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第一章
87番外編 あの男と残りの七人
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「四班に分けるぞ。委員長とクライブ、ゼンと俺は女性客、ガキ共とネビルは男性客の見張り。パンジーとベルと、オーウェンは給仕に化けれるよう主催者に話は通しておくから、全体の見張り」
「俺は?」
忘れられてんなら泣くぞ。
「お前はエルザの見張り」
「……なんで俺が? お前らの役目だろ」
「……女に声かけられても上手くあしらって見張り続けれるのはお前だけだろ」
「なっさけねぇ人選だな……」
女性客担当の四人は見た目は特上だが拗らせた初恋のせいで女への免疫がほぼない。
特にルーファスは拒絶反応すら起こすのだから、もったいない。寄ってくるんだから適当に楽しめばいいのにな。
その他の打ち合わせを済ませて解散となると、エルザが腰に手を当てて立ちふさがった。射るような視線が各方面から刺さる。
「ちゃんと詰め物しますから、ご心配には及びませんわ。スペードの9」
「悪かったって。ちゃんとでかいでかい」
「二度言う時は誤魔化す時だって聞いたことあるわよ」
「どこからの情報だよ。ったく……そんなに信用できないなら今夜直接見て確認してやろうか?」
口から調子良くすべり出た言葉に後悔した。
まだ全員がその場にいる中で、目の前の女は目を瞬かせた後に大きなため息をつき。
「冗談ばかり言ってないで、あなたもいい加減きちんとした相手を見つけなさいよ」と言い放ちやがった。
「ソウデスネ」
乾いた笑みしか浮かばない。
「聞いてるわよ。侍女にも手を出しているらしいじゃない。そういうことは本当に好きな人と」
「あー、わかった、わかったって。俺が悪かった」
両手を上げて降参する。全員が見ている前でこの展開はさすがに勘弁してほしい。
「二回言う癖は直しなさいよ。そうだ、ドレスは何色がいいと思う?」
えらく急な質問だが、つまりはそういう目的で誘わせるなら何色のドレスがいいかってことか。
俺に聞いてくるってとこに、こいつが俺をどう見てるかがよく分かるな。
「体のラインがわかるなら何色でも」
これに尽きる。
廊下を歩いていると向かいから来た男が俺を見て不快に顔を歪めて会釈した。
さっさと去ろうとする背中に声をかけると歪めた顔をそのままに振り返る。
「何か御用ですか」
「いやー、エルザの見張りを俺がもらって悪かったなーって思ってよ」
お目付役のようになっているこの補佐は誰がどう見てもエルザに惚れきっていて、きっと自分がやりたかっただろうなと思っていた。
俺が謝罪するのは筋違いだが。
「キングの指示ですから」
「つっても、人選の理由があれならお前でも良かったわけだよな」
ピクリと目の前の男の眉が動く。
「割と女の扱い慣れてんだろ。この前も侍女に」
「くだらない話題しかないのなら失礼します。あんたと違って俺は忙しい」
こちらの返事を待たずに去っていく背中にため息が漏れる。あいつ、エルザがいる時といない時の態度が全く違うよな。……俺に対してだけかもしれないが。
再び歩き出したら忘れ物を思い出した。
面倒だが必要なものだ。取りに戻らないと、と踵を返してしばらく歩くと聞き慣れた声が聞こえてきた。
「どうしてここにいるってわかったの?」
「これまでの傾向からの推測です」
「……さては難しい言葉で煙に巻こうとしてるわね?」
「……そこまで難しい言葉は使ってませんよ」
なるほど、と一人で納得した。どうやら逃げた上司を追いかけてきていたらしい。
「今まで逃げた場所から考えてここかなーと思って来ました」
「オーウェンって、私がいくつだか知ってる?」
「ジャックの妹君でらっしゃいましたっけ」
「お姉ちゃんよ!!」
姿は見えなくても膨れっ面が容易に浮かんで頰が緩む。
「お姉ちゃんなら仕事から逃げないでいただきたいですね。とうとう侍従の口からエルザ様が逃げ、まで出ましたよ」
「あら、リーチ」
「そうはいきませんよ。誤魔化しておきましたからね」
「もう……猫かぶるのも大変なのに」
「虎でも担いでいてください。あなたに憧れている彼らに俺と同じ思いは決してさせませんからね」
「……あなたも憧れてくれていたの?」
「甘いものを用意するように言いつけてありますから楽しみにしていてくださいね」
「誤魔化されないわよ。子供じゃないんだから。……だから敬語をやめてくれないの?」
「……早く戻、るぞ。お茶が冷める、だろ……無理だ。もう諦めてください」
品の良い楽しげな笑い声が廊下に響く。
タメ口で話すよう頑張る補佐がツボにはまったらしい。
「あっ、待って。置いてかないで。……怒った?」
「怒ってないよ。さぁ、もう戻りますよ」
笑いながら聞くエルザの声に返す補佐の声も笑いが含まれている。
向かってくる靴音に、まずいと逃げ道を探した時には遅かった。
曲がり角から姿を現した二人は俺を見つけて片方は笑顔で、もう片方は気まずげな表情になる。
なぜかこの補佐はエルザといるときに会うと気まずげに押し黙るが、その理由は今もってわからない。
「レグ! ねぇ、時間ある? うちでお茶していかない?」
「やー、用事あるから今度で」
「そう。残念。それじゃあまたね」
あっさりと隣をすり抜けるエルザと、会釈だけで目も合わせない補佐は去っていく。
漏れ聞こえる会話は親しげだ。
あいつ、本当に気付いてないのか?
