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番外編
愛欲の虜 後編
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「あ……ああ、あ、あ、ぁ……っ……」
蕩けるような歓喜の声とともに、腹の上に跨ったエルロイドがじわじわと腰を下ろしていく。
香油をたっぷりと含んだ肉襞が、カッツェの剛直にしゃぶりついていた。柔く強く締め付けながら奥へ奥へと導かれる。
筋を浮かべて張りつめた逸物が、濡れて温かな媚肉の最奥に辿り着いた。
「……あぁ……大きい……」
カッツェの腹の上に座り込むと、エルロイドは恍惚とした表情で息を吐いた。
「……カッツェ……貴方の逞しいものが、私の一番奥まで届いています……心地良くて、もう気をやりそう……」
恥じらいで白い肌を染め上げながら、淫らな言葉を口にする。怒張を収めた下腹を愛おしそうに撫で、エルロイドは立てた両膝を開いてみせた。
足の間では、透かし彫りの銀の貞操帯が蝋燭の炎を受けて輝く。
エルロイドが受けた魅惑の魔法はあまりにも強く、解除された後も後遺症が残ってしまった。
チリチリとした情欲の炎に、エルロイドは常に身の内を焼かれている。誰かと体を交わらせ、快楽を得る一瞬だけが、その苦しみを忘れさせる癒しだ。
ディルタスに連れていかれた治療室で、カッツェはエルロイドを抱いた。
後遺症を和らげるには、生身の肉体で溢れんばかりの官能を与えるしかない。淫呪に侵され色欲の虜囚となった肉体に、カッツェは欲するだけの快楽を与え続けた。
そのおかげでエルロイドは正気を取り戻し、表面上は聖職者だった頃のように振舞うこともできる。だが、淫呪によって刻み込まれた影響が消えたわけではない。
今でもエルロイドは、カッツェなしでは一夜も過ごせない。今日のように帰りが遅くなれば、飢えるあまりに娼婦よりも浅ましい行為さえ躊躇わない。
貞操帯を着けさせたままでいるのは、理性ではどうにもならない肉体の欲求を耐えさせるためと、自らの手でそこを傷つけてしまうことを防ぐためだ。
「あ、あぁ、あ……カッツェ……もっと突いてください……もっと、中も、奥も……」
下から腰を突きあげると、エルロイドが掠れた善がり声を上げる。
使用人に聞かれるのを恥じて声はいつも抑えがちだが、カッツェだけが目にすることを許された媚態はあられもない。
銀の髪を振り乱し、水音を立てて尻を振りたくる。濡れた舌が唇を舐め、指先は自身を閉じ込める銀の檻に未練がましく添えられる。時には自分で乳首を弄り、膨らんだ下腹部を押さえて切ない声を上げることもある。
「は、ぁ、ぁッ……いい……私の中が、貴方でいっぱいです……もっと満たして……」
銀の透かし模様の間から、緩い蜜がトロトロと零れ落ちていた。直接は触れられないとわかっているのに、エルロイドは貞操帯を揺さぶって被虐的な快楽を高めようとしている。
カッツェは奥歯を食いしばり、持っていかれそうな衝動を耐えた。
――銀飾りの白い法衣を纏っていた、清廉な聖職者。美しく気高い皇族の魔導師。
かつての姿を思い出すほどに、今自分の腹に跨って浅ましい行為に没頭する姿が信じがたい。まるで悪い夢のようだ。
信じたくはないというのに、カッツェはエルロイドを欲さずにはいられない。
「いきそう……もう、いきそうです……あぁ気持ちいい、気持ちいい、っ……」
カチャカチャと音を鳴らして、エルロイドが貞操帯を弄る。
透かし模様を刻まれた薄い銀の筒は、服の上から目立たない大きさに造られている。性的に興奮すれば当然締め付けられて苦しいが、エルロイドはその煩悶を愉しんでいるようだ。
「……中に……私の中に、ください…………たくさん注いで……」
濡れて光る唇で、エルロイドが強請った。
顎から首筋にかけて白濁したもので濡れているのは、待ちきれなかったエルロイドが一度目の精を口で受けたからだ。エルロイドは上の口からも下の口からも、溢れんばかりに精液を注がれることを好む。
速駆けする馬に乗ったように、エルロイドが動きを激しくした。二度目は腹の奥に欲しいのだ。
