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三章 エイヴィの翼 前編(入学編)
135、酒の実の誕生日 2(知らないご令息2/2)
しおりを挟む「こ、これはこれは、殿下。それにジェイシ様。本日はどうも、おめでとうございます」
「ああ、どーも。で、あんた誰だ?」
「………は?」
と小さくこぼし、アルベラはジーンを見上げ、そしてチイーホシを見る。
「だからジーン。彼はチイーホシ伯爵の御令息だってば」
ラツィラスが人差し指を立て、先ほどもそう教えたのであろう事を伝え直していた。
「だからそれ誰だよ。アルベラ、知り合いか?」
「いいえ。私は騎士団の方だと思ってました。彼も否定してませんでしたし」
「そうか………。それ、いいか?」
ジーンは、アルベラが手にしていたグラスを示しす。
「え? これ? けどこれは」
「―――いいか?」
「さっさと寄越せ」という圧と共に掌を向けられ、アルベラはグラスを手渡す。
「どうぞ。けどこれ、普通の飲み物ですことよ」
チイーホシが、「お、おい。女性が口をつけたものに失礼だろう!」と声を上げたが、本人の許しを貰っているので、ジーンはその言葉を無視し、飲み物の匂いを嗅ぎ、少量を口に含む。
ラツィラスが、チイーホシの肩に寄りかかる様に手を置き、「僕も僕も」とそのグラスをジーンから受け取る。
「………。お前、これ飲んだのか?」
ジーンに尋ねられ、アルベラは「ええ」と頷いた。
「おい、あんた」
淡々とした口調で、感情の読み取れない赤い瞳がチイーホシへと向けられる。
「これ、渡したのあんたか?」
チイーホシが、ラツィラスに押さえられた肩を「ぎくり」と揺らした。
「………え、ええ。そうですが………。普通にこの店で頼んだものですよ?」
「………まあ、そうだな。飲み物自体は店のだろうよ」
ジーンは目を細める。チイーホシは気まずそうに目を逸らした。
「おい。ラツ。どうする?」
「うーん。大伯の御令息だし、正式なルートで突き出しても、きっと彼のお父様にもみ消されるよね。僕のおすすめは、彼個人に僕らから釘をさしておくか、ディオール公爵に口添えしておくか、王室から注意喚起の手紙を出すか、かな」
ラツィラスは味見し終わったグラスを、くるくると回し眺めていた。それを見上げたチイーホシと目が合い、未だ幼さの残る、無垢な笑顔を浮かべる。
「君も飲む?」
笑みを向けられた彼は、顔を青くする。
「い、え………私は………」
「そう? 本人が言うなら無理強いはしないけど」
その様を見て、アルベラの頭に、大きく鮮明な一文字が浮かび上がる。
(……… 薬 物 混 入 )
さーっと、血の気が引いていくのを感じた。だが、彼らが落ち着いているという事は、命や健康には問題はないという事だろうか。
(ていうか二人共、匂い嗅いだ後味見してたし………私も何ともないし………)
「そうか。じゃあ公爵に連絡と、お前から手紙でいいな」
「ええー。ここで晒し者にしちゃえばいいのにー」
「おい」とアルベラは内心突っ込む。王子様がニコニコと、何物騒なことを口にしているんだ、と。
「お前は人の誕生日荒らしたいだけだろ。ほら、あんた」
ジーンはチイーホシを睨みつける。ようやく、そこには分かりやすく怒りの感情が込められていた。
「俺の誕生日を祝ってくれる気ないんだろ? ならさっさと消えろ」
「………ちっ。ニセモノが。調子に乗りやがって」
「ん? 何か言ったかい?」と、ラツィラスが後ろから彼を覗き込む。
「い、いえ。殿下。………すみません。では、私は仰せのままに………」
箱を引っ込めようとしたチイーホシだが、ジーンの手は、それを掴んだまま離さない。
「置いてけ」
「―――っ! 何でお前にそんな指図を」
「置いてけ。殿下の御前だぞ。みっともない」
「………っくそ!」
