サイコパス聖女 〜裁きの鉄槌〜

シマセイ

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第42話:地下迷宮の再訪と虚無の尖兵

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モモちゃんが禁書庫の床下へ消えてから、それほど時間は経っていなかった。

プルン、と私の足元に再び姿を現したモモちゃんは、興奮した様子で特定の方向を指し示している。

どうやら、あの忌まわしい「虚無の祭壇」の場所を突き止めたようね。

本当に優秀なペットだわ。

「よくやったわ、モモちゃん。
ご褒美は後でたっぷりあげるわね」

私はモモちゃんの頭を優しく撫で、その小さな体から伝わってくる情報に意識を集中させる。

モモちゃんが示す場所は……やはり、王宮の地下深くに広がる、あの「古の地下迷宮」だった。

しかも、以前私たちが「星詠みの祭壇」を見つけた場所よりも、さらに奥深く、これまで誰も足を踏み入れたことのない未踏領域のようだわ。

「神官長、王宮内のことは任せたわよ。
私が戻るまで、聖女の威光を傷つけないように、しっかりと民を導きなさい。
もし失敗したら……どうなるか、分かっているわよね?」

私の言葉に、神官長は顔面蒼白になりながらも、深々と頭を下げた。

「は、はい!
リリアーナ様のご期待に沿えるよう、全力を尽くします!」

その必死な様子が、なんとも滑稽で愉快だわ。

「アルノー、行くわよ。
またあなたの『出番』が来たみたいね」

私は、壁際で小さくなっていたアルノーに声をかける。

彼は、まるで死刑宣告を受けた罪人のような顔で、おぼつかない足取りで私に近づいてきた。

その瞳の奥には、諦めと、ほんの少しの反抗心のようなものが揺らめいているように見えたけれど、今の彼に私に逆らう勇気などないでしょう。

私たちは再び、あの禁書庫の隠し階段から地下迷宮へと足を踏み入れた。

以前よりも、迷宮内の空気は重く、そして冷たく感じられる。

壁の松明の光も弱々しく、まるで「虚無の汚染」がこの迷宮にまで及び始めているかのようだわ。

モモちゃんの先導で、私たちは迷宮の奥へ奥へと進んでいく。

神官長の地図にも載っていない、未知の通路。
時折、壁の隙間から不気味な呻き声が聞こえたり、得体の知れない影が横切ったりするけれど、今の私にとっては、そんなものは些細な刺激でしかない。

「モモちゃん、祭壇はまだ遠いの?」

私の問いに、モモちゃんは「もうすぐ」というイメージを送ってきた。

そして、前方から、これまでとは比較にならないほど強烈な「虚無の気配」が漂ってくるのを感じる。

どうやら、目的地は近いようね。

やがて、私たちは広大な空間へとたどり着いた。

そこは、まるで巨大な地底湖の跡のような場所で、中央には黒曜石でできた禍々しい祭壇が鎮座していた。

祭壇の上には、不気味な紋様が刻まれ、そこから黒い霧のようなものが絶えず噴き出し、周囲の空間を歪ませている。

あれが「虚無の祭壇」……。

見ているだけで、魂が吸い取られそうな、強烈な負のオーラを放っているわ。

そして、祭壇を守るように、数体の異形の存在が立ちはだかっていた。

それは、人間のようでありながら、体の一部が黒い影に侵食され、歪な形に変貌した怪物たちだった。

その目は虚ろで、ただ純粋な破壊衝動だけを宿しているように見える。

おそらく、これらが「虚無の尖兵」とでも呼ぶべき存在なのでしょう。

「ふふ、ようやくお出ましね。
あなたたちが、この王都を汚染している元凶というわけだ」

私は鉄塊を構え、口元に獰猛な笑みを浮かべる。

モモちゃんも、私の闘志に呼応するように、その体を戦闘形態へと変化させた。

銀色の装甲が、黒い瘴気の中でひときわ輝いて見える。

「アルノー、あなたは私の後ろに隠れていなさい。
せいぜい、私の華麗な戦いぶりをその目に焼き付けることね」

私はアルノーにそう言い放つと、躊躇なく虚無の尖兵たちへと突進した。

一体一体は、それほど強くない。

しかし、その数が多いのと、何より彼らの攻撃には「虚無の力」が宿っており、触れるだけでこちらの生命力を削り取っていく。

厄介な相手だわ。

「モモちゃん、あいつらの動きを止めて!」

モモちゃんは、その体から無数の粘着性の高い触手を伸ばし、尖兵たちの動きを封じ込める。

その隙に、私は鉄塊を振るい、一体また一体と、尖兵たちを粉砕していく。

黒い血飛沫が舞い、断末魔の叫びが地下迷宮に響き渡る。

ああ、なんて心地よい音色なのかしら。

しかし、尖兵たちは倒しても倒しても、まるで無限に湧き出てくるかのように数を減らさない。

それどころか、祭壇から噴き出す黒い霧が、倒れた尖兵たちの残骸を吸収し、新たな尖兵を生み出しているようだ。

(なるほど、まずはあの祭壇をどうにかしないと、埒が明かないわね)

私は戦いながらも冷静に状況を分析する。

このままでは、消耗戦になるだけ。

何か、一気に形勢を逆転させる手が必要だわ。

私は懐から『虚ろなる月の瞳』と『星影のクリスタル』、そして『炎鳥の心臓』を取り出した。

三つの「鍵」が、私の呼びかけに応えるように、それぞれ異なる色の光を放ち始める。

月光の銀、星影の青、そして炎鳥の赤。

三色の光が混じり合い、私の周囲に強大な魔力の渦を生み出した。

「さあ、見せてあげるわ。
聖女の本当の力をね!」

私の魂が、かつてないほどの高揚感と共に、破滅的な力を解放しようとしていた。
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