望み通りに下から激しく突き上げながら、カッツェは秘めていた想いを告げた。
「エルロイド様……貴方を愛しています……」
身分違いも甚だしく、弱みに付け込むようにして、強引に成立させた婚姻だ。
カッツェの気持ちは初めて出会った時から変わらないが、エルロイドにしてみれば、虜囚のように辱めを受けたと感じていても不思議はない。
「貴方がどう思われようと、私は貴方を愛しています……ずっと貴方が欲しかった……!」
カッツェはエルロイドを愛しているから欲するが、エルロイドがカッツェの肉体を求めるのは、ただ淫呪の後遺症があるからだ。
娼館に堕とされるよりはましだと受け入れたに過ぎない。望んでこんな行為に溺れているわけではない。
――そう、思っていた。
『エルロイドは、当初選定の儀式をすっぽかすつもりだったらしい。好きな相手がいたので、本当はその相手に降嫁することを望んでいた』
月明りに照らされた夜の中庭で、ディルタスはカッツェにそう話した。
『それを諦めて全力で儀式に挑んだのは、想う相手が別の人間を妻に迎えてしまったからだ。……その相手の名は、わざわざ私の口から言う必要もあるまい』
照明のない暗い中庭で良かったと、後になってカッツェは思った。
この時の自分は主君の御前にいるとは思えないほど、間の抜けた顔をしていたに違いないからだ。
『近頃帰りが遅いようだが、あまり寂しがらせないでやってくれ。でないと、またそなたを独り占めしようと、皇帝の座を狙いかねないのでな』
冗談めかして、ディルタスは言った。
エルロイドが夏至の事件に関わっていたことは、結局公にはならなかった。すべての罪はヴァルファーレンが被り、聖教皇の地位を辞している。
だからと言っても、笑えない冗談だ。
『幼い頃病弱だったせいで、そなたの細君は我が儘で強欲だ。欲しいものは我慢できない。仕事と違って、あれの相手はそなたしか出来ないのだから、しっかり相手をしてやってくれ』
言いたいことを伝えた皇帝は、カッツェの背中を一つ叩いて、見送りがないことも気にせずに中庭を後にした。
カッツェは呆けたように月を見上げ、ただ立ち尽くしていた。
家に帰って想いを告げる決心がついたのは、すっかり夜が更けて月が傾く頃だった。
体勢を変えて寝台の上に押し倒し、カッツェはエルロイドの足を開かせて上から圧し掛かる。パンパンと、肌を打つ激しい音が寝室に響いた。
「初めてお会いした時から……畏れ多いとは思いながらも、ずっと貴方を愛しています……」
「……ぁ……ッ、ぁあ……!」
エルロイドは体を震わせ、絶頂への階段を昇りかけていた。カッツェの言葉は聞こえていないかもしれない。
開いた唇から声にならない声が漏れ、長い睫毛を涙が濡らす。
すらりとした両脚がカッツェの胴を挟み込み、自分の方へと引き寄せた。
「エルロイド……」
白い手がカッツェを探すように彷徨ったので、その手を捕らえて握りしめた。
男にしては骨細の長い指が、ごつごつとしたカッツェの手を握り返す。
「あ…………あ、ぁ……あ…………ッ……ッ…………!」
紅潮した美貌が切なく歪んだ。
背をしなやかに仰け反らせて、押し殺した声とともにエルロイドが昇りつめる。奥を突く怒張を逃すまいと、温かな媚肉がカッツェに絡みついた。
勢いを逃しきれず、カッツェもまたエルロイドの奥深い場所に精を放つ。
――突っ伏して互いだけを味わう、目眩くような恍惚の瞬間、
「……わたし……も……」
すすり泣くような声でエルロイドが答えるのを、カッツェは確かに耳にした。
「朝食は一日の活力源です。どうかたくさん召し上がってください」
食卓の席に着いたエルロイドに、カッツェは食事を勧めていた。
「貴方は小食すぎるので、お倒れにならないか心配なのです。小鳥と同じほどしか召し上がられないので……」
暑さに弱いエルロイドだが、朝は一日の内で一番気温が低い。少しは食が進むはずだ。
それに今日は皇帝の計らいで休日になったので、一日ゆっくり過ごすことができる。
二人で使う大きめのテーブルには、所狭しと皿や器が並べられていた。
冷たい山羊の乳と、温めて砂糖を入れた牛の乳。とうもろこしを裏ごしした濃いスープ。
半熟に茹でた卵が数個。豆と芋の温野菜。厚切りの塩漬け豚と、茹でた鶏のほぐし身。