青年は席を立つと、そそくさとその場を去っていった。
空いた席に、すとんとラツィラスが腰を下ろす。彼は「はい」とアルベラにグラスを返した。気のせいか、ラツィラスの表情が僅かに、苦し気に歪められている。お腹でも痛いのだろうか、とグラスを受け取りアルベラは不安になる。
(下剤? けどジーンも私も何とも………)
「あの、大丈夫ですか? これ何なんです?」
「睡眠薬」
「は?」
「睡眠薬入りの、サ ブ ぶふっ!―――――――――ふっ、ふふっ、ごめ、………もっ、我慢できな、…………ふふっ、ふ、くくくくっ……………」
ラツィラスが腹を抑えてテーブルに突っ伏す。肩を小刻みに揺らし、声が出ないほどに爆笑していた。
アルベラとジーンは呆れてそれを見下ろす。
(あ、いや、こんなことしてる場合じゃ)
「―――お、お姉さん! お水! こっちにお水お願いします!!」
今更腹の中を水で薄めて意味があるのかは分からないが、「良く分らない物を口にしてしまった時は水をがぶ飲みしたい」という気持ちの問題だ。
アルベラの注文に、「ハーイ!」と、店員の明るい声が返る。
「少量混ぜて思考力を奪ったり、多めに入れて、相手を昏睡状態にしたり。そいう薬だ。コイツもたまに混ぜられて飲んでるよ」と、ジーンが視線で自分の主人を示した。
「で、でも、私何とも無いですよ? お二人だって」
「そりゃ、………僕らは、慣らされてるから」
ラツィラスがくつくつと笑いながら、顔を持ち上げ涙を拭う。
「俺らが聞きたいくらいだ。お前どんな体してるんだ? 悪趣味が極まって、薬物の乱用まで始めたか?」
「薬中みたいに言うの辞めてくれる?」
ジーンは呆れ、隣りから引っ張ってきた椅子に腰を下ろす。
「ねえねえ、アルベラ。彼と話しててどうだった? 彼、内心で相当驚いてたと思うんだけど?」
「驚いて、って………………………あ」
確かに、話している時にどこか上の空だったり、一点(アルベラの持つグラス)を見つめていたり、にこにこと顔を見つめてきたり。あれはそういう事だったのか、と納得した。
「―――ど、通りで」
アルベラは悔し気にテーブルの上拳を握る。
「それで、そっちのお菓子は?」
アルベラに問われ、ジーンは鼻を寄せる。
「匂いじゃ何とも言えないな。まあ、媚薬か惚れ薬ってとこだろ。お貴族様によくある手口だ」
「び、媚薬?! 惚れ薬?!」
(ちっ…………私の魔法がもう少し早ければ、あの人にこれを倍返しでき………)
「お前、それ被害者のする顔じゃないぞ」
ジーンの冷ややかな目に、アルベラは「あら」とほほ笑む。
「それで、そのクッキーの効き目はどれ位なんです? 本物の媚薬や惚れ薬って、かなり希少ですよね?」
「うん。そうだね。確かな質な物だったとしても、使用が認められたら違法だし。君の魔法も、この先の使い方には十分注意しないとね」
ニコリと笑みを浮かべられる。そしてもう一つの硬そうな質感の赤い瞳からも、責めるような目を向けられる。
「はいはい。重々承知しておりますってば。むやみやたらに乱用なんてしませんから、お二人も他言しないって約束お願いしますよ」
「そうだね。僕も友人が取り締まりの対象になるのはちょっと複雑な気分だし。………さて、このクッキーの質についてだど、どうだろうね。―――ギャッジ」
「はい、お呼びで」
ラツィラスの呼びかけに、執事のギャッジが現れる。執事というよりもはや側近の忍びの用でもある彼は、アルベラが知る限りラツィラスの呼びかけに答えなかったことはない。
「これ、よろしく」と、ラツィラスは持って居たクッキーを渡す。
「かしこまりました」
ギャッジはそれを受け取り、白いハンカチで包むと騎士たちの間をサクサクと歩いて立ち去って行った。
「そこらへんで売ってる擬もどき商品ならまだいいけど、大伯自ら、『本物』を取り寄せて息子に持たせてる可能性もあるよね。息子がいい所に婿に行ってもらえれば、親は願ったりかなったりだしね」
