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第26話:星詠みの舞踏と蜘蛛の絶叫
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「さあ、蜘蛛さん。
私と楽しいダンスを踊りましょうか?」
私が挑発的な笑みを浮かべると、巨大な蜘蛛の番人、星詠みの守護者は、無数の赤い複眼をカッと見開き、甲高い威嚇音を発した。
キシャアアアアアッ!
その音は、まるで金属を擦り合わせるような不快な響きで、洞窟全体を震わせる。
次の瞬間、守護者の巨大な顎から、粘着性の高い白濁した糸が猛烈な勢いで吐き出された。
それはまるで、獲物を捕らえるための罠のように、私に向かって放射状に広がってくる。
「あら、お行儀の悪い蜘蛛さんね。
挨拶もなしに、いきなりプレゼントかしら?」
私は軽やかにステップを踏み、迫り来る糸の束を紙一重でかわす。
いくつかの糸が私のローブの裾を掠めたが、モモちゃんが素早くその部分を切り離してくれたおかげで、動きを封じられることはなかった。
モモちゃんは、私の肩から飛び降りると、その体を鋭利な刃物のように薄く引き伸ばし、周囲に張り巡らされようとしていた糸を次々と切り裂いていく。
その動きは、まるで銀色のリボンが舞っているかのようだわ。
「モモちゃん、ナイスアシストよ!
でも、全部お掃除しちゃったら、私の出番がなくなっちゃうじゃないの」
私は鉄塊を肩に担ぎ直し、守護者との距離を一気に詰める。
守護者は、私が接近してくるのを見ると、その巨大な八本の脚を巧みに動かし、素早い動きで後退しつつ、今度は腹部から緑色の毒々しい液体を噴射してきた。
「毒霧かしら?芸達者ね、あなた」
私は鼻をつまむふりをしながら、毒霧が届かない範囲まで飛び退く。
神官長とアルノーは、祭壇の隅で顔面蒼白になりながら、この常軌を逸した戦いを見守っていた。
特にアルノーは、今にも卒倒しそうな顔をしているわ。
まあ、無理もないでしょうね。
聖女が鉄塊を振り回し、スライムが巨大蜘蛛と渡り合っているのだから。
「リリアーナ殿……あの守護者の毒は、岩をも溶かすと聞いていますぞ……!」
神官長が、かすれた声で警告を発する。
「あら、それは大変。
でも、私に当たらなければ、どうということはないわ」
私は毒霧が晴れるのを待ち、再び守護者に突撃する。
今度は、守護者の頭部目掛けて、鉄塊を力任せに振り下ろした。
ゴッ!という鈍い音と共に、鉄塊は守護者の硬い甲殻に叩きつけられる。
しかし、守護者はわずかに体勢を崩しただけで、目立ったダメージはないようだ。
さすがにタフね。
「ククク、なかなか楽しませてくれるじゃないの!」
私の口元から、抑えきれない笑みがこぼれる。
これくらい手強くないと、張り合いがないというものよ。
守護者は、私が怯まないのを見ると、さらに怒りを増したのか、その巨大な前脚を鎌のように振り下ろしてきた。
私はそれを鉄塊で受け止める。
キィィン!と甲高い金属音が響き渡り、衝撃で私の腕が痺れた。
なかなかのパワーだわ。
「モモちゃん、あいつの足止めをお願い!」
私の指示に、モモちゃんは素早く反応した。
その体を無数の細い触手へと変化させ、守護者の八本の脚に絡みついていく。
モモちゃんの触手は、ただの粘液ではなく、最近取り込んだ鉱物の影響か、ダイヤモンドのような硬度と鋭さを持っていた。
守護者の脚の関節部分に食い込み、その動きをわずかに鈍らせる。
「キシャアアアアアッ!」
守護者が苦痛の声を上げる。
その隙を逃さず、私は守護者の懐に飛び込み、鉄塊を連続で叩き込んだ。
頭部、胴体、脚の付け根……。
手応えのある場所に、的確に、そして容赦なく。
「どうしたの、蜘蛛さん?
もっと私を楽しませてちょうだいよ!」
私は恍惚とした表情で、鉄塊を振るい続ける。
守護者の硬い甲殻に、少しずつヒビが入り始めているのが分かった。
赤い複眼が、恐怖と怒りで激しく揺れている。
(そろそろ、弱点が見えてきてもいい頃かしら……)
私は攻撃の手を緩めず、守護者の反応を注意深く観察する。
そして、ある一点――守護者の腹部の下、他の部分よりもわずかに柔らかそうな箇所に、私の目が釘付けになった。
(あそこね……!)
