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第二十話:断罪への序曲
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貴族議会におけるアシュフォード公爵エリオットへの糾弾と、特別調査委員会の設置及び公爵の権限凍結という決定は、王都アステリアに激震をもたらした。
長年、絶対的な権力と富を誇ってきたアシュフォード公爵家の、まさに土台から崩れ落ちる音だった。
当事者であるエリオットは、議会の決定直後こそ激しい怒りと屈辱に身を震わせていたが、すぐに裏工作へと動き出した。
長年培ってきた貴族社会でのコネクションを最大限に利用し、調査委員会のメンバーに圧力をかけ、調査を遅延させようと画策した。
また、不正の証拠となる書類の隠滅や、口封じのために重要な証人を脅迫することも試みた。
しかし、彼の悪あがきは、ことごとくアリアドネたちの先手を打たれる結果となる。
辺境伯アルフレッドとアルバン元薬草管理官は、調査委員会のメンバー構成に細心の注意を払い、公正かつ厳格な人物を選任していたため、エリオットの圧力は通用しない。
証拠隠滅や証人脅迫の動きも、ルシアンの情報網と、アリアドネの鋭い洞察力によって事前に察知され、その試みは失敗に終わるどころか、かえってエリオットの立場を悪化させる新たな証拠として積み上げられていった。
「なぜだ……なぜ何もかもが上手くいかんのだ!」
エリオットの苛立ちは募る一方で、その矛先は最も身近な存在である妻リディアへと向けられた。
「全てお前のせいだ!お前が余計な贅沢をし、私の評判を落としたからだ!」
リディアは、夫からの罵声と、日に日に冷たくなっていく世間の視線に怯え、アシュフォード公爵邸の豪奢な一室に引きこもり、ヒステリックに泣き叫ぶ日々を送っていた。
かつて彼女の周りを蝶のように舞っていた取り巻きの貴婦人たちは、手のひらを返したように誰一人として見舞いに訪れることはなく、むしろ陰では「自業自得だわ」「あんな女、最初から公爵夫人の器ではなかったのよ」と嘲笑している始末。
頼みの綱であった実家のウェルズ男爵家も、アシュフォード公爵家の没落に巻き込まれることを恐れ、リディアを見捨てたも同然だった。
彼女は、自分が築き上げてきたと思っていた華やかな世界が、いかに脆く、偽りに満ちたものであったかを、今更ながら思い知らされていた。
特別調査委員会によるアシュフォード公爵家の不正調査は、辺境伯が提示した証拠を突破口に、驚くべき速さで進展した。
帳簿の徹底的な監査、関係者への聞き取り調査、そして鉱山開発現場への立ち入り検査。
その過程で、鉱山開発における不正や健康被害だけでなく、エリオットが過去数年間にわたって行ってきた、他の貴族領との土地取引における詐欺まがいの行為や、公的な事業を隠れ蓑にした私的な利益誘導、さらにはアリアドネを追放した際の不当な財産分与の疑惑までもが、次々と明るみに出始めたのだ。
その悪事の数々は、王都の民衆だけでなく、多くの貴族たちをも戦慄させた。
アリアドネは、これらの調査の進捗をルシアンを通じて把握しつつも、表立っては関与せず、静かに「瑠璃色の薬草店」の日常を守っていた。
しかし、彼女の店は、もはや単なる薬草店ではなかった。
アシュフォード公爵家のスキャンダルで揺れる王都において、アリアドネの誠実な人柄と、彼女が調合する薬草の持つ癒しの力は、多くの人々にとって心の拠り所となっていた。
公爵家の横暴に心を痛めていた貴族、先の見えない不安に駆られる商人、そして、ただ純粋に健康を願う庶民たち。
彼らは、アリアドネの穏やかな笑顔と、温かいハーブティーに慰められ、明日への希望を見出していく。