「あんなのが婿に来なくて良かったですよ。止めていただいて、ありがとうございました」
アルベラがグラスを爪ではじき、高い音が鳴った。まだ残っている中の飲みものが小さく水面を揺らす。
「おやおや。アルベラ嬢は、彼はお好みではなかったかい?」
くすくすと笑うラツィラスに、アルベラは「顔が良かったのは否定しませんが」と答える。
「けど、騎士だとか嘘ついて、紳士の皮被って薬を盛る輩はごめんですよ」
「薬を盛るどうのは、お前が人の事言えるか?」
「………まあ。それは確かに」とアルベラは悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「けど、騎士ってのは嘘じゃないと思うぞ。少なくとも、俺の所属する団ではないってだけだ。多分城の団員でもないけど。親が大伯なら、騎士団抱えててもおかしくないし、もしかしたらそっちの騎士様じゃないか?」
「なるほど。まあ本物の騎士様だったとしてもごめんね。あんな未遂で終わるような小物」
「成功してたらしてたで問題だろ」
「あら。成功したって、どうせお父様が彼を捻りつぶして、私を正気に戻してくれるわ」
「ああ………」
「それは間違いないね」
想像に難くないと、ジーンは目を据わらせ、ラツィラスはくすくすと笑った。
「それで、気になってるんだけどさ」
「はい?」
「君も、実は家で毒物を口にしてたって事はない?」
「…………いやいや、まさかそんな」
と言って、アルベラは笑ったまま固まる。敵の多い我が父と、時折何を考えているか分からない母の顔が浮かんだ。
「え、まさか」
「お嬢様よ、そのまさかだ」
ずいっと背後から人がのしかかってきて、アルベラは呻き声をあげる。顔を上げると、生意気な魔族がニヤニヤといやらしい笑みを浮かべていた。
「俺があの家に行った時には、貴様は当たり前に毒を盛られていたぞ」
「え?」
「貴様が信用するあのオカ」
オカマ男、と言おうとしたガルカの口を、飛んできたエリーがガツリと掴んで塞ぐ。
「―――あら、お嬢様。殿下にジーン様。すみませんね。この魔族が何か失礼でもされてました?」
(周りも見ずに飛んできたのか)
アルベラが呆れる横、ラツィラスが「いい所に」とエリーへ興味の目を向ける。
「エリーさん。アルベラが屋敷で毒に慣れさせられてたのって、いつからかわかる?」
「あら。お嬢様お気づきだったんですか?」
「今知ったの」
「………あら、バレちゃったんですね」
ふふふ、とエリーは口に手を当て、悪戯っぽく笑う。おそらく彼女も関与していたであろう所業に、アルベラは笑うことが出来なかった。
「実は、私がお世話になり始めていた時には既に………。おやつの紅茶やお菓子に、月に数回の頻度で入れているんですが、仕事につきたての頃は、絶対に量を間違えないように、と厳重に注意されましたね………懐かしい」
随分とにこやかなカミングアウトに、「………お前ん家流石だな」とジーンが溢す。
「お父様………、お母様………」
アルベラはもはや思いつく言葉が無かった。ただあの二人が頭に浮かび、先にこの提案をしたのはどちらだろうかと疑問に思う。一見母が言いだしそうな事ではあるが、父もなかなか侮れない。
(………確かに自分を嫌う相手が、自分だけを狙うとも限らないもんな。お陰で今回は助かったわけだし………ああ、複雑な気分)
「ん?」
アルベラはエリーの服の裾を引っ張り、耳を寄せさせ小声になる。
「けどあの頃、普通に薬で意識無くした覚えも………。ほら、あんたと合った時」
「ああ………、あれ(人攫いの件)ですか………。単純に、耐性が付ききって無かっただけの気もしますが………。あと、あの頃はまだ貴族の中で、暗殺等によく使われる薬を中心に使用していましたので、」
「なる、ほど………」
(どこのなんの薬とも知れないあれは対象外だったと)