白いパンと、酸味のある重いライ麦のパン。バターと数種類のチーズに干した果実――。
「カッツェ……前から言おうと思っていたのですが」
パンを小さく千切りながら、エルロイドが口を開いた。
「私はそう小食ではありません。おそらく世間での標準的な食事の量はいただいていると思いますよ」
空いた皿がどんどん片付けられていくカッツェの手元に目をやって、エルロイドが穏やかに伝えた。
カッツェは驚いてエルロイドの皿を見た。
スープと冷たい山羊の乳、卵が一つ、小さく切った鶏のほぐし身にパンが一切れずつとチーズが一欠片。エルロイドが手元に取り分けたのはたったそれだけだ。
カッツェは大柄な執事に視線を向けた。元はカッツェの父と騎士団に所属していた執事は、厳めしい顔をかすかに横に振った。給仕をしている元衛兵にも素早く視線を向けたが、やはり小さく首を横に振る。
どう見ても、あの量が一食分だとは考えられない。食事の合間の軽食にしても足りないくらいだ。
カッツェだけでなく、体格のいいバルバドス家の使用人たちは全員首を傾げている。城で勤務する他の騎士や兵士たちも、同じように不思議がるに違いない。
全員で首を捻っているところに、給仕が早々と食後の甘味を運んできた。
器の中に入っているのは、昨夜凍らせて持ち帰った果物だ。
かつての部下が気を利かせて、持っていった果物だけでなく屋敷の氷室も氷で満たしてくれた。この夏いっぱいはエルロイドの好む冷たい甘味を食卓に出せる。
美しく切り分けられた桃を目にして、エルロイドが懐かしそうな表情を浮かべた。
見舞いと称して、カッツェがエルロイドの部屋に通い詰めていた昔のことを思い出したのだろう。
楚々として美しい貌に、ふと目を見張るほど艶やかな微笑みが浮かんだ。
「病弱だったのは昔の話ですよ、カッツェ。今の私は、愛する人の甘露を毎晩たっぷりといただいているので、健康そのものです」
「は……」
言葉の意味を解するのに、カッツェは時間を要した。
さらりと零された隠語の意味に、少し遅れて気が付く。まさかそんな俗っぽい言葉が、あの品のいい唇から発されるとは思いもしないことだった。
あやうく喉を詰まらせそうになって、カッツェは激しく噎せ込む。
日に焼けた顔が、茹でた蛸のように真っ赤になった。
「ですから、心配は無用です」
清らかな笑みを浮かべて、美しいカッツェの伴侶が言う。
一片の曇りもない聖職者の表情で。目も眩むような淫婦の色香を匂い立たせながら――。
気配を察した使用人たちが、それぞれ大きな体を丸くしてサッと部屋から出ていった。
いざという時の撤退が素早いのも、軍人上がりのいいところだ。
エルロイドは運ばれてきた桃をひと切れ食べ終えると、膝に掛けてあった布を食卓に置いた。食事の終わりを告げる印だ。音も立てずにするりと立ち上がる。
ーーアスファロスの皇室は、エルフの血を引くと言われている。
明るい髪色に澄んだ瞳。しなやかで手足の長い長身。目を見張るほどの美貌の持ち主が多いが――性格は読みがたい。
聖人めいた無欲な微笑みの裏に、とんでもない淫らな素顔を隠していたとしても不思議はなかった。
「……カッツェ。喉が渇きました」
滑るように近づいてきたエルロイドが、何かを示唆するように濡れた舌で唇を舐める。
椅子を引いて立ち上がろうとするのを押しとどめ、エルロイドは座ったままのカッツェの膝に手をかけた。白い手で太腿を撫で上げながら、床に膝をついてカッツェの足の間へと滑り込む。
長い銀の髪を耳にかけたエルロイドは、男にしておくのがもったいないほど美しい指先で、むくりと膨らみ始めたカッツェの前を擽った。
「また、これを飲ませてくれますね……?」
情欲の焔を湛えた青い目が、上目遣いにカッツェを見上げる。
これは悪い魔法の後遺症だろうか。それとも持って生まれたエルロイドの性質か。
カッツェには判別がつかない。アスファロス皇室の面々は、中身と外見が違いすぎる。
だが少なくとも、強欲だと教えてくれたディルタスの言葉は正しかったようだ。昨夜あれだけ上からも下からも飲ませたというのに、今もまたカッツェの精を欲しいと強請るのだから。
「ま、待ってください……食堂では……」
いつ誰が入ってくるかわからない場所では困る。使用人に声が聞こえるのはエルロイドも望まないはずだ。
そう思っていたのだが。
「いいえ、待てません。私は貴方が欲しいのです。貴方は私を欲しくないのですか……?」
聖人の貌をした淫婦が不安そうな声で問いかける。しかし、カッツェの答えを待つつもりはないようだ。
優美な指先が迷いもせずにカッツェのズボンの前を開いた。張りつめていた怒張が勢いよく飛び出す。
エルロイドはそれを見て、うっとりするような美しい微笑みを浮かべた。
いきり立つ肉棒の前では、どんな偽りも意味がない。
カッツェは観念して、エルロイドの白い顔を両手で包み込む。
「……貴方が欲しいです……今すぐに、貴方の中に入りたい……」
素直に伝えると、エルロイドは幸せそうな笑みを浮かべる。
病床でカッツェの来訪を待っていた時と同じ表情で。
形のいい唇を舐めて濡らし、エルロイドが口を大きく開いた。
「……エルロイド……生涯貴方を愛します…………私は、永遠に貴方の虜です……」
濡れた柔らかな肉がカッツェを包みこむ。
息を荒らげながら誓いの言葉を述べると、柔らかな舌がそれに応えるように、先端から滲み出たものをそっと啜り上げた。
蕩けるような歓喜の声とともに、腹の上に跨ったエルロイドがじわじわと腰を下ろしていく。
香油をたっぷりと含んだ肉襞が、カッツェの剛直にしゃぶりついていた。柔く強く締め付けながら奥へ奥へと導かれる。
筋を浮かべて張りつめた逸物が、濡れて温かな媚肉の最奥に辿り着いた。
「……あぁ……大きい……」
カッツェの腹の上に座り込むと、エルロイドは恍惚とした表情で息を吐いた。
「……カッツェ……貴方の逞しいものが、私の一番奥まで届いています……心地良くて、もう気をやりそう……」
恥じらいで白い肌を染め上げながら、淫らな言葉を口にする。怒張を収めた下腹を愛おしそうに撫で、エルロイドは立てた両膝を開いてみせた。
足の間では、透かし彫りの銀の貞操帯が蝋燭の炎を受けて輝く。
エルロイドが受けた魅惑の魔法はあまりにも強く、解除された後も後遺症が残ってしまった。
チリチリとした情欲の炎に、エルロイドは常に身の内を焼かれている。誰かと体を交わらせ、快楽を得る一瞬だけが、その苦しみを忘れさせる癒しだ。
ディルタスに連れていかれた治療室で、カッツェはエルロイドを抱いた。
後遺症を和らげるには、生身の肉体で溢れんばかりの官能を与えるしかない。淫呪に侵され色欲の虜囚となった肉体に、カッツェは欲するだけの快楽を与え続けた。
そのおかげでエルロイドは正気を取り戻し、表面上は聖職者だった頃のように振舞うこともできる。だが、淫呪によって刻み込まれた影響が消えたわけではない。
今でもエルロイドは、カッツェなしでは一夜も過ごせない。今日のように帰りが遅くなれば、飢えるあまりに娼婦よりも浅ましい行為さえ躊躇わない。
貞操帯を着けさせたままでいるのは、理性ではどうにもならない肉体の欲求を耐えさせるためと、自らの手でそこを傷つけてしまうことを防ぐためだ。
「あ、あぁ、あ……カッツェ……もっと突いてください……もっと、中も、奥も……」
下から腰を突きあげると、エルロイドが掠れた善がり声を上げる。
使用人に聞かれるのを恥じて声はいつも抑えがちだが、カッツェだけが目にすることを許された媚態はあられもない。
銀の髪を振り乱し、水音を立てて尻を振りたくる。濡れた舌が唇を舐め、指先は自身を閉じ込める銀の檻に未練がましく添えられる。時には自分で乳首を弄り、膨らんだ下腹部を押さえて切ない声を上げることもある。
「は、ぁ、ぁッ……いい……私の中が、貴方でいっぱいです……もっと満たして……」
銀の透かし模様の間から、緩い蜜がトロトロと零れ落ちていた。直接は触れられないとわかっているのに、エルロイドは貞操帯を揺さぶって被虐的な快楽を高めようとしている。
カッツェは奥歯を食いしばり、持っていかれそうな衝動を耐えた。
――銀飾りの白い法衣を纏っていた、清廉な聖職者。美しく気高い皇族の魔導師。
かつての姿を思い出すほどに、今自分の腹に跨って浅ましい行為に没頭する姿が信じがたい。まるで悪い夢のようだ。
