愛しの妻は黒の魔王!?

ごいち

文字の大きさ
16 / 45
第二章 とんでもない相手を好きになり

情事の合図

 帰宅していきなり機嫌を損ねてしまったが、こういう時には温もりを分かち合うに限る。
 肌と肌との触れ合いを、オルガは存外嫌がらない。
 グレウスは伴侶の体を抱き寄せたまま、手近な椅子に腰かけた。横抱きにして、すらりとした長身を膝の上に座らせる。
 オルガは決して小さくも華奢でもなかったが、大柄なグレウスの腕の中に収まるにはちょうどいい大きさだ。
 膝の上に乗せると自然な様子で肩に腕が回され、グレウスはその頬に口づけした。
「俺や騎士団を心配してくださったんですね。ありがとうございます」
 抱き寄せて背を撫でると、不満そうな表情ではあるものの、オルガはそっとグレウスの胸に凭れかかってきた。
「心配などしていない。あれしきのことで怪我をするような間抜けでは、そうそう近衛など務まるまい」
 高貴な生まれのはずなのに、オルガは時々街の若者のように口が悪い。それにかなりのへそ曲がりだ。
 突き放すような冷たい口調で言うくせに、いつの間にか、グレウスの手はひやりとしたオルガの手に握られていた。心配して腹を立てていたのだと、その仕草が伝えてくる。
 グレウスはそれに気づくと、手首を返し指と指とを絡めて握った。
 不機嫌そうに見下ろすオルガに、安心させるように笑いかける。
「貴方の名誉のためにも、あれしきのことで怪我をしたりはしません」
 グレウスは言った。


 実際のところ、肉弾戦でグレウスの右に出る者はいない。
 『灰色熊』とあだ名される大きな体を持つグレウスは、魔法をまったく使えない代わりに、剣技は近衛の中で一、二を争う武勇者だ。
 思わぬ形で出世して副団長になったが、その地位に相応しい騎士であれるように努力も続けている。
 美しく聡明な伴侶が、自分のせいで後ろ指を指されるのは耐えがたいからだ。
「オルガ……」
 請うように唇を寄せると、年上の伴侶は躊躇う素振りもなく唇を合わせてくれた。
 優しく唇を吸い、開いた唇から舌を触れ合わせる。
 戯れるような口づけは、すぐに熱のこもった睦み合いへと変わっていく――。


 サラサラと頬を擽る冷たい髪が心地よかった。
 繋ぎ合わせた手の、時折指に力が入る感触も。
 オルガと結婚するまでは、年上の男性にこんな思いを抱く日が来るとは、考えもしなかった。
 理知的な物言いや居丈高な口調、低く落ち着いた声、程よく鍛えられた長い手足。
 美しいと感嘆こそすれ、可愛らしいと思う要素など欠片もなさそうなのに、今ではオルガのすべてが愛らしく見えて仕方がない。
 初対面の相手が必ず二度見するグレウスの大きな体に、オルガは何の躊躇もなく身を預けてくれる。グレウスの硬い灰色の髪に手を触れ、肩に頭を凭れさせて眠りもする。
 一日に何度も手を握り、頬を触れ合わせ、顔を傾けて口づけを交わす。
 躊躇いがちなグレウスの手を取って、名工の手になる芸術品のような体に触れさせて――。
「……オルガ……その……」
 唇を離したグレウスは、間近にある白い美貌を見つめながら、申し訳なさそうに口を開いた。


 今日は出勤前にも一勝負を挑んだというのに、ズボンの中が窮屈さを訴える。
 まるで盛りのついた獣かと自分でも嫌になるが、唯一の救いは、オルガがそれを嫌ってはいないことだ。
「なんだ? グレウス……私が欲しくなったのか?」
 淡く色づいた唇で、オルガが蠱惑的に笑ってみせた。玲瓏たる冴えた美貌が、妖艶な魔性のそれへと変わる瞬間だ。
「ここをこんなに滾らせて」
「ぅ……ッ」
 ズボンの上からその部分を撫でられて、グレウスは小さな悲鳴を上げた。


 グレウスはもともと性欲旺盛なのだが、ありがたいことに、オルガもまた交わることに積極的だ。
 挙式の夜から一か月ほどが経つが、いまだに一夜たりとも肌を合わせずに眠った夜はない。
 それどころか今日のように朝から情を交わして出る日も少なくなかった。
 だというのに、グレウスの体はまたオルガを欲している。
「まったくお前は獣のように猛々しい。こんなに大きくして、私を壊してしまうつもりか……?」
「……ッ、……ッ、く……!」
 流れるような文字を描く指、薬草の種を選り分ける指先が――。今はいきり立つグレウスの牡を撫で上げる。
 宥めようとしているのか、それとも煽って大きく育てようとしているのか。
 顔を真っ赤にして奥歯を噛み締める伴侶を、赤い瞳が慈しむように見下ろした。
「マートンが呼びに来ないことを祈ろう……」
 薄い舌がグレウスの鼻先をチロリと舐める。
 それが情事の合図になった。
感想 13

