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07 フェンネル、愕然とする
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「必要なことはだいたい伝えたつもりだ。情報はほぼ解禁しているけどわからないことがあればメールをくれ。真空の異界での作業になるから通話はできそうにない」
「私物を修道院に持ち込むことは禁じられていますが?」
財産、家族、世俗との付き合い、それらを捨てて請願しないと修道院の修道士になれないのはどこの世界でも同じはずだ。
修道士とは祈り、労働、沈黙、孤独、禁欲を大切にし、古の聖者のような隠者となることを目指し、世に蔓延る魔を討つ者となることを目指す神の従僕だ。“道は様々なれども目指すアルカダスは一つである”、と戒律にも書かれている。アルカダスは聖典にある架空の目的地のことだ。星に生きる我ら神の子は最終的に魂となって神の身許へ向かうのだから私物などあろうはずがないということだ。
「大丈夫、時計型携帯だ。あと新しい修道士のタリスマンと紹介状。携帯は第三者からは修道会印に見える仕組みだ。問題ないよ」
最新の機器のように見えるが通話・メール・カメラが使えるアーティファクトのようだ。ところでバリ3だけど電波が通じているのかな。この世界でカメラが使えるなら盗撮し放題だ。アーティファクトが現代科学をベースにした魔術道具であることはわかったが、このようなものをこの星で使う意図は不透明だ。
「今までの修道士活動が嘘みたいになりそうです」
「そうだね。君は長い年月、戒律を盾に心を凍らせて手短に対応していた。それが長生きの秘訣だったのかな。ただ最近は良い兆候も見られるし地球人の身体になって視野も広くなった」
「そうでしょうか」
「君が望む番を選ぶ日は近い、障壁を戻すための探索に取り掛かってくれ。応急処置は遅くても1年で終わらせる見込みだが調査が捗れば対処も進む。俺は先にシダンシ修道院経由で異界へ向かうよ」
御前はこともなげに奥の院を消すと空を飛んで行った。こんなに生き生きとしている御前を見るのは初めてだ。そもそも御前が地上に1年滞在するというのも初めての筈だ。普段は物理・霊的エネルギーの節約で1年の大半を星の復旧作業に費やし、数日だけ降臨して数多の教会や修道院を視察するのが常だ。
「御前が早馬を使うと思っていたけど私が使っていいのかしら」
「え、狐に戻って一緒に走った方が速くない?」
気配もなく白い子が隣にいた。そういえば私はヴァンとシダンシ修道院まで行くことになっていたのだ。
「目的地まで別行動として待ち合わせで良いのでは?」
「つれないね。わからないでもないけどボクはこの星についての知識が少ないからね。パウエルからも狐と二人一組で行動するよう言われているよー」
「はぁ」
知らない人と二人旅って怖くないですか。そうですか。
ヴァンは助修士で私は修道士だ。この二人の差は請願が修道会で認められたか否かだ。修道士から助修士へ命令するためには戒律上すり合わせを……
「あのさ、狐。いやフェンネルって名前をもらったんだっけ。フェンネルは小難しいことを考えない方が良いと思うよー。君は戒律に縛られ過ぎだ」
「それは悪魔の誘いでしょうか」
「違うよー。ほら、ボク神側でしょ。かみかみー。神の接待の仕方とかわからない?」
神というと私は御大・パウエル様しか見たことがないし、こんなふわふわした神を想定したことはない。儀式典礼しろという話でないのは確かだ。
「それは……そうでしたね。失礼しました。何をすればいいのかわかりません」
「うんうん。無知の知だね。わからないことがわかるのは良いことだ」
むちむちーと手を振るヴァン。体脂肪率十代の美形だぞ。
修道士や戒律という立場を抜きにしてもヴァンを見ると不思議な気持ちになる。神っぽいなと思うことは無いが、見た目に沿った人間らしい不快感も無い。
そしてこのように他者を思うこと自体、今まであまりなかったように思える。
ヴァンについて興味はあるが、ヴァンに対して従属や畏敬を持っても無意味なのは確かだ。ヴァンがシダンシ修道院の執り成しの解決を望んだこと、そして御前が告げた聖務、それらを解決すれば良いだけで結果に伴う過程や被害についてとやかく考える必要はないだろう。
「ヴァン……様は執り成しが正しく行われて障壁の穴を塞ぐ目的で来たのですよね」
「それは太老猫に任された大事なことだけどね。それよりも君のことをもう少し知りたいかなーって。調査の為に細部を詰める必要があるでしょ?とりあえずゆったり二人旅をしながら語り合おうじゃないか。物を語ろうじゃないか」