「瑠璃色の薬草店」は、騒然とする王都の中で、まるで嵐の中の灯台のように、確かな光を放ち続けていた。
ルシアンの新聞「王都クロニクル」は、調査委員会の動きや、アシュフォード公爵家の新たな疑惑を連日トップ記事で報じ続けた。
そのペンは鋭く、しかし常に事実に基づいており、王都の世論は完全にアシュフォード公爵家を見限り、厳正な処罰を求める声が日増しに高まっていった。
これまでエリオットの権勢を恐れて沈黙を守っていた被害者たちも、次々と調査委員会に名乗り出て、その悲痛な訴えは、公爵家の罪の深さをさらに浮き彫りにした。
アシュフォード公爵家は、完全に社会から孤立した。
エリオットは、かつての威厳を失い、やつれ果てた姿で調査委員会の聴取に応じる日々。
リディアは、誰からも見捨てられ、豪奢な屋敷の中でただ怯え、現実から逃避するように高価な酒を呷(あお)るだけ。
彼らがかつて誇った富も権力も、もはや砂上の楼閣のように崩れ去ろうとしていた。
そして、ついに貴族議会において、アシュフォード公爵エリオットの爵位剥奪、全財産の没収、そして夫妻の法的責任を問うための最終的な採決が行われる日が、目前に迫っていた。
アリアドネは、その知らせをアルバン元薬草管理官からの手紙で受け取った。
手紙には、こうも記されていた。
『アリアドネ殿、君が蒔いた勇気の種は、多くの人々の心に希望という花を咲かせた。そして、悪しき者たちには、必ずや相応しき裁きが下されるだろう。君の再生の物語は、多くの者を勇気づけるはずじゃ。』
アリアドネは、その手紙を胸に抱きしめ、静かに目を閉じた。
長かった復讐の道のりが、ようやく終わろうとしている。
しかし、それは新たな始まりでもあるのだと、彼女は感じていた。
偽りの愛と裏切りによって全てを失ったあの日から、自分の力で掴み取った「再生」。
その意味を、彼女は今、深く噛みしめていた。
裁きの日、エリオットとリディアがどのような末路を辿るのか。
長年、絶対的な権力と富を誇ってきたアシュフォード公爵家の、まさに土台から崩れ落ちる音だった。
当事者であるエリオットは、議会の決定直後こそ激しい怒りと屈辱に身を震わせていたが、すぐに裏工作へと動き出した。
長年培ってきた貴族社会でのコネクションを最大限に利用し、調査委員会のメンバーに圧力をかけ、調査を遅延させようと画策した。
また、不正の証拠となる書類の隠滅や、口封じのために重要な証人を脅迫することも試みた。
しかし、彼の悪あがきは、ことごとくアリアドネたちの先手を打たれる結果となる。
辺境伯アルフレッドとアルバン元薬草管理官は、調査委員会のメンバー構成に細心の注意を払い、公正かつ厳格な人物を選任していたため、エリオットの圧力は通用しない。
証拠隠滅や証人脅迫の動きも、ルシアンの情報網と、アリアドネの鋭い洞察力によって事前に察知され、その試みは失敗に終わるどころか、かえってエリオットの立場を悪化させる新たな証拠として積み上げられていった。
「なぜだ……なぜ何もかもが上手くいかんのだ!」
エリオットの苛立ちは募る一方で、その矛先は最も身近な存在である妻リディアへと向けられた。
「全てお前のせいだ!お前が余計な贅沢をし、私の評判を落としたからだ!」
リディアは、夫からの罵声と、日に日に冷たくなっていく世間の視線に怯え、アシュフォード公爵邸の豪奢な一室に引きこもり、ヒステリックに泣き叫ぶ日々を送っていた。
かつて彼女の周りを蝶のように舞っていた取り巻きの貴婦人たちは、手のひらを返したように誰一人として見舞いに訪れることはなく、むしろ陰では「自業自得だわ」「あんな女、最初から公爵夫人の器ではなかったのよ」と嘲笑している始末。
