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第二章
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中央に置かれた大きな円卓の、十三ある椅子の全てが埋まっている。
隣に座るルーファスさんが、厚手の紙をひらひらと揺らして見せた。
「……と、いうわけで、スペードの10はダイヤの兵殺害容疑で、ダイヤの国に拘束されている、らしい」
紙を手渡された眼鏡の男性は、文章を追うためか左右へと目が忙しなく動き、どんどんと眉が険しく寄って行く。
「馬鹿げてるね。エルザが殺したわけがないのに目撃者がいる、なんて」
「ダイヤの10……あのおじ様が、職務において適当な証言をするとは思えないのですけれど」
「いや、今のダイヤの10はソフィアって女だぜ。この間の舞踏会にも来てたからな」
「美人だったんだな?」
「いいや、可愛い系だったなー。声かけときゃ良かったって後悔してるとこ」
「レグ! お前、ふざけてる場合かっ! エルザが心細い思いをしているだろう時に!!」
軽薄そうな男性は「怒んなよ、委員長。質問に答えただけだろ」と飄々としている。しかしその目は落ち着いているようで、目の奥はひどく冷えているように見えた。
「エルザがどれほど強かろうとも、殺人容疑などかけられては、さぞ不安な夜を過ごしたことだろう……ダイヤのキングはなんだってこんな、ふざけたことをしでかしたのかっ!」
「自国の10がエルザがやったのを見たってんなら、エルザが否定しようが、キングは自国を取るしかないだろうよ。それはうちも同じことだ。問題はそのダイヤの10が勘違いしてんのか、もしくはエルザを嵌めたのか。どっちだってとこだな」
勘違いか嵌められたのか。
私はこの場において、唯一現場にいた当事者だ。何か、心当たりは……。
「あの時……」
一つだけ、引っかかることがあった。
全員の視線が私に集中する。
「エルザさんは黄色い騎士服の女性に、私をただの通りすがりだと言っていました。白の国のお客様だけど、自分とは大して親しくない、とも」
「……騎士服の女の特徴は?」
身を乗り出した、軽薄そうな男性──レグサスさんに聞かれて記憶を遡る。
「亜麻色の髪の緩いウェーブヘアで、腰まで長さが……ちょうど、私くらいの長さです。目は髪と同じ色でした。背はエルザさんよりも頭二つ分くらい低くて……あとは、なんだか……」
あの時の女性の雰囲気を、どう言ったらいいのかがわからなくて、正直に言葉にした。
「怖かったです。今にも剣を向けてきそうな、剣呑とした、というか……」
あの時はエルザさんが心配で駆け寄りたかったのに、エルザさんの目と、騎士服の女性から漂う圧力で、足が一歩も動かなかった。
「見た目は一致してんな。それがダイヤの10だ。つっても、舞踏会でそんな殺伐とした雰囲気は出しちゃいなかったが……」
「剣呑とした、か。ならララに何かする可能性のある危ない女だって、エルザは判断したわけだ」
エルザさんが嵌められたというのが、信憑性を帯びてくる。
とはいえ、仲間を殺されたと思っているなら殺気立って当然かもしれないけど……。
「とにかく、このままだとうちの10は縛り首だ。早いうちに迎えに行ってやらねぇとな」
「誰が行くー? まさか、ルーファスとゼンとノエルの三人だけで行くのー?」
「あと、オーウェンも連れてくよ」
オーウェンさんは当然だとばかりに頷いている。
慌てて声を上げようとしたが、別の方向から大きな声がした。
「そうだなっ! エルザも、補佐であるオーウェン殿が来てくれたら、喜ぶだろう!」
……補佐である?