私はニヤリと笑みを浮かべ、モモちゃんに目配せした。
私と楽しいダンスを踊りましょうか?」
私が挑発的な笑みを浮かべると、巨大な蜘蛛の番人、星詠みの守護者は、無数の赤い複眼をカッと見開き、甲高い威嚇音を発した。
キシャアアアアアッ!
その音は、まるで金属を擦り合わせるような不快な響きで、洞窟全体を震わせる。
次の瞬間、守護者の巨大な顎から、粘着性の高い白濁した糸が猛烈な勢いで吐き出された。
それはまるで、獲物を捕らえるための罠のように、私に向かって放射状に広がってくる。
「あら、お行儀の悪い蜘蛛さんね。
挨拶もなしに、いきなりプレゼントかしら?」
私は軽やかにステップを踏み、迫り来る糸の束を紙一重でかわす。
いくつかの糸が私のローブの裾を掠めたが、モモちゃんが素早くその部分を切り離してくれたおかげで、動きを封じられることはなかった。
モモちゃんは、私の肩から飛び降りると、その体を鋭利な刃物のように薄く引き伸ばし、周囲に張り巡らされようとしていた糸を次々と切り裂いていく。
その動きは、まるで銀色のリボンが舞っているかのようだわ。
「モモちゃん、ナイスアシストよ!
でも、全部お掃除しちゃったら、私の出番がなくなっちゃうじゃないの」
私は鉄塊を肩に担ぎ直し、守護者との距離を一気に詰める。
守護者は、私が接近してくるのを見ると、その巨大な八本の脚を巧みに動かし、素早い動きで後退しつつ、今度は腹部から緑色の毒々しい液体を噴射してきた。
「毒霧かしら?芸達者ね、あなた」
私は鼻をつまむふりをしながら、毒霧が届かない範囲まで飛び退く。
神官長とアルノーは、祭壇の隅で顔面蒼白になりながら、この常軌を逸した戦いを見守っていた。
特にアルノーは、今にも卒倒しそうな顔をしているわ。
まあ、無理もないでしょうね。
聖女が鉄塊を振り回し、スライムが巨大蜘蛛と渡り合っているのだから。
「リリアーナ殿……あの守護者の毒は、岩をも溶かすと聞いていますぞ……!」
神官長が、かすれた声で警告を発する。
「あら、それは大変。
でも、私に当たらなければ、どうということはないわ」
私は毒霧が晴れるのを待ち、再び守護者に突撃する。
今度は、守護者の頭部目掛けて、鉄塊を力任せに振り下ろした。
ゴッ!という鈍い音と共に、鉄塊は守護者の硬い甲殻に叩きつけられる。
しかし、守護者はわずかに体勢を崩しただけで、目立ったダメージはないようだ。
さすがにタフね。
「ククク、なかなか楽しませてくれるじゃないの!」
私の口元から、抑えきれない笑みがこぼれる。
これくらい手強くないと、張り合いがないというものよ。
守護者は、私が怯まないのを見ると、さらに怒りを増したのか、その巨大な前脚を鎌のように振り下ろしてきた。
私はそれを鉄塊で受け止める。
キィィン!と甲高い金属音が響き渡り、衝撃で私の腕が痺れた。
なかなかのパワーだわ。
「モモちゃん、あいつの足止めをお願い!」
私の指示に、モモちゃんは素早く反応した。
その体を無数の細い触手へと変化させ、守護者の八本の脚に絡みついていく。
モモちゃんの触手は、ただの粘液ではなく、最近取り込んだ鉱物の影響か、ダイヤモンドのような硬度と鋭さを持っていた。
守護者の脚の関節部分に食い込み、その動きをわずかに鈍らせる。
「キシャアアアアアッ!」
守護者が苦痛の声を上げる。
その隙を逃さず、私は守護者の懐に飛び込み、鉄塊を連続で叩き込んだ。
頭部、胴体、脚の付け根……。
手応えのある場所に、的確に、そして容赦なく。
「どうしたの、蜘蛛さん?
もっと私を楽しませてちょうだいよ!」
私は恍惚とした表情で、鉄塊を振るい続ける。
守護者の硬い甲殻に、少しずつヒビが入り始めているのが分かった。
赤い複眼が、恐怖と怒りで激しく揺れている。
(そろそろ、弱点が見えてきてもいい頃かしら……)
私は攻撃の手を緩めず、守護者の反応を注意深く観察する。
そして、ある一点――守護者の腹部の下、他の部分よりもわずかに柔らかそうな箇所に、私の目が釘付けになった。
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私はニヤリと笑みを浮かべ、モモちゃんに目配せした。
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