「無理です」
「はっきり言うね」
「私は獣か修道士としての生活しか知りません。巡礼ならともかく旅などと」
「ふふふ。やっぱり君は私に似ている」
「私物を修道院に持ち込むことは禁じられていますが?」
財産、家族、世俗との付き合い、それらを捨てて請願しないと修道院の修道士になれないのはどこの世界でも同じはずだ。
修道士とは祈り、労働、沈黙、孤独、禁欲を大切にし、古の聖者のような隠者となることを目指し、世に蔓延る魔を討つ者となることを目指す神の従僕だ。“道は様々なれども目指すアルカダスは一つである”、と戒律にも書かれている。アルカダスは聖典にある架空の目的地のことだ。星に生きる我ら神の子は最終的に魂となって神の身許へ向かうのだから私物などあろうはずがないということだ。
「大丈夫、時計型携帯だ。あと新しい修道士のタリスマンと紹介状。携帯は第三者からは修道会印に見える仕組みだ。問題ないよ」
最新の機器のように見えるが通話・メール・カメラが使えるアーティファクトのようだ。ところでバリ3だけど電波が通じているのかな。この世界でカメラが使えるなら盗撮し放題だ。アーティファクトが現代科学をベースにした魔術道具であることはわかったが、このようなものをこの星で使う意図は不透明だ。
「今までの修道士活動が嘘みたいになりそうです」
「そうだね。君は長い年月、戒律を盾に心を凍らせて手短に対応していた。それが長生きの秘訣だったのかな。ただ最近は良い兆候も見られるし地球人の身体になって視野も広くなった」
「そうでしょうか」
「君が望む番を選ぶ日は近い、障壁を戻すための探索に取り掛かってくれ。応急処置は遅くても1年で終わらせる見込みだが調査が捗れば対処も進む。俺は先にシダンシ修道院経由で異界へ向かうよ」
御前はこともなげに奥の院を消すと空を飛んで行った。こんなに生き生きとしている御前を見るのは初めてだ。そもそも御前が地上に1年滞在するというのも初めての筈だ。普段は物理・霊的エネルギーの節約で1年の大半を星の復旧作業に費やし、数日だけ降臨して数多の教会や修道院を視察するのが常だ。
「御前が早馬を使うと思っていたけど私が使っていいのかしら」
「え、狐に戻って一緒に走った方が速くない?」
気配もなく白い子が隣にいた。そういえば私はヴァンとシダンシ修道院まで行くことになっていたのだ。
「目的地まで別行動として待ち合わせで良いのでは?」
「つれないね。わからないでもないけどボクはこの星についての知識が少ないからね。パウエルからも狐と二人一組で行動するよう言われているよー」
「はぁ」
知らない人と二人旅って怖くないですか。そうですか。
ヴァンは助修士で私は修道士だ。この二人の差は請願が修道会で認められたか否かだ。修道士から助修士へ命令するためには戒律上すり合わせを……
「あのさ、狐。いやフェンネルって名前をもらったんだっけ。フェンネルは小難しいことを考えない方が良いと思うよー。君は戒律に縛られ過ぎだ」
「それは悪魔の誘いでしょうか」
「違うよー。ほら、ボク神側でしょ。かみかみー。神の接待の仕方とかわからない?」
神というと私は御大・パウエル様しか見たことがないし、こんなふわふわした神を想定したことはない。儀式典礼しろという話でないのは確かだ。
「それは……そうでしたね。失礼しました。何をすればいいのかわかりません」
「うんうん。無知の知だね。わからないことがわかるのは良いことだ」
むちむちーと手を振るヴァン。体脂肪率十代の美形だぞ。
修道士や戒律という立場を抜きにしてもヴァンを見ると不思議な気持ちになる。神っぽいなと思うことは無いが、見た目に沿った人間らしい不快感も無い。
そしてこのように他者を思うこと自体、今まであまりなかったように思える。
ヴァンについて興味はあるが、ヴァンに対して従属や畏敬を持っても無意味なのは確かだ。ヴァンがシダンシ修道院の執り成しの解決を望んだこと、そして御前が告げた聖務、それらを解決すれば良いだけで結果に伴う過程や被害についてとやかく考える必要はないだろう。
「ヴァン……様は執り成しが正しく行われて障壁の穴を塞ぐ目的で来たのですよね」
「それは太老猫に任された大事なことだけどね。それよりも君のことをもう少し知りたいかなーって。調査の為に細部を詰める必要があるでしょ?とりあえずゆったり二人旅をしながら語り合おうじゃないか。物を語ろうじゃないか」
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