信じたくはないというのに、カッツェはエルロイドを欲さずにはいられない。
「いきそう……もう、いきそうです……あぁ気持ちいい、気持ちいい、っ……」
カチャカチャと音を鳴らして、エルロイドが貞操帯を弄る。
透かし模様を刻まれた薄い銀の筒は、服の上から目立たない大きさに造られている。性的に興奮すれば当然締め付けられて苦しいが、エルロイドはその煩悶を愉しんでいるようだ。
「……中に……私の中に、ください…………たくさん注いで……」
濡れて光る唇で、エルロイドが強請った。
顎から首筋にかけて白濁したもので濡れているのは、待ちきれなかったエルロイドが一度目の精を口で受けたからだ。エルロイドは上の口からも下の口からも、溢れんばかりに精液を注がれることを好む。
速駆けする馬に乗ったように、エルロイドが動きを激しくした。二度目は腹の奥に欲しいのだ。
望み通りに下から激しく突き上げながら、カッツェは秘めていた想いを告げた。
「エルロイド様……貴方を愛しています……」
身分違いも甚だしく、弱みに付け込むようにして、強引に成立させた婚姻だ。
カッツェの気持ちは初めて出会った時から変わらないが、エルロイドにしてみれば、虜囚のように辱めを受けたと感じていても不思議はない。
「貴方がどう思われようと、私は貴方を愛しています……ずっと貴方が欲しかった……!」
カッツェはエルロイドを愛しているから欲するが、エルロイドがカッツェの肉体を求めるのは、ただ淫呪の後遺症があるからだ。
娼館に堕とされるよりはましだと受け入れたに過ぎない。望んでこんな行為に溺れているわけではない。
――そう、思っていた。
『エルロイドは、当初選定の儀式をすっぽかすつもりだったらしい。好きな相手がいたので、本当はその相手に降嫁することを望んでいた』
月明りに照らされた夜の中庭で、ディルタスはカッツェにそう話した。
『それを諦めて全力で儀式に挑んだのは、想う相手が別の人間を妻に迎えてしまったからだ。……その相手の名は、わざわざ私の口から言う必要もあるまい』
照明のない暗い中庭で良かったと、後になってカッツェは思った。
この時の自分は主君の御前にいるとは思えないほど、間の抜けた顔をしていたに違いないからだ。
『近頃帰りが遅いようだが、あまり寂しがらせないでやってくれ。でないと、またそなたを独り占めしようと、皇帝の座を狙いかねないのでな』
冗談めかして、ディルタスは言った。
エルロイドが夏至の事件に関わっていたことは、結局公にはならなかった。すべての罪はヴァルファーレンが被り、聖教皇の地位を辞している。
だからと言っても、笑えない冗談だ。
『幼い頃病弱だったせいで、そなたの細君は我が儘で強欲だ。欲しいものは我慢できない。仕事と違って、あれの相手はそなたしか出来ないのだから、しっかり相手をしてやってくれ』
言いたいことを伝えた皇帝は、カッツェの背中を一つ叩いて、見送りがないことも気にせずに中庭を後にした。
カッツェは呆けたように月を見上げ、ただ立ち尽くしていた。
家に帰って想いを告げる決心がついたのは、すっかり夜が更けて月が傾く頃だった。
体勢を変えて寝台の上に押し倒し、カッツェはエルロイドの足を開かせて上から圧し掛かる。パンパンと、肌を打つ激しい音が寝室に響いた。
「初めてお会いした時から……畏れ多いとは思いながらも、ずっと貴方を愛しています……」
「……ぁ……ッ、ぁあ……!」
エルロイドは体を震わせ、絶頂への階段を昇りかけていた。カッツェの言葉は聞こえていないかもしれない。
開いた唇から声にならない声が漏れ、長い睫毛を涙が濡らす。
すらりとした両脚がカッツェの胴を挟み込み、自分の方へと引き寄せた。
「エルロイド……」
白い手がカッツェを探すように彷徨ったので、その手を捕らえて握りしめた。
男にしては骨細の長い指が、ごつごつとしたカッツェの手を握り返す。
「あ…………あ、ぁ……あ…………ッ……ッ…………!」
紅潮した美貌が切なく歪んだ。
背をしなやかに仰け反らせて、押し殺した声とともにエルロイドが昇りつめる。奥を突く怒張を逃すまいと、温かな媚肉がカッツェに絡みついた。
勢いを逃しきれず、カッツェもまたエルロイドの奥深い場所に精を放つ。
