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第三章 ミスル離宮
サラトリア・ヴァルダン
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鳥の鳴く声に、シェイドは空を振り仰いだ。
上空を鳥たちが翼を連ねて飛んでいく。その影を追って視線を巡らせると、王都の背後を守る神山の山肌が見えた。
高地にはまだ根雪が残っているのだろうが、目に見える範囲はうっすらと新しい緑が萌え始めている。微かな春の気配だ。
中庭の木々に留まっていた小さな鳥が数羽舞い降り、卓の上に撒いたパンの欠片を啄んだ。
小さな体で戯れるように欠片と格闘する鳥たちの姿に、ふと笑みを誘われる。
小さく千切ったつもりだったが、小鳥たちにはまだ大きかったらしい。今手を出すと驚いて逃げてしまうだろうから、見守っているしかない。
懸命に生きようとする鳥たちの姿を眺めていると、微笑ましく思うのと同時に、形容しがたい苦さが湧き上がってきた。
シェイドがここに来たのは冬の最中のことだ。
あの時にはまだ中庭に厚く雪が積もり、植えられた木々の姿も定かでなかった。
ここのところの晴天続きでやっとその雪も解け、気候も幾分和らいできたため、数日前には中庭に出る許可が下りた。以来シェイドは日中のほとんどをここで過ごしている。
政務の合間を縫って戻ってくるジハードも、寒い屋外では肌に触れずにいてくれるからだ。
思えばここへ来てもう三ヶ月以上になる。
当初はひと月と経たずに飽きられて、解放されるものと思っていたのだが、春が近づく今になってもその兆しはまだ感じ取れなかった。
今もジハードは毎夜必ずシェイドを腕に抱く。そればかりか食事も共にするし、時には湯浴みも共に行う。
食事の時にも湯浴みの時にも、ふと気がつけばジハードの腕の中に抱かれていて、体中を愛撫された上にその精を体内に受けることも珍しくはない。
それが辛くて堪らなかったのは初めのうちだけだ。
昼となく夜となく抱かれ続けるうちに、いつの間にかそれが待ち遠しくさえなっていた。
強い腕に抱かれ、全身で温もりを感じ、快楽に溺れて啼き狂わされる。甘く切ない悦びは、すべてジハードの手によって教えられたものだ。
だが快楽が深くなり、ジハードとの夜に酔えば酔うほど、新たな不安がシェイドの胸に忍び寄ってきた。
そう遠くないうちに、今の生活は必ず終わりを迎えると決まっている。
温かい腕も苦しいほどの陶酔も失い、残るのは孤独だけだ。
果たして自分はそれを受け入れられるだろうか。ジハードから与えられる悦びなしで、日々を過ごすことができるのだろうか、と。
せめて日中だけでも快楽から離れていたいと、シェイドはまだ寒い中庭に身を置いていた。
「……楽しそうですが、そろそろ中に入りませんか。ここは寒いでしょう」
不意に後ろから掛かった声に、シェイドは驚いて椅子から立ち上がった。鳥たちが羽音を立てて飛び立っていく。
膝に乗せていた本も音を立てて地面に落ちた。慌ててそれを拾い上げようとしたシェイドは、横から伸びてきた手にぶつかって、熱いものにでも触れたように手を引いた。
「驚かせてしまってすみません。お怪我はありませんか」
落ちた本を拾い上げて差し出すのは、柔和な笑みを浮かべる貴公子だった。
サラトリア・ヴァルダン。王妃であるタチアナの実弟で、国王ジハードの右腕と目される、由緒ある大貴族の長子だ。
シェイドは警戒するように一歩下がると、手を伸ばして本を受け取った。その様子にサラトリアが苦笑を漏らす。
「そんなに私を嫌わないで下さい」
シェイドは目を合わせず、その言葉が聞こえなかった振りをした。
一見温厚そうに見せかけているが、この青年の本性は冷酷だ。
