出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ

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第百二十八話:異世界の記憶

父との交渉を終え、僕のノーランドにおける自治権は事実上確定した。

王家からの正式な認可が下りるまで、僕は王都の本邸に滞在することを余儀なくされたが、僕の心はすでに遥か北の僕の王国へと飛んでいた。

執務室の机にノーランドの詳細な地図と領地の現状をまとめた報告書の束を広げる。
その一枚一枚をめくるたびに、僕の頭の中では未来の王国の姿がより鮮明になっていった。
豊かな鉱物資源。
勤勉な領民。
僕への絶対的な忠誠心。
だが同時に、問題も山積みだった。

厳しい冬を越すための食料が慢性的に不足している。
暖房や採掘に使う薪のために貴重な森林資源が年々減少している。
そして町の衛生環境は劣悪で、冬には多くの子供たちが些細な病気で命を落とすという。

これらは魔力や剣技だけでは解決できない、国家運営の根幹に関わる問題だ。
僕は腕を組み静かに思考の海へと沈んだ。
どうすればこの凍てついた大地に本当の豊かさをもたらすことができるのか。

その時、僕の脳裏にふと一つの光景が蘇った。
それは僕がルキウス・フォン・アークライトとして生まれる前の遠い記憶。
日本の高校生だった僕が退屈な世界史の授業中に、窓の外を眺めているありふれた午後の風景。
教師が熱心に語っていたのは、確かヨーロッパの中世における農業革命の話だった。

『——いいか皆。中世ヨーロッパの農業生産性を飛躍的に向上させたのがこの「三圃式農業」だ。
土地を三つに分け冬小麦、夏小麦、そして休耕地としてローテーションさせることで、土地の地力を回復させながら収穫量を安定させた。
これがその後の人口増加の大きな要因となったんだ』

その退屈で眠たいだけだったはずの授業の記憶。それが今僕の頭の中で一つの天啓となって輝いた。

「……そうだ。これだ」

僕はすぐに羊皮紙を広げるとペンを走らせた。
このノーランドの痩せた土地。
ここで同じ作物を作り続ければ土地が疲弊するのは当たり前だ。
だがもしここに三圃式農業を導入したら? 
いや、それ以上の改良型四圃式農業。
小麦だけでなく家畜の飼料となるカブやクローバーを組み合わせれば、冬の間の食肉問題も同時に解決できる。

さらに僕は思い出す。
同じ授業で教師が雑談として話していた上下水道の概念。
汚水と飲み水を分離する。
ただそれだけのことで感染症による死亡率は劇的に低下する。
僕はベイル教授から得た『建築工学』の知識を元に、グレイロックの町のための最も効率的な上下水道の設計図を描き始めた。

僕の頭の中には宝の山が眠っていた。
それは僕が日本の高校生として当たり前のように享受していた教育。
科学、歴史、数学、そして医学の基礎知識。
この剣と魔法の世界では忘れ去られてしまった、あるいはまだ発見すらされていない数百年分の人類の叡智。
それこそが僕だけが持つ最強の「チート」能力だった。

僕はこれまで自らの力を【サブスクリプション】というスキルに依存しすぎていたのかもしれない。
だが本当の僕の力は、そのスキルをどう使うかを決定する、僕自身の魂に刻まれたこの異世界の記憶そのものなのだ。

僕は、手元にある二つの世界の知識を組み合わせる。
ノーランドの魔法技術と僕の前世の科学技術。その二つが融合した時、僕の王国はこの大陸のどの国も到達し得なかった、全く新しい文明の形を手に入れるだろう。

僕は描き上げた新しい設計図を見つめていた。それはもはやただの統治計画ではない。
全く新しい文明を、ゼロから創造するための壮大な設計図だった。
コンコン、と扉がノックされ、セバスがお茶を運んできた。
僕は慌ててその設計図を他の書類の下に隠す。

「ルキウス様。何やら新しい『作品』の構想でも練っておいででしたかな」

彼の鋭い目は、僕の僅かな動揺を見逃さなかった。
僕はただ静かに微笑み返した。

「ああ、セバス。ノーランドは僕にとって最高の画用紙だよ。どんな絵でも描ける」

彼はそれ以上、何も聞かず静かに一礼して部屋を出ていった。
僕の本当の野望。その計り知れない大きさに、彼がどこまで気づいているのか。
それは僕にも、まだ分からなかった。

だが、確かなことは一つ。僕の頭脳にある、この異世界の知識こそが、僕の王国を築き上げる最強の武器となるだろうということだ。

僕は一日も早く、ノーランドへ戻りたくて仕方がなかった。
僕の新しい文明の礎となる、最初の一石を置くために。

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