異世界修道院物語 –シスター狐っ娘、たおやかにKる-

狐囃子

文字の大きさ
21 / 25

21 フェンネル、狼を思う

しおりを挟む
 教会には夜明けの鐘を鳴らす習慣はない。規律正しく時間厳守で祈りの時間を設ける修道士と違い、村人の生活リズムに合わせているのだろう。村人もまた夜明けに起床するのが常だが規則に従う生活ではない。
 鐘は無くても目が冴える。これで三度、ヴァンと子狼の同じ寝姿を見やると、朝課の祈りを捧げて軽い体操をしに外へ出た。
 島の東側のため、天気の不順こそ無いが小川や草木から漂う朝靄が服にまとわりつく。メールはまだ来ていない。既読マークがあるわけでもなし、一方通行のメールの利便性の不備がもどかしい。

 野草を3匹分摘んで小屋に2匹分置き、教会へ感謝と別れを告げに行く途中で着信音が鳴った。なんだろう、この安心感。メールの返信はこんな感じだ。

・子狼の件は把握した。異界のパスをこじ開けた。早馬で異界を通って各修道院と行き来できるようにしてある
・シダンシ修道院の不具合の一つは世界樹の苗木の管理状態にある
・鉢の破損が著しい。全損に近いため材料を輸送してシダンシ修道院で聖製して設置すること
・子狼には異界で休息を与えた後、材料輸送の任務を命ずる。材料の選別はフェンネルに一任する
・子狼の指揮権を君に移した。疲労が著しい場合は異界へ還して良いが、地球との交信で狼の不遇も解決する筈なので輸送聖務が終わり次第、助修士としてシダンシ修道院で保護すること
・異界で陰狼かげろうを捕縛した。絶対服従を施して1時の修道院の懲罰牢に落としてある。こちらも指揮権を君に移譲する。洗罪してこき使ってくれ。罰として2,3日ぐらい食事や睡眠をさせずに運用すること。陰狼もおかしかったが大狼と会長の動向も不穏だ。君のミッションについて大狼と会長の介入は断固阻止しろ

 陰狼は異界に住む狼だ。ほとんど顔を合わせないが私や大狼や会長と同じで、500年間、獣としての魂を保持している式神である。聖務は他の狼を式神として運用することで大陸の魔術師の呪いまじないを防ぎ続けるルーチンワーク。
 御前から禁じられていた子狼への命令をしていた辺り、何か陰狼に不具合が起きていたのだろう。

 御前は狼を式神として登録した後、式の書かれた紙は陰狼に管理させていた。というのも人間の魂の洗罪をする度に狼自身の魂も洗罪し初期化しているからだ。
 そうして狼は何度も洗罪と式神化を施さないと老化し、狂化し、摩耗し、何も食べることができずに衰弱する。例外は大狼と会長と生まれて間もない狼だけで、それ以外の狼は人間型として消耗してきたら異界でリセットすることになっている。
 500年も同じ作業をし続けていたら壊れるということだろうか?時間の流れを気にせず機械のように作業していたように見えたが御前による保守点検の範囲外だったらしい。

 そして最後にこう記してあった。

“猫の手はおろか神の手を入れることもままならない。世界樹以外にも問題が累積しているように感じる。君だけが頼りだ”

 世界樹の鉢……か。一朝一夕に聖製できるものじゃない。最悪、狼をドワーフのエサにすることまで考えないといけないな。狼2匹を私の手下にするというのは面倒な話だ。
 教会で簡単な執り成しの祈りをして別れを告げて小屋に戻るとヴァンが子狼をあやしていた。野草は1人分しか食べられていない。

「子狼が草を食べないんだけどー?」
「狼は肉食ですからね」
「そりゃまぁ……そうなんだけどなんとかしていないの?」

 子狼はむちころの四肢をぴょこぴょこと動かしている。水は飲んでいるのでやはり……

「狼にも強化骨格が埋め込まれているので内蔵も雑食できるように設えてあるのですが、命令でもない限り忌避感があるそうです」
「本能的な問題……か」
「はい、それにもっと困った事情もありまして」
「事情?」
「狼は忌み嫌われていますから。特に大陸の魔術師の呪いまじないで。子狼の今後についての話も含めて移動しながら話しましょう」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

異世界転生日録〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆感想の受付開始しました。 【あらすじ】   異世界に転生したルイは、5歳の高熱を境に、記憶を取り戻す。一度は言ってみたい「ステータス・オープン」で、ステータスを見れることに気付いた。スキル「生活魔法∞(無限大)」を発見。その意味を知るルイは、仄かに期待を抱いた。  それと同時に、今世の出自である農家の四男は、長男大事な両親の態度に、未来はないと確信。  家族に隠れて、ステータスにあったスキルの一つ「鑑定」を使い、村のお婆(薬師)相手に、金策を開始。  十歳の時に行われたスキル鑑定の結果を父に伝えたが、農家向きのスキルではなかったルイは「家の役には立たない」と判断され、早々に家を追い出される。   だが、追放ありがとう!とばかりに、生活魔法を知るべく、図書館がある街を目指すことにしたルイ。  最初に訪れた街・ゼントで、冒険者登録を済ませる。だがそのギルドの資料室で、前世の文字である漢字が、この世界の魔法文字だという事実を知ることになる。  この世界の魔法文字を試したルイは、魔法文字の奥深さに気づいてしまった。バレないように慎重に……と行動しているつもりのルイだが、そんな彼に奇妙な称号が増えて行く。  そして、冒険者ギルドのギルドマスターや、魔法具師のバレンと共に過ごすうちに、バレンのお師匠様の危機を知る。  そして彼に会いにいくことになったが、その目的地が、図書館がある魔法都市アルティメットだった。  旅の道中もさることながら、魔法都市についても、色々な人に巻き込まれる運命にあるルイだったが……それを知るのは、まだ先である。 ☆見切り発車のため、後日変更・追記する場合があります。体調が不安定のため、かける時に書くスタイルです。不定期更新。 ☆カクヨム様(吉野 ひな)でも先行投稿しております。

悪役令嬢は手加減無しに復讐する

田舎の沼
恋愛
公爵令嬢イザベラ・フォックストーンは、王太子アレクサンドルの婚約者として完璧な人生を送っていたはずだった。しかし、華やかな誕生日パーティーで突然の婚約破棄を宣告される。 理由は、聖女の力を持つ男爵令嬢エマ・リンドンへの愛。イザベラは「嫉妬深く陰険な悪役令嬢」として糾弾され、名誉を失う。 婚約破棄をされたことで彼女の心の中で何かが弾けた。彼女の心に燃え上がるのは、容赦のない復讐の炎。フォックストーン家の膨大なネットワークと経済力を武器に、裏切り者たちを次々と追い詰めていく。アレクサンドルとエマの秘密を暴き、貴族社会を揺るがす陰謀を巡らせ、手加減なしの報復を繰り広げる。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

処理中です...