エリーは耳を離すと、姿勢を正しにこりと笑う。
「それで、お嬢様に一つ御忠告が」
「なに?」
「お薬に多少免疫があるといっても、全部が全部、全く効かないわけではないです。あくまで『直ぐには死なない程度』だったり、今まで口にしたことのない成分は当たり前に効きますし。もちろん、全く効かない物もありはしますが………。ですから、自ら怪しいと思ったものを口にしないに越したことはありませんよ」
「は、はい」
(なんでこんな場所でこんな説明を受けてるんだろう)
正面を見ると、ラツィラスは事実確認ができ、満足げな表情を浮かべていた。
「『エリーさん』。そろそろよろしいでしょうか?」
ガルカはエリーの手から逃れる。服を払い、思い出したように顔をあげた。
「だが、俺が見た限り媚薬や惚れ薬の類はなかったな。貴様、試しに持ち帰って味見してみてはどうだ? 俺が見守っててやろう」
嫌らしい笑みを向けられ、アルベラは片手を払って顔を背ける。
「味見は気になるけど貴方の付き添いは御免ね」
「………え。………び、媚薬?! 惚れ薬?!」
エリーが驚きの声を上げる。
「………お、お嬢様、そ、それまさか本物なんてことないですよね?」
エリーの声を聴いた周囲の騎士たちが騒めき、ヤジを飛ばした。
「なんだ王子? またご令嬢に媚薬もどき盛られたのか?」
「ははは。今日は僕じゃないですよー」
「はあ?! なんだ、じゃあまさかジーンが盛られたのか?!」
「お?! ジーンにもついにモテ期がきたか! 王子に色々教えてもらえよ!」
「ちがう」
ジーンは先輩からのヤジに腕を組んで腹立たし気だ。
「ご令嬢………て、この席には私しか居ないんだけど。なんで私が盛った流れなの?」
不服な表情を浮かべるアルベラの上に、「ぬっ………」と二人分の影が掛かった。
「あら。キリエ、スカートン」
突然現れた二人は、なんとも重々しい空気を漂わせている。
「―――媚薬?」
「―――惚れ薬?」
見開かれた二人分の眼は、ジーンの持つクッキーの入った箱へ向けられていた。それは「不正は断固として許さぬ」と言っている。
キリエの黄緑の髪の中、黄色のメッシュ部分が輝き、ぱちぱちと電気音をたてる。
スカートンのシルバーグリーンの髪は、内側の色の濃い部分が輝き、足元に小さなつむじ風が生み出す。
「………ジーン君、アルベラに媚薬盛ったの?」
キリエの静かな声が尋ねた。
「違う」と、ジーンのイラついた声が即答する。
続いてスカートンが尋ねる。
「じゃあ、ここにいる誰かが王子に媚薬を? ………まさか、アルベラ、じゃ、ないよね?」
「違う」とアルベラのイラついた声が即答する。
「え、じゃあジーン君が王子に?」
「………え、そんな、ジーン様が?」
まさか、と驚くキリエの視線と、若干敵意の混ざったスカートンの視線がジーンへと集まる。
「なんでそうなる」
ジーンは息をついた。
「二人とも落ち着きなさい。これはどっかの阿呆が置いてったものだから」
「え?」
「なんだ、そうだったんだ。びっくりさせないでよ」
キョトンとするスカートンと、安堵に表情が崩れるキリエ。
「面倒だから本当の事は言わないでおこう」と、アルベラとジーンが思った中、ラツィラスがニコニコと、キリエとスカートンを見て首を傾げる。
「実はさっきね、アルベラが」
「やめろ」
ジーンがラツィラスの口に、叩きつける様に片手を押し当てた。
(よくやった)
アルベラは内心でジーンの行いを称える。
その後、色々あって箱はカザリット達の手へと渡っていた。
皆で王子の貰った媚薬入りのクッキーとやらを、誰かに試食させたいらしく、その者をどう決めるか話し合っているらしい。
医療に詳しい者、回復系の魔法が得意な者もいるので、食べた者に何かあれば彼らに預ければいいだろうという魂胆のようだ。
