出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ

文字の大きさ
129 / 168

第百二十九話:王の勅令

父との交渉を終え、僕のノーランドにおける自治権は事実上確定した。

王家からの正式な認可が下りるまで、僕は王都の本邸に滞在することを余儀なくされたが、僕の心はすでに遥か北の僕の王国へと飛んでいた。
執務室の机にノーランドの詳細な地図と領地の現状をまとめた報告書の束を広げる。
その一枚一枚をめくるたびに、僕の頭の中では未来の王国の姿がより鮮明になっていった。

そしてついに一通の召喚状が僕の元へと届けられた。
それはアークライト侯爵家ではなく、僕個人——ルキウス・フォン・アークライト宛に、王家から直接送られてきたものだった。

「……来たか」
僕は静かに呟いた。

王宮へと向かう朝、母イザベラが僕の部屋を訪れ、僕の身なりを自らの手で整えた。

「いいことルキウス。今日のあなたはアークライト家の駒であると同時に、私という打ち手の意図を汲んで動く駒でなければなりません。決して余計なことは考えず、そして語らず、ただ私の教え通りに振る舞いなさい」

彼女の冷たい指先が、僕の襟元を直す。
それは、愛情ではなく、道具の手入れをする職人の指つきだった。
部屋を出る直前、僕の後ろに控えていたセバスが、静かに僕だけに聞こえる声で囁いた。

「——王は、老獪でございますぞ、ルキウス様。時に、作り上げた完璧な嘘よりも、不完全な真実の方が、人の心を動かすこともございます」

母とは正反対の助言。
僕はその二つの言葉を胸に、王宮へと向かった。

王宮の謁見の間は、僕が想像していた以上に巨大で、そして豪華絢爛だった。
磨き上げられた大理石の床に僕の足音が響く。両脇には王国中の有力貴族たちがずらりと並び、その好奇と警戒に満ちた視線が僕へと突き刺さる。
僕は僕の新しいスキルを使い、その視線に含まれる感情の色を読んでいた。
嫉妬、不信、そして何よりも、僕という未知の存在に対する純粋な恐怖。

僕は父と共に玉座の前へと進み、深く膝を折った。
玉座に座るのは、この王国の頂点に君臨する老王アルフォンス三世。
その姿は一見好々爺のようにも見えるが、その瞳の奥にはセバスの言った通り、全てを見透かすかのような鋭い光が宿っていた。

やがて紋章官が高らかに王の勅令を読み上げる。

「——ルキウス・フォン・アークライトを、新たに北の辺境伯として叙する! その領地ノーランドを、王国の安全保障に寄与する『特別開発領』と定め、その統治に関する全権を委任する!」

その言葉に謁見の間がどよめいた。
出来損ないの三男坊への追放ではなかった。
それは新しい権力者の誕生を告げる宣言だった。

父が恭しくその勅令を受け取った後、老王が静かに口を開いた。その視線は父ではなく、僕へと真っ直ぐに向けられていた。

「……顔を上げよ、北の辺境伯」

僕はゆっくりと立ち上がった。

「貴様の噂は聞き及んでおる。ある者は貴様を怪物と言い、ある者は奇跡の子と言う。……儂の目には、貴様はただの面白い小僧にしか見えんがな」

王は楽しそうに笑った。

「——して、その面白い小僧に一つ問おう。貴様は、その誰もが見捨てた北の不毛の土地で、一体何を築くつもりだ?」

謁見の間の全ての視線が僕に集中する。
父と母の緊張が僕にも伝わってきた。
僕の答え一つで全てが決まる。
僕はセバスの助言の意味を、そして母の教育の意味を、同時に理解していた。
僕は王のその鋭い瞳を真っ直ぐに見つめ返すと、はっきりと、そして誠実に答えた。

「はい、陛下。私が築きたいのはただ一つ。この偉大なる王国の北を守る、最強の『盾』でございます」

「……盾、だと?」

「左様でございます。豊かな土地は忠実な民を育みます。そして忠実な民こそが、いかなる城壁にも勝る最強の盾となる。私の野心はただ、陛下の王国の最も寂れた片隅を、最も強固な礎石へと変えること。それ以外にございません」

「その盾、あまりに強固すぎれば、いずれこの玉座に刃を向けることにはならんかの?」

「陛下。盾は刃を持ちませぬ。ただひたすらに守るのみ。私が守りますのは、この王国の北の国境。そして、その地で陛下に忠誠を誓う民草でございます。私の盾が強固であればあるほど、陛下の御威光は、安泰となりましょう」

僕のその答え。謁見の間に深い沈黙が落ちた。
やがて老王が声を上げて笑った。

「……くっくっく。面白い! 実に面白い答えよ! よかろう辺境伯! その盾、どれほどのものとなるか、この儂がしかと見届けてやろう!」

謁見は終わった。
僕は父と共に玉座の間を後にする。
僕の背中に突き刺さる数多の視線。
その意味が以前とは全く違うものになっているのを僕は感じていた。

父は僕に何も言わなかった。
だがその横顔には、僕という息子に対するこれまでの侮蔑とは違う、畏れと、そしてほんの少しの期待が入り混じった複雑な色が浮かんでいた。
僕の戦いは終わった。そして、本当の僕の人生が始まる。

「セバス」

王宮を出る馬車の中で、僕は静かに命じた。

「ノーランドへ戻るぞ。……僕たちの城へ」

あなたにおすすめの小説

【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。 前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。 その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主

雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。 荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。 十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、 ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。 ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、 領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。 魔物被害、経済不安、流通の断絶── 没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。 新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?