サイコパス聖女 〜裁きの鉄槌〜

シマセイ

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第18話:忘れられた聖域と石の番人

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血の匂いが染みついた森の道は、まるで私とモモちゃんを歓迎しているかのように、奥へ奥へと続いていた。

生き残った騎士たちは、もはや私の言葉に一切の疑問を挟むことなく、ただ黙々と、そして怯えながら私の後に続く。

彼らの目には、かつての聖女への敬愛など欠片もなく、ただ絶対的な恐怖と、いつ自分が「処理」されるかという不安だけが色濃く浮かんでいる。フフ、実にいい表情だわ。

「嘆きの森」の深部は、これまでの区域とは比較にならないほど異様で、禍々しい気に満ちていた
。空は鉛色に濁り、木々は奇怪な形にねじ曲がり、地面からは硫黄のような鼻を突く臭いが立ち上っている。
時折、正体不明の呻き声や、何かが蠢くような音が聞こえ、その度に騎士たちの肩がビクリと震える。

「聖女様……本当に、このような場所に聖遺物があるのでしょうか……?」

一人の若い騎士が、か細い声で尋ねてきた。その顔は恐怖で引きつっている。

「もちろんですわ。神の試練とは、常に厳しく、そして常人の理解を超えるものなのですから」

私は慈愛に満ちた(ように見える)微笑みを浮かべて答える。
内心では、この絶望的な雰囲気がたまらなくスリリングで、私のサイコパスな魂をくすぐっていた。

モモちゃんは、私の肩の上で警戒を怠らず、周囲の気配を探っている。
その瑠璃色と銀色の混じった体は、この陰鬱な森の中で唯一の美しい輝きを放っていた。
時折、モモちゃんが特定の方向をじっと見つめ、微かに唸り声を上げることがあった。
どうやら、見えない「何か」が私たちを監視しているらしい。
おそらく、「影の評議会」の残党か、あるいはこの森そのものの意思か。
どちらにしても、私の楽しみを増やしてくれる存在でしかないわ。

数時間歩き続けた頃だろうか。不意に、目の前の空間が歪んだように感じられ、次の瞬間、私たちは苔むした石畳が広がる、開けた場所へと足を踏み入れていた。
そこは、明らかに人工的な建造物の跡だった。崩れかけた石柱、風化した祭壇らしきもの、そして、地面には薄っすらと、しかし広範囲に渡って、あの鳥の翼のような紋様が描かれている。

「ここが……『忘れられた聖域』……」

騎士の一人が、息をのんで呟いた。
空気は淀み、まるで長年封印されていた悪意が解放されたかのように、濃密なプレッシャーが私たちを包み込む。

そして、その聖域の中央、ひときわ大きな祭壇の上に、それはあった。
鈍い銀色の光を放つ、人の頭ほどの大きさの宝玉。
表面には複雑な模様が浮かび上がり、まるで月そのものを閉じ込めたかのように、妖しい魅力を放っている。

「『虚ろなる月の瞳』……間違いないわね」

私の胸が高鳴る。あれを手に入れれば、私はさらに強大な力を得ることができる。

私が宝玉に一歩近づこうとした、その時だった。
ゴゴゴゴゴゴ……!
地面が激しく揺れ、祭壇の背後にあった巨大な岩塊が動き始めた。
土砂を落としながら、それはゆっくりと人型を形成していく。
苔むした全身、空洞のような両目からは赤い光が漏れ、その手には巨大な石の戦斧が握られている。

「石の番人……!」

刺客の男が言っていた通りだわ。その威圧感は、これまでに遭遇したどんな魔獣よりも強大だった。

「騎士の皆さん、出番ですわよ」

私は優雅に微笑み、後ろに控える騎士たちに命じた。

「神聖なる聖遺物を手に入れるため、あの番人を打ち倒しなさい。聖女の名において、あなたたちに神のご加護があらんことを!」

もちろん、ご加護なんてありはしないけれど。

騎士たちは、恐怖に顔を引きつらせながらも、私の命令に逆らうことはできない。彼らは剣を抜き、雄叫びを上げて石の番人へと突撃していく。
「うおおおお!」「聖女様のために!」

哀れな子羊たち。彼らの勇気(あるいは絶望)は、私にとって最高のエンターテイメントだわ。

石の番人は、その巨体に見合わぬ俊敏さで騎士たちの攻撃を避け、巨大な戦斧を振り下ろした。
ドゴォォン!
地面が砕け、数人の騎士が衝撃で吹き飛ばされる。悲鳴を上げる間もなく、彼らは動かなくなった。

「あらあら、手強いわね」

私は鉄塊を肩に担ぎ、戦況を冷静に観察する。騎士たちの剣は、石の番人の硬い皮膚に傷一つ付けられない。
魔法を操れる神官も何人かいたけれど、彼らの放つ光の矢や炎も、番人にはほとんど効果がないようだった。

「モモちゃん、少し様子を見てちょうだい」

私の指示で、モモちゃんが素早く石の番人に接近し、その体から銀色の棘を放った。
しかし、棘は番人の体に弾かれ、カンカンと甲高い音を立てるだけ。
瑠璃色の粘液も、番人の動きを鈍らせるには至らない。

(やはり、物理攻撃も通常の魔法も効果が薄いようね。どうしたものかしら……)

私は『影の書』の内容を思い返してみる。確か、古代のゴーレムに関する記述があったはず……。

その間にも、騎士たちは次々と倒れていく。残るは数人。彼らの顔には、もはや絶望の色しかない。

「聖女様……お助けを……!」

一人の騎士が、涙ながらに私に助けを求めてきた。

「もちろん、助けてあげますわ。あなたたちは、私の大切な駒なのだから」

私はにっこりと微笑み、鉄塊を構え直す。そして、脳裏に閃いた「ある方法」を実行に移すことにした。

「皆さま、よく聞いて。あの番人には、おそらく核となる部分があるはず。そこを破壊すれば……」

私はそう言いながら、ある一点、石の番人の胸の中心、微かに異なる色の石が埋め込まれている部分を指さした。

「あそこを集中して攻撃するのです!私が隙を作るわ!」

私はそう叫ぶと、石の番人に向かって突進した。もちろん、本当に私が隙を作るわけではない。私が狙うのは、別の「効果」だ。

石の番人が、私に向かって巨大な戦斧を振り下ろそうとする。その瞬間、私はわざとらしく足を滑らせ、大きく体勢を崩してみせた。

「きゃっ!」

聖女らしい(?)可愛らしい悲鳴を上げる私。

そして、私のすぐ後ろにいた、先ほど助けを求めてきた騎士が、私の「盾」となった。

「ぐあああああっ!」

騎士は、私を庇うような形で、石の番人の戦斧をまともに受けてしまった。鎧は砕け散り、彼の体は無残な肉塊へと変わる。

「……まあ、お可哀想に。でも、あなたの犠牲は無駄にはしませんわ」

私は心の中で呟き、騎士の死を利用して、石の番人の懐へと潜り込む。そして、モモちゃんに囁いた。

「モモちゃん、あの胸の石……あなたの『アレ』なら、いけるんじゃないかしら?」

モモちゃんは私の意図を即座に理解したようだった。その瑠璃色と銀色の体が、まるで液体金属のように変化し、鋭いドリルのような形状になる。
そして、石の番人が次の攻撃に移る一瞬の隙を突き、モモちゃんは猛烈な勢いで回転しながら、番人の胸の中心にある、あの異なる色の石へと突っ込んでいった!

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