あの嵐の日にシェイドをジハードの寝室に投げ込んだのもこの青年なら、母親のエレーナを顔色一つ変えずに絞め殺そうとしたのもこの青年なのだ。優し気な笑顔と内面は一致しない。
そもそもサラトリアは、戦場に於いては馬を駆り剣を取って一軍を指揮する将校でもあるのだから、邪魔な存在を屠るのに心を煩わせることもないのだろう。
この青年は北方人の血を思わせる明るい色の髪と目の色を持ちながら、今や国の重鎮の一人にまで昇りつめている。長い歴史と強大な権力を併せ持った公爵家の次期当主であると同時に、若き現国王の側近でもあった。
今の宮廷でサラトリアに表立って逆らう力のある貴族は居ないだろう。
そのサラトリアから甘い微笑みを向けられるたび、得体の知れない怖ろしさにシェイドは身震いを禁じえなかった。
「少し早いですが昼餐に致しましょう。本日は、陛下はお忙しくてお戻りになれないとのことで、私がご相伴にあずかるお許しを得ました。……さぁ、参りましょう」
差し出された手を、シェイドは凝視した。
ここに来てからのサラトリアは、茶番劇を演じるかのように慇懃な態度を崩さない。まるで実の姉に対するかのように、その言葉は丁寧で親しげだ。
だが、腹の内ではシェイドの存在を疎ましく思っているのは間違いないのだ。
ヴァルダンも、このような事態になるとはおそらく想定していなかっただろう。身代わりとして送り込んだシェイドが処刑もされず、何ヶ月にも亘って実際に国王の寵愛を受けるような事になるとは。
『タチアナ』が王妃の座に納まったことで、ヴァルダンはこれ以上ない名誉を得た。宮廷内での多くの実権も握ったはずだ。――だが、『タチアナ』から世継ぎの王子が生まれる目算がない以上、この婚姻で得られる利得はそこまでだ。
もしもジハードが他の婦人を妾妃に迎え、その女性が世継ぎの王子を産むようなことがあれば、ヴァルダンは地位と名誉を手放さねばならなくなる。
そうなる前に、彼らは一門の中から新たな妾妃候補を見つけ出し、ジハードの元へ送り込もうと算段しているはずだった。そしてその企みは、白桂宮での夜の生活を鑑みる限り、不首尾に終わっているとしか思えない。
いかにジハードが若く精力的だと言っても、昼夜を問わずにあれほど激しくシェイドを求めながら、他に妃を置くことができるとは到底考えられなかったからだ。
利用するために送り込んだシェイドの存在が、今はヴァルダンの次の野望を妨げる障壁となってしまっていた。
「……陛下がお越しになられないのでしたら、昼食は結構です」
サラトリアとともに食事するなど、考えただけで眩暈がしそうだ。シェイドは硬い声で答えた。
もともと空腹には慣れている。一日や二日食べずにいたところでどうということはない。それよりもサラトリアが昼食の間この宮の中にいると思うことのほうが気鬱だ。
さっさと中庭の奥へ逃げ去ろうとするシェイドの前に、大きな体が回り込んで立ち塞がった。
「駄目ですよ。貴方様はお一人で食事をなさるとあまり召し上がられないからと、私が見張り役を命ぜられたのですから。食事を抜くなどもってのほかです」
「……ッ!」
目の前に現れた大きな影を見て、息が詰まった。
「――殿下?」
蒼白な顔をして立ち尽くすシェイドに、訝しげな視線が向けられた。何か言わねばと思ったが、恐怖で体が強張って言葉も出ない。
他人に不意打ちで近くに来られると、抑えようのない恐怖感で震えが止まらなくなるのだ。特に見上げるような長身の相手が駄目だ。
あの嵐の日に死ぬほど恐ろしい思いをしたせいだということは分かっている。
元凶であるジハードの前で突然息が上がって、そのまま意識を失って倒れたことも何度かあった。
この頃治まっていたのは、ジハードが側に来る前に声を掛けるようになったからだ。
元々、物心ついた頃から他人と同じ空間で過ごす習慣がなかったことも一因だろう。内侍の司にいた時は常に頭布を目深に被り、誰とも視線を交わさず、極力会話もしないようにして何とか過ごしてきた。