「俺は?」
忘れられてんなら泣くぞ。
「お前はエルザの見張り」
「……なんで俺が? お前らの役目だろ」
「……女に声かけられても上手くあしらって見張り続けれるのはお前だけだろ」
「なっさけねぇ人選だな……」
女性客担当の四人は見た目は特上だが拗らせた初恋のせいで女への免疫がほぼない。
特にルーファスは拒絶反応すら起こすのだから、もったいない。寄ってくるんだから適当に楽しめばいいのにな。
その他の打ち合わせを済ませて解散となると、エルザが腰に手を当てて立ちふさがった。射るような視線が各方面から刺さる。
「ちゃんと詰め物しますから、ご心配には及びませんわ。スペードの9」
「悪かったって。ちゃんとでかいでかい」
「二度言う時は誤魔化す時だって聞いたことあるわよ」
「どこからの情報だよ。ったく……そんなに信用できないなら今夜直接見て確認してやろうか?」
口から調子良くすべり出た言葉に後悔した。
まだ全員がその場にいる中で、目の前の女は目を瞬かせた後に大きなため息をつき。
「冗談ばかり言ってないで、あなたもいい加減きちんとした相手を見つけなさいよ」と言い放ちやがった。
「ソウデスネ」
乾いた笑みしか浮かばない。
「聞いてるわよ。侍女にも手を出しているらしいじゃない。そういうことは本当に好きな人と」
「あー、わかった、わかったって。俺が悪かった」
両手を上げて降参する。全員が見ている前でこの展開はさすがに勘弁してほしい。
「二回言う癖は直しなさいよ。そうだ、ドレスは何色がいいと思う?」
えらく急な質問だが、つまりはそういう目的で誘わせるなら何色のドレスがいいかってことか。
俺に聞いてくるってとこに、こいつが俺をどう見てるかがよく分かるな。
「体のラインがわかるなら何色でも」
これに尽きる。
廊下を歩いていると向かいから来た男が俺を見て不快に顔を歪めて会釈した。
さっさと去ろうとする背中に声をかけると歪めた顔をそのままに振り返る。
「何か御用ですか」
「いやー、エルザの見張りを俺がもらって悪かったなーって思ってよ」
お目付役のようになっているこの補佐は誰がどう見てもエルザに惚れきっていて、きっと自分がやりたかっただろうなと思っていた。
俺が謝罪するのは筋違いだが。
「キングの指示ですから」
「つっても、人選の理由があれならお前でも良かったわけだよな」
ピクリと目の前の男の眉が動く。
「割と女の扱い慣れてんだろ。この前も侍女に」
「くだらない話題しかないのなら失礼します。あんたと違って俺は忙しい」
こちらの返事を待たずに去っていく背中にため息が漏れる。あいつ、エルザがいる時といない時の態度が全く違うよな。……俺に対してだけかもしれないが。
再び歩き出したら忘れ物を思い出した。
面倒だが必要なものだ。取りに戻らないと、と踵を返してしばらく歩くと聞き慣れた声が聞こえてきた。
「どうしてここにいるってわかったの?」
「これまでの傾向からの推測です」
「……さては難しい言葉で煙に巻こうとしてるわね?」
「……そこまで難しい言葉は使ってませんよ」
なるほど、と一人で納得した。どうやら逃げた上司を追いかけてきていたらしい。
「今まで逃げた場所から考えてここかなーと思って来ました」
「オーウェンって、私がいくつだか知ってる?」
「ジャックの妹君でらっしゃいましたっけ」
「お姉ちゃんよ!!」
姿は見えなくても膨れっ面が容易に浮かんで頰が緩む。
「お姉ちゃんなら仕事から逃げないでいただきたいですね。とうとう侍従の口からエルザ様が逃げ、まで出ましたよ」
「あら、リーチ」
「そうはいきませんよ。誤魔化しておきましたからね」
「もう……猫かぶるのも大変なのに」
「虎でも担いでいてください。あなたに憧れている彼らに俺と同じ思いは決してさせませんからね」
「……あなたも憧れてくれていたの?」
「甘いものを用意するように言いつけてありますから楽しみにしていてくださいね」
「誤魔化されないわよ。子供じゃないんだから。……だから敬語をやめてくれないの?」
「……早く戻、るぞ。お茶が冷める、だろ……無理だ。もう諦めてください」
品の良い楽しげな笑い声が廊下に響く。
タメ口で話すよう頑張る補佐がツボにはまったらしい。
「あっ、待って。置いてかないで。……怒った?」
「怒ってないよ。さぁ、もう戻りますよ」
笑いながら聞くエルザの声に返す補佐の声も笑いが含まれている。
向かってくる靴音に、まずいと逃げ道を探した時には遅かった。
曲がり角から姿を現した二人は俺を見つけて片方は笑顔で、もう片方は気まずげな表情になる。
なぜかこの補佐はエルザといるときに会うと気まずげに押し黙るが、その理由は今もってわからない。
「レグ! ねぇ、時間ある? うちでお茶していかない?」
「やー、用事あるから今度で」
「そう。残念。それじゃあまたね」
あっさりと隣をすり抜けるエルザと、会釈だけで目も合わせない補佐は去っていく。
漏れ聞こえる会話は親しげだ。
あいつ、本当に気付いてないのか?
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