3 / 50
3
しおりを挟む
「で、泣き喚きもせず、土下座もせず、黙って婚約破棄を受け入れたってわけ?」
邸内の応接間に響いた祖母マルグリットの第一声は、期待を裏切らない毒舌だった。
小柄で痩身。だがその瞳には、若い貴族たちを睨み返すだけの鋭さと、百戦錬磨の知略が宿っている。
祖母は、深紅のルビーをあしらった杖を軽く突きながら私の前に座った。
「はい。泣く理由も、喚く価値もなかったので」
「へぇ……言うようになったじゃないの。まるで、捨てられたんじゃなく、自分から捨てた女みたい」
マルグリットは唇の端を上げた。
それは皮肉のようでいて、どこか評価にも似ていた。
「事実、捨てられて正解でしたから。あの程度の舞台なら、幕が降りて清々しました」
「それを十七の娘が言う言葉かね、全く……。だがまぁ、そういうところがあんたの強みさね」
彼女は、紅茶のカップに手を伸ばす。年齢を感じさせない所作に、私は幼い頃から憧れていた。
だが今日は、その手元よりも言葉の刃の方が鋭い。
「で、これからどうする気なんだい? ただ黙って籠もるつもりじゃあるまい」
「はい。ひとまずは体を整え、心を整え、何より“見直し”ます。私自身と、この国の舞台の構造とを」
「……本気だね?」
「はい。これまでの私は“王太子妃としてあるべき姿”しか見ていなかった。けれど今は、初めて“自分の人生”を見られる気がします」
祖母の瞳が細められる。
ひとつの試験に合格したような空気が流れた。
「よし。ならばあんたに預けておくわ、ヴァイセローゼ家の本当の力と資源を。これから使い道を学びな」
「……本当の?」
「うちの家系が代々王家に盾突かずに生き延びてきた理由を、知っておく必要があるわよ」
静かに、しかし確かな覚悟が、空気を変えていく。
毒舌家であり、最高の教師でもある彼女の言葉は、私にとって何よりの“武器”になる。
そしてそれは、王都では決して得られなかった“味方”の存在だった。
「ユリア、部屋の準備を頼んで。明日から、少しずつ動き出すわよ」
「はい、お嬢様」
ユリアが一礼し、部屋を下がる。
静かな日常の始まり。
けれどそれは、嵐の前の静けさでもあった。
“悪役令嬢”は、もう過去の呼び名。
これからは、私自身の名前で舞台に立つ。誰の期待も背負わずに。
邸内の応接間に響いた祖母マルグリットの第一声は、期待を裏切らない毒舌だった。
小柄で痩身。だがその瞳には、若い貴族たちを睨み返すだけの鋭さと、百戦錬磨の知略が宿っている。
祖母は、深紅のルビーをあしらった杖を軽く突きながら私の前に座った。
「はい。泣く理由も、喚く価値もなかったので」
「へぇ……言うようになったじゃないの。まるで、捨てられたんじゃなく、自分から捨てた女みたい」
マルグリットは唇の端を上げた。
それは皮肉のようでいて、どこか評価にも似ていた。
「事実、捨てられて正解でしたから。あの程度の舞台なら、幕が降りて清々しました」
「それを十七の娘が言う言葉かね、全く……。だがまぁ、そういうところがあんたの強みさね」
彼女は、紅茶のカップに手を伸ばす。年齢を感じさせない所作に、私は幼い頃から憧れていた。
だが今日は、その手元よりも言葉の刃の方が鋭い。
「で、これからどうする気なんだい? ただ黙って籠もるつもりじゃあるまい」
「はい。ひとまずは体を整え、心を整え、何より“見直し”ます。私自身と、この国の舞台の構造とを」
「……本気だね?」
「はい。これまでの私は“王太子妃としてあるべき姿”しか見ていなかった。けれど今は、初めて“自分の人生”を見られる気がします」
祖母の瞳が細められる。
ひとつの試験に合格したような空気が流れた。
「よし。ならばあんたに預けておくわ、ヴァイセローゼ家の本当の力と資源を。これから使い道を学びな」
「……本当の?」
「うちの家系が代々王家に盾突かずに生き延びてきた理由を、知っておく必要があるわよ」
静かに、しかし確かな覚悟が、空気を変えていく。
毒舌家であり、最高の教師でもある彼女の言葉は、私にとって何よりの“武器”になる。
そしてそれは、王都では決して得られなかった“味方”の存在だった。
「ユリア、部屋の準備を頼んで。明日から、少しずつ動き出すわよ」
「はい、お嬢様」
ユリアが一礼し、部屋を下がる。
静かな日常の始まり。
けれどそれは、嵐の前の静けさでもあった。
“悪役令嬢”は、もう過去の呼び名。
これからは、私自身の名前で舞台に立つ。誰の期待も背負わずに。
14
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
彼女が高級娼婦と呼ばれる理由~元悪役令嬢の戦慄の日々~
プラネットプラント
恋愛
婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。
※完結済。
王国最強の天才魔導士は、追放された悪役令嬢の息子でした
由香
ファンタジー
追放された悪役令嬢が選んだのは復讐ではなく、母として息子を守ること。
無自覚天才に育った息子は、魔法を遊び感覚で扱い、王国を震撼させてしまう。
再び招かれたのは、かつて母を追放した国。
礼儀正しく圧倒する息子と、静かに完全勝利する母。
これは、親子が選ぶ“最も美しいざまぁ”。
「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」
歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。
「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは
泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析
能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り
続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。
婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる