サイコパス聖女 〜裁きの鉄槌〜

シマセイ

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第49話:紅蓮の誘惑と虚実の駆け引き

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「お友達、ですって?
ふふ、面白いことを言うのね、魔女さん」

私は紅蓮の魔女の差し出された手を取らず、代わりに鉄塊を軽く肩に担ぎ直した。

彼女の赤い瞳は、まるで底なし沼のように私を引き込もうとしているけれど、残念ながら、その程度の誘惑に私が乗ると思った?

「あなたと私が、お友達?
それは、狼と羊が手を取り合うようなものかしら。
それとも、毒蛇同士が互いの牙を研ぎ合うような関係?」

私の言葉に、紅蓮の魔女は楽しそうに喉を鳴らした。

「どちらも魅力的だわ、聖女様。
でも、私はもっと建設的な関係を望んでいるのよ。
例えば……そうね、共通の敵を相手にする、一時的な協力関係なんてどうかしら?」

「共通の敵……ですって?」

「ええ。
あなたも薄々気づいているのでしょう?
私たち『影の評議会』は、一枚岩ではないの。
中には、あなたのような規格外の存在を、ただ排除しようとする短絡的な者たちもいる。
そして、もっと大きな……そう、あの『虚無の神』とやらに心酔し、世界そのものを無に帰そうと企む狂信者もね」

紅蓮の魔女の言葉は、私の興味を強く惹いた。

神官長も似たようなことを言っていたけれど、彼女はもっと内部の事情に詳しそうだわ。

「あなたは、そのどちらでもない、と?」

「ええ。
私はただ、この世界の『真理』を知りたいだけ。
そのためには、古の『鍵』を集め、封印を解き明かす必要がある。
そして、そのためなら、どんな手段も厭わないわ」

彼女の赤い瞳が、ギラリと野心の色を帯びる。

なるほど、この魔女は、神官長とはまた違ったタイプの野心家らしい。

そして、その目的のためなら、私と手を組むことも厭わない、と。

「それで、私に協力を求める、と?
私があなたを信用するとでも?」

「信用?
そんなものは必要ないわ、聖女様。
必要なのは、利害の一致。
あなたは『鍵』を集めたい。
私も『鍵』を集めたい。
そして、私たち双方にとって邪魔な存在がいる。
手を組む理由は、それで十分でしょう?」

紅蓮の魔女は、自信に満ちた表情で言い放つ。

確かに、彼女の言うことにも一理あるわね。

「影の評議会」の内部情報を得られるのは魅力的だし、邪魔な連中を始末する手助けをしてくれるなら、利用価値はあるかもしれない。

「いいわ。
一時的な協力関係、結んであげてもよろしくてよ。
ただし、私を裏切ろうなどと考えないことね。
その時は……あなたのその美しい赤い髪を、一本残らず焼き尽くしてあげるから」

私は、最高の笑顔で脅しをかける。

紅蓮の魔女は、私の言葉に怯むどころか、さらに楽しそうに笑った。

「クフフ、怖い怖い。
でも、そういうあなただからこそ、手を組む価値があるというものよ」

こうして、私と紅蓮の魔女、(名を「イグニス」というらしい)との間に、奇妙な同盟が結ばれた。

もちろん、互いに腹の底では何を考えているか分からない、危険な綱渡りのような関係だけれど、それがまたスリリングでいいじゃないの。

「では、イグニス。
その『太陽の神殿』とやらへ、案内してくれるのかしら?
それとも、まだ何か『試練』が残っているの?」

「もちろん、ご案内するわ。
ただし、その前に、少しだけ確認しておきたいことがあるの。
あなたの力が、本当に『影の評議会』の他の連中や、ましてや『虚無の神』の尖兵と渡り合えるほどのものなのかどうか……ね」

イグニスがそう言うと、彼女の周囲の空間が再び歪み、灼熱の炎が渦を巻き始めた。

どうやら、おしゃべりはここまで、ということらしい。

「いいわよ。
私の力の程、その身をもって味わわせてあげる。
ただし、手加減はしないから、泣き言は言わないでちょうだいね?」

私は鉄塊を構え、モモちゃんも臨戦態勢に入る。

神官長とアルノー、そして生き残った騎士たちは、この新たな展開に完全に置いてけぼりを食らっているようだわ。

まあ、彼らはただの観客なのだから、それでいいのだけれど。

聖女と魔女。

二つの強大な力が、灼熱の砂漠の幻影の中で、今まさに激突しようとしていた。

この戦いの先に何が待っているのか、私にも分からない。

でも、だからこそ、面白いじゃないの。
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