ヒロインは私のルートを選択したようです

深川ねず

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第二章

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 馬車の外では野太い怒号が飛び交い、隣に座るララが「うわ、ここまでひどいんだ……」と言葉を漏らした。

 アリーが統治するダイヤの国なのだから、さぞ華やかで絢爛な街並みを想像しそうだが、ここは実際には五つの国の中でも最も荒くれ者の集まる粗野な国だ。
 怒号も喧嘩しているだけではなく、恐らくは賭け事でもしているのだろうと思われる。アリーも賭け事が好きな描写があり、私も何度か誘われた。私の場合前世が前世だから、そういったノリには付いていけず断ったままになっているのだけど。

「私もこの国はちょっと苦手なのよね」
「女性が一人で歩けるところじゃないですね……」
「そのはずなんだけどねぇ……ああ、そろそろよ」

 ガタゴトと進む馬車の先に、荒くれ者が集まる一番の原因が見えて来た。
 ララを促して窓から外を眺める。

 空高く聳えるその建物の正面には半円アーチがずらりと並び、そこから多くの人が出入りをしている。その人達は、その建物で行われる催し物の観客だ。
 建物に屋根はなく、中に入れば多くの観客席があり何万もの人々が催し物を観戦できる。
 そしてその後ろには傾斜の緩い屋根を持つ城が、両手を広げるようにして建っている。

 これは、ダイヤの城と一体化した、この国の一大観光スポット。猛獣と猛獣、人と人、時には猛獣と人がぶつかり合い、観客はどちらが勝者かと賭けて楽しむ、この国一番の娯楽。
 円形闘技場だ。



「それでは、行ってきます!」

 気合十分といった様子で両拳を握ったララが、円形闘技場へ向けて歩いて行った。右手と右足が同時に出ているが、大丈夫か。

 2のプロローグは、ララが一人でダイヤの国に遊びに行くところから始まる。

 こんな荒くれ者共の集まる野蛮な国に一人で、だ。ゲームのルーファス達はララに興味がなさすぎない? 私なら絶対に一人で行かせたりしないのに。

 会話が聞こえる距離を保ち、物陰に隠れてララを見守る。
 目立つ長い髪はキャスケットに全て押し込んだから、いつものパンツ姿ではパッと見は男に見えるだろう。細身の男は金銭目当てに絡まれる恐れはあるけど。

 案の定、長いふわふわした髪のララはしっかりと目立ち、一人の大柄な男に絡まれた。
 ここまではプロローグの流れだ。ゲームの通りなら、通りすがりのアリーが助けてくれて、知り合うことになる。

 賭け事大好き快楽主義者のアリールートは、なかなかトラブルが多かったけど、私は彼女のエンディングが大好きだった。
 なぜならこのルートは、攻略してグッドエンドを迎えたとしても、アリーは女性的な姿勢を崩さない。終始女性言葉で語られる愛の言葉には、私もキュンと来たものだ。
 もちろん他ゲームにいたような時々男言葉になるオネエキャラも好きだが、どちらかと言えば、アリーが自分を貫いて女性的なままヒロインと愛のエンディングを迎えたことが、格好良くて好きだった。
 だから、ルーファスを応援したい気持ちもあるが、このエンディングが見たい気持ちも……ああ、でもやっぱり親友としては……。

 悩む私の背後に男が立ち、財布を抜き取ろうとしたので叩きのめしておいた。



 ララに視線を戻すもアリーはまだ姿を見せてはいないようだ。彼女はとても目立つから、近づけばすぐに分かるはずだけど……。
 私がハラハラと見守る中、大柄の男はララに手を伸ばす。
 その手が……ララに触れた。
 タイムアウトだ。

「悪いが、俺のツレだ。返してもらえるか」

 悪戯っ気を起こしてルーファスの声真似をしてみる。残念そうに肩を竦めた男は去っていき、ララに視線を向けた。

「エルザさんが言うと、そういう話し方も素敵っ!」

 ……ルーファスに春は遠そうだ。
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