4 / 206
第一章
4
しおりを挟む
私には、ずっと考えていることがあった。
生前、乙女ゲームのキャラクターへの転生という題材の小説が好きでたくさん読んでいたが、それらには大きく分けてパターンがあった。
それはヒロインが主人公と同じ転生者か、それとも転生者ではないかということだ。
もし同じ転生者であれば、その多くが主人公と敵対関係となり、攻略対象を文字通り攻略にかかる。
その過程で二人は戦い、最終的にヒロインはぎゃふんと言わされ追放、主人公は攻略対象達と幸せに暮らしましたでエンディングだ。
私の場合モブへの転生だから、ゲームにエルザというキャラクターは存在していない。
どちらの国も一作目では10からエースは名前すらゲームには出てこなかった。
しかし深く考えず嬉しさのままに攻略対象である三人と交流を持ち続けた結果、抵抗むなしくスペードの10に任命されるに至ってしまった。
もちろん三人とともに剣や魔法の鍛錬をしてきた結果であって、友人だからという理由での任命ではないが、出来ることなら一人のモブ兵隊として三人を支えつつ、いずれ訪れるだろうヒロインと三人のうちの誰かとの甘い恋愛ストーリーを画面の外から眺めたかった。
もしもこの世界のヒロインが転生者だった場合、三人と親しい間柄の私に彼女はどう反応をするだろう。
仲良くなれれば良し。乙女ゲームについて語り合える友達ができれば、かなり嬉しい。
しかし、もしもだ。ヒロインが小説と同じような、すべての攻略対象を求めてゲームにはなかった逆ハーレムエンドを目指すような強欲な人間だった場合、恋愛関係にないとはいえ攻略対象達と親しい私は、彼女にとって邪魔な存在になっているのではないか。
ヒロインと友達になりたい。大好きなゲームを生で見られるなんて嬉しい。そう思う気持ちと、みんながヒロインに心を奪われ、彼女の言うままに私に敵意を見せたらと不安に思う気持ちがごちゃまぜになる。
目の前のヒロインの姿に、お茶会前に霧散した気持ちがまた心に重く圧し掛かってきた。
「どうしました?」
同じく窓の外を覗いたゼンに尋ねられ、びくりと体が震えた。
「あの人……こんな時間にどうしたのかと、思って……」
空が赤から深い藍色へと変化していく時間帯だ。
前世に比べて治安が良くはないこの国で、この時間に女性が一人でいることは珍しい。
ましてその女性は明らかに訳ありとわかる雰囲気なのだ。
ゲームでは、お茶会の途中で知り合った女性を見つけたルーファスが、馬車を止めてヒロインに話しかける。
そっと様子をうかがうも、ルーファスは窓の外をちらりと覗いただけで声をかける様子はない。
どうして話しかけないのかと不満に思ったと同時に気が付いた。
この二人、知り合ってないんだった!
本来ならお茶会を抜け出すはずのルーファスは、私の隣に居座り続けていたんだった。
さっき見かけた女がいたから声をかける、というのがストーリーの流れだったから、このルーファスはヒロインに声をかけない! どうしよう!?
