ヒロインは私のルートを選択したようです

深川ねず

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第一章

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 壁には本がぎっしりと高い天井の上まで詰まっていて、鉄製の梯子が備え付けられている。
 照明は見当たらないのに室内は明るい。そう思って見上げれば斜めの天井がガラス窓になっていて明るい陽の光が射し込み、そこから覗く大通りの木々が風で揺られて床に落ちた影もゆらゆらと動いている。

 しかし飲食店なのに、見たところテーブルは丸い大きなものが中央に一卓しかない。
 それにはクロスが何重も掛けられていて、椅子のクッションと同じ華やかで上品な柄が織られていた。

「おやおや、沢山連れてきたなぁ」

 奥の扉からポットとカップを持ったおじいさんが、のんびりとやってきた。
 ふんわりとしたグレーの髪に片眼鏡をかけていて、学者のような知的な雰囲気のおじいさんだ。
 椅子を引く音がして振り返ると、ショーンがすでに座っている。
 おじいさんが手で促してくれて、私達もそれぞれ席に着いた。

「いっつも一人でこそこそと来よるのに。友達がちゃんとおったのだねぇ」
「……うるさい。ケーキ、人数分」
「ショーン! 失礼だよ!」

 素っ気ないショーンの態度をレスターがたしなめるが、おじいさんは慣れたもののようだった。

「いいよいいよ。お友達を連れてきてくれただけで十分だよ。ちょこっと待っててね」

 ポットとカップを置いて、おじいさんはにっこり笑って部屋から出て行った。
 ショーンが立ち上がってポットを取り上げ、カップに注いでくれる。

「ありがとう。ここはお店なの?」

 ショーンの知り合いのおじいさんの家だよと言われても不思議に思わないほど、この部屋は一家団欒の場のような雰囲気だ。

「うん。知ってる人しか来ないから、静かでいい……というか、他の客に会ったことない」
「それ、本当にお店なの?」

 全員の心を代弁したようなレスターの言葉に、頷くのを堪えた。

「……ケーキ、いつも一種類しか用意してないらしいから勝手に頼んだけど」
「いかにも隠れ家カフェって感じですね」

 ララが言うと、ショーンはすっと目をそらしてしまう。人見知りが発動している。

「ごめんね、ララ。ショーンは人見知りさんなんだよ」
「そうそう。仲良くなればいい子なの」
「……うるさい」
「このうるさいだって、最初に言われた時は感動したものよ」

 ねー。とレスターと顔を見合わせて笑うとショーンが不貞腐れて、ノエルが宥めている。

「ノエルとは初めから仲が良かったわよね」
「そうなんですか? 意外です」
「タイプが違うものね」

 アカデミー時代に、ハートとスペードの生徒達の間で親善試合が行われたことがあった。
 私はレスターと試合して見事に負けてしまったけど、ノエルとショーンの試合はなんと引き分け。
 剣のノエルと魔法のショーンの試合は、それはそれは見事だった。

「魔法を使う人に近付けないなんて初めての経験だったよ」
「……俺も、捕まえられない剣士は初めてだった」

 性格も戦闘スタイルも違う二人だが、スイーツ好きという共通点もあり、揃って国のジャック位に就いたこともあって、今でも親しく交流している。

「いいわねぇ。永遠のライバル……」
「素敵な響きだねぇ……」

 しみじみという私達は、またしてもショーンの「うるさい」をいただいてしまった。
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