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第一章
27 ある侍女の恋の顛末
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正直、位持ちの方と二人で歩くなんて、一侍女の私には荷が重すぎる。
オーウェン様にとっては余計な仕事を増やしただけなので申し訳なさが募る上に、私は最近城に勤め始めたばかりで、まだ仕事ですら会話したことがなかったのだ。
しかし、早く着いてくれないかなと失礼なことばかり考える私にも、オーウェン様は優しかった。
「今日は買い物に出てこられたのですか?」
「いい天気の日にお休みがもらえて良かったですね」
「そういえば、あちらのスイーツ店。エルザ殿が美味しいと絶賛されていましたよ。お時間があれば是非寄ってみてください。あの方の舌は信用できますから」
気の利いた受け答えの出来ない私にも色々と話を振ってくださる。
数分後にはそれなりに打ち解けてきて、思い切って質問してみた。
「今日はエルザ様とお出かけですか?」
「ああ、いえいえ。仕事中に買いたいものがあると言い出し……仰るので、見張……お供しただけですよ」
先ほどよりも笑みを深めて言うオーウェン様は楽しそうだ。エルザ様とのお出かけが嬉しいのかもしれない。目の奥が黒く淀んでいるような気がしたのはきっと気のせいだろう。なにせ真正面からお顔を拝見したのはこれが初めてだから。
雑貨屋にはすぐに辿り着き、再度お礼を伝えると笑顔が返ってくる。
「では失礼しますね」とオーウェン様は少し急ぎ気味に踵を返したが、数歩で止まると戻ってきた。
首を傾げているとオーウェン様は内緒話をするかのように口元に片手を当てて――。
「先ほどのように声をかけられたら、主人があちらで待っていますので、と言いなさい。人の物に手を出せるほど度胸のある者はそうそうおりませんから」
そう言って、悪戯めいた笑みをエメラルドグリーンの瞳に浮かべて今度こそ急ぎ足で戻っていった。
そっと胸元を抑えると心臓が今までの人生ではなかったほど忙しなく脈打ちはじめ、去り行く緑の髪を見つめる目が離せなかったことに、姿が見えなくなってから気が付いた。
どうやら私は、とても手の届かない人に恋をしてしまったらしい。
城に帰り同室の侍女達にお菓子のお土産と頼まれた買い物を渡すと、自然とお茶会になる。
その中で私が今日会ったお二人について話すと、侍女達が黄色い歓声を上げて羨ましがった。
「いいわよね、オーウェン様。いつも優しくて私達にも丁寧だし、私も実はちょっと憧れてるのよ」
「あら、オーウェン様は競争相手が多いのよ。よくやるわね」
先輩侍女の言葉は私には寝耳に水で、思わず聞き返した。
「位持ちの方が侍女なんて相手にしてくださるの?」
「キングやクイーン、ジャックはさすがに高嶺の花だけど、10からエースなら私達だって接点はあるし、結婚まで漕ぎ着ける猛者もいるわよ」
「そうそう。前の5だって奥様は元々城の侍女だったらしいじゃない?」
5と聞いて胸がドキンと高鳴った。
「そ、そうなの……?」
「もちろん貴族のご令嬢の婿養子になる方もいるけど、城だって十分出会いの場よね」
「侍従とか兵隊さん達にもいい人はたくさんいるしね」
きゃあきゃあ笑いながら侍女達は止まらないお喋りを楽しんでいたが、私の耳にはもう何も入ってこなかった。
手の届かないと思っていた夜空で綺麗に瞬く星が、流れ星になって落ちてきたようだった。
オーウェン様にとっては余計な仕事を増やしただけなので申し訳なさが募る上に、私は最近城に勤め始めたばかりで、まだ仕事ですら会話したことがなかったのだ。
しかし、早く着いてくれないかなと失礼なことばかり考える私にも、オーウェン様は優しかった。
「今日は買い物に出てこられたのですか?」
「いい天気の日にお休みがもらえて良かったですね」
「そういえば、あちらのスイーツ店。エルザ殿が美味しいと絶賛されていましたよ。お時間があれば是非寄ってみてください。あの方の舌は信用できますから」
気の利いた受け答えの出来ない私にも色々と話を振ってくださる。
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先ほどよりも笑みを深めて言うオーウェン様は楽しそうだ。エルザ様とのお出かけが嬉しいのかもしれない。目の奥が黒く淀んでいるような気がしたのはきっと気のせいだろう。なにせ真正面からお顔を拝見したのはこれが初めてだから。
雑貨屋にはすぐに辿り着き、再度お礼を伝えると笑顔が返ってくる。
「では失礼しますね」とオーウェン様は少し急ぎ気味に踵を返したが、数歩で止まると戻ってきた。
首を傾げているとオーウェン様は内緒話をするかのように口元に片手を当てて――。
「先ほどのように声をかけられたら、主人があちらで待っていますので、と言いなさい。人の物に手を出せるほど度胸のある者はそうそうおりませんから」
そう言って、悪戯めいた笑みをエメラルドグリーンの瞳に浮かべて今度こそ急ぎ足で戻っていった。
そっと胸元を抑えると心臓が今までの人生ではなかったほど忙しなく脈打ちはじめ、去り行く緑の髪を見つめる目が離せなかったことに、姿が見えなくなってから気が付いた。
どうやら私は、とても手の届かない人に恋をしてしまったらしい。
城に帰り同室の侍女達にお菓子のお土産と頼まれた買い物を渡すと、自然とお茶会になる。
その中で私が今日会ったお二人について話すと、侍女達が黄色い歓声を上げて羨ましがった。
「いいわよね、オーウェン様。いつも優しくて私達にも丁寧だし、私も実はちょっと憧れてるのよ」
「あら、オーウェン様は競争相手が多いのよ。よくやるわね」
先輩侍女の言葉は私には寝耳に水で、思わず聞き返した。
「位持ちの方が侍女なんて相手にしてくださるの?」
「キングやクイーン、ジャックはさすがに高嶺の花だけど、10からエースなら私達だって接点はあるし、結婚まで漕ぎ着ける猛者もいるわよ」
「そうそう。前の5だって奥様は元々城の侍女だったらしいじゃない?」
5と聞いて胸がドキンと高鳴った。
「そ、そうなの……?」
「もちろん貴族のご令嬢の婿養子になる方もいるけど、城だって十分出会いの場よね」
「侍従とか兵隊さん達にもいい人はたくさんいるしね」
きゃあきゃあ笑いながら侍女達は止まらないお喋りを楽しんでいたが、私の耳にはもう何も入ってこなかった。
手の届かないと思っていた夜空で綺麗に瞬く星が、流れ星になって落ちてきたようだった。
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