かべて言う。
あらあら、物騒なこと。

「残念だけど、金目のものはあまり持ってないのよね。命は……あげられないわ。だって、まだ遊び足りないもの。」

私がそう言って肩をすくめると、男たちは顔を見合わせた。

「なんだこいつ、頭がおかしいのか?」
「構うもんか、やっちまえ!」

男たちが一斉に襲いかかってくる。
でも、遅いわね。

私はひらりとかわし、一番近くにいた男の鳩尾に強烈な一撃を叩き込んだ。
「ぐふっ!」という蛙が潰れたような声を上げて、男は地面に崩れ落ちる。
次いで、振り下ろされた剣を紙一重で避け、その勢いを利用して相手の腕を掴み、背負い投げ!
見事な一本!

残りの男たちは、仲間が次々と倒されていくのを見て、ようやく事の重大さに気づいたらしい。

「な、なんだこいつ……強すぎる!」
「に、逃げろぉ!」

また捨て台詞。
芸がないわね。
もちろん、逃がすつもりなんてないけど。

私は逃げようとする男たちの足を的確に狙い、石つぶてを投げつけた。
聖女のコントロールは完璧よ。
面白いように男たちは転倒し、地面を転げ回る。

「さて、と。あなたたち、この森で何をしているのかしら?ただの追い剥ぎじゃなさそうね。」

私は倒れている男たちを見下ろし、冷ややかに尋ねた。
彼らの目には、恐怖の色が浮かんでいる。
うん、いい表情するじゃない。

「だ、誰が言うか……!」

一人が虚勢を張るが、私の足がその男の顔のすぐ横に振り下ろされると、悲鳴とともに口を割った。

「わ、私たちは……ある商人に雇われて……この森の奥にある遺跡から……『宝』を運び出す手伝いを……」

遺跡?宝?
やっぱり、ただの薬草採取じゃなかったのね。
面白くなってきたじゃない!

「その商人って、誰かしら?そして、その『宝』って何?」

私の追及に、男たちは震えながら情報を吐き出した。
どうやら、悪徳商人が、この森の奥に隠された古代遺跡を発見し、そこから価値のある遺物を盗掘しようと企んでいるらしい。
そして、その邪魔になる冒険者や、森の秘密を知る者を始末するために、チンピラたちを雇っていたというわけね。
月光花の依頼も、腕利きの冒険者をおびき寄せて始末するための罠だったみたい。
なんて古典的な悪巧み。

(ふーん、遺跡荒らしねぇ。聖女としては見過ごせないわね。もちろん、面白そうだから、だけど。)

私はニヤリと笑みを浮かべた。
正義のためなんかじゃない。
ただ、私の好奇心と退屈しのぎのためよ!

「よし、決めたわ!その遺跡、私が見に行ってあげる!そして、あなたたちの雇い主にも、ちゃーんとご挨拶してあげないとね!」

私は男たちを適当に木に縛り付け(後で騎士団にでも連絡しておきましょう)、遺跡の場所を聞き出し、森の奥へと進んでいった。
どんなお宝が眠っているのかしら?
そして、どんな悪党が待っているのかしら?
ああ、楽しみで仕方ないわ!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから

渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。 朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。 「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」 「いや、理不尽!」 初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。 「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」 ※※※ 専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

王家の血を引いていないと判明した私は、何故か変わらず愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女であるスレリアは、自身が王家の血筋ではないことを知った。 それによって彼女は、家族との関係が終わると思っていた。父や母、兄弟の面々に事実をどう受け止められるのか、彼女は不安だったのだ。 しかしそれは、杞憂に終わった。 スレリアの家族は、彼女を家族として愛しており、排斥するつもりなどはなかったのだ。 ただその愛し方は、それぞれであった。 今まで通りの距離を保つ者、溺愛してくる者、さらには求婚してくる者、そんな家族の様々な対応に、スレリアは少々困惑するのだった。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...