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第二章
10
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ドタドタと慌ただしい音がして、先程馬車の修理を行なっていた五人全員が息急き切って駆けつけてきた。
「助けて! わたしにも剣を向けてきた! わたしも殺される!」
この人は……なにを、言ってるの……?
男達は女性の言葉を聞いて、すぐさま剣を抜き、こちらを鋭く睨みつけてきた。
「なにゆえ、ダイヤの兵に剣をお向けになられましたか!」
「理由如何に関わらず、ダイヤの国に対してのスペードからの攻撃と見做すが、良いか!」
私の思考が停止している間にも、状況は一気に悪くなっていった。
落ち着こう。この女の真意は後だ。
「確かに、私はスペードの10のエルザです。ですが、私は悲鳴を聞いてこちらに駆けつけただけ。この方の悲劇と私は無関係です」
「嘘よ。わたしがコニーの悲鳴を聞いて駆けつけたら、この人がコニーの側で剣を持って立ってたの」
ああ、まずいな。
じわりじわりと背中を汗が伝う。
男達はダイヤの兵なのだから、ダイヤの騎士服の女の言うことの方を聞くに決まってる。
それが全て、嘘であってもだ。
……仕方ない。位を盾に、城に一時帰って、ルーファス達に相談を……。
「その女を拘束してちょうだい。ダイヤの城に連行します」
「お待ちください。私はスペードの10であり、キングの知己でございます。軽々しく拘束などと口になさるのは」
最後まで、言葉を口にすることは出来なかった。
目の前の女が、心底楽しいとばかりに腹を抱えて笑い出したのだ。
「あはははっ! 想像通り、嫌な女。なら、わたしもこう言います。ダイヤの10の名において、スペードの10を拘束します。わたしの部下殺害の容疑者として、ね」
驚きがそのまま顔に出てしまっていたらしい。女は私の表情を見て、また楽しげに笑った。
ダイヤの10は賭け事大好きで快活なおじさんだったはず。いつのまに位が変わって……いや、それどころじゃない。位を振りかざして場を収めるつもりが、より悪い方向へと走り出してしまった。
同じ10の位をもつ女が、理由はわからないけど私を貶めようと嘘をついている。
そもそもこの世界の位の数の大きさに、上下関係はない。キング、クイーン、ジャックは敬われる傾向にあるが、スペードなどは全て親しい友人のような関係なくらいだ。
確かダイヤもそうだったはずだけど、他国間でとなると、少し話は変わってくる。
例えばクローバーなどは位の数によって明確に上下関係が存在する国だから、他国間では私達もそれに倣って位の数を重視する。
だから、つまり。
同じ10の位を持つ二人の主張が食い違えば、ダイヤの兵はもちろん自国を取る。
相手の位が低ければ押し通せたのに……これはもう、ダイヤの城についていくしかない。ダイヤの城にはアリーがいる。彼女なら私の無実を信じて、事件をきちんと調べてくれるし、このおかしな女もキングの言うことに逆らったりはしないはずだ。
私の周りを囲む男達から目を離さずに、女に向かって声を上げた。
「わかりました。ダイヤの城へは出向きましょう。ですが、拘束はお断りいたします。私は事件とは無関係であると、また私は決して逃げはしないとスペードの10の位に誓います」
「……ダメだと言ったら?」
「他国の10に、たかだか容疑がかかったというだけの段階で、縄をかけるおつもりですか?」
「……仕方ないわね。いいですよ。逃げたら、スペードのキングの恥になるわよ」
拘束だけは、絶対に断る。そんな容疑者、どころか犯人扱いなど許すわけにはいかない。
それに、このままダイヤの馬車に向かうということは──。
馬車に戻れば案の定、ララが慌てて馬車から駆け出してくるのが見えた。
目線で近づかないように伝えれば、うまく理解してくれたらしく、その場で足を止めた。
しかしダイヤの兵が「我々の仲間を殺害した容疑者を連行する」と高々と宣言すると、その表情が一気に青ざめた。
「彼女は、あなたのお連れ様?」
ダイヤの10の目は一点にララを見つめている。
「……いいえ。たまたま通りがかっただけでしょう。彼女は確かに白の国からのお客人ですが、私は彼女とさほど親しくはありません」
この妙な女がララに何をするかわからない。知らない振りが通らなければ、その時はララを連れて逃げるしか──。
「そうでしょうね。────」
「……は?」
今、この女は『男を取り合ったんだから、仲が良いわけないよね』と言った。
……どういうこと?
この女が嘘をついた理由も、言葉の意味も端からさっぱりわからない。
けど、ララは一目散に馬車に戻り、修理が終わったらしいダイヤの馬車の脇をすり抜けて、猛スピードで駆けていった。
きっとスペードの城に戻ってルーファス達に報告をしにいったのだろう。
ルーファス達が動く前に、アリーに相談してスペードの城に帰らないと、大変なことになるわ。
「助けて! わたしにも剣を向けてきた! わたしも殺される!」
この人は……なにを、言ってるの……?