――突っ伏して互いだけを味わう、目眩くような恍惚の瞬間、
「……わたし……も……」
すすり泣くような声でエルロイドが答えるのを、カッツェは確かに耳にした。
「朝食は一日の活力源です。どうかたくさん召し上がってください」
食卓の席に着いたエルロイドに、カッツェは食事を勧めていた。
「貴方は小食すぎるので、お倒れにならないか心配なのです。小鳥と同じほどしか召し上がられないので……」
暑さに弱いエルロイドだが、朝は一日の内で一番気温が低い。少しは食が進むはずだ。
それに今日は皇帝の計らいで休日になったので、一日ゆっくり過ごすことができる。
二人で使う大きめのテーブルには、所狭しと皿や器が並べられていた。
冷たい山羊の乳と、温めて砂糖を入れた牛の乳。とうもろこしを裏ごしした濃いスープ。
半熟に茹でた卵が数個。豆と芋の温野菜。厚切りの塩漬け豚と、茹でた鶏のほぐし身。
白いパンと、酸味のある重いライ麦のパン。バターと数種類のチーズに干した果実――。
「カッツェ……前から言おうと思っていたのですが」
パンを小さく千切りながら、エルロイドが口を開いた。
「私はそう小食ではありません。おそらく世間での標準的な食事の量はいただいていると思いますよ」
空いた皿がどんどん片付けられていくカッツェの手元に目をやって、エルロイドが穏やかに伝えた。
カッツェは驚いてエルロイドの皿を見た。
スープと冷たい山羊の乳、卵が一つ、小さく切った鶏のほぐし身にパンが一切れずつとチーズが一欠片。エルロイドが手元に取り分けたのはたったそれだけだ。
カッツェは大柄な執事に視線を向けた。元はカッツェの父と騎士団に所属していた執事は、厳めしい顔をかすかに横に振った。給仕をしている元衛兵にも素早く視線を向けたが、やはり小さく首を横に振る。
どう見ても、あの量が一食分だとは考えられない。食事の合間の軽食にしても足りないくらいだ。
カッツェだけでなく、体格のいいバルバドス家の使用人たちは全員首を傾げている。城で勤務する他の騎士や兵士たちも、同じように不思議がるに違いない。
全員で首を捻っているところに、給仕が早々と食後の甘味を運んできた。
器の中に入っているのは、昨夜凍らせて持ち帰った果物だ。
かつての部下が気を利かせて、持っていった果物だけでなく屋敷の氷室も氷で満たしてくれた。この夏いっぱいはエルロイドの好む冷たい甘味を食卓に出せる。
美しく切り分けられた桃を目にして、エルロイドが懐かしそうな表情を浮かべた。
見舞いと称して、カッツェがエルロイドの部屋に通い詰めていた昔のことを思い出したのだろう。
楚々として美しい貌に、ふと目を見張るほど艶やかな微笑みが浮かんだ。
「病弱だったのは昔の話ですよ、カッツェ。今の私は、愛する人の甘露を毎晩たっぷりといただいているので、健康そのものです」
「は……」
言葉の意味を解するのに、カッツェは時間を要した。
さらりと零された隠語の意味に、少し遅れて気が付く。まさかそんな俗っぽい言葉が、あの品のいい唇から発されるとは思いもしないことだった。
あやうく喉を詰まらせそうになって、カッツェは激しく噎せ込む。
日に焼けた顔が、茹でた蛸のように真っ赤になった。
「ですから、心配は無用です」
清らかな笑みを浮かべて、美しいカッツェの伴侶が言う。
一片の曇りもない聖職者の表情で。目も眩むような淫婦の色香を匂い立たせながら――。
気配を察した使用人たちが、それぞれ大きな体を丸くしてサッと部屋から出ていった。
いざという時の撤退が素早いのも、軍人上がりのいいところだ。
エルロイドは運ばれてきた桃をひと切れ食べ終えると、膝に掛けてあった布を食卓に置いた。食事の終わりを告げる印だ。音も立てずにするりと立ち上がる。
ーーアスファロスの皇室は、エルフの血を引くと言われている。
明るい髪色に澄んだ瞳。しなやかで手足の長い長身。目を見張るほどの美貌の持ち主が多いが――性格は読みがたい。
聖人めいた無欲な微笑みの裏に、とんでもない淫らな素顔を隠していたとしても不思議はなかった。
「……カッツェ。喉が渇きました」
滑るように近づいてきたエルロイドが、何かを示唆するように濡れた舌で唇を舐める。