ここに来てからも、侍従たちはシェイドが一人で過ごす時間を尊重してくれたし、頭布の代わりに衣服は体を包み込むようなゆったりしたものを用意してくれていた。
シェイドは肩から巻き付けた毛織物のショールを握りしめ、震えを押し殺そうとした。だが治まる兆しはなく、むしろますますひどくなって足から力が抜けていきそうだ。
また倒れてしまうのではないかと思った、その時。
――上から覆い被さるようだった大きな影が、圧を弱めた。
サラトリアが地面に膝を突き、騎士が姫君にするように恭しく跪いていた。榛色の目を細め、どんな気弱な令嬢でも安堵しそうなほど優しい声を出す。
「……参りましょう。温かい物を口にすれば、きっと気分が落ち着きます」
圧迫感が和らぐのに従って、息苦しさと震えも徐々に治まってきた。
暫く逡巡した後、シェイドは差し出されたサラトリアの手に、袖に包んだ指先をそっと載せた。
サラトリアは満足そうに微笑み、長い指でシェイドの手を袖ごと包み込んだ。
ヴァルダンは、今や国王ジハードでさえその意向を無視できないほど大きな存在となっている。例えどんな些細なことであっても、シェイドには逆らうことなどできるはずがなかった。
サラトリアが昼食をともにと口に出したのなら、それはすでに決定事項なのだ。
大柄な獣のように優雅な仕草で立ち上がると、サラトリアはごく自然な様子で傍らに寄り添った。
並んでみて気付いたが、サラトリアとジハードは上背も肩幅もほとんど同じだった。
静と動というほど印象の違う二人だが、驚くほど気配が似ている。使っている香水が同じだったなら、傍らに居るのはジハードではないかと錯覚してしまったに違いない。ジハードは重厚な香りを好むが、サラトリアが纏っているのは軽く華やかな香りだった。
歴史を紐解けば、ヴァルダン家はウェルディの血を引く一族であるとも言われている。
世が世ならば、今頃はこのサラトリアが王位についていたとしても不思議ではないのだ。
上空を鳥たちが翼を連ねて飛んでいく。その影を追って視線を巡らせると、王都の背後を守る神山の山肌が見えた。
高地にはまだ根雪が残っているのだろうが、目に見える範囲はうっすらと新しい緑が萌え始めている。微かな春の気配だ。
中庭の木々に留まっていた小さな鳥が数羽舞い降り、卓の上に撒いたパンの欠片を啄んだ。
小さな体で戯れるように欠片と格闘する鳥たちの姿に、ふと笑みを誘われる。
小さく千切ったつもりだったが、小鳥たちにはまだ大きかったらしい。今手を出すと驚いて逃げてしまうだろうから、見守っているしかない。
懸命に生きようとする鳥たちの姿を眺めていると、微笑ましく思うのと同時に、形容しがたい苦さが湧き上がってきた。
シェイドがここに来たのは冬の最中のことだ。
あの時にはまだ中庭に厚く雪が積もり、植えられた木々の姿も定かでなかった。
ここのところの晴天続きでやっとその雪も解け、気候も幾分和らいできたため、数日前には中庭に出る許可が下りた。以来シェイドは日中のほとんどをここで過ごしている。
政務の合間を縫って戻ってくるジハードも、寒い屋外では肌に触れずにいてくれるからだ。
思えばここへ来てもう三ヶ月以上になる。
当初はひと月と経たずに飽きられて、解放されるものと思っていたのだが、春が近づく今になってもその兆しはまだ感じ取れなかった。
今もジハードは毎夜必ずシェイドを腕に抱く。そればかりか食事も共にするし、時には湯浴みも共に行う。
食事の時にも湯浴みの時にも、ふと気がつけばジハードの腕の中に抱かれていて、体中を愛撫された上にその精を体内に受けることも珍しくはない。
それが辛くて堪らなかったのは初めのうちだけだ。
昼となく夜となく抱かれ続けるうちに、いつの間にかそれが待ち遠しくさえなっていた。