男達は女性の言葉を聞いて、すぐさま剣を抜き、こちらを鋭く睨みつけてきた。
「なにゆえ、ダイヤの兵に剣をお向けになられましたか!」
「理由如何に関わらず、ダイヤの国に対してのスペードからの攻撃と見做すが、良いか!」
私の思考が停止している間にも、状況は一気に悪くなっていった。
落ち着こう。この女の真意は後だ。
「確かに、私はスペードの10のエルザです。ですが、私は悲鳴を聞いてこちらに駆けつけただけ。この方の悲劇と私は無関係です」
「嘘よ。わたしがコニーの悲鳴を聞いて駆けつけたら、この人がコニーの側で剣を持って立ってたの」
ああ、まずいな。
じわりじわりと背中を汗が伝う。
男達はダイヤの兵なのだから、ダイヤの騎士服の女の言うことの方を聞くに決まってる。
それが全て、嘘であってもだ。
……仕方ない。位を盾に、城に一時帰って、ルーファス達に相談を……。
「その女を拘束してちょうだい。ダイヤの城に連行します」
「お待ちください。私はスペードの10であり、キングの知己でございます。軽々しく拘束などと口になさるのは」
最後まで、言葉を口にすることは出来なかった。
目の前の女が、心底楽しいとばかりに腹を抱えて笑い出したのだ。
「あはははっ! 想像通り、嫌な女。なら、わたしもこう言います。ダイヤの10の名において、スペードの10を拘束します。わたしの部下殺害の容疑者として、ね」
驚きがそのまま顔に出てしまっていたらしい。女は私の表情を見て、また楽しげに笑った。
ダイヤの10は賭け事大好きで快活なおじさんだったはず。いつのまに位が変わって……いや、それどころじゃない。位を振りかざして場を収めるつもりが、より悪い方向へと走り出してしまった。
同じ10の位をもつ女が、理由はわからないけど私を貶めようと嘘をついている。
そもそもこの世界の位の数の大きさに、上下関係はない。キング、クイーン、ジャックは敬われる傾向にあるが、スペードなどは全て親しい友人のような関係なくらいだ。
確かダイヤもそうだったはずだけど、他国間でとなると、少し話は変わってくる。
例えばクローバーなどは位の数によって明確に上下関係が存在する国だから、他国間では私達もそれに倣って位の数を重視する。
だから、つまり。
同じ10の位を持つ二人の主張が食い違えば、ダイヤの兵はもちろん自国を取る。
相手の位が低ければ押し通せたのに……これはもう、ダイヤの城についていくしかない。ダイヤの城にはアリーがいる。彼女なら私の無実を信じて、事件をきちんと調べてくれるし、このおかしな女もキングの言うことに逆らったりはしないはずだ。
私の周りを囲む男達から目を離さずに、女に向かって声を上げた。
「わかりました。ダイヤの城へは出向きましょう。ですが、拘束はお断りいたします。私は事件とは無関係であると、また私は決して逃げはしないとスペードの10の位に誓います」
「……ダメだと言ったら?」
「他国の10に、たかだか容疑がかかったというだけの段階で、縄をかけるおつもりですか?」
「……仕方ないわね。いいですよ。逃げたら、スペードのキングの恥になるわよ」
拘束だけは、絶対に断る。そんな容疑者、どころか犯人扱いなど許すわけにはいかない。
それに、このままダイヤの馬車に向かうということは──。
馬車に戻れば案の定、ララが慌てて馬車から駆け出してくるのが見えた。
目線で近づかないように伝えれば、うまく理解してくれたらしく、その場で足を止めた。
しかしダイヤの兵が「我々の仲間を殺害した容疑者を連行する」と高々と宣言すると、その表情が一気に青ざめた。
「彼女は、あなたのお連れ様?」
ダイヤの10の目は一点にララを見つめている。
「……いいえ。たまたま通りがかっただけでしょう。彼女は確かに白の国からのお客人ですが、私は彼女とさほど親しくはありません」
この妙な女がララに何をするかわからない。知らない振りが通らなければ、その時はララを連れて逃げるしか──。
「そうでしょうね。────」
「……は?」
今、この女は『男を取り合ったんだから、仲が良いわけないよね』と言った。
……どういうこと?
この女が嘘をついた理由も、言葉の意味も端からさっぱりわからない。
けど、ララは一目散に馬車に戻り、修理が終わったらしいダイヤの馬車の脇をすり抜けて、猛スピードで駆けていった。
きっとスペードの城に戻ってルーファス達に報告をしにいったのだろう。
ルーファス達が動く前に、アリーに相談してスペードの城に帰らないと、大変なことになるわ。
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