【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

第36話：追手の影と隠れ蓑の糸

クランベルの宿。
市場の喧騒が遠く響き、  
丘の向こうに森が広がる。  

リナが部屋に入ってきた。  
「衛兵に盗賊を渡したよ。  
賞金が出るってさ。  
少し休めるな。」  
弓を壁に立てかけ、  
革の鞄を床に置く。  

「良かった。  
今日は、ゆっくりしよう…」  
誠也が微笑む。  

だが、その時、  
宿の下からざわめきが上がる。  
「旅人の誠也って奴、  
ここにいるのか？」  
低く太い声が響き、  
足音が階段を登る。  

誠也が窓から覗く。  
革鎧の男たちが馬を止め、  
宿を取り囲む。  
胸にエルドナの紋章が光る。  
「調査団……！  
俺を追ってきたのか？」  

リナが弓を手に持つ。  
「エルドナの連中か？  
お前、何かやったのか？」  

「能力を隠してただけだ。  
バレたら面倒になる。  
逃げよう、リナ！」  

二人は窓から裏へ飛び降りる。  
石畳に足音が響き、  
路地を駆ける。  
調査団の声が追う。  
「見つけたぞ！見失うな！  
あいつを捕えろ！」  

オフロードバイクに飛び乗り、  
クランベルを後にする。  
道が丘へ続き、  
山岳地帯へ入る。  
岩がゴツゴツと並び、  
風が冷たくなる。  

リナが後ろで言う。  
「山なら隠れやすい。  
でも、追ってくるぞ！」  

馬の蹄が遠く響き、  
調査団が近づく。  
誠也がバイクを急がせ、  
岩陰に隠れる。  
「このままじゃ見つかる。  
何か隠れる道具が欲しい。」  

リナが鞄を漁る。  
「布ならある。  
前に買った残りだ。  
使えるか？」  

誠也が頷く。  
「隠れ蓑マントを  
作り直そう。  
時間がないけど、やるしかない。」  

バイクを止め、  
岩の影で作業を始める。  
灰色の布を広げ、  
ナイフで切り取る。  
「肩から膝まででいい。  
軽くしないと。」  

リナが布を押さえる。  
「私が端を縫うよ。  
急げ！」  
針と糸で素早く縫い、  
形を整える。  

誠也が服から糸を解き、  
布に結びつける。  
「魔石がないけど、  
一時的に力を込められる」  
目を閉じ、  
「姿と気配を隠せ」と意識を集中。  

布が揺れ、  
体に馴染む。  
羽織ると、  
輪郭が薄れ、  
岩に溶け込む。  
「できた。  
これで隠れられる。」  

リナが感心する。  
「お前、すごいな。  
私も隠れるよ。」  
彼女も布を被る。  

調査団が近づく。  
リーダーらしき男が馬を止め、  
部下に命じる。  
「宰相の命令だ。  
誠也の捕縛をしくじるな。  
見つけ次第、縛って連れ帰れ！」  

部下が岩を回り、  
剣を手に探す。  
リーダーが馬上で独り言を呟く。  
「やつの力、  
軍事利用できれば 、
エルドナの敵は震えるぜ……。」  

誠也が息を殺す。  
「宰相？  
何で俺を……？」  
マントが風に揺れず、  
気配を消す。  

調査団が通り過ぎ、  
遠くへ去る。  
「足跡が消えたぞ！  
別の道を探せ！」  

「撒いたか……。」  
誠也がマントを脱ぐ。  
力が消え、  
布が普通に戻る。  

リナが息をつく。  
「助かった。  
でも、宰相って何だ？  
お前、何か知ってるのか？」  

「いや、分からない。  
エルドナで能力を使ってたのが  
バレただけだと思ってた。  
何か大きな理由があるのかも。」  

リナが眉を寄せる。  
「調査団のリーダーが  
妙なこと言ってたな。  
軍事とか何とか。  
お前、狙われてるぞ。」  

「静かに暮らしたいだけなのに。  
面倒だな……。」  

二人は山を下り、  
川沿いの村へ向かう。  
木造の家が並び、  
水車がゆっくり回る。  
村人が釣り竿を手に笑う。  
「旅人か？  
魚が釣れたぞ、よかったら食うか？」  

誠也が答える。  
「ありがとう。  
少し休ませてください。」  

村の宿で休息。  
リナが言う。  
「調査団、  
また来るかもしれない。  
どうする？」  

「フィアルに戻るか、  
別の国に行くか。  
クランベルは危ないな。」  

「私は森が好きだけど、  
お前と一緒なら  
どこでもいいよ。  
次は追手を撒く何か、  
作るか？」  

誠也が笑う。  
「そうだな。  
リナと一緒なら、  
何とかやれそうだ。」  

窓から川が見え、  
水音が静かに響いていた。