あなたにおすすめの小説

白金の花嫁は将軍の希望の花

葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。 ※個人ブログにも投稿済みです。

【完結】一生に一度だけでいいから、好きなひとに抱かれてみたい。

村松砂音(抹茶砂糖)
BL
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました! ありがとうございました!! いつも不機嫌そうな美形の騎士×特異体質の不憫な騎士見習い <あらすじ> 魔力欠乏体質者との性行為は、死ぬほど気持ちがいい。そんな噂が流れている「魔力欠乏体質」であるリュカは、父の命令で第二王子を誘惑するために見習い騎士として騎士団に入る。 見習い騎士には、側仕えとして先輩騎士と宿舎で同室となり、身の回りの世話をするという規則があり、リュカは隊長を務めるアレックスの側仕えとなった。 いつも不機嫌そうな態度とちぐはぐなアレックスのやさしさに触れていくにつれて、アレックスに惹かれていくリュカ。 ある日、リュカの前に第二王子のウィルフリッドが現れ、衝撃の事実を告げてきて……。 親のいいなりで生きてきた不憫な青年が、恋をして、しあわせをもらう物語。 ※性描写が多めの作品になっていますのでご注意ください。 └性描写が含まれる話のサブタイトルには※をつけています。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」さまで作成しました。

【完結】逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。抱かれたら身代わりがばれてしまうので初夜は断固拒否します!

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
隣国の国王キリアン(アルファ)に嫁がされたオメガの王子リュカ。 しかし実は、結婚から逃げ出した双子の弟セラの身代わりなのです… 本当の花嫁じゃないとばれたら大変! だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだんキリアンに惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

最悪の婚姻から始まるただ一つの愛

統子
BL
最悪の婚姻だった。 皇太子の正室として迎えられながら、 与えられたのは祝福ではなく、冷たい部屋と拒絶だけ。 触れられることすら恐ろしく、 ただ静かに時間が過ぎるのを待つしかなかった。 けれど—— 差し出された手は、思っていたものとは違っていた。 無理に触れない。 急がない。 ただ、こちらの様子を確かめるように、少しずつ距離を縮めてくる。 気づけば、隣に座ることが当たり前になり、 言葉を交わす時間が、夜の習慣になっていた。 触れられるたびに怖さは消え、 代わりに残るのは、離れがたい温もり。 これは、最悪の婚姻から始まった関係が、 やがて“ただ一人”へと変わっていく物語。 望まれなかったはずのはじまりが、 いつしか、何よりも大切なものになるまでの—— 静かで、優しい、溺れるような愛の記録。

婚約破棄された俺の農業異世界生活

深山恐竜
BL
「もう一度婚約してくれ」 冤罪で婚約破棄された俺の中身は、異世界転生した農学専攻の大学生! 庶民になって好きなだけ農業に勤しんでいたら、いつの間にか「畑の賢者」と呼ばれていた。 そこに皇子からの迎えが来て復縁を求められる。 皇子の魔の手から逃げ回ってると、幼馴染みの神官が‥。 (ムーンライトノベルズ様、fujossy様にも掲載中) (第四回fujossy小説大賞エントリー中)

愛され少年と嫌われ少年

BL
美しい容姿と高い魔力を持ち、誰からも愛される公爵令息のアシェル。アシェルは王子の不興を買ったことで、「顔を焼く」という重い刑罰を受けることになってしまった。 顔を焼かれる苦痛と恐怖に絶叫した次の瞬間、アシェルはまったく別の場所で別人になっていた。それは同じクラスの少年、顔に大きな痣がある、醜い嫌われ者のノクスだった。 元に戻る方法はわからない。戻れたとしても焼かれた顔は醜い。さらにアシェルはノクスになったことで、自分が顔しか愛されていなかった現実を知ってしまう…。 【嫌われ少年の幼馴染(騎士団所属)×愛され少年】 ※本作はムーンライトノベルズでも公開しています。

長年仮番として務めてきましたが、王子は正式な番を娶るそうです

けふ
BL
王都を守る巨大結界は、王族の魔力によって維持されている。 第二王子アデルの傍らには、常に一人の騎士がいた。 近衛騎士レオン。 彼は長年、王子の「仮番」として特別な任務を担っている。 しかし王子は、他国の王女との正式な番契約が決まってしまった。 仮番の役目は、そこで終わるはずだった。 だが結界塔で行われる儀式の中で、 二人の関係は次第に変わり始める。 王族と騎士。 主と臣下。 越えてはならない境界を前にしても、 王子は騎士の手を取る。 「共に立て」 ※オメガバースではありません ※ふんわり読んでください ※なんでも許せる方向け ※イラストはChatGPTさん

りんご成金のご令息

けい
BL
 ノアには前世の記憶はあったがあまり役には立っていなかった。そもそもあまりにもあいまい過ぎた。魔力も身体能力も平凡で何か才能があるわけでもない。幸いにも裕福な商家の末っ子に生まれた彼は、真面目に学んで身を立てようとコツコツと勉強する。おかげで王都の学園で教育を受けられるようになったが、在学中に両親と兄が死に、店も乗っ取られ、残された姉と彼女の息子を育てるために学園を出て冒険者として生きていくことになる。  それから二年がたち、冒険者としていろいろあった後、ノアは学園の寮で同室だった同級生、ロイと再会する。彼が手を貸してくれたおかげで、生活に余裕が出て、目標に向けて頑張る時間もとれて、このまま姉と甥っ子と静かに暮らしていければいいと思っていたところ、姉が再婚して家を出て、ノアは一人になってしまう。新しい住処を探そうとするノアに、ロイは同居を持ち掛ける。ロイ×ノア。ふんわりした異世界転生もの。 他サイトにも投稿しています。