強い腕に抱かれ、全身で温もりを感じ、快楽に溺れて啼き狂わされる。甘く切ない悦びは、すべてジハードの手によって教えられたものだ。
だが快楽が深くなり、ジハードとの夜に酔えば酔うほど、新たな不安がシェイドの胸に忍び寄ってきた。
そう遠くないうちに、今の生活は必ず終わりを迎えると決まっている。
温かい腕も苦しいほどの陶酔も失い、残るのは孤独だけだ。
果たして自分はそれを受け入れられるだろうか。ジハードから与えられる悦びなしで、日々を過ごすことができるのだろうか、と。
せめて日中だけでも快楽から離れていたいと、シェイドはまだ寒い中庭に身を置いていた。
「……楽しそうですが、そろそろ中に入りませんか。ここは寒いでしょう」
不意に後ろから掛かった声に、シェイドは驚いて椅子から立ち上がった。鳥たちが羽音を立てて飛び立っていく。
膝に乗せていた本も音を立てて地面に落ちた。慌ててそれを拾い上げようとしたシェイドは、横から伸びてきた手にぶつかって、熱いものにでも触れたように手を引いた。
「驚かせてしまってすみません。お怪我はありませんか」
落ちた本を拾い上げて差し出すのは、柔和な笑みを浮かべる貴公子だった。
サラトリア・ヴァルダン。王妃であるタチアナの実弟で、国王ジハードの右腕と目される、由緒ある大貴族の長子だ。
シェイドは警戒するように一歩下がると、手を伸ばして本を受け取った。その様子にサラトリアが苦笑を漏らす。
「そんなに私を嫌わないで下さい」
シェイドは目を合わせず、その言葉が聞こえなかった振りをした。
一見温厚そうに見せかけているが、この青年の本性は冷酷だ。
あの嵐の日にシェイドをジハードの寝室に投げ込んだのもこの青年なら、母親のエレーナを顔色一つ変えずに絞め殺そうとしたのもこの青年なのだ。優し気な笑顔と内面は一致しない。
そもそもサラトリアは、戦場に於いては馬を駆り剣を取って一軍を指揮する将校でもあるのだから、邪魔な存在を屠るのに心を煩わせることもないのだろう。
この青年は北方人の血を思わせる明るい色の髪と目の色を持ちながら、今や国の重鎮の一人にまで昇りつめている。長い歴史と強大な権力を併せ持った公爵家の次期当主であると同時に、若き現国王の側近でもあった。
今の宮廷でサラトリアに表立って逆らう力のある貴族は居ないだろう。
そのサラトリアから甘い微笑みを向けられるたび、得体の知れない怖ろしさにシェイドは身震いを禁じえなかった。
「少し早いですが昼餐に致しましょう。本日は、陛下はお忙しくてお戻りになれないとのことで、私がご相伴にあずかるお許しを得ました。……さぁ、参りましょう」
差し出された手を、シェイドは凝視した。
ここに来てからのサラトリアは、茶番劇を演じるかのように慇懃な態度を崩さない。まるで実の姉に対するかのように、その言葉は丁寧で親しげだ。
だが、腹の内ではシェイドの存在を疎ましく思っているのは間違いないのだ。
ヴァルダンも、このような事態になるとはおそらく想定していなかっただろう。身代わりとして送り込んだシェイドが処刑もされず、何ヶ月にも亘って実際に国王の寵愛を受けるような事になるとは。
『タチアナ』が王妃の座に納まったことで、ヴァルダンはこれ以上ない名誉を得た。宮廷内での多くの実権も握ったはずだ。――だが、『タチアナ』から世継ぎの王子が生まれる目算がない以上、この婚姻で得られる利得はそこまでだ。
もしもジハードが他の婦人を妾妃に迎え、その女性が世継ぎの王子を産むようなことがあれば、ヴァルダンは地位と名誉を手放さねばならなくなる。
そうなる前に、彼らは一門の中から新たな妾妃候補を見つけ出し、ジハードの元へ送り込もうと算段しているはずだった。そしてその企みは、白桂宮での夜の生活を鑑みる限り、不首尾に終わっているとしか思えない。