「……………………そうですね。補佐として迎えに行ってきます」
「なんだ、言わねぇのか」
「ウィル殿に言うのはちょっと……」
コソコソと話すオーウェンさんとルーファスさんだが、委員長──ウィルさんの耳にはしっかり届いていたようだった。
「なっ、秘密事とは水臭いぞ、オーウェン殿!! 俺達は友人ではなかったのか!?」
「あ、いや、もちろん友人ですよ! 友人ですけど、親しき仲にもと言うじゃありませんか」
「それは礼儀の話だろう! 友人に秘密を持たれるのは、なんとも寂しいぞ……!」
大柄な男が、心の底からの悲しさを表すように潤んだ目でオーウェンさんに詰め寄る。
誰か助けて……あげないんだ。
なんだなんだと野次馬をする者、やれやれと呆れた顔をする者、肩を揺らす者。
反応は各人各様だ。
「まさか、エルザの補佐を外されでもしたのか? 喧嘩したのか!? ならば俺が共に謝罪に行ってやろう!」
「いや、あの、違……」
「エルザはとても優しい女性だ。ちゃんと謝罪すれば必ず許してくれる!」
「いえ、だから外されてなど」
「それともエルザを怒らせるほどの失態をおかしたのか!? オーウェン殿にしては珍しいな。逆じゃあるまいし。いやそれなら尚のこと謝罪はきちんとせねば!!」
「お付き合いしています! 先日からエルザと恋人になりました!!」
大男からの圧力に、オーウェンさんが屈した。
たっぷり数秒間、場が静まり返り──。
「お前……ついにやりやがったか!」
レグサスさんは、よくやった! とばかりにオーウェンさんの背中をバシッと叩き、ふくよかな女性が「進展はないと思ってたなー、いがーい」とのんびりお茶をすすっている。
隣からは「会議が進まねぇな」という苦笑混じりのため息が聞こえてきた。
「そうか……オーウェン殿とエルザが……」
盛り上がる場で聞こえた静かな声に、声の主に視線が集まる。
「ウィル殿、その……」
オーウェンさんは気まずげな表情でウィルさんを伺い見るが、ウィルさんの表情は晴れやかだった。
「いや、俺のことなど気にしなくて良い。オーウェン殿は賢く誠実で、エルザをよく支えてくれていただろう。ずっと見てきたからわかるのだ。だからどうか、彼女を幸せに……し、してやってくれぇぇえええ!!!」
泣き叫びながら、ウィルさんはバァンと扉に体当たりして、部屋から走り去っていった。
「委員長偉いぞー……ってやっぱ駄目だったか」
「だから会議中だっつってんだろ……おい、保護者クライブ。回収してこい……ってこっちも駄目か」
物静かそうな男性は机に突っ伏して、静かにダメージを受けていた。
オーウェンさんは「だから俺は言いたくなかったんだ」と頭を抱えている。
誰が迎えに行くか勝負でもするかー、と話し始めた人達に視線を向ける。
「これが、スペードの国のトップの人達、かぁ……」
エルザさんは無事に帰ってこれるのか。私はものすごく心配だ……。
隣に座るルーファスさんが、厚手の紙をひらひらと揺らして見せた。
「……と、いうわけで、スペードの10はダイヤの兵殺害容疑で、ダイヤの国に拘束されている、らしい」
紙を手渡された眼鏡の男性は、文章を追うためか左右へと目が忙しなく動き、どんどんと眉が険しく寄って行く。
「馬鹿げてるね。エルザが殺したわけがないのに目撃者がいる、なんて」
「ダイヤの10……あのおじ様が、職務において適当な証言をするとは思えないのですけれど」
「いや、今のダイヤの10はソフィアって女だぜ。この間の舞踏会にも来てたからな」
「美人だったんだな?」
「いいや、可愛い系だったなー。声かけときゃ良かったって後悔してるとこ」
「レグ! お前、ふざけてる場合かっ! エルザが心細い思いをしているだろう時に!!」
軽薄そうな男性は「怒んなよ、委員長。質問に答えただけだろ」と飄々としている。しかしその目は落ち着いているようで、目の奥はひどく冷えているように見えた。
「エルザがどれほど強かろうとも、殺人容疑などかけられては、さぞ不安な夜を過ごしたことだろう……ダイヤのキングはなんだってこんな、ふざけたことをしでかしたのかっ!」
「自国の10がエルザがやったのを見たってんなら、エルザが否定しようが、キングは自国を取るしかないだろうよ。それはうちも同じことだ。問題はそのダイヤの10が勘違いしてんのか、もしくはエルザを嵌めたのか。どっちだってとこだな」
勘違いか嵌められたのか。
私はこの場において、唯一現場にいた当事者だ。何か、心当たりは……。
「あの時……」
一つだけ、引っかかることがあった。
全員の視線が私に集中する。
「エルザさんは黄色い騎士服の女性に、私をただの通りすがりだと言っていました。白の国のお客様だけど、自分とは大して親しくない、とも」
「……騎士服の女の特徴は?」
身を乗り出した、軽薄そうな男性──レグサスさんに聞かれて記憶を遡る。
「亜麻色の髪の緩いウェーブヘアで、腰まで長さが……ちょうど、私くらいの長さです。目は髪と同じ色でした。背はエルザさんよりも頭二つ分くらい低くて……あとは、なんだか……」
あの時の女性の雰囲気を、どう言ったらいいのかがわからなくて、正直に言葉にした。
「怖かったです。今にも剣を向けてきそうな、剣呑とした、というか……」
あの時はエルザさんが心配で駆け寄りたかったのに、エルザさんの目と、騎士服の女性から漂う圧力で、足が一歩も動かなかった。
「見た目は一致してんな。それがダイヤの10だ。つっても、舞踏会でそんな殺伐とした雰囲気は出しちゃいなかったが……」
「剣呑とした、か。ならララに何かする可能性のある危ない女だって、エルザは判断したわけだ」
エルザさんが嵌められたというのが、信憑性を帯びてくる。
とはいえ、仲間を殺されたと思っているなら殺気立って当然かもしれないけど……。
「とにかく、このままだとうちの10は縛り首だ。早いうちに迎えに行ってやらねぇとな」
「誰が行くー? まさか、ルーファスとゼンとノエルの三人だけで行くのー?」
「あと、オーウェンも連れてくよ」
オーウェンさんは当然だとばかりに頷いている。
慌てて声を上げようとしたが、別の方向から大きな声がした。
「そうだなっ! エルザも、補佐であるオーウェン殿が来てくれたら、喜ぶだろう!」
……補佐である?
「……………………そうですね。補佐として迎えに行ってきます」
「なんだ、言わねぇのか」
「ウィル殿に言うのはちょっと……」
コソコソと話すオーウェンさんとルーファスさんだが、委員長──ウィルさんの耳にはしっかり届いていたようだった。
「なっ、秘密事とは水臭いぞ、オーウェン殿!! 俺達は友人ではなかったのか!?」
「あ、いや、もちろん友人ですよ! 友人ですけど、親しき仲にもと言うじゃありませんか」
「それは礼儀の話だろう! 友人に秘密を持たれるのは、なんとも寂しいぞ……!」
大柄な男が、心の底からの悲しさを表すように潤んだ目でオーウェンさんに詰め寄る。
誰か助けて……あげないんだ。
なんだなんだと野次馬をする者、やれやれと呆れた顔をする者、肩を揺らす者。
反応は各人各様だ。
「まさか、エルザの補佐を外されでもしたのか? 喧嘩したのか!? ならば俺が共に謝罪に行ってやろう!」
「いや、あの、違……」
「エルザはとても優しい女性だ。ちゃんと謝罪すれば必ず許してくれる!」
「いえ、だから外されてなど」
「それともエルザを怒らせるほどの失態をおかしたのか!? オーウェン殿にしては珍しいな。逆じゃあるまいし。いやそれなら尚のこと謝罪はきちんとせねば!!」
「お付き合いしています! 先日からエルザと恋人になりました!!」
大男からの圧力に、オーウェンさんが屈した。
たっぷり数秒間、場が静まり返り──。
「お前……ついにやりやがったか!」
レグサスさんは、よくやった! とばかりにオーウェンさんの背中をバシッと叩き、ふくよかな女性が「進展はないと思ってたなー、いがーい」とのんびりお茶をすすっている。
隣からは「会議が進まねぇな」という苦笑混じりのため息が聞こえてきた。
「そうか……オーウェン殿とエルザが……」
盛り上がる場で聞こえた静かな声に、声の主に視線が集まる。
「ウィル殿、その……」
オーウェンさんは気まずげな表情でウィルさんを伺い見るが、ウィルさんの表情は晴れやかだった。
「いや、俺のことなど気にしなくて良い。オーウェン殿は賢く誠実で、エルザをよく支えてくれていただろう。ずっと見てきたからわかるのだ。だからどうか、彼女を幸せに……し、してやってくれぇぇえええ!!!」
泣き叫びながら、ウィルさんはバァンと扉に体当たりして、部屋から走り去っていった。
「委員長偉いぞー……ってやっぱ駄目だったか」
「だから会議中だっつってんだろ……おい、保護者クライブ。回収してこい……ってこっちも駄目か」
物静かそうな男性は机に突っ伏して、静かにダメージを受けていた。
オーウェンさんは「だから俺は言いたくなかったんだ」と頭を抱えている。
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