タクシー運転手さんと

クレイン

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タクシー運転手さんとの出会い

出会う

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「あー買った買った。日頃貯め込んでるからこういうときに使わないと。経済回さんといかんからなぁ、しょうがないしょうがない。」
 背負ったリュックの重さを感じながら罪悪感を減らすために呟く。
 衝動的に県を3つ跨いで大都会まで来て、ハマってるV-tuberのポップアップショップに行って、5万円近くのグッズを買った。
 せっかくの連休の使い方を間違えた気がしてならない。でもグッズはこの期間しか手に入らないから。僕の行動は正しい、はずだ。

 グッズを買うためだけに都会に出向いたが、流石にすぐ帰るのはもったいない。朝方から移動していたのでまだ11時過ぎだしせっかくだから色々見てから帰ろう。
 行き先を考えながらキョロキョロしていると、路上の脇に停まっているタクシーを見つけた。
 何かのネタでタクシーの運転手はいい場所を知っていることが多いと聞いた。この際だから冒険してみよう。

 近付くと空車の文字。コンコン 窓を軽く叩くとすぐに後部座席のドアが開いた。
「こんにちは、どこまで行きましょうか。」
 乗り込むとドアが閉まり運転手に挨拶された。気が付かなかったが女性の運転手だ。しかも飛び切りの美人。
「……こんにちは。…すみません行き先決まってなくて、昼ご飯にいい感じのところ教えてくれません?」
「お昼ご飯ですか?……ちょっと待ってくださいね。」
 顔に見蕩れて返答が遅くなってしまった。彼女はスマホを取り出して調べてくれているようだ。前にあるネームプレートを見ると“上運天鏡花”とある。名前も迫力があって厳かな感じがする。

「けっこうお腹減ってます?」
「まぁ朝から何も食ってないんでぺこぺこですね。」
「それはそれは、…………ここのラーメン屋なんてどうですか?」
 上半身ごと振り返りスマホの画面を見せてくる。大きな胸が腕で押し潰されて形を変えている。なるべく胸を見ないようにしながら画面を見ると美味しそうなチャーシュー麺が映っていた。
「美味しそうですね。ここからどれくらいですか?」
「そうですね。20分くらいですかね。」
「じゃあここまでお願いします。」
「かしこまりました。」
 エンジンがかかって発進した。
 
「お客さん、観光ですか?」
 今は信号待ち中。
「ああ、いえ。好きなキャラクターのショップが期間限定であったのでグッズを買いに来たんです。」
「そうなんですか。アニメですか?」
「いえ、V-tuberのやつで。アニメではないですね。」
「そうなんですか。私あまりV-tuber見ないですけど、今すごい数の投稿者いますもんね。」
 その後も他愛のない会話を続ける。
 
「昼食の後はご予定があるんですか?」
「いえ、特に何も決めずに今日出てきたんでその辺ぶらぶらしようかと。」
 計画性の無さが恥ずかしくてその辺ぶらぶらなんてスカしたことを言ってしまう。
「この辺りの方じゃないんですよね?」
「…えぇ、まあそうですけど。」
 なぜ分かったんだろうか。
「じゃあ今日一日私とドライブしましょうか?」
「えっ⁉︎それめちゃくちゃお金かかりません?」
 ここは都市部だしもうすぐで正午とはいえこの後ずっとタクシーに乗ってるとかやばい金額になりそうだ。
「そうですねぇ。じゃあ18時までの契約で20000円でどうでしょう?」
「…20000円ですか。うーん。」
 20000円と聞くと高く聞こえるが1日タクシーに乗ったらこの3倍はするだろうし、休日で混む電車に乗って訳も分からないままぶらぶらするよりいいかもしれない。何より――右前を見ると美しい横顔が見える。
 こんな美人と過ごせるなら安すぎるくらいに思える。
「じゃあお願いしていいですか?」
「かしこまりました。よろしくお願いします。」
 彼女はメーターの電源を切った。