椅子を引いて立ち上がろうとするのを押しとどめ、エルロイドは座ったままのカッツェの膝に手をかけた。白い手で太腿を撫で上げながら、床に膝をついてカッツェの足の間へと滑り込む。
長い銀の髪を耳にかけたエルロイドは、男にしておくのがもったいないほど美しい指先で、むくりと膨らみ始めたカッツェの前を擽った。
「また、これを飲ませてくれますね……?」
情欲の焔を湛えた青い目が、上目遣いにカッツェを見上げる。
これは悪い魔法の後遺症だろうか。それとも持って生まれたエルロイドの性質か。
カッツェには判別がつかない。アスファロス皇室の面々は、中身と外見が違いすぎる。
だが少なくとも、強欲だと教えてくれたディルタスの言葉は正しかったようだ。昨夜あれだけ上からも下からも飲ませたというのに、今もまたカッツェの精を欲しいと強請るのだから。
「ま、待ってください……食堂では……」
いつ誰が入ってくるかわからない場所では困る。使用人に声が聞こえるのはエルロイドも望まないはずだ。
そう思っていたのだが。
「いいえ、待てません。私は貴方が欲しいのです。貴方は私を欲しくないのですか……?」
聖人の貌をした淫婦が不安そうな声で問いかける。しかし、カッツェの答えを待つつもりはないようだ。
優美な指先が迷いもせずにカッツェのズボンの前を開いた。張りつめていた怒張が勢いよく飛び出す。
エルロイドはそれを見て、うっとりするような美しい微笑みを浮かべた。
いきり立つ肉棒の前では、どんな偽りも意味がない。
カッツェは観念して、エルロイドの白い顔を両手で包み込む。
「……貴方が欲しいです……今すぐに、貴方の中に入りたい……」
素直に伝えると、エルロイドは幸せそうな笑みを浮かべる。
病床でカッツェの来訪を待っていた時と同じ表情で。
形のいい唇を舐めて濡らし、エルロイドが口を大きく開いた。
「……エルロイド……生涯貴方を愛します…………私は、永遠に貴方の虜です……」
濡れた柔らかな肉がカッツェを包みこむ。
息を荒らげながら誓いの言葉を述べると、柔らかな舌がそれに応えるように、先端から滲み出たものをそっと啜り上げた。
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魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる
彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。
国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。
王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。
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嬉しいお言葉ありがとうございます!
番外編で、メイン以外のカプはどうかな…とビクビクしていたのでホッとしました。
一癖も二癖もある人間しかいない皇家ですが、全員人生を謳歌していそうです。
また機会があれば、その後の何気ない日常風景でも書いてみたいです。
ありがとうございました!
面白かったです💕四方八方ハッピーエンド素敵なお話しでした💕
夢中で読み進め楽しませて頂きました😊ありがとうございました😊
終わってしまい残念で、続編とか番外編を期待しております💓💓💓
最後まで読んでくださってありがとうございます。
四方八方ハッピーエンドです!
楽しんでいただけて私もハッピーです!
時間が取れたら、ちょろりと短い番外編でも書きたいなと画策中です。
感想ありがとうございました!!
別サイトから続きが気になり、馳せ参じました!
オルガ最強にして良妻!
とても楽しく夢中になって読ませていただきました!
ワクワクした楽しい時間をありがとうございました!
別サイトから駆けつけてくださってありがとうございます!
良妻ですが最強すぎるのでグレウスはまだまだ苦労しそうです(笑)
楽しく読んでいただけて何よりです!
感想ありがとうございました!!