【完結】勇者の孫は、自分が最強だとまだ知らない

シマセイ

文字の大きさ
47 / 65

第47話 英雄の帰還

しおりを挟む
『炎の礎石』を、その輝きと共に、目覚めさせた一行は、天衝山の山頂に立っていた。
四つの礎石は、全て、その力を取り戻し、『大いなる封印』は、再び、強固なものとなった。
世界の危機は、ひとまず、去ったのだ。

「ふう、終わった終わった!お腹すいたー!」

アッシュが、いつものように、呑気な声を上げる。
しかし、リリアナとアレクシスの心は、晴れやかではなかった。脳裏に焼き付いた、闇に眠る『厄災』の姿。いつか、再び、あれと、対峙する日が来る。その、漠然とした、しかし、確かな予感が、二人の肩に、重く、のしかかっていた。

下山は、行きとは、比べ物にならないほど、穏やかだった。
山の荒々しい気配は、すっかりと、鳴りを潜めている。

山の麓で、一行は、ドワーフの仲間たちとの、別れの時を迎えた。

「がっはっは!アッシュ、友よ!生涯で、最高の冒険だったぜ!岩で橋を作り、準備運動で、山の主を追い払う奴なんざ、後にも先にも、お前さんだけだろうよ!」

ブロックは、アッシュの背中を、思い切り、叩いた。その目には、少しだけ、寂しそうな色が、浮かんでいる。

「お前さんたちも、達者でな」
彼は、リリアナとアレクシスにも、力強い、尊敬の念がこもった、視線を送る。

「もし、また、山の力が必要になったら、これを、ドワーフの誰にでもいい、見せな。鉄鋼ドワーフ連邦、その全てが、お前さんたちの、味方になる」

ブロックは、そう言うと、特別な紋章が刻まれた、友情の証である、石のメダルを、アッシュに手渡した。
そして、一行は、陽気なドワーフたちに、手を振りながら、別れた。パーティは、再び、三人に戻った。

数週間後。
長い旅路の果て、三人は、ついに、懐かしい、アストリア王国の、王都へと、帰還した。
彼らは、もはや、ただの学生ではない。世界の危機を救った、若き英雄だ。
王宮へと召集された彼らを、国王、エリアス学院長、そして、セラフィーナ隊長が、最大の敬意をもって、出迎えた。

「……以上が、我々の任務の、全てです」

リリアナが、代表して、報告を終える。

王は、玉座から、ゆっくりと立ち上がると、三人の前に、歩み寄った。その瞳には、もはや、子供を見るような、優しさと、面白さはない。ただ、国の、そして、世界の、恩人に対する、深い、感謝と、尊敬の色が、浮かんでいた。

「面を上げよ、英雄たち。君たちが、この世界のために、成し遂げたことは、いかなる言葉をもってしても、賞賛しきれぬ。その名は、我が国の歴史に、永遠に、刻まれるだろう」

王は、その場で、三人に、相応しい、名誉と、褒賞を、与えた。
リリアナには、王立図書館の、全ての書庫への、自由なアクセスを許可する、特別な研究員の地位を。
アレクシスには、彼の家名を、さらに、高める、名誉騎士の称号を。

そして、最後に、王は、アッシュに向き直った。

「アッシュ・リンクス。君は、褒美として、何を、望む?」

アッシュは、うーん、と、しばらく、真剣に、考え込んだ。
そして、ぱあっと、顔を輝かせると、言った。

「はい!王宮の、料理長さんに、弟子入りしたいです!この前、ここで食べた、プリンの作り方を、教えてほしいんです!」

玉座の間は、一瞬、静まり返った。
そして、次の瞬間、誰からともなく、くすくす、と、温かい笑い声が、漏れ始めた。やがて、それは、部屋全体を包む、大きな、優しい、笑いの渦となった。
王は、涙を浮かべながら、笑い、そして、頷いた。

「……よかろう!すぐに、手配させよう!」

アッシュの、最後の願いは、世界の平和でも、莫大な富でもなく、ただ、美味しいプリンの、レシピだった。

季節は、巡った。
アッシュたちは、再び、王立学院の門を、くぐった。
それは、彼らが、旅に出る前と、何も変わらない、いつもの風景のはずだった。

だが、何かが、決定的に、変わっていた。
中庭を歩く、彼らの姿を見つけると、周りの学生たちが、ぴたり、と足を止める。
そして、そこには、もはや、嘲笑も、奇異の目も、恐怖の色もない。
ただ、静かな、そして、心からの、尊敬の念だけがあった。
学生たちは、自然と、道を開け、英雄たちの帰還に、深く、頭を垂れた。