私の焦る気持ちを知らない四頭の馬は、軽快に足を進めていく。
そのうちヒロインの横を通り過ぎ、私の様子に首を傾げていたゼンもまた、窓から視線を外した。
そんな、気持ちばかりが焦る中で、一つの葛藤が生まれてしまう。
もし、このままヒロインと三人が出会わなければ、私の心配事はなくなる。
トラブルの元となるかもしれないヒロインとの関わりは、持たないほうがいい。
現時点で彼女は三人と面識もないし、このまま黙っていれば記憶にも残らないはず。
でもそうしたら、見知らぬ土地、どころか異世界で、頼る人もいない彼女はこれからどうなる? 彼女はこの世界のことを何も知らないのに――。
「――停めて!」
生前、乙女ゲームのキャラクターへの転生という題材の小説が好きでたくさん読んでいたが、それらには大きく分けてパターンがあった。
それはヒロインが主人公と同じ転生者か、それとも転生者ではないかということだ。
もし同じ転生者であれば、その多くが主人公と敵対関係となり、攻略対象を文字通り攻略にかかる。
その過程で二人は戦い、最終的にヒロインはぎゃふんと言わされ追放、主人公は攻略対象達と幸せに暮らしましたでエンディングだ。
私の場合モブへの転生だから、ゲームにエルザというキャラクターは存在していない。
どちらの国も一作目では10からエースは名前すらゲームには出てこなかった。
しかし深く考えず嬉しさのままに攻略対象である三人と交流を持ち続けた結果、抵抗むなしくスペードの10に任命されるに至ってしまった。
もちろん三人とともに剣や魔法の鍛錬をしてきた結果であって、友人だからという理由での任命ではないが、出来ることなら一人のモブ兵隊として三人を支えつつ、いずれ訪れるだろうヒロインと三人のうちの誰かとの甘い恋愛ストーリーを画面の外から眺めたかった。
もしもこの世界のヒロインが転生者だった場合、三人と親しい間柄の私に彼女はどう反応をするだろう。
仲良くなれれば良し。乙女ゲームについて語り合える友達ができれば、かなり嬉しい。
しかし、もしもだ。ヒロインが小説と同じような、すべての攻略対象を求めてゲームにはなかった逆ハーレムエンドを目指すような強欲な人間だった場合、恋愛関係にないとはいえ攻略対象達と親しい私は、彼女にとって邪魔な存在になっているのではないか。
ヒロインと友達になりたい。大好きなゲームを生で見られるなんて嬉しい。そう思う気持ちと、みんながヒロインに心を奪われ、彼女の言うままに私に敵意を見せたらと不安に思う気持ちがごちゃまぜになる。
目の前のヒロインの姿に、お茶会前に霧散した気持ちがまた心に重く圧し掛かってきた。
「どうしました?」
同じく窓の外を覗いたゼンに尋ねられ、びくりと体が震えた。
「あの人……こんな時間にどうしたのかと、思って……」
空が赤から深い藍色へと変化していく時間帯だ。
前世に比べて治安が良くはないこの国で、この時間に女性が一人でいることは珍しい。
ましてその女性は明らかに訳ありとわかる雰囲気なのだ。
ゲームでは、お茶会の途中で知り合った女性を見つけたルーファスが、馬車を止めてヒロインに話しかける。
そっと様子をうかがうも、ルーファスは窓の外をちらりと覗いただけで声をかける様子はない。
どうして話しかけないのかと不満に思ったと同時に気が付いた。
この二人、知り合ってないんだった!
本来ならお茶会を抜け出すはずのルーファスは、私の隣に居座り続けていたんだった。
さっき見かけた女がいたから声をかける、というのがストーリーの流れだったから、このルーファスはヒロインに声をかけない! どうしよう!?
私の焦る気持ちを知らない四頭の馬は、軽快に足を進めていく。
そのうちヒロインの横を通り過ぎ、私の様子に首を傾げていたゼンもまた、窓から視線を外した。
そんな、気持ちばかりが焦る中で、一つの葛藤が生まれてしまう。
もし、このままヒロインと三人が出会わなければ、私の心配事はなくなる。
トラブルの元となるかもしれないヒロインとの関わりは、持たないほうがいい。
現時点で彼女は三人と面識もないし、このまま黙っていれば記憶にも残らないはず。
でもそうしたら、見知らぬ土地、どころか異世界で、頼る人もいない彼女はこれからどうなる? 彼女はこの世界のことを何も知らないのに――。
「――停めて!」
0
あなたにおすすめの小説
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない
魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。
そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。
ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。
イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。
ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。
いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。
離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。
「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」
予想外の溺愛が始まってしまう!
(世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?
山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、
飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、
気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、
まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、
推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、
思ってたらなぜか主人公を押し退け、
攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・
ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる