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第55話:私のいるべき場所
しおりを挟むあの衝撃的な実技演習から数日が過ぎた。
学生たちの私を見る目は、今や百八十度変わってしまった。特に首席のマーカス君なんて、すっかり私の一番弟子みたいな顔だ。講義室ではいつも最前列で、キラキラした瞳を向けてくる。それはそれで、少し気恥ずかしいのだけれど。
その日の講義を終えた夕暮れ時、私は師匠と二人で研究所の美しい庭園を歩いていた。
「……お前、教えるのも悪くない才能を持っているらしいな」
不意に、師匠がぽつりとそう言った。
「どうだ。辺境との往復は骨が折れるだろう。いっそ本格的に、この研究所に腰を据えては」
それは彼なりの最大の賛辞であり、そして引き留めの言葉なのだと私にはわかった。
師匠の不器用な優しさが嬉しくて、私の胸は温かいもので満たされる。
私は立ち止まって彼に向き直った。
そして、首から下げた冒険者ギルドの認識票を指で弾く。
「ありがとうございます、師匠。でも……」
私はいたずらっぽく笑って見せた。
「わたくし、こう見えても現役のC級冒険者なんです。それに『王国特任巡回治癒師』っていう、大層な肩書までいただいちゃいましたしね」
私の居場所は一つじゃない。
最先端の医療を探求する、この静かな研究所。
そして助けを求める声が聞こえる、あの埃っぽくて騒がしい戦いの最前線。
そのどちらもが、今の私にとってかけがえのない大切な居場所なのだ。
「それに、果たさないといけない約束もありますから」
師匠は私の答えに一瞬きょとんとした顔をしたが、やがて「ふっ」と息を漏らすように笑った。
「……そうか。好きにしろ。お前はもう、俺の弟子である前に一人のヒーラーなのだからな」
◇
―――そして、現在。
辺境の街のギルド、その併設酒場にて。
「―――でね! そのマーカス君って子がすっごいプライド高かったのに、今じゃもう私にべったりでさー!」
「へえー! さすがは我らが聖女様だな! 若いエリート貴族まで手玉に取るとは!」
ガロさんの豪快なからかいに、私は頬をぷうっと膨らませる。
「もう! 人聞きの悪いこと言わないでください!」
目の前にはシルフさん、ガロさん、レオンさん、リナさん。
私のかけがえのない仲間たちの笑顔がある。王都での激務を終え、私はパーティーへと正式に復帰したのだ。
「おい、ユヅカ先生!」
シルフさんが私の肩に腕を回し、依頼掲示板を親指で指し示した。
「あんたの難しいお勉強はもう終わりだろ? ちょうどいいところに高ランクの依頼が入ったぜ!」
掲示板には一枚の羊皮紙。
『緊急討伐依頼:北の山脈にキメラ出現。周辺の村に被害多数。推奨ランク、B級以上』
「キメラ……!」
私の目にヒーラーとしての輝きが宿る。
シルフさんはニヤリと笑った。
「どうする、聖女様? お前がいないと始まんねえんだよ、あたしたちの冒険はさ」
私はジョッキをテーブルに叩きつけるように置くと、満面の笑みで立ち上がった。
研究所も王宮も大好きだ。
でも、やっぱり。
最高の仲間たちと未知の冒険に飛び込んでいく、この瞬間が一番私らしい。
「―――もちろん、行きます! さあ、みんな、準備して!」
私の元気な声に、仲間たちが待ってましたとばかりに雄叫びを上げる。
私の新しい人生は、最高の仲間たちと、まだ始まったばかりだ!
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