ヒロインは私のルートを選択したようです

深川ねず

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第一章

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 自分の私室にあるものと同じだと思われるベッドは一人で寝るには広すぎる、のだけど……。

 い、いくらなんでも展開が早すぎない? さっき想いを交わし合ったばかりなのに?
 そっとベッドに降ろされてスプリングが軋んだ。

 心臓が速く速く脈打ち始め、意識せず後ずさる。それと同時に湧き上がってしまった不満が口から滑り出た。

「オ、オーウェンが……」
「ん?」
「…………なっ、慣れてる……」
「……は?」
「だって、キスも私はいっぱいいっぱいなのに上手だし、ベッドルームに連れ込むのも手馴れて……もしかして私も遊びの一人なのっ!?」
「……はぁ!? なんの話だ! どうしてそんな……あの男か! あいつが妙な入れ知恵したんだな!?」
「遊びについて否定されない……!」

 絶望に顔面から血の気が引いていく。

「あああ、遊びなわけないだろうが! どれだけ不毛にあんたを想っていたか知らないだろ! ……一晩かけて分からせてやってもいいんだぞ……!」

 据わった目で見据えられて喉から声にならない悲鳴が上がる。

「レグみたいなこと言わないで!」
「あれと一緒にするな!」

 心の底から嫌そうに叫ぶオーウェンに腕を引かれる。
 覚悟が決まらずぎゅうと目を瞑るが、耳や頬にぬくもりがあるだけだった。

 胸元に押し付けられた耳に早鐘の音が伝わってくる。

「あなたといると心臓がこんなにもうるさくなる。遊びでなんてあなたに触れられませんよ……わかったか。この馬鹿が」

 先ほどの甘さの滲む馬鹿と違う、吐き捨てるような馬鹿だ。

「……怒ってる……?」
「とても」
「ひ、一晩かける……?」
「……意味わかってます?」

 経験はなくともさすがにわかってはいる。

 気まずくなり、胸に耳を押し当てたまま、広い背中に腕を伸ばした。
 ぎゅうと腕に力を込めると少し笑ってしまった。

「音が速くなったわ」
「そうでしょう。納得していただけました?」
「ええ。……ごめんなさい、疑って」
「いえ、俺が悪かった。あなたの声を聞いていると理性が……」

 声?
 首をかしげて見上げると「なんでもありませんよ」と言って誤魔化すように頭に唇が落とされた。
 トクトクと鳴る音が心地良い。

「あなたの音を聞いてると落ち着くわ」
「それは良かった」
「あなたも私の音、聞く?」
「…………またの機会にお願いします」

 食い下がろうかと考えるも抱きしめられる力が強まり、仕方ないかと胸元に顔を埋めた。
 今は、この音を聞いていたい。
 規則正しい鼓動の音に頭がふわふわと浮き上がって瞼が重くなる。

「……エルザ? 寝てしまいましたか?」

 優しい声に返事は出来ず、私は目を閉じてそのまま暖かな微睡みに身を委ねた。
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