頼みの綱であった実家のウェルズ男爵家も、アシュフォード公爵家の没落に巻き込まれることを恐れ、リディアを見捨てたも同然だった。
彼女は、自分が築き上げてきたと思っていた華やかな世界が、いかに脆く、偽りに満ちたものであったかを、今更ながら思い知らされていた。
特別調査委員会によるアシュフォード公爵家の不正調査は、辺境伯が提示した証拠を突破口に、驚くべき速さで進展した。
帳簿の徹底的な監査、関係者への聞き取り調査、そして鉱山開発現場への立ち入り検査。
その過程で、鉱山開発における不正や健康被害だけでなく、エリオットが過去数年間にわたって行ってきた、他の貴族領との土地取引における詐欺まがいの行為や、公的な事業を隠れ蓑にした私的な利益誘導、さらにはアリアドネを追放した際の不当な財産分与の疑惑までもが、次々と明るみに出始めたのだ。
その悪事の数々は、王都の民衆だけでなく、多くの貴族たちをも戦慄させた。
アリアドネは、これらの調査の進捗をルシアンを通じて把握しつつも、表立っては関与せず、静かに「瑠璃色の薬草店」の日常を守っていた。
しかし、彼女の店は、もはや単なる薬草店ではなかった。
アシュフォード公爵家のスキャンダルで揺れる王都において、アリアドネの誠実な人柄と、彼女が調合する薬草の持つ癒しの力は、多くの人々にとって心の拠り所となっていた。
公爵家の横暴に心を痛めていた貴族、先の見えない不安に駆られる商人、そして、ただ純粋に健康を願う庶民たち。
彼らは、アリアドネの穏やかな笑顔と、温かいハーブティーに慰められ、明日への希望を見出していく。
「瑠璃色の薬草店」は、騒然とする王都の中で、まるで嵐の中の灯台のように、確かな光を放ち続けていた。
ルシアンの新聞「王都クロニクル」は、調査委員会の動きや、アシュフォード公爵家の新たな疑惑を連日トップ記事で報じ続けた。
そのペンは鋭く、しかし常に事実に基づいており、王都の世論は完全にアシュフォード公爵家を見限り、厳正な処罰を求める声が日増しに高まっていった。
これまでエリオットの権勢を恐れて沈黙を守っていた被害者たちも、次々と調査委員会に名乗り出て、その悲痛な訴えは、公爵家の罪の深さをさらに浮き彫りにした。
アシュフォード公爵家は、完全に社会から孤立した。
エリオットは、かつての威厳を失い、やつれ果てた姿で調査委員会の聴取に応じる日々。
リディアは、誰からも見捨てられ、豪奢な屋敷の中でただ怯え、現実から逃避するように高価な酒を呷(あお)るだけ。
彼らがかつて誇った富も権力も、もはや砂上の楼閣のように崩れ去ろうとしていた。
そして、ついに貴族議会において、アシュフォード公爵エリオットの爵位剥奪、全財産の没収、そして夫妻の法的責任を問うための最終的な採決が行われる日が、目前に迫っていた。
アリアドネは、その知らせをアルバン元薬草管理官からの手紙で受け取った。
手紙には、こうも記されていた。
『アリアドネ殿、君が蒔いた勇気の種は、多くの人々の心に希望という花を咲かせた。そして、悪しき者たちには、必ずや相応しき裁きが下されるだろう。君の再生の物語は、多くの者を勇気づけるはずじゃ。』
アリアドネは、その手紙を胸に抱きしめ、静かに目を閉じた。
長かった復讐の道のりが、ようやく終わろうとしている。
しかし、それは新たな始まりでもあるのだと、彼女は感じていた。
偽りの愛と裏切りによって全てを失ったあの日から、自分の力で掴み取った「再生」。
その意味を、彼女は今、深く噛みしめていた。
裁きの日、エリオットとリディアがどのような末路を辿るのか。
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