どこにいたのか知らないが、ミーヴァが捕まり、引っ張り出されていた。後ろから、楽し気に彼を羽交い絞めにしているのはガルカだ。王子やジーン、スカートンは神の匂いが強いらしいが、ミーヴァとキリエは前の三人に比べればまだマシらしい。ディオール家の人間を本能で警戒している様子のミーヴァは、弄りがいがあるらしく、ガルカの良い玩具となっていた。
「くそ! こんなもん人に食べさせて何が面白いっていうんだ!」
「ミーヴァ様、そういわず。勝てばいいだけですよ。騎士様達を負かしてやってください」
「ならお前がやればいいだろ! ていうかお前が『ミーヴァ』っていうな!」
「私の主サマも愛称で呼ばせて頂いてる仲じゃないですか、『ミーヴァ様』。それに、私もやりますとも。そしてあなたを見事に負かし、あのクッキーを食べさせて差し上げます」
「あいつにもそう呼ばせる許可は出してないんだよ! ていうかお前何がしたいんだ!」
「よし! いいかお前等ー!」
「「おおおーーーー!」」
前に立った青年が、声を張り上げる。
「媚薬だか惚れ薬だか何だか分からないコレー! 食わせたいかー!!」
「「おおおーーーー!」」
司会役を打って出た青年の周りに、悪乗り好きな者達が囲って声をそろえる。
「よーし、それじゃあ行くぞー! ………じゃーんけーん、ぽん!!」
勝った者、負けた者、あいこだった者。それぞれから楽し気に声があがる。
「原始的なゲームにたどり着いたな………」
アルベラはそれを変わらずの席で眺め、目を据わらせた。
正面に座るラツィラスの背後。壁に沿って幾つか並べられた椅子の上、そこにスカートンが横たわり眠っていた。彼女の上には、店から貸してもらった薄手のひざ掛けがかけられていた。その隣にエリーが座り見守っている。
偶然にもアルベラと同じサブを飲んでいた彼女は、自分のグラスと間違えて、睡眠薬入りのグラスを飲んでしまったのだ。
突然の睡魔に倒れそうになったスカートンを、ラツィラスが気づいてぎりぎりで受け止めた。エリーが素早く場を確保し、今に至る。
(昏、睡………なんだが)
先ほどの説明を聞き、ウトウトする程度だと思っていたのだが。スカートンは少し口に含んだだけでこの有様だった。
(使用量間違えたの? 昏睡させる気だったの?)
スカートンの有様を恐ろし気に眺めるアルベラへ、ジーンが小さく「悪かったな」とこぼす。
「………?」
「悪かった。俺の考えが甘いせいで、こうなることが予測出来なかった。団員以外の、お前や他のご令嬢ご令息がくるってのに、参加者の面子の確認も録にしないで………。危ない目に合わせて済まない」
(ふくれっ面してなんか考えてるなとは思ってたけど、そんなことか………流石というか、なんというか。本当真っすぐだな………羨ましい)
アルベラは「ふふ」と小さく零す。
「ジーン君ってば素直ー。偉い偉い」とラツィラスが小さい子を褒める様に笑う。
「茶化すな」
「本当。ジーン様ったら素直ね」と、アルベラもラツィラスの言葉に乗る。
「………けど、謝罪は不要です事よ。そもそも、こんな馬鹿な事を思い付いて実行する奴が悪いんだし、そういう風に素直に謝られると落ち着かないし、ぞわぞわするっていうか」
「おい」
「こっちは素直じゃないねー」とほほ笑む殿下の言葉が聞こえたが聞き流しておく。
「それに、」
乾杯するようにグラスを持ち上げると、アルベラはニコリと笑んで見せた。
「そんな顔されたら折角の睡眠薬も不味くなってしまいますことよ」
「………随分と開き直ったな」
「ええ。この薬が本当に効かないのか気になってきた。こうなったらいけるとこまでいく」
真面目に謝ったのが馬鹿らしくなり、ジーンはため息をついた。
ラツィラスはくすくす笑う。
「大丈夫だとは思うけど、ほどほどにね」
「はい」
アルベラは睡眠薬片手に、二人とじゃんけん大会を眺める。
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