「もうすぐで着きますよ。」
「そうですか、楽しみです。」
 ポツポツと会話をしていると最初の目的地であるラーメン屋に近付いてきた。
「お客さん、少しよろしいですか?」
「なんでしょう。」
「申し訳ないんですがラーメンご一緒していいですか?」
「えっ⁉︎いいんですか?」
「…?いいんですか?あの…ご一緒できれば移動したくなった時に車を出せますので、その方が良いかと思ったのですが。」
「あ…ああはい。大丈夫ですよもちろん、お願いします。」
 効率を考えた結果の提案だったようだが大歓迎だ。何なら奢っても構わない。
「ありがとうございます。もちろん自分の分は自分で払いますので。」
「え?いや俺の都合なので俺が払いますよ。」
「いえ、私が自分の意思で食べるので大丈夫です。……正直言うと話してる間に食べたくなったのも理由の1つなので。」
「あ……そうですか、じゃあ一緒に食べましょう。」
「はい。」
 通常運転手と話さないような内容の会話に少しテンションが上がってしまった。

 駐車場に車を停めて2人で店に入る。
「いらっしゃいませー2名様ですね。食券お買い上げになってお好きな席にどうぞー」
 店員さんに言われ移動すると食券機の前では先に2人ほど並んでいた。
「何にします?」
「私はチャーシュー麺にしようかと。」
「じゃあ俺もそうしようかな。」
 親しい男女みたいな会話をしてしまい、ニヤケそうになる。食券を買って向かい合わせの2人席に座った。
「いらっしゃいませ。食券お預かりいたします。チャーシュー麺がお二つですね。少々お待ちください。」
 置かれた水を飲みながら目の前にいる美人を見る。黒縁メガネの奥の澄んだ瞳、茶髪のボブカット、右耳のピアス、いつまで見てても飽きないくらいに整った顔。こんな人を奥さんにできたら幸せだろうな。
「今更なんですが、運転手さんは男と2人で食事してて大丈夫なんですかね?彼氏とか旦那さんとか。」
 今思えばこんな美人に相手がいないワケがない。そんな女性と仕事中に食事とかヤバいんじゃないだろうか。
「…私今は彼氏も旦那もいませんよ。ですのでご安心ください。」
 ガッツポーズをしそうになるが我慢した。
「そうなんですね。失礼なことを聞いてすみませんでした。」
「いえ、気になって当然だと思います。お客さんはお相手いないんですか?」
「俺は大学卒業してからは彼女できたことないですよ。ははは……俺はそりゃそうなんですけど、運転手さんはその…美人なので相手がいるんじゃないかと思って。」
「……ありがとうございます。でもこの歳になるともう独りでもいいかなと思うことも増えてきたんですよね。」
 困り顔な薄い笑顔を浮かべる彼女もやはり美人だった。
「そうなんですか。」
 会話からしてもう恋愛をする気はないのだろうか。
「少しトイレに行ってきます。」
「はい。トイレはあっちですよ。」
「あ、ありがとうございます。」
 
 トイレを済ませてから席に戻ろうとすると、椅子に座る彼女の大きな尻が目に入った。
 椅子に座った彼女の尻が少し横に押し広がっている。パンツスーツをパンパンに張って存在感を示している。張りすぎて少しパンティラインが浮かんでいる。内側に確実に存在するボリューミーな尻を想像すると興奮してきてしまう。手の平で音を鳴らして尻を叩きたいと変な妄想までしてしまった。尻を凝視しながら彼女の横を通過して席に座る。
 間もなく2人分のチャーシュー麺が運ばれてきた。思ったよりボリュームがあって食べ切れるか不安だ。
「……思ったより量ありますね。」
「そうですね。でも思ったよりペロッと食べられますよ。」
 メガネを外しながら声を少し弾ませる彼女。メガネ越しではない瞳は案の定きれいだった。
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