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第67話:凱旋の茶番と情報屋の密告
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王家の霊廟からの帰還は、静かなものだった。
神官長は、私とアルノー、そして気を失った騎士たちを秘密の通路から王宮の一室へと運び込み、何事もなかったかのように取り繕った。
彼のその手際の良さだけは、評価してあげてもいいわね。
数日後、王都は「聖女リリアーナ様、王家の霊廟の邪気を鎮める」という、神官長がでっち上げた物語に沸いていた。
もちろん、その裏で騎士たちが何人か行方不明になっていることなど、誰も気にしない。
私は再び完璧な聖女の仮面を被り、民衆の前に姿を現した。
「皆さまの祈りが、私に力を与えてくれました。
王家の安寧は、今や盤石なものとなりましょう」
私の言葉に、民衆は熱狂し、涙を流して感謝の祈りを捧げる。
この光景、何度見ても飽きないわ。
愚かな者たちが、私という存在にひれ伏す。
これ以上の快感があるかしら。
公務を終え、自室に戻ると、私は手の中で一つに融合しようとしている四つの「鍵」を眺めた。
月、星、炎、太陽。
四つの力が混じり合い、全ての色彩を飲み込んだかのような、禍々しくも美しい漆黒の水晶へと姿を変えつつあった。
これが完成した時、私は一体どんな力を手に入れるのかしら。
考えるだけで、身震いがするわ。
その時、バルコニーの方から、ドタッ!と間抜けな物音が聞こえた。
あら、この音は……。
「い、痛たた……。
また足を滑らせた……」
聞き覚えのある、情けない声。
私はクスクスと笑いながらバルコニーに出ると、案の定、そこには黒装束に身を包んだバーティが、植木鉢をひっくり返して尻餅をついていた。
「ごきげんよう、バーティ。
あなた、少しは学習するということを知らないのかしら?
そろそろ、正面から訪ねてきたらどう?」
「ひゃっ!リ、リリアーナ様!
ご、ご無事で何よりです!」
バーティは慌てて立ち上がり、私の前で深々と頭を下げる。
その丸い眼鏡が、またずり落ちそうになっているわ。
本当に、見ていて飽きない子ね。
「それで、何か面白い情報はあったのかしら?
あなたを私の専属情報屋にしてあげたのだから、それなりの働きは期待しているわよ?」
私の言葉に、バーティはゴクリと唾を飲み込み、懐からくしゃくしゃになったメモを取り出した。
「は、はい!
それが……大変なことになっております!」
「大変なこと?」
「はい!
リリアーナ様が全ての『鍵』を手に入れたという情報が、『影の評議会』に伝わったようで……内部は、大混乱に陥っているとのことです!」
「あらあら、それは愉快ね」
バーティの報告によると、評議会は完全に二つに割れているらしい。
神官長のような、私を利用しようとしていた派閥は、私が制御不能な力を手に入れたことに恐怖し、どう対応すべきか右往左往している。
一方で、最初から私を危険視し、排除しようとしていた強硬派は、「もはや猶予はない」として、私を抹殺するための最終手段を画策している、と。
「最終手段、ですって?
どんな手で、この私を殺そうというのかしら」
私が面白そうに尋ねると、バーティは声を潜めて答えた。
「そ、それが……彼らは、評議会が秘匿していた、最後の切り札を動かそうとしているようです。
その名は、『虚無の使徒』……」
「虚無の使徒?」
「はい……。
『虚無の神』の力を、不完全ながらもその身に宿した、恐るべき存在だと聞いています。
その力は、これまでの番人や、あの紅蓮の魔女すらも凌駕するとか……」
「へえ……」
私の口元が、自然と吊り上がる。
虚無の力、ね。
ちょうど、私もその力を手に入れたところよ。
どちらの「虚無」が本物か、試してみるのも面白そうだわ。
「それで、その『使徒』とやらは、どこにいるの?」
「現在、評議会の本拠地である『忘れられた都』で、覚醒の儀式の最終段階にあると……。
強硬派は、リリアーナ様が『鍵』の力を完全に掌握する前に、その使徒を差し向けるつもりのようです!」
バーティは、必死の形相で報告を終えた。
「そう。
ご苦労様、バーティ。
なかなか有益な情報だったわ」
私は彼の頭をポンと撫でてやる。
バーティは、ビクッと体を震わせながらも、どこか嬉しそうな顔をしていた。
単純で扱いやすい子。
(忘れられた都……『影の評議会』の本拠地、ね)
神官長からは聞き出せなかった、核心的な情報が手に入ったわ。
向こうが私を殺しに来るというのなら、こちらから出向いてあげるのも一興ね。
彼らの本拠地に乗り込んで、その自慢の「使徒」とやらもろとも、評議会を根絶やしにしてあげる。
「バーティ、あなたには次の仕事を与えるわ。
その『忘れられた都』への、一番安全で、一番早い道を調べなさい。
もし失敗したら……分かるわね?」
私の言葉に、バーティは顔面蒼白になりながらも、力強く頷いた。
「は、はい!