もちろん、アッシュは、そんな周囲の変化に、全く、気づいていない。
彼は、リリアナとアレクシスに、これから教わる、究極のプリンの、作り方について、熱心に、語っている。

「やっぱり、卵と、牛乳が、大事なんだって!じいちゃんも、言ってた!」

その、あまりにも、いつも通りの光景に、リリアナは、微笑んだ。
アレクシスもまた、その口元に、自分でも、気づかないくらいの、穏やかな笑みを、浮かべていた。

大いなる任務は、終わった。
世界は、ひとまず、平穏を取り戻した。
しかし、あの、闇に眠る『厄災』が、完全に、消え去ったわけではない。
『大いなる封印』が、永遠に、続く保証も、どこにもない。

だが、今は、ただ。
英雄の孫は、友人たちと共に、笑い、そして、次のおやつのことを、考えている。

世界の本当の危機が、再び、訪れる、その時まで。
彼の、規格外で、呑気で、そして、最高に、幸せな日常は、まだ、もう少しだけ、続いていく。

(第一部 完)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です1~またクビになったけど、親代わりのメイドが慰めてくれるので悲しくなんてない!!~

あきくん☆ひろくん
ファンタジー
仕事を失い、居場所をなくした青年。 彼に仕えるのは――世界を救った英雄たちだった。 剣も魔法も得意ではない主人公は、 最強のメイドたちに守られながら生きている。 だが彼自身は、 「守られるだけの存在」でいることを良しとしなかった。 自分にできることは何か。 この世界で、どう生きていくべきか。 最強の力を持つ者たちと、 何者でもない一人の青年。 その主従関係は、やがて世界の歪みと過去へと繋がっていく。 本作は、 圧倒的な安心感のある日常パートと、 必要なときには本格的に描かれる戦い、 そして「守られる側の成長」を軸にした 完結済み長編ファンタジーです。 シリーズ作品の一編ですが、本作単体でもお楽しみいただけます。 最後まで安心して、一気読みしていただければ幸いです。

無能令嬢、『雑役係』として辺境送りされたけど、世界樹の加護を受けて規格外に成長する

タマ マコト
ファンタジー
名門エルフォルト家の長女クレアは、生まれつきの“虚弱体質”と誤解され、家族から無能扱いされ続けてきた。 社交界デビュー目前、突然「役立たず」と決めつけられ、王都で雑役係として働く名目で辺境へ追放される。 孤独と諦めを抱えたまま向かった辺境の村フィルナで、クレアは自分の体調がなぜか安定し、壊れた道具や荒れた土地が彼女の手に触れるだけで少しずつ息を吹き返す“奇妙な変化”に気づく。 そしてある夜、瘴気に満ちた森の奥から呼び寄せられるように、一人で足を踏み入れた彼女は、朽ちた“世界樹の分枝”と出会い、自分が世界樹の血を引く“末裔”であることを知る——。 追放されたはずの少女が、世界を動かす存在へ覚醒する始まりの物語。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【完結】令嬢は売られ、捨てられ、治療師として頑張ります。

まるねこ
ファンタジー
魔法が使えなかったせいで落ちこぼれ街道を突っ走り、伯爵家から売られたソフィ。 泣きっ面に蜂とはこの事、売られた先で魔物と出くわし、置いて逃げられる。 それでも挫けず平民として仕事を頑張るわ! 【手直しての再掲載です】 いつも通り、ふんわり設定です。 いつも悩んでおりますが、カテ変更しました。ファンタジーカップには参加しておりません。のんびりです。(*´꒳`*) Copyright©︎2022-まるねこ

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

異世界に転生したら人生再スタート、追放された令嬢は恋と復讐で輝きます

タマ マコト
ファンタジー
現代日本で“都合のいい人間”として心をすり減らし、27歳で人生に幕を下ろした女性は、異世界の貴族令嬢リュミエールとして15歳に転生する。 王太子の婚約者として完璧を求められる日々の中、冤罪と裏切りによって婚約破棄と追放を言い渡され、すべてを失う。 だがその瞬間、彼女は悟る――選ばれる役割の人生は、もう終わったのだと。 追放の先で、彼女は自分の意思で生き直すための一歩を踏み出す。

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

【完結】それはダメなやつと笑われましたが、どうやら最高級だったみたいです。

まりぃべる
ファンタジー
「あなたの石、屑石じゃないの!?魔力、入ってらっしゃるの?」 ええよく言われますわ…。 でもこんな見た目でも、よく働いてくれるのですわよ。 この国では、13歳になると学校へ入学する。 そして1年生は聖なる山へ登り、石場で自分にだけ煌めいたように見える石を一つ選ぶ。その石に魔力を使ってもらって生活に役立てるのだ。 ☆この国での世界観です。

処理中です...