いかにジハードが若く精力的だと言っても、昼夜を問わずにあれほど激しくシェイドを求めながら、他に妃を置くことができるとは到底考えられなかったからだ。
利用するために送り込んだシェイドの存在が、今はヴァルダンの次の野望を妨げる障壁となってしまっていた。
「……陛下がお越しになられないのでしたら、昼食は結構です」
サラトリアとともに食事するなど、考えただけで眩暈がしそうだ。シェイドは硬い声で答えた。
もともと空腹には慣れている。一日や二日食べずにいたところでどうということはない。それよりもサラトリアが昼食の間この宮の中にいると思うことのほうが気鬱だ。
さっさと中庭の奥へ逃げ去ろうとするシェイドの前に、大きな体が回り込んで立ち塞がった。
「駄目ですよ。貴方様はお一人で食事をなさるとあまり召し上がられないからと、私が見張り役を命ぜられたのですから。食事を抜くなどもってのほかです」
「……ッ!」
目の前に現れた大きな影を見て、息が詰まった。
「――殿下?」
蒼白な顔をして立ち尽くすシェイドに、訝しげな視線が向けられた。何か言わねばと思ったが、恐怖で体が強張って言葉も出ない。
他人に不意打ちで近くに来られると、抑えようのない恐怖感で震えが止まらなくなるのだ。特に見上げるような長身の相手が駄目だ。
あの嵐の日に死ぬほど恐ろしい思いをしたせいだということは分かっている。
元凶であるジハードの前で突然息が上がって、そのまま意識を失って倒れたことも何度かあった。
この頃治まっていたのは、ジハードが側に来る前に声を掛けるようになったからだ。
元々、物心ついた頃から他人と同じ空間で過ごす習慣がなかったことも一因だろう。内侍の司にいた時は常に頭布を目深に被り、誰とも視線を交わさず、極力会話もしないようにして何とか過ごしてきた。
ここに来てからも、侍従たちはシェイドが一人で過ごす時間を尊重してくれたし、頭布の代わりに衣服は体を包み込むようなゆったりしたものを用意してくれていた。
シェイドは肩から巻き付けた毛織物のショールを握りしめ、震えを押し殺そうとした。だが治まる兆しはなく、むしろますますひどくなって足から力が抜けていきそうだ。
また倒れてしまうのではないかと思った、その時。
――上から覆い被さるようだった大きな影が、圧を弱めた。
サラトリアが地面に膝を突き、騎士が姫君にするように恭しく跪いていた。榛色の目を細め、どんな気弱な令嬢でも安堵しそうなほど優しい声を出す。
「……参りましょう。温かい物を口にすれば、きっと気分が落ち着きます」
圧迫感が和らぐのに従って、息苦しさと震えも徐々に治まってきた。
暫く逡巡した後、シェイドは差し出されたサラトリアの手に、袖に包んだ指先をそっと載せた。
サラトリアは満足そうに微笑み、長い指でシェイドの手を袖ごと包み込んだ。
ヴァルダンは、今や国王ジハードでさえその意向を無視できないほど大きな存在となっている。例えどんな些細なことであっても、シェイドには逆らうことなどできるはずがなかった。
サラトリアが昼食をともにと口に出したのなら、それはすでに決定事項なのだ。
大柄な獣のように優雅な仕草で立ち上がると、サラトリアはごく自然な様子で傍らに寄り添った。
並んでみて気付いたが、サラトリアとジハードは上背も肩幅もほとんど同じだった。
静と動というほど印象の違う二人だが、驚くほど気配が似ている。使っている香水が同じだったなら、傍らに居るのはジハードではないかと錯覚してしまったに違いない。ジハードは重厚な香りを好むが、サラトリアが纏っているのは軽く華やかな香りだった。
歴史を紐解けば、ヴァルダン家はウェルディの血を引く一族であるとも言われている。
世が世ならば、今頃はこのサラトリアが王位についていたとしても不思議ではないのだ。
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