このバーティ、命に代えましても!」
「ふふ、期待しているわよ、私の可愛い情報屋さん」
バーティが慌てて部屋から去っていくのを見送りながら、私は手の中の黒いクリスタルを握りしめた。
四つの「鍵」が完全に一つとなり、その力は、もはや私の想像すら超えた領域に達しつつある。
聖女と評議会。
虚無と虚無。
さあ、始めましょうか。
この世界の運命を決める、戦いを。
神官長は、私とアルノー、そして気を失った騎士たちを秘密の通路から王宮の一室へと運び込み、何事もなかったかのように取り繕った。
彼のその手際の良さだけは、評価してあげてもいいわね。
数日後、王都は「聖女リリアーナ様、王家の霊廟の邪気を鎮める」という、神官長がでっち上げた物語に沸いていた。
もちろん、その裏で騎士たちが何人か行方不明になっていることなど、誰も気にしない。
私は再び完璧な聖女の仮面を被り、民衆の前に姿を現した。
「皆さまの祈りが、私に力を与えてくれました。
王家の安寧は、今や盤石なものとなりましょう」
私の言葉に、民衆は熱狂し、涙を流して感謝の祈りを捧げる。
この光景、何度見ても飽きないわ。
愚かな者たちが、私という存在にひれ伏す。
これ以上の快感があるかしら。
公務を終え、自室に戻ると、私は手の中で一つに融合しようとしている四つの「鍵」を眺めた。
月、星、炎、太陽。
四つの力が混じり合い、全ての色彩を飲み込んだかのような、禍々しくも美しい漆黒の水晶へと姿を変えつつあった。
これが完成した時、私は一体どんな力を手に入れるのかしら。
考えるだけで、身震いがするわ。
その時、バルコニーの方から、ドタッ!と間抜けな物音が聞こえた。
あら、この音は……。
「い、痛たた……。
また足を滑らせた……」
聞き覚えのある、情けない声。
私はクスクスと笑いながらバルコニーに出ると、案の定、そこには黒装束に身を包んだバーティが、植木鉢をひっくり返して尻餅をついていた。
「ごきげんよう、バーティ。
あなた、少しは学習するということを知らないのかしら?
そろそろ、正面から訪ねてきたらどう?」
「ひゃっ!リ、リリアーナ様!
ご、ご無事で何よりです!」
バーティは慌てて立ち上がり、私の前で深々と頭を下げる。
その丸い眼鏡が、またずり落ちそうになっているわ。
本当に、見ていて飽きない子ね。
「それで、何か面白い情報はあったのかしら?
あなたを私の専属情報屋にしてあげたのだから、それなりの働きは期待しているわよ?」
私の言葉に、バーティはゴクリと唾を飲み込み、懐からくしゃくしゃになったメモを取り出した。
「は、はい!
それが……大変なことになっております!」
「大変なこと?」
「はい!
リリアーナ様が全ての『鍵』を手に入れたという情報が、『影の評議会』に伝わったようで……内部は、大混乱に陥っているとのことです!」
「あらあら、それは愉快ね」
バーティの報告によると、評議会は完全に二つに割れているらしい。
神官長のような、私を利用しようとしていた派閥は、私が制御不能な力を手に入れたことに恐怖し、どう対応すべきか右往左往している。
一方で、最初から私を危険視し、排除しようとしていた強硬派は、「もはや猶予はない」として、私を抹殺するための最終手段を画策している、と。
「最終手段、ですって?
どんな手で、この私を殺そうというのかしら」
私が面白そうに尋ねると、バーティは声を潜めて答えた。
「そ、それが……彼らは、評議会が秘匿していた、最後の切り札を動かそうとしているようです。
その名は、『虚無の使徒』……」
「虚無の使徒?」
「はい……。
『虚無の神』の力を、不完全ながらもその身に宿した、恐るべき存在だと聞いています。
その力は、これまでの番人や、あの紅蓮の魔女すらも凌駕するとか……」
「へえ……」
私の口元が、自然と吊り上がる。
虚無の力、ね。
ちょうど、私もその力を手に入れたところよ。
どちらの「虚無」が本物か、試してみるのも面白そうだわ。
「それで、その『使徒』とやらは、どこにいるの?」
「現在、評議会の本拠地である『忘れられた都』で、覚醒の儀式の最終段階にあると……。
強硬派は、リリアーナ様が『鍵』の力を完全に掌握する前に、その使徒を差し向けるつもりのようです!」
バーティは、必死の形相で報告を終えた。
「そう。
ご苦労様、バーティ。
なかなか有益な情報だったわ」
私は彼の頭をポンと撫でてやる。
バーティは、ビクッと体を震わせながらも、どこか嬉しそうな顔をしていた。
単純で扱いやすい子。
(忘れられた都……『影の評議会』の本拠地、ね)
神官長からは聞き出せなかった、核心的な情報が手に入ったわ。
向こうが私を殺しに来るというのなら、こちらから出向いてあげるのも一興ね。
彼らの本拠地に乗り込んで、その自慢の「使徒」とやらもろとも、評議会を根絶やしにしてあげる。
「バーティ、あなたには次の仕事を与えるわ。
その『忘れられた都』への、一番安全で、一番早い道を調べなさい。
もし失敗したら……分かるわね?」
私の言葉に、バーティは顔面蒼白になりながらも、力強く頷いた。
「は、はい!
このバーティ、命に代えましても!」
「ふふ、期待しているわよ、私の可愛い情報屋さん」
バーティが慌てて部屋から去っていくのを見送りながら、私は手の中の黒いクリスタルを握りしめた。
四つの「鍵」が完全に一つとなり、その力は、もはや私の想像すら超えた領域に達しつつある。
聖女と評議会。
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さあ、始めましょうか。
この世界の運命を決める、戦いを。
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